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第8章 冬が来る前に

エピソード47-19

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国分尼寺魔導高校 体育館――

 体育館で観覧中の静流たちは、静流のダミーの作品を見る事となった。作品のタイトルは『自画像』であり、上半身裸の静流が、蠱惑的な笑みを浮かべている絵であった。

「よりによって自画像ですか!? うひゃあ、どう見ても盛り過ぎでしょうが! これじゃあ僕が、とんだナルシスト野郎じゃないか!?」
「おい、トーンを下げろよ。お前が描いたことになってるんだぞ?」
「わ、悪い。つい心の叫びが……」

 いつの間にか、サラの顔が真っ青になっていた。

「サラ? どうしたの? 顔が真っ青よ?」
「な……なんでこの絵が!?」
「まさか……あの絵、アナタが描いたの?」

 ナギサにそう言われ、身体を震わせているサラ。

「静流様、申し訳……ありません……でした」
「この絵、本当にサラが描いたの?」
「はい。でも違うんです! 書記長さんに頼まれてて……あらかじめ何枚かデータで送っておいたんです。風景画ですよ!? それが、何でこの絵が!?」 

 サラの顔がさらに青くなり、ガタガタと震え出した。
 そこに一人、静流たちの前に現れた。

「ムフゥ。イイ絵だろう? サラ君、グッジョブだ!」グッ
「睦美先輩!?」
 
 現れたのは、右手を突き出し親指を立て、上気した顔でうんうんと何度も頷いている睦美だった。
 
「最初にもらった風景画は、どうもインパクトに欠けていてね。もっとも、私がオーダーしたのも『ごく普通の絵』だったからな。ハッハッハ」
「それが、何でこの絵になったんです?」
「数回に分けてデータを貰った際、紛れていたのだよ、この素晴らしい絵が!」
「つまり、サラの手違いだった、と?」
「その様だね。思わぬ収穫だった」

 睦美は、特に悪びれた様子もなく、さも当然とばかりに言い放った。
 青い顔から赤い顔に変わったサラが、ぼそっと呟いた。

「まさか、この絵が人目に触れてしまうとは思っていませんでした……私だけの空間だったのに……」

 静流は半ば呆れながら、苦笑いでサラに聞いた。

「サラ、いくら何でも美化し過ぎでしょう? 僕、あんなにキラキラしてないよ!?」
「ふぇ? そんな事、無いです。少なくとも、私にはああいう風に見えています!」

 どこまでも自虐的な静流に、サラが珍しく抵抗した。

「出てしまったものは仕方ないだろう? こうなったら開き直るんだね、静流キュン?」 
「はいはい。自意識過剰で超ナルシストの五十嵐静流クンは、僕だぁー!!」

 やけくそになった静流は、少し大きめの声でそう言った。
 しかし、【結界】の効果で大騒ぎにはならなかった。
 結界の効果を目の当たりにし、睦美は大きく頷いた。

「うむ。沖田の【結界】は最早鉄壁だな」

 静流は、顔を真っ赤にして小さくなっているサラに声をかけた。

「サラ、大丈夫だよ? そんなに気にしないで」
「で、でも……静流様を晒し物に……しちゃいました」
「今更? 『薄い本』でもう十分晒し者になってるし、こんな事、みんなすぐに忘れるって」
「そ、そうでしょうか?」
「僕が許すって言ってるんだから、もうこの話はおしまい! さぁ皆さん、視聴覚室に行きましょう!」

 静流がぎこちない笑みを浮かべながら、みんなにそう言った。
 そんな仕草を見て、ヨーコは思った。

(完璧なフォロー。只のAIでは無いわね、やっぱり……)




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 4階 医務室――

 竜崎ココナが『エターナル症候群』を患うきっかけが、事もあろうに静流が関係しているかも知れない事がわかった。

「要約すると、会った事もない静流クンに失恋してた、って事?」
「恐らくは……」

 カチュアに聞かれ、そう答える事しか出来ない夏樹。
 瞳がある仮説を立てた。

「姫様は、脳内でシミュレーションしていたのではないでしょうか?」
「この先、静流クンに遭遇した場合の対処法を、自ら模索していた、と?」
「誰にも頼らない所、ココナっぽいな……」

