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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-51

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ワタルの塔 2階 娯楽室――

 カチュアとサラに挨拶したあと、静流たちは娯楽室を覗いた。
 ソファーに座っていたのは、薫子・忍・リナだった。

「あ! リナ姉!」 
「おう静坊! お疲れ」

 リナは静流たちに、労いの言葉をかけた。

「お前たち、よくやったな! 中継動画、見てたぞ!」
「見てくれたんだ。何かうれしいな」

 静流は嬉しそうに蘭子に言った。

「よかったねお蘭さん、リナ姉があの試合、見てくれてたって」
「あ、ああ……」

 蘭子はリナの前だからか、緊張して固くなっていた。
 するとリナは立ち上がり、蘭子の頭に手を置いた。

「よく頑張ったな蘭子、お前たち、イカしてたぜ?」
「アネキ……うぅ……」

 リナが蘭子の髪をくしゃっと撫でると、蘭子はリナに抱き付き、泣き出した。

「おいおい、泣くこたぁねぇだろ? 静坊、何とかしろ!」 
「嬉しいんだよ。リナ姉に認められたのが」

 リナはソファーに座り、落ち着くまで蘭子を撫でてやった。

「アネキ……どこに行ってたんスか? 探したんスよ?」
「ちょっと、遠い所にな。 アタイたちはな、つい最近静坊に助けてもらったんだ」
「お静が?」
「ああ。コイツには足向けて寝られねぇくらいだぜ」

 リナは、ところどころフェイクを入れて蘭子に経緯を説明した。
 
「……で、今に至るってワケよ。どうだ? 結構波乱万丈だろ?」
「そんな事があったんスか。大変でしたね……」

 二人が語り合っている所をぼんやり眺めていると、リリィがニヤついた顔で静流に言った。

「静流クン、応接室に何やら怪しい連中がいるんだけど、覗いてみる?」 
「え? 誰だろう? 行ってみるか?」

 リリィに手を引かれ、静流は達也たちを連れて応接室に行った。

「お疲れーっス!」 
「リ、リリィ!? って事は……」
「どうも、皆さんお揃いで……」

「静流クン!?」
「「「静流様ぁ~!?」」」

 リリィの登場に加え、静流まで顔を出されたアマンダたちのテンパり方は、真琴たちから見て、かなり挙動不審だった。

「ひょっとして、密談……でしたか?」
「へ? イヤイヤ、そんなんじゃないわよ? それよりコミマケ一日目、お疲れ様」

 何かに怯えてるような顔で、アマンダが別の話題を振ってきた。

「いやぁ、大変でしたよ? あともう一日あると思うと、ちょっと凹みますね……」
「そんなに大変だったの? 詳しく聞かせて?」
「聞いてくれます?」

 アマンダに乗っかるように、ルリや佳乃たちも引きつった顔で聞いてきた。

「どんな事があったんです? 興味深々なのですぅ」
「静流様、是非聞かせて欲しいのであります!」

 静流、達也、真琴、シズムは応接室に通され、お菓子や飲み物をふるまわれた。

「じゃあ、手短に話しますね……」



              ◆ ◆ ◆ ◆



桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――

 ホワイトボードを使って、メルクとカナメに説明する睦美。

「……という条件を与えれば、魔力量に合った分身を作り出せるのでは? と思ったのだが、どうだろう?」
〈ふむ。あらかじめ行動パターンを数個用意するのじゃな? それであれば確かに魔力の節約になるのう〉

 ノートPCの画面にいるメルクが、大きく頷いた。

「つまり、ロープレで言う所の『NPC』を作る要領やな?」
「そう言う事。今日のイベでとったアンケートとオーダーシートを参考にして、パターンを絞り込む」バサッ

 睦美がアンケート用紙とオーダーシートをカナメの前に積んだ。 

「うひゃあ……こりゃ徹夜になるんと違うか?」
「つべこべ言わないで、始めるぞ!」
「へいへい……ふぅ」

 カナメは溜息をついた。
 睦美たちの夜は、まだ明けそうになかった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 2階 応接室――

 静流は、今日一日のエピソードをダイジェストで語った。

「……で、メルクとロディに教わって【複製レプリカ】と【融合フュージョン】を取得したんです」
「そんな高等魔法を? ま、今更驚く事は無いか……」

 静流の話を聞いて、アマンダはそれほど驚かなかった。

「そんな魔法をぶっつけでやらかしたのだと、魔力の消耗が激しかったでしょう?」 
「何でもお見通しなんですね? そうなんです! それで、レプリカの精度が高過ぎた為に、魔力切れを起こしそうになって……」
「だと思ったわ……」
(カ、カワイイ……)

 アマンダの的確な指摘に、静流は目を輝かせた。
 そんな静流を愛おしく感じていたアマンダだが、表情をこわばらせて言った。

「相変わらず無茶するのね? 気を付けなさいよ?」
「はい。まだまだ不完全で、メルクには日々精進しろときつく言われましたが……」
「アナタの場合、イメージ力を高める事が大事なの。常に意識する事よ? わかった?」
「はい! ありがとうございます!」ニパァ

