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第8章 冬が来る前に

エピソード42-2

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 新しい部名が決まった。『桃魔術研究会』であった。
 発表後の反応はと言うと……

「それって、ウチのゲーム開発部門が使っていたフレーズですよね?」
「結局そのフレーズが、双方の話し合いにより合意に至ったのだ」

 睦美の説明が続く。

「静流キュンのパーソナルカラーは、言わずと知れた『桃色』であるわけだが、桃色のオーラを放つ魔法が存在する事はわかっているな?」
「女神……シズルカ様?」
「そう。数々の奇跡を生んだ【ブリージング】つまり、祝福だ」

 部員たちは、「なるほど」と頷き合っている。 
 さらに睦美は畳み掛ける。

「黒瀬ミサ、最近の資金管理や権利関係は、生徒会に全て委託していたな? つまり『丸投げ』だ」
「確かに。版権やら税金対策等が絡んでいたのでな。木ノ実先生は『畑違い』と言って我関せずの状態だったので、仕方なく、な」
「貴様らが呆けている間、高校生のお遊びでは済まない程に、部の売り上げが尋常ではなく膨れ上がっているのだ」
「グレイト! 喜ばしい事ではなくて?」
「白井、お前は快楽主義者か? おめでたい奴だ」
「何ですって!?」
「お前たちの作品を、無料で配布しているのなら問題ないが、実際は有料。そこに商売が成立してしまっている」
「うぬ? 利益が出るのが問題なのか? 柳生?」
「そうではない黒瀬。最早、高校の部活内で運用するキャパシティーを超えてしまってる事の方が問題なのだ」

 睦美と幹部たちが、部活の範疇を超えた議論を交わしている為、部員たちは困惑している。

「要するに、儲けちゃダメって事?」ざわ……
「商品に対価を払う。実に健全であろうが」ざわ……

 少し間を置いて、睦美はドヤ顔で一同に向かって持論を展開した。

「コホン。さて、これらの問題を一気に解決する方法がある!」
「何だそれは?」
「不正、ではないのだな?」
「勿論。実に理にかなっている方法だ」

 一同がざわつき始める。

「ええい、勿体ぶるな! 早く言え!」

 黒ミサがしびれを切らし、睦美に絡んだ。


「簡単な事だ。新しく会社を興す!」


「「「「ええ~!!」」」」


 一同は驚きの声を上げる。その中には静流も入っていた。

「カナメ、スクリーンを降ろせ!」
「はいよ!」ウィーン

 別室でスタンバっていたと思われるカナメに、睦美はスクリーンを降ろさせた。

「新会社設立のメリットは主にコレだ!」

 スクリーンにワードが映し出される。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 【新会社設立のメリット】

 ・部で作った商品を全て買い取り、保管し、小売店に販売する。つまり卸売業
  者の役割を担う。

 ・作業に必要な資材の調達、管理を請け負う。

 ・部の版権等を管理し、必要であれば交渉も請け負う

 ・売上の還元は、本校に『寄付』という形で行う。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「お前たちはしがらみに左右されずに、『部活動』としてただ好きな事をやれる。金の心配は要らない。まさにウインウインの関係だ!」
「なるほど。確かにそれが可能であれば、願ったりかなったりであるな」

 睦美は更に持論を展開する。

「今後、お前たちが望むのであれば、制作部門を社内に設ける事も可能だ。つまり、就職も可能という事だ」

「「「おおーっ!」」」

「つまり、部活は将来の社員育成、という事か?」
「察しがイイな、先生。その通りだ!」

 さっきまでギクシャクしていた部員たちは、睦美のプレゼンに歓喜した。

「素晴らしい。マーベラス!」
「オーラロードが、開かれた……」

 ここで一つ、疑問が生じた。静流が質問する。

「睦美先輩、この会社の名前は、何て言うんです?」
「鋭いね静流キュン、実は、まだ未定なのだよ。カナメ、次!」
「はいよ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


