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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード53-2

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腐中駅付近 『ダイトーステーション』――

 美千留の機嫌回復を目論んだミッションの為、蘭子は静流たちを腐中のクレーンゲーム専用ゲーセンに連れて来た。
 蘭子が右手を上げると、その先から誰かがやはり右手を上げてこちらに近づいてきた。

「いよぉ! 蘭の字! 久しぶりだなぁ?」
「ヤス! あまりツラ出せねぇで済まねぇ」
「イイって事よ♪ で、 何かあったのか? ココに来るのは久しぶりだぜ」
「おめぇの力が借りてぇ。 みんなに紹介する。コッチ来な」
 
 蘭子が知らない女子を伴い、静流たちの前に来た。
 グレーのブレザーを着た女生徒で、背は小さめ、ネイビーブルーの髪は途中からウェーブがかかった『ソバージュ』と呼ばれるヘアスタイルだった。

「おいみんな! 紹介するぜ。 コイツはな――」
 
 蘭子の言葉を遮り、女子は自己紹介を始めた。

「おう。国尼のダチだな? あちきはコイツの無二の親友、 須奈川魔導高校2年の兵藤ヤス子。 蘭の字とは小学校まで一緒だった。 よろしくな!」
「ああ! この前お蘭さんに聞きました。 リナ姉の後輩さんですね?」ニパァ
 
 静流はポンと手を叩き、満面の笑顔を向ける。

「お前、リナのアネキ、知ってんのか?」
「あ、お静はな、 色々あってアネキに可愛がられてんだ」

 いぶかしげな顔で静流を見たヤス子に、蘭子はフォローを入れた。

「待てよ? おめぇ、お静って言ったか?」
「お蘭さんにそう呼ばれてます。 ちょっと恥ずかしいんですけどね……」

 ますますいぶかしがるヤス子に、後頭部を搔きながら照れ笑いする静流。
 するとヤス子の顔がみるみる変わっていく。

「お静……お静ぅ!?」
「ど、どうかしました?」

 ヤス子の顔を心配そうに覗いている静流に、ヤス子が震える声で言った。

「よく見るとその桃色の髪、無意識に発せられる【魅了】の放出を防ぐ防護眼鏡……間違いない」ブツブツ
「ヤス! しっかりしろ! そうだ! コイツがおめぇの探してた――」
 
 蘭子の言葉に被せ、ヤス子が歓喜の笑みを浮かべ、興奮気味に言った。
 
「愛しのピンキーボーイ、 五十嵐静流さま、 来たぁー!!」

 そういってヤス子は、両手を上げて万歳をした。

「うぇえ!? どうして僕の名前を?」
「お静、 済まねぇ……やっぱ会わせるのは間違いだった……」

 ずっと万歳しているヤス子に、蘭子は頭を抱えて呟いた。

「ついに、この日が来た。 ありがとう蘭の字。 やっぱおめぇはあちきの親友だ!」
「コイツはな、 ソッチのマンガに目がねぇんだ」
「ああ。 そういう事か。 納得」
「実在するって噂が出回ってから、今までなんとか上手くかわして来たんだが……」
「マンガの影響ってスゴいんだなって、この間身にしみてわかったよ……」

