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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-12

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食堂―― 

 ジェニーたちと食堂に行くと、会場には受講者や講師たち、さらに救護班の隊員もいた。

「来たわよ! 大尉殿!」
「きゃあ、シズルー様ぁ♡」

 受講者たちは、長テーブルの左右に4人ずつ座り、上座側の中央に一人分の席が用意してある。
 他の講師たちは別の席に座っている。

「シズルー様はコチラです! ささ、どうぞ♪」
「参ったな、私は向こうの方が……」

 シズルーは、ジェニーやルリが座っているテーブルを見てそう言った。
 ルリは顔を赤くして皿をかじっている。

「私のシズルー様を……キィー!」


「何言ってるんですか? シズルー様は、私たちがおもてなしするのは当然の流れです!」
「そうは言ってもな、私はこう言う場は苦手でな……」

 シズルーは演技抜きで照れた。

「きゃあ、シズルー様ったらカワイイ~♡」
「そう言う困った顔も素敵ィ~♡」

 周りできゃいきゃい言われているシズルーに、ケイが話しかけた。

「大尉殿、ココに座って欲しい、です。ダメ? ですか?」

 ケイが上目遣いでシズルーを見て、そう言うと、


「コホン。ケイ君がそこまで言うのなら、座らん事も無い」 


 そう言ってシズルーはケイの隣に座った。

「あ! ケイちゃんのひと言で素直に座った!」
「ていうかケイちゃん、くじ運イイよねぇ? みのりもだけど」

 席順は、先ほどアミダくじで決めたようで、シズルーの両隣は、みのりとケイであった。
 ジョアンヌは対面の端に、不服そうに座っている。
 全員に飲み物が渡ったのを確認し、ジェニーはグラスを掲げた。勤務中なので当然ノンアルではあるが。

「じゃあ始めるわよ! 乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 ジェニーの掛け声で、打ち上げが始まった。
 みのりは、ここぞとばかりにシズルーへの質問攻めを開始した。

「大尉殿、その髪の色は、地毛ですか?」
「地毛だが? 何かあるのか?」
「大尉殿は、黄昏……五十嵐家の家系なのですか?」
「うむ。そうらしいな。母方が五十嵐の分家でな」
「やはりそうでしたか。何でもブラッディ・シスターズをご存じとか?」
「たまに仕事のオファーがあるのでな」
「隊員とも仲イイんですか?」
「佳乃や、澪の事か? あくまで仕事の付き合いだがな」
「そ、そうですか」ホッ

 みのりは、胸を撫で下ろした。

「あ! みのりばっかズルいぃー」
「私たちだって、聞きたい事、あるんだからね!」
「おいおい、そんなにがっつくと、男に嫌がられるぞ?」
「ええっ? そうなんですか?」
「女は、三歩下がってついて来る位がイイのだ、と私は思うが」

 シズルーがそんな事を言うと、横から誰かが茶々を入れた。

「女は家に引っ込んでろ、ですか? 随分古いお考えですのね? 大尉殿は」
「ジョアンヌ? アナタ失礼でしょ?」
「フフ。構わんよ。頭がカタいと、良く言われるのでな」

 どうやらジョアンヌは、自分以外の相手をしているシズルーに、やきもちを妬いている様だ。

「ジョアンヌ、大尉殿が言いたかったのは、殿方の後ろに控え、危険が迫った時に刀の間合いに入らない距離を保ち、周りの状況を常に把握する、要するに『デキる女』という事なのよ!」
「ほぉ。心得ているな、みのり君、大したものだ」
「へへぇ。褒められちゃった……はふぅ」
「くっ……」

