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第8章 冬が来る前に

エピソード44-10

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薄木航空基地 第7格納庫 ロッカー室――

 薄木に設置してある【ゲート】は、第7格納庫二階の事務所横にあるロッカー室である。
 念話を聞いて、佳乃はロッカー室で静流が来るのを待っていた。

「よいしょっと。あ、佳乃さん、お疲れ様です」

 未使用のロッカーが突然開き、中から静流たちが現れた。

「静流様ぁ、お疲れ様であります! 真琴殿も」
「どうも。お邪魔様です」
「お邪魔だなんて、ウチはいつでも大歓迎でありますよ」ニコ

 真琴は、イヤミったらしく言ったのに対し、佳乃は満面の笑みでみんなを迎えた。

「さっきの件ですけど、本当にやるんですか?」
「みのりん、きっと喜ぶと思うのであります」
 
 そんな事を話していると、誰かがロッカー室に入って来た。

「た、隊長!」
「おう静流。昨日の件か? わざわざご苦労」
「イク姉。ちょっと渡したいものがありまして」
「隊長、実はでありますね……」コソ

 佳乃は先ほどの静流とのやり取りを郁に説明した。

「成程な。面白い。やってみろ」
「でありましょう? 静流様、こういうのはどうでありましょう?」
「うん。そうか、その手があったか……」

 佳乃たちが段取りを確認していると、郁が口を挟んだ。

「それはふざけ過ぎではないか? ちぃとばかしショックが大きくないだろうか?」
「隊長も部下への気遣いが出来るんでありますね?」
「う、うるさいわい!」



              ◆ ◆ ◆ ◆



第7格納庫 事務室――

 みのりは同期たちと雑談に耽っている。

「みのりって昔は、男どもを手玉に取ってブイブイ言わせてたけど、ある時、急にポンコツになったよね?」
「ポンコツ言うな! あの時のあたしはどうかしてたのよ。佳乃先輩から借りた『聖書』のお陰で、危うく『闇落ち』する所を浄化出来たの。今思うとゾッとするわね……」
「それって、結果的には良かったの? 虫も寄り付かなくなっちゃったのに?」
「イイのよ。私には『想像力』がある。それを補填するアイテムだって。へへへ」

 妄想を始めたみのりを見た同期たちがドン引きしている。

「そ、そう言えばケイちゃんって、安全パイだと思うんだけど、あのメロンには要注意よね。パイだけに」
「上手い事言ったつもり? でも、ケイのポストって、意外に需要あったりしてね」

 それを眺めながら、澪は頬杖を突き、溜息をついた。

「佳乃、どこ行ったのかしら? おまけに隊長まで……」

 すると、外から誰かが階段を速足で駆け上って来る。 
 ドアを開けたのは、佳乃だった。

「みんな、大変であります! とんでもないお客さんが来るのであります!」
「お客さん? 誰だろう?」
「みのりの他に、まだ補充人員がいたの?」
「え? そんなの、あたし聞いてないよ?」
 
 みのりたちがざわついていると、階段を上って来る音が近付いて来た。
 カツン、カツンと固めの靴の音に、チャリンと高めの金属音が混じる。

「この音、最近聞いた。まさか、『あの方』が?」
「誰よみのり? 『あの方』って」

 足音が止んだ。ドアを開けたのは郁だった。

「お疲れでしょう大尉殿、ささ、こちらに」
「私の階級など、気にしないでくれたまえ。堅苦しいのはイヤなのでね」

 次に入って来たのは、黒を基調にした、クラシカルな軍服姿の青年が部屋に入って来た。
 制帽からのぞかせる桃色のストレートヘアはサラサラであり、目は金と赤のオッドアイに、ざぁますメガネを着用している。

「皆の者、うれしい来訪者が来てくれた! PMC『ギャラクティカ・ミラージュ』のエース、シズルー・イガレシアス大尉だ!」
「邪魔をする。『ある者』とこちらで待ち合わせをしているのだ。少し騒がしくなるやも知れんが、大目に見て欲しい」


