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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-50

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ワタルの塔 1階 ロビー――

 途中で食堂にいたブラムを回収し、静流たちはインベントリにある、『ワタルの塔』に繋がるドアの前に来た。
 ここまではロコ助が案内してくれた。
 
「静流サマ、お疲れ様ですニャ♪」
「ありがとう、ロコ助」

 塔に向かう面々は、静流たち国尼組の他、流刑ドーム組、学園組、あとはリリィだった。

「おい静流、 このドアの先が『ワタルの塔』なんだな?」
「そう。達也とお蘭さんは初めてだったね。ちょっとびっくりするけど、安全は保証するから」
「お、おう……」

 達也と蘭子は、話には聞いていたが、実際に行くとなると少し緊張していた。

「大丈夫よ蘭ちゃん。私も何回か行ったけど、結構居心地イイのよ。映画とかゲームも出来るし……あ、リナさんも来てるかも」
「ア、アネキが!? アネキはそこにいるのか? お静!」

 真琴からリナの名前が出た途端、蘭子は静流に詰め寄った。

「う、うん。大体娯楽室でゲームやってるね」
「リナのヤツ、ゲームか動画見てるしかやる事無いもんね?」
「薫かゲームしか興味ない奴だし……」

 静流に続き、薫子と忍も頷いた。

「そっか! なら迷うこたぁねぇ! 早く行こうぜ!」

 急にノリノリになる蘭子に、一同は困惑した。

「じゃ、行くよ」

 静流がドアを開け、黒い空間に入って行く。
 続いて他の者が入って行くと、一瞬で塔の1階ロビーに出た。

「はい、着きました!」
「ここが、塔の最下層なのか?」

 達也は辺りをキョロキョロと見回している。

「静流、私たちは先に上に行ってるわね」
「はい、お願いします」

 薫子たちはいそいそとエレベーターに乗って、上に上がった。

「おい! 外見ろ外! 凄い砂嵐じゃねぇか!?」
「おわっ! おいおい、こりゃ災害レベルじゃねぇの?」
「最初はあたしも驚いたけど、ココは安全だから心配ないよ」

 初めて来た二人は、目の前に広がる光景に目を白黒させている。

「フフッ 大丈夫。むしろ、砂嵐がココを守ってくれているようなものだから」
「外にはコワーイ、サンドワームがいるからねぇ♪」
「サ、サンドワーム、だと?」

 ブラムがニヤついた顔でそう言うと、達也と蘭子は顔を見合わせた。

「だから砂嵐で近寄れなくしてるんだ。ブラム、脅かすなよ」
「こりゃ失敬♪」ペロ

 静流に叱られ、舌を出すブラム。

「コイツ、ホントに伝説の黒竜……なのか?」
「静流が言うんだから、そうなんだろうな……」

 達也たちが首を傾げていると、静流が声をかけた。 

「ほら、エレベーターに乗るよ? ニ階に誰かいるみたいだ。挨拶して行こう」




              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 2階 娯楽室――

 薫子たちが2階に上がり、娯楽室を覗くと、予想通りリナがいた。

「リナ、やっぱりココにいた」
「おう忍! 静坊たちも来たのか?」
「来てる。アナタの後輩チャンも一緒」
「後輩って……蘭子か?」
「そうよ。あの子、今日大活躍だったんだから、褒めてあげなさいよ?」
「……知ってるよ。動画見てたし」

 リリィとカチュア、サラは応接室に行ってみた。

「やぁ皆の衆! 休日をエンジョイしてるかい?」
「見ての通り、ティータイムよ。リリィ」

 ニヤついた顔で入って来たリリィに、平静を装って対応するアマンダ。

「むぅ?……アンタたち、何か企んでない?」
「げっ!? ね、姉さん……」
「ドドド、ドクター如月……」

 カチュアの目がルリとみのりを捉えた。

「あら? 変ねぇ……アナタたち、今日初めて会ったって気がしないのよね?」
「気のせいですよ、気のせい」
「そうですよ。お疲れなのでは?」

 ルリたちはブンブンと手を振り、必死に否定した。

「ま、イイわ。明日の診療所、アナタとドクター宗方が担当よね? よろしく頼むわよ?」
「おお、お任せください!」
「丸薬は十分用意してあるし、せいぜい貧血くらいでしょうから、問題無いわよ」
「あの薬、ドクターが調合されたのですか? スゴい効果でした!」