         (仮称)『桃魔術ホールディングス』


  親会社 『名称未定』 各種営業、商品の流通、版権、ファンサイトの管理等

  子会社 ゲーム開発部門 『(仮称)桃魔術研究所』  

  子会社 出版部門 『五十嵐出版』 

  子会社 映像デザイン部門 『STUDIO-273℃』

  子会社 戦術コンサルティング部門 『名称未定』

  その他 物流倉庫、超常現象調査

  下請け『桃魔術研究会』


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「我々の目標は、生産から販売まで、全てを受け持つグループ会社である」
「これはまた、特大の風呂敷を広げたものだな」

 沖田は感嘆した。

「柳生! ここまで壮大な計画、『妄想でした』では済まされんぞ?」

 黒ミサは動揺しながらも、睦美に嫌味を言った。

「妄想かどうかは、いずれ分かる事だ」

 睦美は終始自信たっぷりである。

「名称はあくまでも仮称だ。候補があれば言ってくれ。また、ネームバリューである『五十嵐出版』は我社の傘下に入ってもらう」

 驚きを隠せない静流が、ふと気になった項目について、睦美に聞いた。

「すいません睦美先輩、戦術コンサルティング部門とは、何でしょう?」
「静流キュン、イイ所に気が付いたね? 簡単に言えば、PMCだよ」
「PMC、って、民間の軍事会社の事でしょう? は……まさか」
「そう。この部門で対統合軍対策を執り行う。現在唯一の社員である『シズルー・イガレシアス大尉』のマネジメントを行う部門だよ」
「PMC……ですか?」
「アドバイザーに如月技術少佐が入ってくれる事になっている。問題は無いさ。また、インベントリ内に格納スペースを設け、軍に有料で貸与する事で、軍とも太いパイプが出来る計画も進行中だ」
「きめ細かな配慮、流石だな」

 黒ミサは、首を縦に振る動作しかしていない。
 静流は睦美に聞いた。

「映像部門の社名って、絶対零度の事?」
「正解。動画などの制作はこの部門が担う。好きだろうキミ? こう言う感じのフレーズ」
「ええ。怖いくらいにドンピシャです」

「続いて、今声を掛けている、我社のフォローをしてくれるメンバーたちは、以下の通りである」


 統合軍方面 如月アマンダ技術少佐 技術顧問
       有坂リリィ曹長    経営顧問

 民間    葛城雪乃       経営顧問

       
「尚、メンバーは随時募集している。ある軍事スペシャリストにも、ラブコールを送っている所だ」

 周りの部員たちは、聞き慣れない人名ばかりなので、困惑している。

「うん? みなさん良く知らない名前ね?」ざわ……
「たわけ! 葛城雪乃様は、かの有名な『国尼四羽ガラス』のお一人だぞ?」ざわ……
「ああ、聖アスモニア修道魔導学園に留学なさった方ね?」ざわ……

 周りがざわついている中、静流は顎に手をやり、物思いにふけった。

(軍事スペシャリスト? 誰だろう? 皆目見当が付かないや……)

 ここで静流が手を挙げた。

「皆さん『顧問』という事ですが、『正社員』はまだいないんですか?」
「当然だ。社員募集はまだまだ先だよ。当分、シズルーだけでイイ」
「イガレシアス大尉、ですか?」
「ああ。キビキビ働いてもらう。 我社のエース・ストライカーなのだから、な」

 睦美は静流に下手なウィンクをした。
 元黒魔の連中が、シズルーの事で物議を交わしている。

「シズルー様って、あの『レプラカーン』の?」
「実在するモデルがいたの? まさか、ちょっとアンタ、アレ描いたのアンタでしょう?」
「う、うん。 あ、あれは、私の妄想だったんだけどな……」

 また静流が手を挙げた。

「会社を立ち上げるのに、資金はどこで工面するんです?」
「問題無い。資本金はもう確保してあるし、当面の人件費ならどうとでもなるさ。他に質問は?」
「あとは……そうですね、部の皆さんに聞きたいです」
「ほう。何だね?」

