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第6章 時の過ぎゆくままに

エピソード38-9

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 復活した静流を交え、今後の取り決めを行う。
 影たちや後輩ズ、さらにシズムは先に帰らせた。

「皆さん、お騒がせしました」
「もう平気なの? 静流キュン?」
「ええ、大丈夫です、会長」
「もう男の子に戻ってる、って事は、もしや?」
「ええ。イカされちゃいました」カァァ
「うぇぇ? 私もイカせたかったぁ~!」
「残念だったな楓花。少数精鋭のスタッフで美味しく頂いたよ」

 立ち合った四人は、うんうんとうなづいた。

「実に有意義な体験だったよ……むふぅ」
「んもう、イカせてもらったお返しがしたかったのにぃ」

 会長は心底悔しがっている。

「ところで、今回の決闘ですが、静流キュンの勝ちでよろしいですね? 忍お姉様?」
「それでイイ。で、静流は私に何をさせたいの? 何でも好きにしてイイんだよ?」ムフゥ

 忍はいつでもウェルカムというポーズで静流に生温い視線を送った。

「では、単刀直入に言います」
「そんなイキナリ? 最初はゆっくりでお願い」ポォォ
「忍? アナタさっきから何を勘違いしてるの?」

 どうも話がかみ合わない。

「忍ちゃん、学校には復学が決まってから来る事。約束出来ますか?」
「でも……わかった。約束する」

 静流に強めの口調で言われ、忍はしゅんと小さくなりながら答えた。

「よし、これにて一件落着ね」
「まだですよ、薫子お姉様」
「ギク。もしかして、私も?」
「当然、薫子お姉様も一緒。いいですね?」
「そんなぁ、殺生なぁ」
「当り前じゃないですか! 忍ちゃんだって約束してくれたんですよ?」
「ふぁい。わかりましたぁ」

 薫子は、口をとんがらせてそう言った。

「静流キュンに甘えている薫子お姉様、可愛い」

 睦美は、静流の前でしか見せない、お茶目な仕草にうっとりしている。

「睦美先輩、今のところ、お姉様方の復学の目途は立ったのですか?」
「うん? それは問題ないよ。安心して下さい、お姉様方。ですが……」
「何よ? 睦美」
「復学のタイミングは、来年の新学期から、という事でご了承下さい」
「その理由は?」
「まずは単位の調整がひとつですね。次に、お姉様方の身辺整理の方が実は重要でして」

 睦美が言うには、校長が薫子たちを復学させるにあたって、対象者が健全である事が前提であると言う事らしい。

「要するに、『元老院』たちを黙らせる事が条件なのです」
「確かに『あいつら』にロックオンされたままじゃ、学校も何も無いわね……」
「学校側としては、他の生徒に『もしもの事』があったら……って事?」
「ウチらの時は放置だったクセに……リナがいたらブチ切れてたわね」
「とにかく、今年度中に何とかせい、ちゅうこっちゃな?」
「そう言う事だ」

 ここで、静流にある疑問が生じる。

「来年の新学期からじゃあ、睦美先輩たちは卒業しちゃった後、ですよね?」
「そうなるな。安心したまえ。私がいる内に、何とかして見せる」
「そうじゃなくて、寂しくなるなぁって思いました」

 静流はそう遠くない先の事を考え、ため息をついた。

「くうう、私だって静流キュンと離れてしまうのは、心苦しいさ」
「別に今生の別れとちゃうんや。いつでも会えるよってに」
「私は今後も、程よい距離で見守るとしよう」

 三年生たちは静流を前向きにフォローしたが、一人的外れな事を言った。 

「留年しちゃおっか? 静流キュンがそう望むなら」
「会長? お願いですから止めて下さい。経歴に傷が付きます」
「あら? 名案だと思ったんだけどなぁ」
「私だって、それは何度も考えたさ。でもそれではダメなんだよ、楓花」
「ちぇーっ」

