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第8章 冬が来る前に

エピソード47-46

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国分尼寺魔導高校 闘技場 オークション特設ステージ――

 ココナは、静流の『自画像』を落札し、国尼のメインバンクであるボゾン銀行の担当者と、支払いについて相談していた。

「お支払い方法は如何いたしますか?」
「当然、一括だ!」
「かしこまりました。商品は、振り込みを確認後にお届けになります。 では、期日までにお支払いお願いします」
「うむ。了解した」

 交渉が終わったと見て、睦美はココナに声をかけた。

「この度は、落札おめでとうございます、竜崎ココナ大尉殿?」
「オークショニア殿? はて、どこかでお会いしたであろうか?」
「聞き及んでおりますよ。静流キュンにね」
「し、静流殿に? どのように聞いているのかね? 私の事を。出来れば詳しく」ズイ

 ココナは、静流が睦美に自分の事を何て伝えたのか、興味深々であった。

「私なんですよ。静流キュンにアナタを探すよう依頼したのは」
「ん? すると静流殿が言っておられた先輩とは?」
「ええ。私です」
「で? 私の事を静流殿は何て?」ズイ
「冷徹そうな外見とは違って、情熱的で、積極的な方で、いきなりプロポーズされた、と言ってましたよ? クス」

 睦美はからかい気味にそう答えると、ココナの顔が見る見る内に真っ赤になり、手をパタパタさせながら弁明を始めた。

「ち、違、わないが、静流殿いわく、今は学業に専念されたいとの事で、私とは『メル友』から始める事になったのだ!」フー、フー

 ココナの必死な弁明に、睦美は少し引き気味に苦笑しながら言った。

「まぁまぁ、落ち着いて。よろしければこの後少し、お時間よろしいでしょうか?」
「私は、問題無いが?」
「では参りましょう。 お連れの方も、ご一緒にどうぞ!」

 睦美は、少し離れた所にいる郁とルリに声をかけた。

「おお先輩、見事な司会ぶりだったな」 
「お世辞抜きに、テレビ番組のMCも出来そうでしたよ?」
「いやぁ、そうですか? 本気にしちゃいますよ?」

 声をかけられ、二人は睦美に挨拶した。
 郁は塔で何度か会っているが、ルリは初めてだった。

「ささ、生徒会室で、お茶でも」
「先輩よ、もう5人ほど追加、出来るかな?」
「勿論! 歓迎しますよ」

 それを聞いた郁は、隅っこでワナワナしている連中に声をかけた。

「おいお前たち、早く来い!」

「「「「「た、たいちょ~」」」」」

 睦美は一同を生徒会室に招いた。
 その光景を見ていた『国尼四羽ガラス』たちは、顔を見合わせた。

「頃合いを見て、生徒会室に突入する!」



              ◆ ◆ ◆ ◆


2-B教室――

 撤収作業が終わり、教室で机に突っ伏している静流。

「ぷっはー、疲れた」
「おい静流? お前そんなにバテるほど、動いてないだろ?」
「いろいろあってね。心身共に疲労困憊って感じ。 ふぅ」
「そういやあさっき、闘技場の方からスゲェ歓声が上がってたよな?」
「上手くいったのかしら? オークション」

 そんな事を話していると、ムムちゃん先生がパタパタと教室に入って来た。

「はい皆さん、三日間お疲れ様でした。明日は代休ですので、ゆっくり休んで下さいね」

「「「ほーい」」」

 クラスの生徒は、ほとんどがくたくたに疲れていた。

「あと、五十嵐クンと井川さん、この後生徒会室に行く事、イイわね?」
「え? 何かありましたか?」
「井川さんには絵の事で今後の対応を相談したいって。五十嵐クンはアナタの『自画像』が落札されて、その落札者さんを待たせてるらしいの。 挨拶してらっしゃい」
「うっ、そうですか……」
「折角だから残ってもらったって、柳生さんが」
「睦美先輩が?……わかりました」
「井川さんも、イイですね?」
「はい。わかりましたぁ」

