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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード53-11

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五十嵐家 静流の部屋――

 学校で『恫喝の森』について睦美といくつか打合せを行ったあと、静流は真琴、シズムと共に自宅に戻った。
 部屋に入ると、静流のベッドに寝そべり、モニター越しにコントローラーをいじっている美千留がいた、

「あ、 しず兄お帰りぃ~」
「お帰りぃ~、 じゃないだろ? 何で人の部屋で当たり前のようにゲームしてるの?」

 イラつきながらそう言った静流に、美千留は悪びれた様子もなく、モニターに向かっている。

「イイじゃんそんなの。 もうちょっとで設定終わるから」
「設定って『あつ森』の?」
「そう。 学校から帰って来て直ぐ初めて、 今に至る」

 それを聞いた静流は、呆れながら美千留に言った。

「もっとやる事あるんじゃないの? 勉強とか?」
「むぅ。 しず兄に言われたくない」

 静流の物言いに、真琴が反応した。

「ちょっと静流? アンタ知らないの?」
「何だよ?」
「美千留ちゃん、学年で常に10位以内キープだよ?」
「なにぃ? マジか?」

 静流は驚いて美千留を二度見した。

「マジよ。 しかも実力はもっと上だと思う。 目立ちたくないから適当に手を抜いてるんでしょ? ね? 美千留ちゃん?」
「マコちゃん買い被りすぎ。 そんなワケないでしょ?」

 表情一つ変えずに、黙々とモニターに向かっている美千留。

「やればデキる子ってやつか……たいしたもんだな?」
「今頃わかったか? もっと褒めやがれ!」

 美千留の顔に、若干赤みがさした。

「よし、 終わった。 みんな、コントローラー持って!」

 言われるがままに、床に座った一同がコントローラーを持った。

「P1がシズムで、P2が私。 P3がマコちゃんで、 P4がしず兄」
「ドベかよ! わかってたけど何か悔しいなぁ……」

 美千留がソフトを起動させた。


   『あつまれ! 恫喝の森』


 OP画面が出てSTARTをクリックする。

「順番にエントリーして!」
「ほぉーい♪」

 美千留に指示されるままに次々とエントリーしていく。
 最初にエントリーしたのはシズムだった。

「結構イケメンだね♪ 美千留ちゃんがセットしてくれたの?」
「最終的な細かい所は自分でやってね? ゲームが始まると、髪の色くらいしか変えられなくなるから」
「全然オッケー。 このままで充分だよ♪」

 美千留のキャラ設定は、完璧と言ってイイ程手を加える必要は無かった。

「私のキャラはこの、どんな時も冷静沈着で、組の為なら容赦なく全てを捨てれるヤツ!」
「短時間でここまで……スゴい作り込みだね?」
「まぁね。 で、マコちゃんはこのキャラだよ♪」

 美千留は真琴のキャラを表示させた。

「うわぁ。 チャラ過ぎ。 ちょっと盛り過ぎじゃない?」
「マコちゃんは色物担当なの♪」
「何じゃそりゃあ……」

 今一つ納得していない真琴を置き去りに、美千留は先を進める。

「次、しず兄!」
「オッケー。 これでイイんだな? ん?」

 エントリーした直後、静流が硬直した。

「ちょっと待て美千留! ゲームの方向性から登場人物が男ばっかなのはわかる」
「わかってるなら文句無いでしょ?」
「ある! 大あり! 何で僕が女キャラなんだ!?」

 静流のキャラは、長い髪を後ろにまとめている、黒を基調にした和服を着た『美人女将風キャラ』だった。
 
「イイでしょ? これぞ『姐御』ってヤツ? 賭場でツボ振りやってもらいたいね♪」
「お前なぁ……昔のヤクザ映画じゃないんだから」

 我関せずの美千留に静流が食って掛かった所で、シズムが何か思い出したようでポンと手を叩いた。

「あ! そうだ! このゲーム、 リアルと逆の性別でエントリーするのが流行ってるんだって♪」
「何ぃ!? そうなの?」

 シズムのフォローもあり、勝ち誇った美千留がドヤ顔で言い放った。

「わかったでしょ? だったら文句言わない!」
「わかったよ……あ! そうか、 わかったぞ真琴!」
「何が? あ、 蘭ちゃんか……」

 学校で蘭子が静流の事を『嫁』呼ばわりしていた事を、今になって理解した二人。
 
「キャラの微調整は? 無いんだったらもう締め切るよ!」
「そのままでイイ。 ケチ付けるとあとでアイツにネチネチ言われそうだから……」

 美千留主導で進行している時点で、静流は殆どの所を諦めていた。
 そんな静流はさておき、美千留はグイグイと先を進める。

「名前、どうしよっか? 配信があるって事は、リアルバレも警戒しないと……シズムはそのままだとして、組織名とかも考えないとね」

 美千留は机にあった紙切れの裏に、何やら書き始めた。

「うーん、『〇〇組』って言い方だとストレート過ぎるよね?『○○会』? 『〇〇一家』かな?」

 ウキウキしながら紙切れに候補を書いていく美千留。

「楽しそうだね、 美千留ちゃん♪」
「この無邪気な感じに騙されるんだろうなぁ……」
「普段無表情か怒ってる顔しか見ないもんなぁ……」

 目まぐるしく変わる美千留の表情に、癒される三人だった。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 各自案を出し合い、やっとこさ組織名等が決まった。

「よし! 決まった! じゃあ、 これで行くからね!」

 美千留がドヤ顔で画面を指さした。


   組 織 名 バーミリオン商会

   会  長 井川シズム イガワ シズム
 
   若  頭 冴島 満 サエジマ ミツル 

   本 部 長 八神 誠 ヤガミ マコト

   組長付き 鬼龍院 静乃 キリュウイン シズノ


 画面を見た静流が、眉間にしわを寄せながら美千留に言った。

「美千留、『組長付き』って何?」 
「秘書兼愛人。 要はパシリって事」
「うぇ。 何だよソレ?」

 それを聞いた静流の顔がさらに歪んだ。

「せめて、『スゴ腕女ヒットマン』とかが良かったかな……」
「そんなのつまんない。 レディースの総長ならあるけど?」
「いや、イイ。 それはそれで困る」

 予想を大幅に下回る自分の扱いに、静流が呟いた。 

「他の組に、 移っちゃおっかなぁ……?」

 そのつぶやきに、即座に反応する美千留。

「他の組に乗り換えるならどうぞ。 小指の第一関節で許してあげる」
「怖い事言うなよ? 愛人なら金銭トレードが妥当だろうに?」
「臓器売買よりは増しでしょ? あり難く思え!」
「物騒な兄妹だこと……」

 危険なワードが飛び交い、傍から見ていると実にカオスであった。
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