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第8章 冬が来る前に
エピソード42-3
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桃魔術研究会―― 第二部室
元々黒魔と静流派の部室は1階と2階であったが、使い勝手の為、旧黒魔の部室を空いていた2階の旧静流派の隣に移動し、第一部室とした。
部長は黒瀬ミサ、副部長は白井ミサが引き続き行う事となった。
旧静流派の部室は、桃魔術研究会の第二部室となり、室長は沖田がやる事となった。
さらに、第二部室の奥にある準備室を、生徒会役員ではなくなった睦美が、私的なオフィスとして新会社用に借り受けた。
静流は放課後に、分室に来るように言われていた。当然真琴が付いて来ている。シズムは第一部室に行っている。
「どうも、お疲れ様です」
「やあ! 朗報だぞ、 静流キュン!」
「いきなり何です? 朗報って?」
睦美は静流の顔を見るなり、少し興奮気味に静流に迫った。
「前に話したろう? PMC立ち上げの際、軍事スペシャリストを中枢に迎える、と」
「確かに聞きましたが、それが?」
「OKが出た。先方はノリノリらしいぞ?」
「で、誰なんです? その人」
「イイかい、聞いて驚けよ? その方はな……」
◆ ◆ ◆ ◆
数日前――
アマンダが誰かと電話で話している。
「やっぱり門前払いよね? 変な事頼んで、悪かったわね、姉さん」
「は? 静流クンがピンチだって言ったら、二つ返事でOKだったわよ♪」
「本当なの姉さん!? たまには役に立つのね……」
「アンタの為じゃない。唯一無二の愛しい愛しい静流クンの為よ♡」
「さいですか……」
「今回のはひとつ、貸しにしとくわ」
アスガルド駐屯地―― 魔導研究所内 ブリーフィングルーム
ブリーフィングルームでは、アマンダ、リリィ、仁奈、レヴィがテーブルで会議をしていた。
「いよいよアノ人との交渉よ。イイわね?」
「アポはお姉さんが取ってくれたらしいですね? 少佐殿?」
「癪だけど、手段を選んでる場合じゃないのよ、もう」
アマンダは、姉に頭を下げてまで、この機会を作ったのだ。
「あれからシズルー大尉殿へのオファー、結構溜まってるんですよね……」
「この、気軽に頼める雰囲気を打破するには、どうしても『アノ方』に頼るしか、今思いつく方法が無いのよね」
「是が非でも、協力してもらわなければならない! 気合入れて!」
「「「はい!」」」
「はぁ、静流クンの憧れの、『ごく平凡な高校生ライフ』は、また遠のいてしまうのかしら?」
「仁奈、そのためにも今回の交渉、失敗は許されないよ?」
「相手は『レジェンド』です……考えただけでガクブルですよ……」
「レヴィ? 逃げ腰だと余計機嫌を損ねるわよ? 悟られないでね?」
「は、了解……です」
アスガルド一行は、『ワタルの塔』を経由し、【ゲート】を使い、聖アスモニア修道魔導学園に移動した。
通常の交通手段では、最速の飛行機を使っても6時間は掛かる所を、【ゲート】を使えば一瞬で到着できる。
◆ ◆ ◆ ◆
聖アスモニア修道魔導学園 保健室――
時間はティータイムの16:00時の少し前、アスガルド組が【ゲート】をくぐり、到着した。
カチュアが管理している【ゲート】は、保健室にあった。
「ん?ココって、保健室?」
「むむ、【ゲート】の私的利用、制限する事も考えないと……」
【ゲート】から次々に現れるアスガルド組。するとそこに、
「いらっしゃいアマンダ。歓迎するわ♡ 静流クンは?……なぁんだ、いないのか」
「この度はご協力感謝致します! 如月ドクター」
「何よ? その、よそよそしい態度は?」
アマンダは、デスクに腰かけ、足を組んでいるカチュアに、最敬礼した。
「アンタのそう言う所、面白く無いわね。ま、イイわ」
カチュアは、ため息混じりに妹の態度をなじった。
「どうも。以前『塔』でお会いしましたよね?」
「ええ。御機嫌よう、リリィちゃんに、仁奈ちゃん」
この二人は初対面では無く、以前『ワタルの塔』の娯楽室でいかがわしいものを含む動画鑑賞会で会っている。
