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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード50-15

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桃魔術研究会 第一部室――

 『S4』のメンバーのスチール写真を撮りまくり、厳選したものをネットにUPした白黒ミサ。
 翌朝、管理者モードで各サイトをチェックすると、

「うげぇ、物凄いレスじゃないか!?」
「サバは無事か!?」
「問題無いが、この数、尋常じゃないぞ!?」

 そんなことを話していると、睦美が部室に入って来た。

「おはよう。何やら大変な事になっている様だな」
「おはようございますGM。もうご存じでしたか?」
「ああ。私は夜中、管理者モードでROMしていたのだが、それよりコッチの方が驚いた」

 睦美は携帯端末を出し、SNSアプリである『トゥイッター』を開いた。

「このカキコを見ろ。井川シズムの兄、ユズルの事が呟かれている」
「何ですって!? あ、これは、アノ撮影の時の?」
 
 白ミサが見た書き込みは、下記の様なやりとりだった。

〈イイ男、はっけーん! ココのスレ、見てよ!〉
〈このスレの写真の人、ユズル様よね?〉
〈アタシ、小泉の撮影所で会った事あるよ。スッゲエカッチョイイの〉

 写真はシズムと戯れている写真だった。

〈そうそうこの人。シズムンかわいいー!〉
〈ねぇ、『Nちゃん』に、もっとスゲェのあるみたい。ココ♪〉

 発信者は、気になるサイトとして某巨大掲示板のスレッドに誘導した。

〈これって、オフィシャルだよね? そうあってくれ!〉
〈ちょっとコレ、ヤバくない?〉

 次の写真は、例の静流に『アゴクイ』をしているものだった。

〈え? 何これ? 相手の子、静流様なの? 絵のまんまじゃん!?〉
〈そう言えばユズル様って、アノ本に良く出て来る『攻め』の人に似てるよね〉
〈そんな事より、このスレタイ、本当なの?〉

 スレッドのタイトルは、

【衝撃】シズムンのお兄様、オフィシャルでコミマケに潜伏の模様wwwww

 であった。

「これは、ウチが立てたスレではないな?」
「確かに。写真はウチのサイトから引っ張ってますね……」

 白ミサは困惑しながら、さらに書き込みを確認している。

〈は? 『コミマケ』に参加するの? 仕事で?〉
〈あんな毒女たちの巣窟にユズル様が!? 大丈夫なの?〉
〈オフィシャルなんでしょ? 問題無いよ……多分?〉

 白ミサは、書き込んだ主を知っているようだ。

「書き込んだのは恐らく、『メス豚』のドラマに出演している女優の誰かですね」
「そう言えば、『小泉の撮影所』って場所が出たな」
「あのユズル様の姿は、飛び入りで参加したあのドラマの関係者しか考えられないです」

 白ミサは顎に手をやり、小さくうなった。

「このスレ、ウチの事務所が仕掛けた可能性が高いです。鳴海マネならその辺りの情報操作に長けていますし、シズムンとユズル様のスチールは渡していますので」
「大したスキルだな。ポンコツの荒井マネにも、見習ってもらいたいものだ」

 黒ミサはそう言って、自分らのマネージャーに陰口を叩いた。

「まあ、裏事情はさておき、このカキコの『いいね』が一晩で三千を超えている事が重要なのだ」
「む? 確かに。それだけ関心度が高い、と言う事ですね? GM」
「そう。その内、このカキコを転載や引用を行うヤツが出る。そうすると?」

 睦美にそう聞かれ、白黒ミサは同時に答えた。

「「確実に、バズる」」

「そう言う事。外界でもこの位ザワついているのだから、ユーザーたちの心はとっくに鷲づかみだろうな?」
「それは勿論。阿鼻叫喚でしたよ。む? これは?」

 白ミサが管理者のアカウントにメールが届いている事に気付いた。

「GM、メールが届いています。このアドを知っているのは、リアルでのお知り合いでしょうか?」
「軍の関係者、だろうか?」
「多分な。回りくどい事をする。開いてみろ」
「はい」

 メールを開くと、一言だけ書いてあった。


『静流殿は、コミマケに無理矢理参加させられるわけではない。 YES or NO』


 この一文を見て、黒ミサは憤った。

「何言ってるんだ? そもそも金が要るって言って来たのはソッチだろうが!」
「まぁ待て、軍の中でもその事情を知らん者もいるだろう」
「リリィ殿たちではない事はわかります。すると、最近お知り合いになった例の高額落札者様、でしょうか?」

 白ミサが言っているのは、先日のミッションで救った、竜崎ココナ大尉の事であろう。

「その線が濃厚だな。『YES』と入れて、簡単な経緯を肝心な所を伏せてレスしておけ」
「了解」

 メールの送り主に心当たりがあった睦美は、腕を組み、ボソッと呟いた。

「面倒な事にならなければイイのだが……」
「と、言いますと?」

 白ミサが、キョトンとして首を傾げた。

「事務所はバンバン顔を売って知名度をもっと広げたい。 しかし、今までのコアな連中にしたら、『にわか』たちがわらわらと湧いて来るのには、いささか抵抗があるだろう?」
「確かに、仲間内でわいわいやっていた頃と比べると、知名度が上がる事は嬉しい反面、少し寂しい所もありますね」
「向こうは顔を売ってナンボのプロだ。お前たちも片足突っ込んでるならわかるだろう?」
「わかります。今回のコミマケは、静流様にとって、ある種の『方向性』が見えて来るものになるでしょう」