 みのりは目を輝かせて、カチュアに聞いた。 
 
「そう。増血とメンタルケアがメインで、あとは気持ちスタミナ回復する程度……って、飲んだの? アレ」
「へ? あ、あわわわ……」

 みのりの顔がみるみる青くなっていく。
 カチュアはみのりの耳元で、トドメのひと言を吐いた。

「静流クンを侮ると、イタい目に遭うわよ? 覚悟する事ね?」コソ
「は、はわわわ……」

 みのりのただならぬ変貌ぶりに、レヴィたちは困惑した。

「どうしたのよ、みのり?」
「なな、何でもない、よ?」

 萌が心配そうにたずねるも、大丈夫アピールを始めるみのり。
 ルリたちをいじっているカチュアに、サラが気まずそうに声をかけた。

「先生、もう帰らないと……」
「……ふう。やーめた。 早く帰って、ジン様との想い出を肴に一杯やろっと」

 サラのひと言で、簡単に引き下がったカチュア。
 それを聞いたルリたちは、胸を撫で下ろしていた。

「ルリ? まさか、アノ人にバレたの?」
「バレたかどうかはわかりませんが、疑っているのは間違いないです」

 アマンダは、ルリたちの慌て具合で、大方の察しがついたようだ。

「くぅ……よりによって姉さんにバレるとは……不覚だわ」

 応接室を出たカチュアとサラがエレベーターの前に立つと、丁度静流たちと鉢合わせた。

「静流クン! 丁度良かった♪」
「あ、二人共、もう帰るんですか?」
「もう少し時間を潰してもイイんだけど、ジン様ロスでお酒でも飲まなきゃやってられないのよ!」
「そ、そうですか。それは大変ですね……」

 静流の気の無い返事にカチュアは少しイラつき、静流の顎をくいっと持ち上げ、顔を近づけた。

「静流クン、本物のジン様に、早く合わせて頂戴ね?」
「ぜ、善処します……」
「あと、年末の件、忘れてないでしょうね?」
「も、勿論、忘れてませんよ?」
「よかった♪ またね、静流クン♡」

 静流から確約をもらったカチュアは、満足したのか満面の笑みでエレベーターに乗った。
 サラが名残惜しそうに静流に言った。

「静流様、今日はありがとうございました!」ペコリ
「こちらこそ。ヨーコたちによろしく」
「はい! では、失礼しますっ」

 カチュアたちはエレベーターで1階ロビーに下り、【ゲート】で学園に帰って行った。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ミフネ・エンタープライゼス

 膜張メッセから【ゲート】を使って学校に戻り、タクシーでミフネに戻って来た鳴海。
 
「只今戻りました!」 
「お疲れ様です! ショウコ先輩!」

 事務所に戻って来た鳴海を、後輩の荒井由真が迎えた。

「生配信見ましたよ? ミサミサのMCっぷりは評判イイみたいです!」
「そう。由真、明日お願いね?」
「任せて下さい! フンッ」

 そう言って鳴海は自分のデスクに座り、書類を作り始めた。
 奥の応接室から、シレーヌが出て来た。

「代表! お疲れ様です!」
「おつかれ。ウチの子たちは無事に帰ったの?」
「ええ。もうご自宅に着いていますね」

 シレーヌは報告に満足したのか、きびすを返し、応接室に戻ろうとした。
 鳴海は手元の携帯端末を出し、うっとりと眺め始めた。

「ふぅ……素敵♡」

 鳴海の表情が気になったシレーヌは、心ここに在らずの鳴海にそーっと近付き、背後から携帯端末の待ち受けを見た。

「ん? こ、これは……!?」

 鳴海の端末の待ち受け画面は、ジンと鳴海が『あすなろ抱き』の状態で見つめ合っているものだった。

「ななな、何なの、この状況は!? ちょっと鳴海!? アンタ、いつジンと会ったの?」

 隣でキイキイ騒いでいるシレーヌを無視している鳴海。

「それで? ジンは? 朔也は何処なの!? 何とか言いなさい!!」
「あの方は……もう行ってしまわれた。時空の彼方へ……」

 シレーヌは鳴海をブンブンと揺さぶった。

「鳴海! しっかりしなさい!」
「だ、代表!? どうかされましたか?」

 ふと我に返ると、必死に追及するシレーヌがいた。

「どうかしてるのはアナタでしょう? それよりこの写真、どうやって撮ったの?」

 やっと状況を把握した鳴海は、頬を赤く染め、俯きながらシレーヌに言った。

「それは……内緒です。ムフ」
「何よそれ! きぃ~っ!!」
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