 蘭子から理由を聞いた静流は、すこし寂しげにそう言った。
 その後はみんなの自己紹介を簡単に済ませた。 

「それでお蘭、 その親友が今回のミッションに関係あるのか?」

 場が落ち着いた所で、達也が蘭子に聞いた。

「大ありよ。 コイツ、 ヤスはな、 クレーンゲームに関しちゃあちょっとしたもんで――」

 また蘭子の説明を遮り、ドヤ顔でポーズをとった。

「『クレゲーのヤス』と呼んでくだせぇ。 あちきに取れねぇモンはねぇ!」バーン


「「「お、 おぉ~!」」」パチパチ


 ポーズを固定してリアクション待ちのヤス子に、空気を読んだ四人が拍手した。 

「あちきを召喚したって事は、 何か欲しいモンあるのか?」
「そうなんだ。 出来ればおめぇに――」

 ヤス子に聞かれ、本題に入ろうとする蘭子を、静流が止めた。

「お蘭さん、ターゲットは出来れば僕がゲットしたい。 って言うか僕が取らなきゃダメだと思うんだ」

 静流は右手を握りしめ、蘭子に言った。

「お静? マジなのか?」
「よしとけよ静流。 大人しく先生に取ってもらおうぜ?」
「そうそう。早くゲットして、他のゲームで遊ぼうよ♪」

 静流の発言に、一同は否定的だった。トドメは真琴がさした。

「静流? 大体、お金あるの? 出費は最小限にしないと」
 
 一同が注目する中、静流が動き出した。

「……ある。 こんな事もあるかと思って……」ゴソゴソ

 静流は後頭部を探り出した。

「待ってよ、ええと……あった! これだ!!」グイ

 静流は後頭部から唐草模様の小さいがま口財布を出し、一同に見せた。

「おい! そんなトコに財布隠すな!」
「何よそのちっちゃい財布は?」
「五十嵐クンのセンス、やっぱ凡人にはわからないな……」

 ギャラリーの感想は聞き流し、静流が財布の中を見せた。

「5万円ある! これで勝負する!」ドーン

 静流が水戸黄門の格さんのように財布の中を見せてポーズをとっていると、周りからの視線がきつくなった。

「きゃあ、 何あの子、 カワイイ~」ざわ…
「どこの高校? 国尼かなぁ?」ざわ…
「あれ? 見られてる? おかしいな……」

 視線が集中して来るのを感じ、静流は慌てて金を財布にしまった。 

「静流!? 腕輪着けてるからって油断しない! あんまり目立つ行動をとらないで!」
「ごめん。 でも、 僕は本気だよ?」
「腕輪? 『アマゾン』みてぇなノリか?」
「実はな、 ヤス……」

 蘭子は今回のミッションをかいつまんでヤス子に説明した。

「……ってワケなんだ。 おい、ヤス?」

 説明を聞いたヤス子に異変を感じた蘭子。

「くぅぅ、 泣かせる話じゃねぇか! 妹ちゃんグッジョブ!」
「え? アイツには振り回されっぱなしなんだけど?」
「イイからイイから。 これぞ兄妹愛ってヤツ?」

 勝手に盛り上がり始めたヤス子。
 蘭子が静流に言った。

「あと、カネの心配は要らないぜ。 『アレ』がタンマリあるの、思い出したんだ」
「何だよ、『アレ』ってよ?」

 達也が蘭子に聞くと、蘭子はドヤ顔で言い放った。

「ダイトーの店舗で使ってるコインだ。 ざっと10万枚はあるはずだ!」バァン

「「「じ、10万枚!?」」」

 一同が驚いたのは勿論、周りの客も驚いて振り返った。

「そうか! コインをクレーン用メダルに替えるんだな?」

 達也は納得したのか、何度も頷いた。

「そうよ。 何割か増しになるが、 所詮あぶく銭だからな。 遠慮するこたぁねぇ」ビシッ!
 
 蘭子はそう言って白い歯を見せ、親指を立てた。

「へぇ。 頼もしいわね蘭ちゃん。 見直したわ」
「10万枚って、何回クレーンゲーム出来るんだろ?」
「お見逸れいたしやした! お蘭の姐御!」
「よせって。 困った時はお互い様だろ?」

 真琴に続き、朋子と達也が蘭子を褒めちぎった。 
 
「お蘭さん、 本当に、イイの?」

 真琴たちに持ち上げられ、照れまくっている蘭子に、静流が申し訳なさそうに聞いた。

「イ、イイって事よ。 コレでお静とスイッチで遊ぶ事が、 妹ちゃんに許されるんならな!」

 蘭子が白い歯を見せて、ノリノリでポーズを決めた。

「おい欄の字、そいつぁ聞き捨てなんねぇな?」
「イイじゃねぇかよ。 紹介してやったろうが」
「納得いかねぇ。 あちきだってお静ちゃんと遊びてぇよ」
「やりたきゃ、 おめぇもスイッチ買うんだな」
「あんな高けぇゲーム機、そう簡単に買えねぇよ!」

 一同は二人が漫才コンビのようにわちゃわちゃやっているのを暫く見ていた。
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