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第8章 冬が来る前に

エピソード47-16

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ワタルの塔 4階 医務室――

 『夢モニター』を使用し、ココナの夢を探り始めたカチュアたち。
 眉間にしわを寄せながら、カチュアはルリに聞いた。

「……何なの? この乙女チックな夢は?」 
「こんなの、今どきの中学生でも釣れないですね……」

 静流が難しい顔をしながら、みんなに言った。 

「でも、ダッシュ7が出て来るなんて、予想外でしたね」
「この人も『薄い本』の愛読者なんでしょ? 夢に出て来てもおかしくは無いわよね? ルリさん?」
「そうですけど、ダッシュ7に振られるなんて、想像を絶する痛み、なんでしょうね……」
「まさか、こんな夢でメンタルやられたワケじゃないわよね?」

 アマンダはそう言って忍を見た。

「多分違う。もっと深層にある夢だと思う。ブラム、チューニング開始」
「りょ-かい」

 ブラムは操作盤のつまみを回し、モニターを注視する。
 夢モニターは続行するようだ。




              ◆ ◆ ◆ ◆



2-B教室――

 生徒会室から帰って来たのは、真琴だけだった。
 真琴の顔を見るなり、達也と蘭子が声をかけた。 

「あれ? 静流は?」
「真琴? お静は?」

「私はアイツの保護者か?」 

 真琴は、苦虫を嚙み潰したような顔をして、二人に言った。

「そんな様なもんだろ? 1stマネージャーなんだからよ」
「で? お静は今どこにいるんだ?」
「シズムと、お客さんを案内するって。姉妹校の『聖アスモニア修道魔導学園』から、先生と生徒さんが来てるの」
「おい、それって、アノ?」
「そう。アンタの『気になる子』も来てるわよ?」
「え? ナイスバディの子?是非お目にかかりたいもんですなぁって、イテテ」

 達也の隣に、いつの間にか朋子が来ていて、達也の足を思いっきり踏んだ。

「くぅぅ、ゲ、朋子」
「な~に鼻の下長くしてるの? 達也?」
「遠い遠いアスモニアから、乙女たちが我が校に来ているのですよ! ご挨拶しないと失礼にあたるでしょうに!」

 達也は背筋をピンと伸ばし、精一杯品のある男子生徒を装った。

「キモいから止めろ! って事は、お静はこのあともそいつらに付きっきりかよ?」
「恐らくは、そうなるわね……」
「何だよそりゃ、それじゃあ案内役ゲットしても、意味ねえじゃんか……」

 蘭子は右手を強く握りしめ、持っていた空き缶がぺしゃんこになった。

「蘭ちゃん、ここは押さえて。どうどう」
「わあってる。しかしムカつくなぁ、土屋、サンドバックになれ!」
「は? 御冗談を」

 そんな事をしていると、ムムちゃん先生がパタパタと教室に入って来た。

「はーい、じゃあ午後の部も、しっかりお願いね?」

「「「うへぇーい」」」

 生徒たちは二日目だからか、少しダレ気味であった。

「ほら、蘭ちゃん、持ち場に行くよ?」
「ちぇ、わあってるよ」

 真琴が蘭子の肩を押しながら、教室を出て行った。
 すると達也が何かを始めた。

「アンタ、何企んでるの?」ギロ
「何も? さぁてお仕事お仕事っと」
「ちょっとアンタ、作品に値を付けたんだから、もうお役御免ってさっき言ってたわよね?」
「それがあるんだなぁ。全ての作品を写真に収める仕事。ジャーン♪」

 そう言って取り出したのは、広報から借りたデジカメであった。 

「じゃあ、俺はオフィシャルな用事を済ませるから。アデュー♪」

 達也はそう言って、下手なウインクをかまし、駆け足で去って行った。

「きいっ、あんにゃろうめぇ……」

 朋子は去って行く達也の背中を見て、奥歯を噛みしめた。

「グフフ。一通り回るんだったら、静流サマ一行に付いて行けばイイだろ? ナイス、俺」タッタッタ

 達也が静流を探していると、不意に声をかけられた。

「あ、ツッチーだ!」
「ん? ミッチーか? それに……スマン、忘れた」
「上條カナ子です! ツッチー先輩」

 美千留とカナ子であった。

「ミッチー言うな! それより、しず兄ドコにもいないんだけど?」
「近親者のミッチーにも見つけられないか。今度の【結界】は凄まじいな」

 もっとも、本物の静流であれば、当然見つけられるだろうが。

「もう疲れた。で、ドコにいるの?」
「助けてく下さい先輩、美千留ちゃんったら、『もう帰ろう』なんて言い出すんですよぉ? まだ静流お兄様にお会い出来てないのに……」

 カナ子は美千留の物まねを織り交ぜ、達也に説明した。

「今アイツと合流する所だったんだ。一緒に来るか?」
「え? イイんですか?」
「父兄とそのダチだったら、多分OKだろう。よし、行くぞ」
「はい!」パァァ
「ツッチー、なんか偉そう」



              ◆ ◆ ◆ ◆




 案内係の静流とシズムが、学園の生徒たちに聞いた。

「ええと、一年生の作品から見ますか?」
「そうですね。チャチャッと サクッと見ちゃいましょう」

 ヨーコは、静流の作品以外には眼中に無いようだ。
 気が付くと、周りの生徒や父兄たちが、ざわついている。

「うわぁ、外人さんかなぁ?」
「綺麗なひとばっかり……素敵」

 視線を感じたヨーコは、静流に場所の移動を促した。

「静流様、とっとと見て回りましょう。時間は限られていますので」
「そ、そうだったね。じゃあ、行くよ」

「「「はぁーい」」」

 静流がみんなを引き連れて1年の教室に行こうとした時、奥から走って来る者たちがいた。

「ちょーっと待ったぁぁ!」

「ん? 達也と、美千留?」
「ふう。やっと見つけたぜ!」ハァハァ

 達也は、息を荒げながら親指を立てた。
 カナ子は反射的に、達也の後ろに隠れた。

「で、何だよ達也?」
「これから一通り回るんだろ? だったら同行させてくれ! コイツで作品を撮る仕事があるんでな」
「まぁイイけど、お客さんにちょっかい出さないでよね?」
「勿論ですとも。あ、申し遅れました。俺は静流のクラスメイトであり、無二の親友、土屋達也にございます!」
「あ、どうも」

 達也の自己紹介には、一ミリも関心の無い学園一同。

「ま、まぁ立ち話もなんですから、作品を見ながら皆さんのプロフなんか紹介なんかしちゃったりして。しかし、ウチのショボい展覧会なんぞに遠くからわざわざお越し頂いて……」
「あ! 美千留ちゃんだ! うわぁ、カワイイ♡」ガシッ

 美千留を発見したアンナは、反射的に美千留に飛び付いた。

「うぅん。イイ匂い」
「ちょっとアンナ! メスの匂い、なすり付けないで」
「ミッチー、いいなぁ……」
 
 美千留に頬ずりしているアンナを見て、達也が羨ましそうに見ていた。
 アンナをけん制しながら、美千留が静流に聞いた。

「しず兄、今までドコ行ってたの?」
「ドコって? 生徒会室とか」
 
 静流と美千留の会話に、割り込んでくる者がいた。

「静流お兄様! ご無沙汰してます!」ハァハァ

 真っ赤な顔でそう言ったカナ子。
 静流は満面の笑みでカナ子に応じた。

「やあカナ子ちゃん! 来てくれてありがとう」パァァ

「はっひぃぃん♡」

 カナ子は、ロディの偽ニパを浴び、大きくよろけた。

「カナ子、チョロ過ぎ」
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