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第8章 冬が来る前に

エピソード47-14

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生徒会室――

 睦美は生徒会室の扉を勢いよく開けた。

「おーい、お客様のご到着だよ」ガラッ


「「「「いらっしゃいませぇ」」」」


「うわっ! びっくりしたぁ」

 来客を歓迎したのは、現生徒会役員たちと、静流、真琴、シズムであった。

「みんな、久しぶりだねって、そんなに経ってないか。へへ」

 静流は後頭部を搔きながら、少し照れながら言った。

「し、静流様ぁー!!」タッタッタ
「ヨ、ヨーコ、みんな」

 静流の周りを、あっという間に4人が取巻いた。

「やけに急だったけど、何かあったの? 念話くらいしてくれてもイイのに」
「さ、サプライズですよ! ここに来たのは絵ですよ、絵」
「ああ、アノ絵か……」

 絵の話題になると、静流の顔が少し曇った。

「どうしたんです? 静流様、浮かない顔して」
「ナギサ、聞いてくれるぅ?」

 静流が語り始めようとした時、睦美が声をかけた。

「静流キュン、隅っこにいないで、お客さんをもてなして。ほら」
「はい。お腹すいたでしょ? 食べながら話すから、席についてよ」
「私も手伝うね♪」

 静流は来客を座らせると、お茶の準備をする為、シズムと共に奥に引っ込んでいった。

「お茶なら私が!」
「ヨーコさん、お客さんはそのままでイイのよ」
「真琴さん……わかりました。では、お言葉に甘えます」

 ヨーコは少し逡巡したが、大人しく従った。
 すると廊下からパタパタと足音が聞こえ、生徒会室の扉が勢いよく開いた。ガラッ

「ニニ! アナタいきなり来るなんて、どう言う事?」ハァハァ
「相変わらず騒がしいですね、ムム。廊下は走らないのが常識でしょうに」チャ

 血相を変えて乗り込んで来たのは、ムムちゃん先生だった。

「ムム先生、こりゃあ一本取られましたな。ハハハ」
「何でも古くからのお知り合いとか。言わば『ライバル』と言った所ですかね?」

 睦美が現生徒会長の片山左京と談笑している。

「ぐぬぬ、どうやって来たの? はっ、さては五十嵐クンに何かさせたな?」
「由々しき事態が発生したの。彼に協力してもらうのに、いちいちアナタの許可が必要?」チャ
「そりゃそうよ。五十嵐クンは私の教え子ですから! ん?……そうか。アナタたちも『アノ絵』を?」
「そう言う事。先ずは肉眼で確認する事が目的だったのだけど、状況は変化しているようですね」チャ

 そうこうしている内に、静流とシズムが、お茶が乗ったお盆を持って来た。




              ◆ ◆ ◆ ◆




 学園の先生及び生徒を交え、昼食会が始まった。

「シズム、おひさ♪」
「アンナ。久しぶりぃ」

 アンナがシズムとハイタッチしている。

「サラ先生、例の物は『冬の陣』には間に合いそうですかな?」
「は、はい。只今、鋭意制作中……です」
「結構、結構! 大いに結構! 期待してまっせ♪」

 現生徒会長の片山左京が、サラに何やら話している。
 キョロキョロしているヨーコに、静流が話しかけた。

「ヨーコ、もっと早く知らせてくれればよかったのに」
「すいませんっ、今朝急に決まったんです。それで朝食抜きでこちらに直行したんです!」ハァハァ
「やっぱ『アノ絵』の事か……ネットにでも書き込みがあったの?」
「はい。『桃魔あんてな』で私が発見しました」
「すると黒ミサ先輩かな? リークしたのは……」

 そんな事を話していると、ナギサが指をくわえ、物欲しそうな目で静流の首辺りを凝視している。

「じーっ」
「ん? あ、気付かなかった。おい、起きろ」
 
 そう言って静流は、襟の辺りをいじり、休止状態になっているオシリスを起こし、不可視化を解かせた。

「う、う~ん、何事?」
「オシリスちゅわぁ~ん♡」
「むぎゅ」

 ナギサはオシリスを視認するや静流からひったくるようにオシリスを自分の胸に抱いた。 
 この隙に静流は、ヨーコに絵の件を簡単に説明した。

「あっちにいた時に、シズムが描いたシズルカのデッサンをモチーフに、僕が描いたって事になってる」
「そう言う設定なんですね? りょうかいです」コソ

 頃合いを見て、真琴はヨーコに話しかけた。

「静流、ちょっとヨーコさん、借りても?」
「ん? ああ。頼むよ」
「ヨーコさん、ちょっとイイかな? 隅っこで話さない?」
「何ですか真琴さん、私は静流様と……」
「その静流の事です。がっかりしないでって言うのは無理かと思うんだけど」
「な、何ですか? その意味深な言い方」
「コレで話すわ」チャ

