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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード49-8

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国分尼寺魔導高校 2-B教室 放課後――

 あれから数日が経ち、静流はシズムに聞いた。
 
「シズム、今日、アポ取れてる?」
「バッチリ。なるちゃんが迎えに来てくれるって」

 前回の撮影時に、静流扮するユズルが下屋敷PにもらったDVDの鑑賞会を今日行う予定だった。
 右京にはメールで連絡済みである。

「真琴、そう言う事だから、真っ直ぐ帰れよ?」
「何? どう言う事よ?」
「ヤボ用でね。ちょっとミフネの事務所に寄って来る。シズム、行くよ」
「はぁい。じゃあね。マコちゃん♪」
「ちょ、ちょっとぉ……」

 とっとと教室を出て行く静流たち。

「ぐぬぬ、静流めぇ……」

 真琴の背後から、かげろうが発生している様な錯覚を覚えた。
 帰り支度をしている男子生徒が、異変を感じ、仲間に聞いた。

「おい、何か暑くないか?」
「そう言えば……ヒッ」

 真琴の周りの気温が、グングンと上昇している。
 たまりかねた朋子が、真琴に声をかけた。

「真琴? 落ち着いて、どうどう」
「ぐるるる……ヤボ用って何?」
「いつものシズムちゃんの付き添いでしょ? 何も無いわよ」
「気になる……ああもうっ、気になって仕方ない!」ゴォォ
「あつっ! ダメだわ、こりゃ」

 真琴の周りの気温が上昇し、つむじ風が発生していた。 

 昇降口で靴を履き替え、静流たちが正門から出ると、少し歩いた先に黒いワゴンが止まっていた。 
 ワゴンのスライドドアが開き、中からスーツ姿の女性が顔を出した。

「静流様、お疲れ様です!」
「あ、鳴海さん。いつもすいません」

 静流たちがワゴンに乗り込むと、ドアが閉まり、車が走り出した。
 ミフネの本社は、JR広円寺駅の近くにあり、道路が空いていれば1時間かからない距離であった。

「静流様、代表にアポを入れたのって、ジン様がらみですか?」
「ええ。撮影所で貴重なものが手に入ったんです」

 静流は、鳴海に先日のいきさつを説明した。

「ジン様が、特撮ヒーローものに、ですか?」
「何でも、『幻の作品』らしいんで、ご存じ無いのも無理ないですよ」
「参考までに、私も拝見させて頂きます」
「ええ。是非」

 車は赤梅街道を都心に向かって走って行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ミフネ・エンタープライゼス本社 ――

 本社の1Fロビーに、右京が待っていた。

「もう到着する頃でしょうか? むはぁ」

 すると、入口の自動ドアが開き、何人か入って来た。
 右京はパタパタと駆け寄って来た。

「ユズルさまぁ! お待ちしてましたぁ」
「右京さん! お疲れ様です」

 静流は車内でユズルへと変身を済ませていた。
 
「小松様、お疲れ様です」
「どうも鳴海マネ」
「早速ですが、代表の所に行きましょう」

 鳴海が一同を率いて、エレベーターに乗った。
 事務所のフロアに着き、鳴海がドアを開けた。カチャ

「只今戻りましたっ!」

 鳴海が声を弾ませ、中に入る。
 続いてユズル、シズム、右京が中に入った。
 入ってすぐは営業部であり、鳴海のデスクもそこにある。
 事務所の後輩がデスクから立ち上がり、鳴海に声をかけた。

「ショウコ先輩、お疲れさまです。あ、シズム様と、お兄さんのユズル様……ですね?」
「どうも。失礼します」
「お疲れー」
「どうも、ナマジカの小松です」
「荒井由真です。よろしくお願いします」ニコ
 
 後輩は、尻尾があったらブンブンと振り回している位に身を乗り出し、目を輝かせていた。

「ユマちゃん、代表は?」
「ええ。いらっしゃいますよ」

 鳴海は、営業部の奥にある重役室のドアをノックする。コンコン

「鳴海です! 失礼します」
「入りなさい」

 鳴海は、先に重役室に入った。

「代表、ユズル様御一行をお連れ致しました」
「待ってたわ。入ってもらいなさい」

 鳴海が入室を促し、ユズルたちが入って来た。

「お疲れ様です、シレーヌさん」
「お疲れ様でぇす」

 ユズルとシズムがシレーヌに頭を下げた。
 ミフネ・エンタープライゼスの代表、三船シレーヌは、三船兄弟の四番目であり、国尼の校長である三郎の『元』弟である。
 実はかなり前に、カチュアの手により魔法で女性に性転換しており、七本木ジンこと荻原朔也とは夫婦の関係である。

