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第7章 木枯らしに抱かれて

エピソード40-13

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療養所 事務所―― 

 打ち上げが終わり、光学迷彩を解除して一服している静流。

「お疲れ様♪ 静流クン」
「とりあえず、成功って事でイイんですかね?」
「何言ってるの? 大成功よ!」
「そう言ってもらえると、肩の荷が降ります」

 ジェニーにそう言われ、ホッとしている静流。
 すると食い気味にジェニーが詰め寄る。

「ねえ静流クン、このキャラ、定着させましょうよ! そして各地で講義をするの。最高でしょう?」
「ドクター? シズルーというキャラは、今日限りの『幻』なのでは?」

 シズルーの問いに、ジェニーはモジモジしながら言った。

「ところがね、そうもいかなくなっちゃったの」
「は? どういう事、ですか?」
「実は、今日の講義とさっきの火事、一部始終見ていた方たちがいて、ウチにも来てくれ、って頼まれちゃって……」
「え? どこなんです? そこ」
「数件問い合わせがあるの。悪いようにはしないから、お願い出来ないかなぁ?」

 そう言ってジェニーは、手を合わせ、「お願いっ」と片目をつぶった。

「講義なんてわかりませんよ? 大体僕は教わる方なんですから」
「単なる『慰問』でもイイんじゃない? アナタ、絵になるから」
「また適当な事を……」
「大尉は超多忙だって言ってあるから、返事は今度でイイわ。よぉく考えといてね♪」

 そう言われて静流は、腕を組み、ふぅ、とため息をついた。

「今回こっきりだったから何とかなりましたけど、次があるなんて……光学迷彩でいつまでごまかせるかどうか……」

 不安そうな顔をしている静流に、ルリが真面目な顔で静流に言った。

「静流様、その件でお話があります!」
「ルリさん? 何ですか改まって」

「私と、結婚してくだ……」
「はい、ストォーップ!」

 静流はルリのプロポーズらしき発言をすかさず止めた。

「真面目な顔で何言ってるんですか!」
「私は、大真面目ですぅ!」むふぅ

 ルリは、まともに扱ってくれない静流を、頬を膨らませて睨んだ。

「で、それだけですか?」
「あ、いえ、先ほど、光学迷彩について仰ってましたけど」
「はい、それが何か?」
「静流様の変装は、完璧でしたよ?」
「どういう意味、ですか?」
「確かに光学迷彩を展開していましたが、同時に地の部分も具現化出来ていました」
「え? 本当ですか?」
「静流様、光学迷彩には、ボイスチェンジャーは付いていましたっけ?」
「あれ? そう言えば、ボイチェンは別のアイテムを使ってたな。あれ? 最近使って無いぞ……」

 確かに学園潜入ミッションの際は、偽装肉体やらカツラを使い、声はボイスチェンジャーを使っていた。
 光学迷彩はあくまで補助的なものだったのを、静流は思い出した。
 静流は、腕の操作パネルをいじり、もう一度シズルーに変身した。シュン

「ああっ、シズルー様……」
「む。確かにホントだ。着ぐるみも付けてないし、サーベルだって……」

 静流は顔を触り、髪の毛をいじる。明らかに長くストレートの髪である事に驚いている。
 次にサーベルを抜き、重みや硬質感を確認していた。

「このように、光学迷彩も正常に機能していますが、中身もそれになっています」フーフー
「これって、かなりスゴい事なんじゃ?」

 今更ながら不思議がっている静流に、ルリは続けた。

「昔の話ですが、私は『獣人』に会った事があります」
「獣人、ですか? ケモミミの?」
「ええ。モフモフのケモミミ、でした。その獣人たちは、変身能力である、『化装術』なるものを使えるようです」
「キツネやタヌキといったたぐいのが使うやつよね? それって」
「そうですドクター。静流様、お知り合いに変身能力を持っている方とか、いらっしゃいます?」

 静流は手を顎にやり、天井を見た。

「え? うーん、あ、いますね。黒竜が」
「黒竜とは、あの伝説の黒竜『ブラム』の事ですか!?」
「あのローレンツ元准将閣下が封印した、って言う?」

 ルリとジェニーは身を乗り出し、静流に迫った。

「ええ。いろいろありまして、今は僕の従者になっています」
「うげ? と言う事は、『契約』したのですか?」
「え、ええ。しましたよ」
「キミ、さらっとスゴい事言うのね……」
「さすが静流様、スケールが違います!」