 真琴はヨーコに勾玉をチラッと見せ、隅っこに移動すると、念話を使って今の状況を説明した。
 本物の静流は仕事でここにはいない。いるのはシズムと二役をこなしているロディだという事を。

「成程。よくわかりました」
「あまり驚かないわね、ヨーコさん?」
「ふう。少し違和感を感じたのは、これだったのか……」
「どこが? 私は完璧だと思ったんだけど?」
「確かに、一見完コピ出来ている様に見えますが、そこに引っかかる、と言いますか……」
「要するに、『完璧すぎる』という事?」
「ええ。まるで意思を持っているかと錯覚する位に。ロディはあのノートなのでしょう?」
「そうなんだけど、どうも自我が芽生え始めているって、先輩が言ってたの」
「道理で。一言一言、考えながら発言しているんですよ。静流様だったらこう言うだろう、と」

 ヨーコは終始冷静だった。目当ての静流がいないとわかったからにしては、出来過ぎなくらいに。

「それで、本物の静流様は、今ドコでお仕事を?」
「軍の関係で、ある部隊の隊長さんが難病らしくって、静流や、アナタの所の先生、ええとカチュアさんだっけ? に依頼したって」

「な、何ですってぇ!?」ガタッ

 真琴の説明を聞き、思わず腰が浮いたヨーコ。
 その様子に、周りの者たちが不思議そうなな顔をしている。

「どうしたのよ、ヨーコ?」
「え? ええ。コッチの話」

 ヨーコは顎に手をやり、小声でブツブツと呟いている。

「ヨーコさん? 大丈夫?」
「大丈夫ではないわね。ちょっとイイかしら? 夕べは静流様はどちらに?」
「インベントリ内にある仮設宿舎に泊るって、ロディに伝言があったわ」
「……カチュア先生、夕べ無断外泊してるらしいのよ……」
「えっ、まさか……」
「職権乱用だわ! きぃーっ」

 ヨーコは奥歯を噛みしめ、急にイライラしだした。

「ヨーコさん、考えすぎだよ。仕事はカチュア先生の妹のアマンダさんとか、小さい中尉さんとかもいるし、時差だってあるし……」

 真琴は自分に言い聞かせてるようにも見える、少し早口でヨーコを安心させようとした。
 ヨーコは溜息をつき、紅茶を口に含んだ。

「真琴さん、なまじっか常に一緒にいるから、麻痺してるんじゃなくて?」
「そ、そんな事、最近はそんなにべったり出来てないし……」
「『アルティメット幼馴染』と言う肩書にあぐらをかいているから、そう言う事に気付かないんですよ」
「そ、そんな事、思ってないし、大体、アイツがそう言う事に無頓着過ぎるから……」
「……その点に関しては、激しく同意、ですね」

 お互いに深呼吸をして、気を落ち着かせた。

「今は『絵』を確認する事。それに集中する!」
「そうね。それがイイわ」

 真琴が睦美に聞いた。

「先輩、『アノ絵』って今はどうなってるんですか?」
「ちょっと騒ぎがあってね、視聴覚室はクローズになってるよ」
「どんな騒ぎですか?」
「実はね……」



              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 4階 医務室――

 4階にジルが駆け付けた。

「ど、どうも御機嫌よう。ってアナタ、夕べはコチラに?」
「ええ。ちょっとね」
「無断外泊は減給の対象ですよ?」
「残業だったの。しょうがないでしょう? 状況的に」

 カチュアは、ジルに今までの経緯を簡単に説明した。

「そ、そんな事が……わかりました。今回は大目に見るとしましょう」
「理解が早くて助かるわ」

 次にジルは、手術台で上体を起こしてシズルーと話している、メルクに話しかけた。

「御機嫌よう。メルクリアさん」
「何じゃ、神父様か」
「状況は聞きました。アナタがココナさんにとって、害では無い事。よくわかりました」
「フム。わかってくれたか」
「アナタに確認しますが、今の状況が好転し、ココナさんの意識が戻ったその時、アナタは何を求めますか?」
「先の事は、よくわからんな」
「わたしが若かりし頃、退魔士の仕事も仕方なくですがやっていました。メルクさんが楽になりたいと仰るのであれば、ご助力は可能かと」

 ジルが言うメルクの今後の在り方とは、義足から解放し、魂を浄化後にリスポーンさせる事のようだ。

「そうじゃのう。少し考えさせてくれ」
「結構。ゆっくり考えて、アナタにとって最良の答えを出して下さい。主のお導きがありますように」
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