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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-6

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駐屯地内 療養所 事務所―― 

「今使える光学迷彩の設定だと、これくらいですね」

 腕の操作パネルを操作し、ホログラフを表示させる。

「どれどれ? むはぁ」

 ジェニーは、リストをめくるたびにため息をついている。
 ルリは顔を真っ赤にしながら、血走った目でリストを見ている。

「これがシズルカ様の初期バージョンと最終形態ね? どっちも素敵」
「ネコミミメイド……くはぁ、たまりません!」
「シズムちゃんもあるのね。カワイイ」
「ちょっと、真面目にやって下さい!」

 興奮しながらリストを見ているジェニーが、ある所で釘付けになっている。

「静流クン、こ、このタイプでお願い! 服装はそうね、これで行きましょう!」
「宗方ドクター? マジですか?」
「マジ! 大マジ! お願ぁい」

 静流は少し躊躇したが、ドクターの望みを承諾した。

「まあ、実体とは真逆を行ってるから、この位ぶっ飛んだキャラの方がイイか」

 ドクターが選んだ姿は、

 本体はダッシュ7がベースで、腰近くまである髪は桃色のストレート、
 服装は、サーベル軍刀を腰に吊るした、旧ドイツ軍親衛隊風コスプレで、
 目は金と赤のオッドアイに、何故か黒縁の『ざぁますメガネ』を着用している。
 声はダッシュ7時の声より若干低めであった。

「これで如何ですか? ドクター?」シュン

 静流が腕の操作パネルをいじり、オーダー通りの姿になった。

「むっはぁ、さ、最高よ!」
「素敵です! 完璧な三次元化です!」ハァハァ

 軍医と助手は、手を取り合って喜んだ。

「そうね、名前も変えちゃいましょう!」
「あまり変えちゃうと、呼ばれても反応出来ませんよ?」
「ありますよぉ……とっておきのお名前!」ハァハァ

 ルリが、興奮度MAXでその名を告げようとしたら、先に言われてしまった。

「そのお名前は、シ……」
「シズルー・イガレシアス大尉、がイイと思います!」ハァハァ

「アナタ、その名前を、何処で?」
「みのりさん? 今の一部始終、見てたの?」

 振り向いたジェーンが、みのりを見て少し慌てた。

「すいません、声を掛けるタイミングが無くって」ハァハァ
「みのりさん、さては相当なヤリ手ですね? その名をご存じとは」ハァハァ
「少尉殿こそ。お詳しいんですね?」
「ルリでイイわよ。共通の友でしょう?」

 みのりは、今起こっている事に興奮しながらも、必死で自我を保っている。
 ルリは親指を立て、グッジョブとばかりにみのりを褒め称えた。

「受講者の方ですか? ドクター?」
「ええ。この子は白木みのり兵長。みのりさんは、もうわかってるわよね?」
「も、もちろん。疑いようがありません!」
「五十嵐静流です。お手柔らかにお願いしますね?」ニパァ


「ぐ、はぁ! ほ、本物ぉぉぉぉ!」


 みのりは、変装したままの静流のニパを浴び、大きくのけ反った。

「ちょっと、大丈夫ですか?」
「ふぁ、ふぁい。らいりょうぶれす」

 みのりは顔に手をやっている。手から鮮血が滴っている。

「こりゃあ大変だ。失礼【ヒール】ポゥ」

 静流は青い霧を手にまとわせ、みのりの頭にそっと乗せた。

「はひぃぃぃ」シュゥゥ

 鼻血はすぐに止まり、汚れた服も見事に綺麗になった。

「静流クン、ただの【ヒール】も、凄まじいわね」
「す、すいません。アタシったら、もう……」

 ジェニーは、静流の手さばきに感心していた。
 照れて顔が赤くなっているみのりを椅子に座らせると、静流は二人の『ソッチ方面の子』に聞いた。

「その何とか大尉って、『薄い本』のキャラクターとか、ですか?」

「「そうです! ミリタリーものの名作『レプラカーン』に登場する、数少ない静流様が『攻め』に徹した、大ハマリ役です!」」フーフー

 ルリとみのりの声が完全にシンクロしているのを、静流は苦笑いをしながら聞いていた。

「そんなにこのコスプレって、破壊力あるんですか?」
「そりゃあもう。一部のユーザーには、『災害級』かもしれませんね」
「そんなに!? ここにレヴィさんがいたら、致死量の鼻血吹いてますね、多分」

 静流がそう呟くと、みのりとルリは、すぐに反応した。

「え? 我が友、レベッカ・フレンズをご存じで?」
「ええ。 よく相談とか乗ってもらってます。みのりさんは?」
「レヴィとは、趣味で繋がるSNSサイトで知り合いました。同人誌の即売会で会ったりもしますね」
「私も存じ上げていますよ。レヴィ殿はその筋では有名ですから」
「そうだったんですね。いやぁ、世間って狭いですね?」ニパァ

「「きゃららぁぁぁん」」

 みのりとルリは、ニパを受け、大きくのけ反った。
 またもや鼻血を出しているみのりに、静流は再度【キュア】を掛けた。

「はふぅ。すいません、回復術士が回復してもらってるなんて、滑稽だわ……」
「気にしなくてイイですよ。いつも百戦錬磨の強者どもに、手を焼いてますから」パァァ
「うっ! レヴィが羨ましい……ガク」

 みのりの意識が飛んだ。

「ねえ、面白い事思い付いちゃった。ルリちゃん、ここまでのみのりさんの記憶、消して頂戴?」
「ドクター? アナタは悪魔ですか? でも、確かに面白そう」ヌフゥ
「ふう。どこまでが真面目なのか、わからないや」



              ◆ ◆ ◆ ◆


 みのりが覚醒した。

「はっ! ココは?」
「私の事務所。みのりさん、貧血気味なの? 気を付けなさいよ?」
「すいません。記憶が……」
「さあ、教場に戻りなさい」
「はい、失礼いたしました!」

 静流を隠し、回復したみのりを教場に行かせた後、静流たちは最終確認を行う。

「講義はこのメニューでお願い」

 静流は講義の進行を記したA4用紙と、テキストを受け取る。

「指示は僭越ながら私が担当します」ムフゥ
「ルリさんがインカムで指示してくれるんですね? 助かります」
「じゃあ、手はず通りにお願い」

 静流は、講義のメニューを見た。

「うーんと、え? やっぱりシズルカを呼ぶんですか?」
「当然! 受講者の能力底上げが目的なのだから」
「そんなに上手く行くか、わかりませんよ?」
「イイのよ。あの子たちにも、いくらかプラスになるでしょうから、お願い」
「わかりました。善処します」チャ

 静流は、ニニちゃん先生をまねて、メガネのズレを直す仕草をした。

「むほぉ、ご馳走様です!」

 ルリは興奮度が臨界点に達する寸前であった。

「大丈夫かなぁ、この人……」
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