「お世話になります! アナタが伝説の黒……むぐぅ!」
「こらレヴィ!? すいませんね、この子、妄想癖がスゴくて」
初対面のレヴィが暴走しかけた所で、慌ててリリィが止めに入った。
「そうなの? 今度知り合いのサイコドクター、紹介しましょうか?」
「必要ありません。妄想は私の宝です。『アノ方』を想う事が、生きる原動力とでも言いましょうか。ヌフゥ」
「奇遇ね。私もいつも妄想してるわぁ。『アノ子』の事、ムフ♡」
カチュアとレヴィは、ある一点で気が合うらしい。
簡単に紹介を済ませていると、保健室を訪れる者がいた。
コンコン「失礼します」ガラッ
扉を開けて入って来たのはニニであった。
「あ、どうもニニちゃん先生!」
「アナタたちは、以前アノ塔でお会いしましたね。御機嫌よう」チャ
ニニは、目を細めてメガネのズレを直した。
「アナタたちだったのですね? 軍から重要な話があると聞きましたが……」
「そうなのよ。どうも厄介事らしいわよ?」
「ふう。アナタたちは、どれだけ問題を起こせば済むのですか? は、まさかミスター・イガラシに何かあったのですか?」ガバッ
そう言うとニニはアマンダに迫った。
「今の所は何も。ただ、今予防線を張らないと、とんでもない事が起きるかも知れません。その為の会合です」
「それなら私も同席します! 食堂でお待ちですよ? アノ方が」
「よし、行くわよ! みんな」
「「「「はい!」」」」
カチュアの先導で、他の者が追随する。
◆ ◆ ◆ ◆
学園内 食堂――
食堂では通常、生徒たちがティータイムをとる時間なのだが、人払いがしてある様で、しん、と静まり返っている。
その中に、ポツンと一人、椅子に腰かけている者がいた。
「今更軍から使者を寄こすなんて、何をやらせようって言うのかしら? 全く……」
そうぼやいていると、カチュアの場違い気味の声が聞こえた。
「エスメラルダ先生! お待ちどう様♪」
「軍からの使者をお連れしました」チャ
カチュアを先頭に、ニニとアスガルド組が食堂に入って来た。
エスメラルダは、「よっこいしょ」とゆっくり立ち上がった。
「御機嫌よう。みなさん」ニコ
エスメラルダは極めて穏やかに、アスガルド組に挨拶した。
それを受けて、アスガルド組はビシッと整列し、代表してアマンダが挨拶を始めた。
「ローレンツ元准将閣下、この度は拝謁の栄誉を賜り……」
「ストーップ! はぁ。だからイヤなんだよ、お前たちの相手をするのは!」
アマンダの挨拶を遮ったエスメラルダは、急に不機嫌になって愚痴り始めた。
「申し訳ありません! 御気分を害されたのであれば、謝罪します!」
頭を下げたアマンダの顔に、滝のように汗が滴っている。
「なんだい、来とらんのか、静流めは。アイツの件だから受けたんだぞ?」
「でしょう? 私もガッカリなのよぉ」
エスメラルダが不機嫌な要因は、静流が来ていない事も含まれる様だ。
「閣下。こちらをお納めくださいませ」
「何だい? これは……」
リリィがすかさず渡したのは、化粧に使うメイクブラシであった。しかしそれは毛の部分が桃色のメイクブラシであった。
「お試し下さい。きっとお気に入りになると思いますよ?」
「どれどれ、ほぉ……ほほほほ」
エスメラルダが半信半疑でブラシを頬に当てると、エスメラルダの機嫌が、みるみるうちに良くなっていく。
「スゴいわ。先生のお肌、何だか若返ってるみたい」
「こちらの刷毛に使われている毛ですが、静流クンの母上様ににお願いして採取した、五十嵐家の毛という毛を束ねて作ってあります」
「つまり、霊毛ね?」
以前、ビンゴゲームのハズレ用景品に、五十嵐家の霊毛タワシがあり、そのポテンシャルが物凄かったのをリリィは覚えており、水面下で母親のミミに採取を依頼していたようだ。
「ちょっとぉ先生、私にも貸してぇ?」
「ほれ、先に言うが、やらんぞ」
「わぁい。 ん? んんん!? うはぁー!」
カチュアは頼み込んで霊毛メイクブラシを借り、自分に試すと、カチュアの顔がみるみるうちに綺麗になっていく。
「スゴいわぁ……お肌の張りが、まるで十代よ! アンチエイジングの最たるものよ、コレは」
「気に入った。これに免じて、お前たちの話、聞いてやらん事もない」