「「「「ええ~っ!?」」」」


 突然の来訪者に、一同は唖然としている。
 その中でも、みのりはひと際目立っていた。

「シズルー、大尉?」
「む? 白木、みのり君ではないかね?」

 シズルーがみのりに気付き、声を掛ける。
 みのりは一歩前に出て、シズルーの前に出た。

「大尉殿、私、白木みのりは、紆余曲折の末、こちらに配属が決まりました!」
「そうか。それは朗報だな。新しい職場で、日々精進するのだぞ?」

 そう言ってシズルーは、みのりの頭を撫でた。

「ふぁい。頑張りますぅ」

 みのりはシズルーに頭を撫でられ、とろけそうになっている。
 そんな光景を見て、萌たちはざわついた。

「ねえ美紀、シズルー大尉って、アレよね?」
「そうよね、アレ、よね?」
「「おかしいなぁ?」」

 萌たちは首を傾げている。

「イイ。スゴく、イイ……」

 澪はシズルーを見て、うっとりしている。
 元々これらの衣装は、以前、保養所の特典で澪がオーダーしたものがベースになっているので、澪のどストライクであった。

「澪先輩、何か聞いてます?」
「え? 特に聞いてないわね……佳乃?余裕かましてる所を見ると、アンタ何か知ってるわね?」
「ど、どうでありましょうか?」

 佳乃がワタワタし出した頃、事務所のドアがノックされた。コンコン、カチャ

「こんにちは! 皆さん!」


「「「「「し、静流様ぁぁぁぁ!?」」」」」


 中に入って来たのは、静流と真琴であった。 

「お待たせしちゃいました? シズルー大尉?」
「おお静流。私もつい先ほど来たのだ。ご苦労だったな、真琴君も」
「どうも。大尉殿こそ」

 シズルーは静流たちの前に立ち、談話を始めた。

 萌と工藤姉妹は、静流とシズルーを交互に見て、驚くばかりであった。

「どうなってるの? 一体」コソ
「私にも、何が何だか、さっぱり……」コソ

 そんな中、一番驚いているのは、みのりだった。

「し、静流様?……ほ、本物?」
「みのりは初対面かな? 静流様には」
「え、ええ。多分?」

 みのりは太刀川で一度、静流に会っているが、ジェニーの悪戯でその時の記憶を消されている。

「静流クン、いらっしゃい」

 澪は務めてにこやかに、静流たちに近付いた。

「あ、ミオ姉!」
「静流クン? 今日って、何かあったっけ?」
「ちょっとね。昨日のチャットで気付いたんだ。渡してなかったな、って」

 静流はカバンの中を探っていると、澪が声を上げた。

「丁度良かった。みのりちゃん、ちょっといらっしゃい」
「は、はい」

 澪に呼ばれ、みのりは澪の所に来た。

「静流クン、紹介するわ。新しくウチの回復担当に……」
「あ! みのりさん! こちらに異動されるんですか?」
「し、静流様? 私がわかるんですか?」

「え? ええ。こんにちは」
(いけね、アノ時の記憶、消されてたんだった)

「もしかして、シズルー大尉殿からお聞きになったのですか? 私の事」
「うぇ? う、うん。そんな所」
「うわぁ、ちょっと恥ずかしくなちゃった……」
 
 みのりは静流にまじまじと見られ、顔が真っ赤になっている。
 シズルーは静流の隣に立ち、みのりに言った。

「静流には私が話した。興味深い回復スキルを持った隊員がいた、とな」
「大尉殿が? そうだったんですか」
「他にもケイ君などの話をしたぞ。彼女も実に興味深かった」
「やっぱり、大尉殿はケイに興味がおありの様ですね……」
「見ていて飽きないのは事実だが、問題あるのか?」
「いえ。特に……」

 みのりは講習時のシズルーが、ケイにひいきしている様な所を何度か見ており、シズルーが『幼女好き』なのでは?と疑っている。

「大尉殿、ささ、こちらに」
「気を使わせてしまったかな? 済まない」

 郁がシズルーを奥に誘っている。
 静流はある事をふと思い出した。

「しまった。みのりさんの分……ちょっとすいません、失礼して」

 静流はみのりの前に立ち、みのりの手を取り、魔力を感じ取った。 

「え? ひゃぁぁ」
「う~ん、こんなもんかな?」
「あ、あぁ……はい?」
「すいません、すぐ戻りますから」

 熱に浮かされたようになっているみのりを置いて、静流は事務所を出て行った。 
 そんなみのりに、萌たちが近付いた。

「みのり? 静流様に何かされたの?」
「う、ん。多分、魔力の交換? だと思う」ポォォ
「えー、何それ? 私、そんなのやってもらった事ないしー、このぉ」

 放心状態のみのりは、うわ言でそう言った。
 美紀が羨ましそうにみのりをつついている。

「どうもみのりさん。私は静流の幼馴染。仁科真琴です。以後お見知りおきを」
「これは、どうも」
「恐らく、パスを繋いだんだと思います。みのりさんとは初対面? でしょうから」
「成程ぉ、納得」

 真琴がそう解説すると、工藤姉妹は大きく頷いた。
 数分後、静流が戻って来た。
 
「ふう。お待たせしました。では皆さん、こちらに並んでくれます? 佳乃さん以外で」
「ふぇぇ? 自分には無いのでありますか? トホホ」

 静流にそう言われ、不思議そうな顔をして並ぶ面々。
 佳乃はしょんぼりと肩を落とし、真琴の横に立った。
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