 シズルーに褒められ、デレデレのみのりを見て、悔しがるジョアンヌ。

「だが、そこまでデキる女にはまだ遭遇しておらん。今だに独り者なのは、そのせいかもしれんな」


「「「ええー!?」」」 


 シズルーがそう言うと、一同からの熱い視線が、シズルーに集中した。

「む? 熱源反応か?」

 そう思った瞬間、シズルーに詰め寄る隊員たち。受講者だけではなく、講師や今までいたのかもわからない連中も混ざっている。

「世の女どもの目は節穴かぁー!?」
「大尉殿、お一人で寂しくはありませんか? よろしければアタシを……」
「待ちなさい! がっつく女は好かんと仰っていたでしょうに」
「私なら、きっとご期待にそえられる、かと♡」
「言ってるそばから、アンタたちはぁ!」

 周りの女性陣からの猛アタックを食らい、もみくちゃにされるシズルー。

「こ、これ! 落ち着くのだ、どう、どう」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 暫く歓談したあと、ジェニーはふと思い立った。

「そうだみんな! 今回の『MVP』を決めましょうよ♪」

「「「「賛成でーすっ!」」」」

 講師たちもジェニーの提案に乗っかった。

「そうね。じゃあ決めてもらいましょうか? 大尉殿に♪」

 またもや無茶ぶりするジェニー。

「私がか? 審査基準は?」 
「お任せしますわ。今日イチで輝いていた者に与えるのが『MVP』でしょう?」
「『誰でも』イイのだな? わかった」

 シズルーは数回確認したあと、立ち上がり、口を開く。

「私が独断と偏見で選ぶ、今回の『MVP』は!」

 一同が固唾を飲んで見守る。数秒の沈黙の後、シズルーは言った。

「藤堂ルリ君に『MVP』を送りたい、と思う!」
「ひっ! わ、私、ですかぁ!?」ガタッ

 シズルーは指揮棒を瞬時に出すと、まっすぐルリを指した。
 指されたルリは、驚愕の余り、腰が浮いた。

「藤堂ルリ君! 貴君は回復術士の鑑だ! 惚れた!」パァァ
「ぎゃっふぅぅぅん!」バタッ

 ルリはペタンと腰を抜かし、そのまま後ろに倒れ、ピクピクと軽く痙攣している。
 ヨガのポーズにありそうな態勢で、両目が♡マークになっている。

「ふむ? ドクター、これが『ギャフンと言わせた』と言う事、なのか?」
「大尉殿? おイタが過ぎますよ?」
「し、幸せ……れすぅ」ガクッ

 ジェニーは腕を組み、ため息をついた。

「まさかの少尉殿……ですか? ノーマークだったわ」ざわ…
「マジ? なの?」ざわ…
「私の予想だと、ケイちゃんか、ジョアンヌ、大穴でみのりだと思ったんだけどな……」ざわ…
「大尉って、結構惚れっぽい方なんじゃ?」ざわざわ…

 誰もがこの状況を把握出来ていなかった。 
 シズルーはさらに口を開いた。

「付け加えるならば、貴君の『技』に、だがね」

 シズルーは「我ながら上手い事を言った」という顔でうんうんとうなづいている。

「まぁ。何てお茶目な事を」
「なぁんだ。真に受けて損したぁ」

 一同が半ば呆れた顔でシズルーを見ている。




              ◆ ◆ ◆ ◆




 少し経って、ルリが正気を取り戻したのを確認すると、ジェニーの問いにシズルーは語り出した。

「大尉殿? 真意をはかりかねますね、先ほどの仰り方ですと?」
「いや済まん。だがどうだろう? ルリ君は文句なしで今回のMVPである、と私は思うが?」
「シズルー様……私をそれほどまで評価して下さったとは……はうっ」

 シズルーは一同を見渡し、意見を求める。 

「確かに、今日の藤堂少尉は目覚ましい活躍をされていましたね……」
「あの広範囲回復魔法は素晴らしい。実際に見たのは初めてだな……」

 講師たちから賛同の言葉が沸いた。受講者たちからは、

「やっぱ年の功、じゃない経験値? かな?」
「ヒーラーの鑑、か。敵わないな」

 と言った風な意見が出た。ジェニーは改めて一同に聞く。

「という事で、意義ある者は出て来て頂戴?」


「「「異議なし!」」」


 満場一致で今回のMVPは、藤堂ルリ少尉となった。

「本当に、わ、私でイイのですか? シズルー様?」
「無論だ。今日、貴君は多くの隊員を救った。あの時私は思った。 貴君は現代の『マイッチン・ゲール』なのでは? とな」