              ◆ ◆ ◆ ◆



国分尼寺魔導高校 2-B教室――

 いつものように、静流は真琴、シズムと共に登校した。

「「「おはよー」」」

「きゃあ、待ってたよシズムン♪」ズズズィ
「うわっ、何事?」

 入って来た瞬間、シズムの周りを女子たちが取り囲んだ。

「うん? これって、囲み取材って言うの? 私、何かやったかな?」

 シズムは心当たりがない為、腕を組み、首を傾げている。

「ねぇ、シズムンのお兄さんって、超美形なんだね?」
「ユズルさんって言うんだね。素敵ィ♡」

 シズムに兄がいる事は特に秘密にしていたわけでは無いが、名前や容姿まではクラスメイトには知られていないと思っていたシズム。

「あれ? どうして名前、知ってるの?」
「コレだよ、コレ♪」

 女子の一人が携帯端末を出し、例の書き込みを見せて来た。
 静流と真琴は、それをひょいと覗き込んだ。
 それはシズムとツーショットで撮ったユズルの写真だった。
 
「ふむ。バッチリ写ってるね。静流、アンタ知ってる?」
「あ、ああ。この間撮影した、らしいよ」
「え? 真琴会った事あるの? イイなぁ」
「ちょっと挨拶した位で、何もないわよ」

 静流は周りできゃいきゃい言っている女生徒たちを見て、気まずそうな顔を浮かべた。

「シズムの事務所、本格的に売り出すつもりね? 『お兄さん』の事」
「そ、そうらしいね」

 真琴に嫌味ったらしく言われ、苦笑いする静流。

「どーすんのよ? このまま有名になり過ぎたら、学校行くヒマ、なくなっちゃうんじゃないの?」コソ
「事務所でセーブしてくれるから、問題無いよ……多分?」コソ

 煮え切らない態度の静流に、真琴はついにキレた。

「またいい加減な事言って……やっぱアンタにはマネージャーが必要ね!」

 両手を腰に当て、ふんぞり返ってそう言った真琴。
 シズムに群がっていた女生徒たちが、振り向いて真琴に言った。

「今更何宣言してるのよ真琴、そんなの今に始まった事じゃないでしょ?」
「五十嵐クンの事、一番わかってるの真琴じゃん。検定やったら特級狙えるでしょ?」

 ニヤついた女子たちにからかわれ、顔が見る見る赤くなる真琴。

「う、うるさいわね、イイでしょ! 何回でも宣言したるわ!」

 開き直ったのか、調子に乗ったのかは定かではないが、さらにこう続けた。

「コイツのマネージャーは、私しか務まらないって事!」

 高らかに宣言した真琴に、女子たちは半ば呆れ顔で頷いた。

「ハイハイご馳走様。真琴の売れっ子アイドルさんによろしくっ」
「へ? し、静流?」

 そう言って自分たちの席に戻っていく女子たち。
 真琴が周囲を見回すと、一瞬静流がどこにいるかわからなかった。

「やっぱドラゴンで最初っから飛ばしていくべきか?」
「ドラゴンにはフェアリーで来られるとマズいぜ?」
「これだけHP差があれば、どうとでもなると思うけど?」
「模擬戦でイタい目にあったろう? ギシアンの『甘ったれる』攻撃」
「じゃあ、直ぐ引っ込めた方がイイな?」

 静流は、隅っこの席で達也と蘭子とでバトルの個人戦について戦略を話し合っていた。

「相手がドラゴンで来たらどうだろう?」
「同じ属性同士なら、通常攻撃と特殊スキルの高い方が有利だろうな」
「ま、コッチは『レジェンド級』だからな、相手にならないと思うぜ?」
「じゃあ、向こうもレジェンド級だったら?」
「ないない。特にあの二体は、普通に探しても到底出会えない代物だぜ?」
「でもさ、MOD盛り盛りがOKなら、そんなのが来てもおかしくないでしょ?」
「そりゃあそうだけどよ……」
「ま、そんな事今心配してもしょうがねぇだろ? 何を連れてくかは当日発表になるんだからよ」

 そんな事を話していると、つかつかと真琴が近付いて来た。

「随分熱心ね? 作戦会議はおわった?」
「真琴さん、怒ってます?」
「いいえ、ぜんっぜん怒ってないけど?」

 三人には、真琴の背後がかげろうのように揺らいでいるように見えた。

「付いて行くか迷ったけど、やっぱ私も行く事にしたわ、 コミマケ!」
「はぁ、さいですか……」

 正直、どうでも良かった三人であった。
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