 睦美は真顔で会長を諭した。

「お姉様方には、居心地の良いポストを用意していますので、お楽しみに」
「期待してるわよ?」
「どうでもイイ。静流と学校に行けるのなら」

 睦美には何か策があるらしい。

「しかしなぁ、『元老院』ちゅうんは、ホンマにある機関なのか?」
「ある。校長も知っていた」
「あるとして、どうやって接触するんや?」
「某サイトに書き込みがあってな。発信元は軍の関係者らしい」
「胡散臭いヤツやな。信憑性あるんか?」
「ただでさえ情報が無いんだ。藁にもすがる思い、というわけさ」
「危険は無いんですか? 睦美先輩?」
「そこでだ静流キュン、頼みたい事がある」
「わかりました! ボディーガードですね?」

 静流が『待ってました!』という勢いで言うと、睦美は気まずそうに言った。

「う、うん、ちょっと違う、かな?」
「え? じゃあ何です?」
「『元老院』の情報を得る為、先ずは情報提供者に協力を仰ぎたいのだよ。そこで私と軍とのパイプ役をやってもらいたい」
「それは勿論。僕に出来ることなら、何でもやります」
「ありがとう、静流キュン」

 静流は、睦美に頼られている事がたまらなく嬉しかった。
 二人の話がまとまった所で、薫子がウルウルしだした。

「ありがとう。二人共」
「お気になさらず。単なる私のおせっかいですから」
「いつまでもあのドームじゃ、不便でしょ?」
「静流ぅ、アナタにはいつも助けられてばかりで」
「イイんだよ、『同族』でしょ?」
「ぐわぁん、じずるぅ~!」

 薫子が号泣しながら、静流に抱き付いた。

「ズルいよ薫子、泣きたいのは私なのに」 
「たまに顔見に行きますから。そんなに落ち込まないでよ」

 よしよし、と薫子をなだめながら、静流はそんな事を言った。

「私が静流の家に住む。これで万事オーケー!」
「それはダメ。ご家族に迷惑が掛かるでしょ?」
「問題が全てクリアになったら、部屋探し、僕も手伝いますから」
「なるべく近くがイイ。お隣とか?」
「すいません。とっくに埋まってます」フンッ

 真琴は、忍のやった事をいまだに許せないようだ。 

「早速、僕が信頼のおける軍関係者にあたってみましょう」
「悪いね。その方がスムーズに回りそうだ」
「情報提供者の名前、わかります?」
「詳細は不明。コードネームは『ドラゴン・フライ』だ」
「『ドラゴン・フライ』、トンボ? ですか?」
「トンボは『勝虫』と呼ばれ、縁起物だったらしく、戦国武将が好んだらしいぞ」
「サムライとの相性はバッチリやな」
「上手く事が進めばイイんですけど」
(あとで事情通のレヴィさんに聞いてみよう)

「じゃあソッチは頼んだよ。よし、今日はもう遅いから、お開きにしよう」

 睦美はポンと手を打ち、静流に帰るよう進言した。

「わかりました。では失礼します。真琴。帰るよ」
「え?、う、うん。失礼します」

 静流は、あっさりと従い、ポカンとしている真琴を連れ、生徒会室をあとにしようとした。

「ち、ちょっと静流、待ってよ」
「私も一緒に帰る」
「あ、お姉様たちは残って下さい」

 静流が帰ろうとしたので、姉たちも追随しようとした時、睦美に止められた。

「何よ、まだ何かあるの?」
「ええ。少し詰めておきたい事がありまして」
「あと、オシリスはおるか?」
「何? カナメ?」

 カナメに声を掛けられ、オシリスは不可視化を解いた。

「少しメンテナンスしとこか?」
「カナメ先輩、オシリスの具合、悪いんですか?」
「ちゃうちゃう。ちいとばかしメモリーの調整がな。一晩で終わるさかいに」
「わかりました。よろしくお願いしますね」

 と言う事で静流と真琴は、姉たちとオシリスを置いて、生徒会室をあとにした。

「ちょっと静流、アレはきっと何か企んでるわよ?」
「イイんだ。睦美先輩の考えてる事だ。大丈夫だよ、多分」
「静流って、先輩には甘いよね。妬けちゃうなぁ」
「茶化すなよ、そんなんじゃないって」
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