 静流は、妙な胸騒ぎがするのを隠せずにいた。
 達也がムムちゃん先生に聞いた。

「落札価格は? ムムちゃん?」
「そんなの、聞いてないです! 知りたきゃ勝手に調べなさい!」
「ヘイヘイ、そうしますよ」

 真琴が声をかけるが、静流はそっけない返事だった。

「静流とシズムの絵、誰が買ったんだろうね?」
「さぁね。行けばわかるでしょ」



              ◆ ◆ ◆ ◆


生徒会室――

 生徒会室では、睦美が声をかけたココナ、郁、ルリの他、澪、佳乃、萌、工藤姉妹がテーブルに座っていた。

「えー。改めて自己紹介などを。私は元生徒会役員で、今は『株式会社 桃魔術研究所』のゼネラルマネージャー、柳生睦美です。以後お見知りおきを」

 睦美がそう言って頭を下げると、ココナが反応した。

「『桃魔術研究所』だと?」
「大尉殿、『黒魔術研究所』から最近改名したのであります。『五十嵐出版』はこちらの子会社であります!」
「尚、今回のミッションに参加したPMC『ギャラクティカ・ミラージュ』も、我が社の傘下です」
「むぅ。高校生が会社を経営しているとは……末恐ろしいな」
「私だけでは到底無理な話です。軍の方にも、間接的にお世話になっていますし」
「ほう。どなたかな?」
「公表できる所では、如月技術少佐や有坂曹長、ですかね」
「睦美殿、そう言えば、リリィ先輩は何を手伝ってるのでありますか?」
「主に情報操作です。例えば『静流キュン目撃情報』とか、でしょうか」

 睦美がそう言うと、ルリがいち早く反応した。

「むむ? すると、アノ情報は内部からのリークだったのですか?」
「ええ。定期的に流してもらっています。本の宣伝効果を期待して」
「ふむ。肝心な所をぼやかし、巧妙に情報を操作する。グッジョブです!」
「そう言うの好きそうだもんね、リリィ先輩」

 場が和んだ所で、郁が部下たちに言った。

「お前たち、この通りココナは正気に戻った。静流めの活躍でな!」
「心配をかけたが、 私はこの通り、心身共に絶好調だ!」グワァ

 郁に紹介され、ココナは腕をぶんぶんと振り回した。
 澪は、対面に座っているルリに話しかけた。

「お疲れ様です、藤堂少尉」
「あら澪ちゃん、こんな所で会うなんて、奇遇ね? フヒヒヒ」
「え、ええ。たまたまコッチの方に用があったもので」
「まぁイイわ。それよりココナちゃん、輝いてるでしょう? フフフ」
「はぁ。 大尉殿が全快したと言うのは、本当らしいですね……以前お会いした時とは別人の様です」

 郁とじゃれ合っているココナを見ているルリと澪は、子供を見る親のような眼差しだった。
 和やかなムードの中、睦美が一同に告げた。

「先ほど先生に告げてあるので、もう少ししたら来ますよ、静流キュン」

 睦美がそう言うと、ココナの顔がパァーっとひと際明るくなった。

「静流殿が来る……ああ、どんな顔をすればイイのかしら? ねぇ郁ちゃん、どう思う? この格好、おかしくないかしら?」

 ココナは『非番モード』になり、クルクルと回り出し、しきりに自分の格好を気にしている。

「うろたえるな、どっしり構えていればイイのだ!」
「そんな事言ったって、いざ面と向かった時に、私ったら何をしでかすかわからな……」

 上半身をクネクネさせながらそう話していると、周囲の冷ややかな自然を感じたココナ。

「コホン、済まない、取り乱してしまった……」

 我に返ったココナは、『仕事モード』に瞬時に戻った。

「ヌフフフ。ココナちゃんったら、あんなに舞い上がっちゃって。 カワイイ」 
「ルリ! からかうでない!」

 ルリにイジられ、顔を赤くするココナ。

「澪殿? 竜崎大尉殿は、前からあのような感じの方だったでありましたっけ?」コソ
「いいえ。 前に会った時は、不愛想と言うか、素っ気無い感じだったわ」コソコソ

 佳乃と澪が、そんな話を小声でしていると、萌が横やりを入れた。

「と言いますかあの態度、どう見たって静流様にメロメロじゃないですか!」 

 するとすかさずフォローを入れるルリ。

「実はココナちゃん、以前から『薄い本』の愛読者なの。しかも、静流様の本は、黎明期から目を通してるみたい。 ヌフフ」
「う、同朋でしたか。 自分もバックナンバーは揃えているであります!」
「成程。そりゃあ、舞い上がるのも無理は無い、か」

 工藤姉妹と萌が、腕を組みながらうんうんと頷いている。
 澪にある疑問が浮かび、郁に聞いた。

「でも隊長、ダーナオシーとココだと、時差がありますよね? いくら【ゲート】を使ったって、オークションに間に合うはず、無いと思うんですけど?」
「フッ、 鋭いな澪。 実はな……」

 郁が得意げに澪に説明をしようとした時、生徒会室のドアがノックされた。 コンコン、ガラッ

「「「失礼しまぁす」」」

 ドアが開き、静流、シズム、真琴が入って来た。

「「「きゃあん♡ 静流様ぁ~!」」」

 静流の顔を見た佳乃たちが、黄色い声を上げた。
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