 ジェニーは半ば呆れ、ルリは興奮気味に静流を褒め称えた。

「ルリさん、ブラムと契約した事と、『化装術』とは関係があるのですか?」
「あります! 大アリです! 従者とのリンクにより、静流様は知らず知らずに『化装術』を取得なされたのです!」フーフー
「ですが、コレが無いとどうやって変装するのか、わかりません」
「無理も無いです。やり方とかは全く教わっていないのですから」
「でも、何故か出来てる、って事ですか?」
「ええ。それは『イメージ』ですね。恐らく」
「イメージ? はっ」

 静流はかつて、アスガルドでアマンダから言われた事を思い出していた。

「確かに、アマンダさんから、僕の魔法はイメージ力が重要だと言われました」
「イメージの力か。さっきの消火活動の時使った技も、そう言う事なら納得いくわね」
「流石ですね技術少佐。つまり、光学迷彩と言うアイテムが、静流様のイメージ力の補助をしているのです」
「なるほど。より強いイメージがあれば、変装も容易に出来ると?」
「肯定ですドクター。ここまで言えば、おわかり頂けますね? 静流様?」フー、フー
「何です? よくわかりませんが?」

 興奮度がMAXに達する寸前のルリを見て、首を傾げる静流。 


「今、静流様に必要なもの。イメージ補完にもってこいの素材、それは、『薄い本』です!!」フー、フー


 そう言い放ったルリは、自分の肩を抱き、クネクネと上半身をひねった。

「確かにインパクトはありますが、アレに使われているキャラの9割は変態、と言いますか異常性愛者ですよ?」
「うう、言い得て妙、ですね。何も言い返せないです」

 静流は『薄い本』に関して、憎悪に近い感情があった。

「本の中のあいつらに、どれだけ苦渋を飲まされたか……」
「静流様は、二次元の静流様を良く思っていないのですか?」
「そりゃあもう! あんな物、有害図書以外何があるんです?」
「それでは悲し過ぎます。作り手の、『愛情』を感じて下さい」グス

 ルリは静流に『薄い本』を全否定され、悲しそうな顔で静流を見た。

「あーもう泣かないで下さいよ。確かにサラが描いた絵は漫画のレベルを遥かに超えてますし、後輩たちが一生懸命考えてくれた設定の中にも、スゴくイイものもありますよ?」
「では、認めて下さいますか? 『薄い本』のパワーを」
「売れるって事は、それだけ需要があるって事ですよね? そこは認めざるを得ないです」
「はふぅ、良かった。完全に嫌われずに済んだ……むふぅ」

 ルリは安堵の溜息をつき、胸を撫で下ろした。

「『薄い本』は、『化装術』の修行に必ず役に立ちます!」
「そんなもんですかね。頭のどっかに入れておきます」
「本当は私が付きっきりでお手伝いしたい所ですが……」
「とりあえず、間に合ってます」
「それは、非常に残念です」しゅん



              ◆ ◆ ◆ ◆



 静流が帰り支度を始めた。

「じゃあ、帰りますね?」
「ええ? もう帰っちゃうの?」

 静流の素っ気無い態度に、ジェニーは名残惜しそうにそう言った。

「すぐ近くなんですから、また来ますよ」
「本当に……来てくれますかぁ?」

 ルリは潤んだ瞳で静流に迫った。

「う、近いです。何かあればメールでも下さい。但し、この間みたいな姑息な手を使うんだったら、拒否するかも知れませんよ?」
「そんな殺生な!? 後生だから、ね、お願ぁい!」

 ジェニーに懇願される静流。

「ジョークです。でも、あまりいい気分じゃなかったですよ」
「わかった。今度からはちゃんと正攻法で口説くわ♪」

 正門まで二人が送ってくれた。

「じゃあ、お疲れ様でした」
「静流クン、今日は、ホントにありがとうね」
「また、お会い出来ますよね? 静流様」グス
「勿論。今度、イク姉の昔話聞かせて下さいよ?」
「ええ。たんまりと」

 少し歩き、ふと静流が振り返ると、二人はハンカチを振りながらまだ見送ってくれていた。

「フフ。軍の人って、やっぱ面白い人たちばっかりだな」

 静流は大きく手を振ってから、バス停に向かって歩き始めた。
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