「きゃっふぅぅぅん♡」

 静流はアマンダに悩みを打ち明けたからか、憑き物が取れたように微笑んだ。
 何とか堪えていたアマンダだったが、ついに感情が決壊した。

「あ! そういえば、レプリカたちの記憶に、皆さんの知り合いらしき人たちがいた、みたいなんです」


「「「「え、ええ~!?」」」」


 静流がふと思い出したのは、レプリカたちの記憶だった。

「知り合い? はて、誰でしょうね?」

 レヴィの問いに、静流は頬を指で掻きながら天井の方を見て呟いた。

「ええと……鎧の構造に詳しい人と――」
「ギクッ」

「……『で、ありますっ!』って口調の人と――」
「ギクッ」

「僕が太刀川で講義した事を知ってる人と」
「ギクッ」

「春画に詳しい人?とか――」
「ギクッ」

「あ、朔也さんの事知ってる人もいましたね」
「ギクゥ」

 静流の言動に、いちいち反応するレヴィたちを、達也たちはいぶかしげに見ていた。

「おい仁科、この軍人さんたち、大丈夫か?」
「そう言う人たちだから、あまりツッコまないであげて……」

「ほ、他に、誰か思い出しました?」ハァハァ

 萌が興奮気味に静流に聞いた。

「うんと……あとは思い出せないです」
「ガクゥ」

 萌は何故か落胆していた。

「その連中の顔の特徴は? 思い出せる?」

 アマンダが恐る恐る聞いた。

「それが、思い出せないんです。何か、ボカシが入ってるみたいで……」


「「「「ふ、ふぅぅぅ……」」」」


 静流がそう言うと、アマンダたちから大きなため息が漏れた。
 ひとしきりしゃべって楽になった静流は、ふと我に返った。 

「おっと、すっかり話し込んじゃった。そろそろ帰ろっか?」
「そうね。蘭ちゃんの方はリナさんとお話出来たのかしら?」

 娯楽室を覗くと、蘭子はリナの膝枕で寝ていた。

「ありゃ、寝ちゃったか……」
「おい、蘭子、起きろ!」
「むにゃ、アネキ……? はっ! す、すいません!」

 リナに揺り起こされ、蘭子が飛び起きた。

「蘭子、明日の個人戦、アタイも見に行くぜ!」
「ほ、本当ッスか?」
「ああ。イイよな?」
「が、頑張ります!」

 そして静流たちは塔を後にした。
 ブラムが静流たちを見送った。 

「じゃあ、お先に失礼しますっ」
「静流サマ、また明日ねー♡」

 エレベーターの扉が閉まり、1階に下りて行ったのを確認する一同。

「「「「ぷっはぁ~」」」」

 アマンダたちは、大きなため息をつき、安堵の表情を浮かべた。

「流石は諜報部の変装セット。 バレてなかったみたいッスね?」 



              ◆ ◆ ◆ ◆



五十嵐家 静流の部屋――

 塔の1階から【ゲート】を使って、静流の部屋のクローゼットから出て来た一行。

「ふう。只今」
「久しぶりだなぁ、静流の部屋」
「こ、ここがお静の部屋?」

 蘭子がキョロキョロと静流の部屋を凝視している。

「うん? そこか?」バサッ

 真琴が何かを感じ、ベッドの掛布団をめくった。

「う、ううん……何? 朝?」

 ベッドで寝ていたのは、美千留だった。
 美千留のいきなりの登場に、蘭子は面食らった。

「い、妹ちゃん!?」
「美千留! なんで僕のベッドで寝てるんだ!?」
「……漫画読んでたら寝てた。 げっ!? ツッチーと、スケ番!?」
「スケ番、じゃねぇよ……」
「よぉミッチー、相変わらずのブラコンぶりだな?」
「うるさい! ほっといて」

 美千留は逆ギレ気味に自分の部屋に戻って行った。
 入れ違いに灰色の影が静流に飛びついた。

「ロディ! こら、止めなさい!」
「ペロペロペロ……」

 ロディは静流に飛び付くと、顔を舐め回した。

「これが灰色の豹、ロディなのか?」
「そうそう。この子がロディだよ。 ロディ、お蘭さんに挨拶して」
「初めまして。蘭子様」

 ロディはそう言って頭を下げた。

「しゃべれるのか? それにしても渋い声だな……」

 蘭子は恐る恐るロディを撫でた。

「うほぉ、この手ざわり、クセになりそうだな」

 蘭子に大人しく撫でられているロディに、達也が聞いた。

「そういやぁお前、『キス魔』なんだってな?」
「肯定。我が主が外から帰って来られたら、花粉や細菌類の除去をするのは当然の行為です」
「あ、成程。 そう言う事か!」

 達也は腑に落ちたのか、手をポンとついた。

「だってよお蘭、 納得したか?」
「わ、わぁったよ。お前、従順なしもべなんだな?」
「お褒めに預かり、光栄です」

 蘭子に撫でられ、ロディは目を細めた。

 ひとしきりロディを撫でまわした蘭子は、清々しい表情になっていた。

「明日の個人戦、僕も見に行くから、頑張ってね」
「ああ。アネキも見に来るんだ。全力で臨むぜ!」

 そのあとそれぞれが五十嵐家をあとにした。 
 
「じゃあね静流、お休み」
「お疲れ真琴」

 最後に真琴が自宅に戻った事で、やっと解放された静流。

「お疲れ様でした、静流様」
「ロディもお疲れ様」

 そう言って静流たちは、家の中に入って行った。
 こうして、コミマケ一日目が終わった。
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