 ルリはそう言ってうんうんと頷いている。

「ですが、一度も恋愛した事が無いんですから、上手く行くワケが無いんです」
「頼りのバイブルも薄っぺらい上に、超エログロと来たもんだ」
「負の連鎖、無限地獄ループ」
「そりゃあ、『エタる』のも、無理は無いか……」
 
 瞳の仮説に、異議を唱える者は皆無であった。

「要するに、自分にも手が届く可能性がわずかでもある事がわかって、その攻略方法を脳内で何度もトライアルしている、と言う事?」
「でしたら、上手く行く様に夢を操作すれば、この症状から脱する事が出来るのでは?」

 アマンダの意見に、夏樹が乗っかった。

「簡単に言ってくれるわね。どうなの? 忍さん?」
「あらかじめ設定した夢を見せるのは簡単。でも……」
「でも、何よ?」
「それじゃあ甘いかな。この人の『振られ癖』を何とかしないと……」




              ◆ ◆ ◆ ◆




国分尼寺魔導高校 視聴覚室――

 体育館の観覧を終え、最期に残った静流の絵を見る為に、視聴覚室の付近に来た一同。
 視聴覚室に入る為の列が、階段の近くまで続いていた。
 
「はーい! 最後尾はここでーす!」

 『最後尾』というプラカードを持った蘭子に、達也が横柄な態度で声をかけた。

「よっ! お勤めご苦労、お蘭」
「土屋か!? それに、こいつらが例の?……」

 蘭子は、そう言って学園の一同をジロリと見回した。

「くっ、とんでもねえ美人揃いじゃねえか……」

「あ! お蘭さん、お疲れ様」パァ
「お静! ふにゃあ」

 学園の生徒たちに目を奪われていた蘭子は、不意打ち気味に静流から労いの言葉をかけられ、少しふらついた。
 美千留が蘭子を見て、ぼそっと呟いた。

「二中のお蘭か……」
「何だおめぇって、か、カワイイ……」
「あ、お蘭さん、妹の美千留です」
「どうも」
「へ? 妹? お静の? 確かに桃色の毛……」

 静流が美千留を紹介した。
 蘭子は呆けた顔で、暫くフリーズしていたが、直ぐに再起動した。

「お、おう。妹ちゃんか。よろしくな」

 蘭子は、独特のオーラを放つ美千留に、少したじろいだ。
 美千留の横にいた女の子が、蘭子に挨拶した。

「静流お兄様がお世話になっています。妹の上條カナ子ですっ」ペコリ
「お、おめぇも妹? でも毛の色が違うじぇねえか?」
「ああ、この子は美千留の友達。カナ子ちゃん、冗談はほどほどにしてね?」
「へへ。紛らわしい表現ですいませんでした。何せ、家族同様のお付き合いなもので。ホホホ」

 カナ子は精一杯の見栄を張った。

「コラ、嘘をつくな」ゴン
「痛っ! すいましぇん」

 美千留にげんこつを食らい、下をぺろっと出すカナ子。
 そうこうしている内に、前の列がゾロゾロと中に入って行った。

「次には見れるだろうよ。うわ、また次のお客さんかよ……」
「ありがとう、お蘭さん」

 蘭子は最後尾の方に向かった。
 受付には真琴がいた。

「お、来たな。整理券もらうよ」
「はいコレ。しかし、凄い列だね?」
「まぁね。今の所、トラブルは無しよ」

 真琴は券の枚数を確認した。

「真琴ちゃん、お疲れ」
「美千留ちゃんと、おや? 懐かしい顔がいるなぁ?」
「に、仁科先輩。ご無沙汰しています」

 カナ子はどうも真琴が苦手の様だ。
 入口に貼ってある紙を見て、達也は静流に聞いた。

「おい静流? そう言やあ、何であの作者名なんだ?」

 達也が指さした紙に書いてあったのは、

[『メテオ・ブリージング』 作:アーネスト・ボーグナインJr. 展示会場 ]

 であった。

「『謎の人』って設定なら、外人さんとかにしておけばイイかなって。安易すぎた?」
「ぷっ、イイんじゃねえの? 全然OK」
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