「あり難き幸せ」
アマンダはリリィに向かって親指を立てた。
元々黒魔と静流派の部室は1階と2階であったが、使い勝手の為、旧黒魔の部室を空いていた2階の旧静流派の隣に移動し、第一部室とした。
部長は黒瀬ミサ、副部長は白井ミサが引き続き行う事となった。
旧静流派の部室は、桃魔術研究会の第二部室となり、室長は沖田がやる事となった。
さらに、第二部室の奥にある準備室を、生徒会役員ではなくなった睦美が、私的なオフィスとして新会社用に借り受けた。
静流は放課後に、分室に来るように言われていた。当然真琴が付いて来ている。シズムは第一部室に行っている。
「どうも、お疲れ様です」
「やあ! 朗報だぞ、 静流キュン!」
「いきなり何です? 朗報って?」
睦美は静流の顔を見るなり、少し興奮気味に静流に迫った。
「前に話したろう? PMC立ち上げの際、軍事スペシャリストを中枢に迎える、と」
「確かに聞きましたが、それが?」
「OKが出た。先方はノリノリらしいぞ?」
「で、誰なんです? その人」
「イイかい、聞いて驚けよ? その方はな……」
◆ ◆ ◆ ◆
数日前――
アマンダが誰かと電話で話している。
「やっぱり門前払いよね? 変な事頼んで、悪かったわね、姉さん」
「は? 静流クンがピンチだって言ったら、二つ返事でOKだったわよ♪」
「本当なの姉さん!? たまには役に立つのね……」
「アンタの為じゃない。唯一無二の愛しい愛しい静流クンの為よ♡」
「さいですか……」
「今回のはひとつ、貸しにしとくわ」
アスガルド駐屯地―― 魔導研究所内 ブリーフィングルーム
ブリーフィングルームでは、アマンダ、リリィ、仁奈、レヴィがテーブルで会議をしていた。
「いよいよアノ人との交渉よ。イイわね?」
「アポはお姉さんが取ってくれたらしいですね? 少佐殿?」
「癪だけど、手段を選んでる場合じゃないのよ、もう」
アマンダは、姉に頭を下げてまで、この機会を作ったのだ。
「あれからシズルー大尉殿へのオファー、結構溜まってるんですよね……」
「この、気軽に頼める雰囲気を打破するには、どうしても『アノ方』に頼るしか、今思いつく方法が無いのよね」
「是が非でも、協力してもらわなければならない! 気合入れて!」
「「「はい!」」」
「はぁ、静流クンの憧れの、『ごく平凡な高校生ライフ』は、また遠のいてしまうのかしら?」
「仁奈、そのためにも今回の交渉、失敗は許されないよ?」
「相手は『レジェンド』です……考えただけでガクブルですよ……」
「レヴィ? 逃げ腰だと余計機嫌を損ねるわよ? 悟られないでね?」
「は、了解……です」
アスガルド一行は、『ワタルの塔』を経由し、【ゲート】を使い、聖アスモニア修道魔導学園に移動した。
通常の交通手段では、最速の飛行機を使っても6時間は掛かる所を、【ゲート】を使えば一瞬で到着できる。
◆ ◆ ◆ ◆
聖アスモニア修道魔導学園 保健室――
時間はティータイムの16:00時の少し前、アスガルド組が【ゲート】をくぐり、到着した。
カチュアが管理している【ゲート】は、保健室にあった。
「ん?ココって、保健室?」
「むむ、【ゲート】の私的利用、制限する事も考えないと……」
【ゲート】から次々に現れるアスガルド組。するとそこに、
「いらっしゃいアマンダ。歓迎するわ♡ 静流クンは?……なぁんだ、いないのか」
「この度はご協力感謝致します! 如月ドクター」
「何よ? その、よそよそしい態度は?」
アマンダは、デスクに腰かけ、足を組んでいるカチュアに、最敬礼した。
「アンタのそう言う所、面白く無いわね。ま、イイわ」
カチュアは、ため息混じりに妹の態度をなじった。
「どうも。以前『塔』でお会いしましたよね?」
「ええ。御機嫌よう、リリィちゃんに、仁奈ちゃん」
この二人は初対面では無く、以前『ワタルの塔』の娯楽室でいかがわしいものを含む動画鑑賞会で会っている。
「お世話になります! アナタが伝説の黒……むぐぅ!」
「こらレヴィ!? すいませんね、この子、妄想癖がスゴくて」
初対面のレヴィが暴走しかけた所で、慌ててリリィが止めに入った。
「そうなの? 今度知り合いのサイコドクター、紹介しましょうか?」