 マイッチン・ゲールとは、かつて戦場で多くの負傷者を救い、また回復術士の必要性を説いた、『回復術士の母』や『ジャブローの天使』などと呼ばれている術士である。

「持ち上げ過ぎです、シズルー様。何も出ませんよ? 変なもんは出ますけど」
「ハハ。イイじゃないか。貴君はそれだけの事をしたのだ! 自信を持ちたまえ!」

 その後は、全員で集合写真を撮った後、受講者一同で写真を撮った。

「みんな、大尉殿は普段、写真には写らない主義の所を、何とか説得して撮らせてもらったのよ!」
「恐らくもう会う事は無いのだ。ならば、なるべく残らない様にする方がよかろう?」

 そう言ったシズルーに、異論を唱えた者がいた。

「ええー!? もう会えないんですかぁ?」
「私たちの成長ぶり、見ててくれないんですかぁ?」

 ズイ、と詰め寄る受講者たち。そして、

「そんな……私はまたお会いしたいです。大尉殿」
「ジョアンヌ君、私などに関わるとロクな事にならん。止めておけ」

 泣きそうな顔のジョアンヌを諭すシズルー。
 一同も寂しさの余り、今にも泣き出しそうな顔になっている。

 
「ふむ。万が一、100年経っても本当の愛を手に入れられぬ者がいたとしたら、私の所に来い。私が全力で愛してやろう!」


 「「「「きゃっふぅぅぅん♡」」」」


 シズルーの言葉に、受講者は勿論、周りにいる独身女性すべてが反応した。

「貴君らは先ず、愛される事を目指すのだな。つまり、『イイ女』になれ、と言う事だ」


「「「「はいっ!」」」」


 今のが締めの言葉となり、打ち上げはお開きとなった。
 テーブルにあるものをみんなで片付けている中、ジョアンヌはシズルーに近付いた。

「シズルー様、先程の言葉、二言はありませんね?」
「どう言う意味だね? ジョアンヌ君?」

 ジョアンヌは少し涙目になりながら、言葉を絞り出した。

「シズルー様、100年後にまた、お会いしましょう」

 周りの者もジョアンヌをガン見している。
 シズルーは若干狼狽えて言った。

「真に受けては困るなジョアンヌ君、貴君は意味を取り違えておるぞ? 私はだな……」
「わかっております。大尉殿」

 言葉の意味を補足しようとしたシズルーを遮り、ジョアンヌは微笑みながら言った。

「それまでせいぜい、女、磨かせてもらいます!」

 そう言ってジョアンヌは一礼し、食堂を去って行った。
 勇ましく去って行くジョアンヌを見て、受講者たちがつぶやいた。

「何さ、カッコ付けちゃって……」
「本当は辛いクセにね」

 ジョアンヌの成長ぶりを見て、ジェニーは腕を組み、うんうんとうなづいた。

「あの子、ひと皮むけたようね」
「脱皮したんですか? ヘビ女が?」

 みのりとケイは、片付けをしながら話している。

「むはぁ。最高だったわね。さっきの写真、萌たちに送っちゃおっと」
「ねえみのり、大尉殿に本当にもう会えないの、かなぁ?」
「そんな事無いと思うよ。だって依頼があってPMCから来てるんだから」
「そっか。依頼すればイイんだ! わぁい!」
「でも、どこに連絡すればイイのか、わからないけどね」

 はしゃいでいるケイを見て、みのりが聞いた。

「やけに喜んでるね? そんなに気に入ったの? シズルー大尉殿の事」
「うん。あの人なら、助けてくれると思うの」
「助けるって、誰を?」

 急に内容が変わり、眉間にしわを寄せ、首を傾げるみのり。

「私がこの講習に来たの、『姫様』の為、なの」
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