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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-9

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太刀川駐屯地内 野外実習場――

 実習場に集められた8人の受講生と講師たち。

「これより、実地訓練を始める! 貴君らの成果、見せてもらおう」 

「「「「はい!」」」」

「先ずは基礎である、【キュア】と【ヒール】、左から始め!」 

 負傷した戦闘訓練用ゴーレムを、順番に回復させていく。

「次、ジョアンヌ・ロドリゲス君!」
「はい! 【キュア】【ヒール】!」

 ジョアンヌは無駄のない動作でゴーレムを回復させる。
 回復したゴーレムは、立ち上がってトラックを周回している。

「うむ。よろしい」
「あ、ありがとう、ございます!」ポォォ

 ジョアンヌは、シズルーの反応に、それ以上のを期待していたのか、少し不満そうな顔をしている。

「次、白木みのり君!」
「はい! 行きます! ダバダー、ダー、ダバダーダバダ……」

 みのりが歌い出すと、ゴーレムの傷が塞がり、治癒していく。

「む? その技は?」
「大尉殿、白木兵長は、歌で癒す固有スキル【スキャット・リカバー】を使います」 

 目を見張るシズルーに、ジェニーが補足説明をしてくれる。

「ほう。これは珍しい」
「彼女が所属していた部隊『ミスティ・レイディーズ』は、歌で回復させる能力を持った隊員で編成された部隊でしたが、色々ありまして解散してしまいましたの」

「シャバダバダ、ディーサバダバ、ドゥ、ワー」

 傷が完全に治癒し、立ち上がってトラックを周回するゴーレム。 

「うむ。実に素晴らしい! 惚れてしまいそうだ!」
「うぇ? 今、何て?」

 術を完了させたみのりを、シズルーは絶賛した。

〔シズルー様!? アドリブは厳禁です!〕

 自分のシナリオに無いセリフだったので、ルリは慌てて静流を諭した。

「そ、そんな……ありがとう、ございます。からかわないで下さい。真に受けちゃいますよ?」ポォォ
「コホン、私とした事が……冷静を欠いてしまった」

 今のやり取りを見て、ほとんどの女性を敵に回したみのり。

「次、谷井蛍君!」
「はい! 【キュア】【ヒール】!」

 ケイが【キュア】及び【ヒール】を掛けたゴーレムは、次の瞬間、クルッと飛び上がり、そのままバック転でトラックを周回している。
 
「うむ? 驚異の回復力だ。もしかすると体力向上の『バフ』が掛かっているのか?」
「大尉殿? バフとは、一時的な能力値の強化、で間違い無くて?」
「肯定。彼女は回復魔法と同時に、付与魔法を学ぶ事で、大幅な戦力アップに貢献出来るであろう」

 シズルーは、ケイを呼ぶ。

「ケイ君、こちらに来たまえ」
「はい! 大尉殿」

 ケイはシズルーの前に立った。

「洗練された良い技であった。 貴君の日頃の努力のたまものであろう!」
「ありがとうございます!」

 シズルーはケイの目線に合わせて中腰になり、頭をくしゃ、と撫でた。

「実に興味深い! 家に持ち帰って調べたい位だ!」
「はぅぅぅ」


「「「!!!!」」」


 一同は動揺した。

〔シズルー様、先ほどから勝手な言動や行動が多いです!〕

「藤堂君、ちょっと」クイ

 くるっと180度周り、シズルーはルリを呼んだ。

「お呼びですか? 大尉殿」
「ちょっとな」コソ

 シズルーはルリに耳打ちした。

(実は、ウチの先輩がルリさんの役を代わりたい、と)コソ
(何ですって? それは困ります!)コソ
(埋め合わせはする、って言ってますけど)コソコソ
(……わかりました。ただ、ツッコミは入れますよ?)コソ
(それでイイ、との事です。)ふぅーっ

「ひゃうん。り、了解しました」

 こそこそ話が終わり、耳に息を吹き掛けられて感じてしまったルリは、不機嫌そうだが嬉しそうに所定の位置に戻った。
 改めてケイに向き直ったシズルー。
 
「はぅぅ? 大尉殿?」
「これは済まない。私は貴君のような純真無垢な女性が好みでな。郁の奴にも良く怒られるのだ」
「郁、って、榊原中尉殿の事ですか?」
「そうだ。仕事で良く会うのでな。戻って良し」
「はい!」
 