「必要ありません。妄想は私の宝です。『アノ方』を想う事が、生きる原動力とでも言いましょうか。ヌフゥ」
「奇遇ね。私もいつも妄想してるわぁ。『アノ子』の事、ムフ♡」
カチュアとレヴィは、ある一点で気が合うらしい。
簡単に紹介を済ませていると、保健室を訪れる者がいた。
コンコン「失礼します」ガラッ
扉を開けて入って来たのはニニであった。
「あ、どうもニニちゃん先生!」
「アナタたちは、以前アノ塔でお会いしましたね。御機嫌よう」チャ
ニニは、目を細めてメガネのズレを直した。
「アナタたちだったのですね? 軍から重要な話があると聞きましたが……」
「そうなのよ。どうも厄介事らしいわよ?」
「ふう。アナタたちは、どれだけ問題を起こせば済むのですか? は、まさかミスター・イガラシに何かあったのですか?」ガバッ
そう言うとニニはアマンダに迫った。
「今の所は何も。ただ、今予防線を張らないと、とんでもない事が起きるかも知れません。その為の会合です」
「それなら私も同席します! 食堂でお待ちですよ? アノ方が」
「よし、行くわよ! みんな」
「「「「はい!」」」」
カチュアの先導で、他の者が追随する。
◆ ◆ ◆ ◆
学園内 食堂――
食堂では通常、生徒たちがティータイムをとる時間なのだが、人払いがしてある様で、しん、と静まり返っている。
その中に、ポツンと一人、椅子に腰かけている者がいた。
「今更軍から使者を寄こすなんて、何をやらせようって言うのかしら? 全く……」
そうぼやいていると、カチュアの場違い気味の声が聞こえた。
「エスメラルダ先生! お待ちどう様♪」
「軍からの使者をお連れしました」チャ
カチュアを先頭に、ニニとアスガルド組が食堂に入って来た。
エスメラルダは、「よっこいしょ」とゆっくり立ち上がった。
「御機嫌よう。みなさん」ニコ
エスメラルダは極めて穏やかに、アスガルド組に挨拶した。
それを受けて、アスガルド組はビシッと整列し、代表してアマンダが挨拶を始めた。
「ローレンツ元准将閣下、この度は拝謁の栄誉を賜り……」
「ストーップ! はぁ。だからイヤなんだよ、お前たちの相手をするのは!」
アマンダの挨拶を遮ったエスメラルダは、急に不機嫌になって愚痴り始めた。
「申し訳ありません! 御気分を害されたのであれば、謝罪します!」
頭を下げたアマンダの顔に、滝のように汗が滴っている。
「なんだい、来とらんのか、静流めは。アイツの件だから受けたんだぞ?」
「でしょう? 私もガッカリなのよぉ」
エスメラルダが不機嫌な要因は、静流が来ていない事も含まれる様だ。
「閣下。こちらをお納めくださいませ」
「何だい? これは……」
リリィがすかさず渡したのは、化粧に使うメイクブラシであった。しかしそれは毛の部分が桃色のメイクブラシであった。
「お試し下さい。きっとお気に入りになると思いますよ?」
「どれどれ、ほぉ……ほほほほ」
エスメラルダが半信半疑でブラシを頬に当てると、エスメラルダの機嫌が、みるみるうちに良くなっていく。
「スゴいわ。先生のお肌、何だか若返ってるみたい」
「こちらの刷毛に使われている毛ですが、静流クンの母上様ににお願いして採取した、五十嵐家の毛という毛を束ねて作ってあります」
「つまり、霊毛ね?」
以前、ビンゴゲームのハズレ用景品に、五十嵐家の霊毛タワシがあり、そのポテンシャルが物凄かったのをリリィは覚えており、水面下で母親のミミに採取を依頼していたようだ。
「ちょっとぉ先生、私にも貸してぇ?」
「ほれ、先に言うが、やらんぞ」
「わぁい。 ん? んんん!? うはぁー!」
カチュアは頼み込んで霊毛メイクブラシを借り、自分に試すと、カチュアの顔がみるみるうちに綺麗になっていく。
「スゴいわぁ……お肌の張りが、まるで十代よ! アンチエイジングの最たるものよ、コレは」
「気に入った。これに免じて、お前たちの話、聞いてやらん事もない」
「あり難き幸せ」
アマンダはリリィに向かって親指を立てた。
応援ありがとうございます!
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