「ご苦労様。右京ちゃん、御機嫌よう」
「どうも、ご無沙汰しております!」

 右京はシレーヌに、やや緊張気味に挨拶した。
 シレーヌは、ユズルを頭のてっぺんから爪先まで舐めるように視線を這わせ、興奮気味に言った。

「むふぅ、イイわ、イイわよ。私のイメージ通りね」
「この姿、ほとんど朔也さんなんですけどね……」

 シレーヌは少し離れた所で、もはや『視姦』だろうと思われる位に熱い視線を送った。

「そうじっくり見られると、何か照れますね」
「ユズル、メガネ、取りなさい」
「えっ、でも鳴海さんが……」
「命令です。取りなさい」

 ユズルはそう言って鳴海をチラ、と見た。
 鳴海は仕方なさそうに頷いて見せた。

「じゃあ、取りますよ?」
「じらさないで、早くぅん!」

 ユズルがメガネを外した瞬間、二つの影がシレーヌの両脇に並んだ。


「「「ぱぱぱ、ぱっふぅぅん♡♡♡」」」


 いつの間にかシレーヌの両脇にいた鳴海と右京が、シレーヌと共にユズルの顔を見た瞬間、後ろにのけ反った。

「えっ? えっ? どうしたんです?」

 ユズルは、目の前で痙攣している三人を、不思議そうに見つめていた。
 数十秒後に、ほぼ三人が同時に跳ね起きた。

「さ、流石はアノ人の血縁者ね。身体の色々な所が活性化していく感じがする……ムフ」
「代表……裸眼ではやはり、刺激が強すぎます……くはぁ」
「むっはぁ、眼福ですぅ……じゅるるる」

 三人はそれぞれの感想を述べ、お互いに顔を見合わせた。

「コレじゃあまともに外、歩けないわね?」
「今後の営業戦略にも影響しますし……」
「現状であのメガネが安全装置となっているワケですね? 『魔眼』みたいでソッチの方面ではウケそうです」
 
 右京のその言葉に、シレーヌはピンと来て、手をポンと叩いた。

「そうか! アレよアレ!」

 そう言うとシレーヌは、デスクに座り、袖机の引き出しを探り始めた。

「ええと、確かココだったはず……おかしいわね、ドコだったかしら?」
「何を探してるんです? シレーヌさん?」
「ちょっと待って、あ、コレだわ! あったわぁ~!」

 シレーヌは見つけた小さい箱を、高々に持ち上げた。


「テッテレー!『浮気防止ネックレス』!!」


 ドヤ顔のシレーヌに、ユズルが聞いた。

「何ですか? それ?」
「昔ね、アノ人に渡して突っ返されたヤツなの。コレには付けた者に対して【幻滅】【嫌悪】【嫌忌】といったマイナスの状態異常を起こすように【付呪】が掛かってるの♪」
「つまり、対象者がそれを身に付けた場合、見た者がそう言ったネガティブな感情を抱くって事ですか?」
「と言うより、ジン様の【魅了】を中和して、周りにいる女性の欲情を抑えるのが狙いだったんですね?」
「そう言う事。コレ作るの、結構大変だったのよ?」

 ユズルは不安げな顔でシレーヌに言った。

「そうドヤ顔で言われても……」
「試す価値はあるわよ? 着けてごらんなさい」
「大丈夫、かなぁ?」

 シレーヌに渡された箱を空けると、ごく一般的なネックレスだった。

「そのお札を剥がせば、効果が発動するわよ」
「じゃあ、着けますね?」
 
 ユズルはネックレスのお札を剥がし、首に掛けた。フワァァァ

「どう、ですか?」
「今の所、何も感じないわね?」
「はい。特には……」

 シレーヌと右京が首をひねっている。

「ユズル様、メガネを取りましょう」
「……わかりました」

 鳴海にそう言われ、ユズルはメガネをゆっくりと外した。

「……何も感じないわね?」
「ええ……って事は、成功ですよ! ユズル様!」

 テストは成功だったようだ。

「コレ、凄い効果ですね! 普段も着けておきたいです!」パァァ


「「「ぱっひょーん」」」


 不意打ち気味にユズルのニパを食らい、のけ反る三人。
 数秒後に、ほぼ三人が同時に跳ね起きた。 

「さっきのより、ダメージは軽減されてるわね? 効果は有効なのよ」
「やはり『ニパ』には敵わないですね……ムフゥ」
「『ハニカミフラッシュ』、侮るべからず……」

 一定の効果を確認し、納得したシレーヌがユズルに言った。

「と、取り敢えず効果はあるみたいね。ソレ、アナタにあげるわ」

「ホントですか? 嬉しいなぁ♪ これからは、肌身離さず身に着けますね?」パァァ


「「「ひゃららぁぁん」」」


 ユズルの渾身のニパを食らい、三人は盛大にのけ反った。
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