 静流は、部員の方を向き、語り出した。

「皆さんは、『二次創作』が好きな方たちと認識していますが合っていますか? また、制作工程で『辛い』とか『キツい』とかのストレスを感じた事はありませんか? さらに、部活のせいで勉強する時間が少なくなってる、なんて事はありませんか?」
「静流様、それではまるで我が部が『ブラック企業』の様ではありませんか!?」
「言い過ぎたなら謝ります。でも、僕は皆さんが少し心配です。学生は学業が第一。これが部活の為におろそかになってしまうのは言語道断です。その次に当然ながら健康面です」

 静流と黒ミサのやり取りを聞いて、一人の部員が震えながら手を挙げた。
 睦美が発言をうながした。

「す、すいません。発言、よろしいですか?」
「うむ。言いたい事があるのなら、言いたまえ」

 一人の少女は、息を大きく吸い込んでから、精一杯大きい声で話し始めた。

「私たちの身を案じて下さった事、身に余る光栄です。ですが、静流様のおっしゃった事は少し違います。私たちは最早、部活が生き甲斐となっており、逆に活動をさせてもらえない事の方がストレスで死んでしまうでしょう」
「そんな、大袈裟な」
「さらに、部活に没頭するあまり、学力に差が出てしまっている生徒も、お察しの通り、少なからずおります」
「そうでしょう? やっぱり心配した通りだ」

 静流は腕を組み、ため息をついた。

「ですが、生徒が部活にのめり込んだために学力が低下する、なんて事は、他の部、例えば運動部にだって普通に起こりうる事です!」
「う、た、確かに……」

 静流は、部員の熱を帯びた演説に気圧され気味だった。
 そんな静流を見て、睦美は言った。

「静流キュン、一本取られたな。 それでは、今後赤点を取った者は、暫く部活動に参加出来なくする、と言うのはどうだろう?」


「「「「うぇぇぇ~!?」」」」


 睦美のとんでもない発言に、一同は困惑した。

「睦美先輩、それはいくら何でも可哀そうですよ」
「では、どうするのかね? 静流キュン?」
「今、この方から聞いた感じでは、部活動は自主的なものであり、『強制』や『拘束』の様な事は無いと確信しました。また勉強も『節度』を持って部活に取り組めば、他の部活同様、両立は可能だと認識しました」

「あ、あり難き幸せ」
「静流様、必ずや、ご期待に添えて見せます!」

 静流は結果的に、睦美に誘導された様なものであったが、部員たちの士気は上がったようだ。

「実は、もう一個、注文があるんですが……」
「何だね? 静流キュン?」

 静流が少し言いにくそうにモジモジしながら、部員たちに言った。

「もう少し、内容をマイルドに出来ませんか? 恥ずかしくて見てられません。検閲する僕の身にもなって下さいよ……」カァァ

「へぶぅ!?……天使が……舞い降りた」
「おぐぇ!?……見えた……ビジョンが、見えた」
「ぐふぅ!?……セリフが、降って来る」

 今の静流を見て、部員たちが次々に膝から崩れていく。

「静流キュン、今のは逆効果だったようだね? 見たまえ」
「え? うわぁ……」

 睦美に言われ、部員たちを見た静流は、思わず声が漏れた。

「グヒッ、次の話が浮かびました。直ぐにネームに起こしますっ」
「私は字コンテを。グフフ」
「ぐはぁ、この感じをすぐに書き留めないと!」

 部員たちは、先ほどの困った顔をした静流に、ある種のインスピレーションを感じたようだ。
 先ほど迄とは比べ物にならない位に、ギラギラと目を光らせ、部室に戻っていく。

「フフフ。つまり、ネタには困らない、と言う事だよ、静流キュン?」
「そのようですね。喜ぶべきか否か……」

 そんなこんなで、『新部名発表会』及び『新会社発足説明会』は、幕を閉じた。
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