 ケイを所定の位置に戻す。

〔シズルー様!? いくら何でもそれではロリ……いえ何でも〕

 ルリが何か言いかけた。周りを見ると、先ほどのシズルーの行動に、いささか引き気味であった。

「シズルー様って、もしかして幼女趣味がおありなの?」コソ
「それでジョアンヌの渾身のアプローチを、鼻にもかけなかったのね?」コソ
「大尉殿って、小柄の子がお好みなのね。ああ、ケイちゃんが羨ましいわぁ」

 奇跡的に人格崩壊を免れ、好印象に留めたシズルー。
 だだひとり、ジョアンヌだけが、疑いの眼差しを向けていた。

「私は……認めないわよ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 全ての受講者による実地訓練が終わると、ジェニーが皆の前に出た。

「えー次に、我らがシズルー大尉殿による、『施術』を行います!」ヌフゥ

「え? 何かしら? 『施術』って?」
「うそぉ、大尉殿が私たちに何かしてくれるの?」
「うはぁ、たまらないわぁ」

 シズルーが皆の前に立つ。

「コホン、私は、かつて戦地で負傷し、生死をさまよった際に女神様の加護を受けた。それは究極の『癒し』であった」

「最近になって私は、その際の女神様の恩恵により、少しの間だけ、女神様と【同調】し、権能の一部を発動する事が可能である事がわかった」

 ここで言葉を切り、真剣なまなざしで受講者を見る。

「これより、貴君らの能力向上の『きっかけ』を与える! 心して受けよ!」


「「「「「はい!!」」」」」


 シズルーは目を閉じ、精神統一している。
 受講者に紛れて、講師や何とジェニー、ルリまでが当然のように『施術』を受けようとしている。

「さぁ、始まるわよ♪」
「むはぁ、ドキがムネムネですぅ♡」

 シズルーがおもむろにサーベル軍刀を抜いた。そして、

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」

 シズルーは、縦横にサーベルを振り、いわゆる九字を切った。
 そしてサーベルを横に持ち、操作パネルをいじる。
  
「セタップ」パァァァ!

 シズルーがそう唱えると、全身が桃色のオーラに包まれる。
 オーラが次第に薄くなり、中からビキニアーマーを装着した、桃色の髪の女神が現れる。

「女神、様?」
「シズルカ様よ! 動画で見たのと同じ!」
「ああ、なんと言う幸せ……」

 受講者を始め、講師たちもその場でひざまづく。
 シズルカはサーベルを空に向け、四角形を描き、少女のようなカワイイ声で叫んだ。

「受けるがいい! 【エリア・弱キュア・ヒール】!!」ファァァァ

 空に描いた四角形から、桃色のオーラが降り、一同を包み込む。


「「「「「ひゃうぅぅぅーん!」」」」」


 しばらく桃色のオーラに包まれていた一同。やがてオーラが消える。

「解除!」シュン

 そう言って操作パネルをいじり、シズルーに戻る。 
 暫しの静寂があり、口を開いたのは、ジェニーだった。 

「体中の毛穴が……閉じた?」

 他の者たちも、施術の効果が出始めた。

「肩が……軽くなった?」
「足のむくみが……ひいた?」
「ほうれい線が……消えた?」
「オデコの立体ボクロが……取れた?」

 それぞれが自分に起きた『奇跡』を実感している。

「ジョアンヌ、アナタ、スゴいわよ?」
「え? 何?」
「見てみなさい、自分の顔!」

 隊員の一人がジョアンヌに手鏡を渡した。

「こ、コレが私? 嘘でしょ?」

 鏡に映ったジョアンヌは、プラチナブロンドの、さらさらストレートヘアであった。 
 施術前は、少しくすんだ金髪に、ルーズなパーマをかけていたのだが。

「枝毛が全く無い。あんなに悩んでたのに……」
「髪の毛だけじゃないわ。お肌もスベスベよ」
「本当。信じられない」

 一同の興奮が冷めやらぬうちに、ジェニーが口を開いた。

「皆さん! 体に起こった『奇跡』は、こんなもんじゃないわよ!」
「どう言う事ですか? ドクター?」
「皆さんに、もう一度実地訓練をやってもらいます。お願いします、大尉殿」
「承知した、ドクター」
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