拙さと、儚さと、喧しさと。～『桃髪家の一族』と呼ばれる家系で、知らない間に『薄っぺらい本』の主役級キャラにされている僕～

第９章 冬の……アナタ、どなた？

エピソード53-15

国分尼寺魔導高等学校　２－Ｂ教室　翌朝――

　シズムの動画がＵＰされた翌日、教室はちょっとした騒ぎになっていた。

「シズムン！　動画見たよ♪」
「『あつ森』始めたんだね？　イイなぁ」

　登校して早々、いろんな生徒に声をかけまくられるシズム。
　再生数が良かった為、こうなる事は想定内だったが、驚く事もあった。

「でもさぁ、　やっぱ『シズノ姐さん』よね？」
「わかる！　カワイイよね？　何と言うか、『ギャップ萌え』？　なのかなぁ？」
「うんうん。　あの凛々しいルックスであのリアクションでしょ？　たまんないわぁ♡」

　シズムに楽しそうにそう話している女生徒たちを見て、静流たちはただ驚いていた。

「おい静流、　ウケてるみたいじゃねぇか？　あの動画」
「そうらしいね。　どこがツボだったのかは僕にもわからないけど」
「今朝、　美千留ちゃんがドヤ顔で自慢してたのはソレか……」
「『バズる』って言うの？　鳴海マネもアイツの事褒めちぎってたし……」

　シズムの場合、ファンを増やす目的がある為、事務所公式のチャンネルを使用している。
　再生数やチャンネル登録者が増えれば、事務所としては願ったりかなったりなのだ。

　達也たちが話していると、横から蘭子が割り込んできた。

「おいお静！　ちょっと相談があんだけどよ？」
「お蘭さん？　何？　相談って？」

　首を傾げている静流たちに、蘭子が真剣な顔で言った。

「『ソロ充』からメールが来た。　『あつ森』の件で、『フェミ通』のコラボ動画のオファーだと！」
「「な、何だって！？　『フェミ通』が？」

　『ソロ充』とは、先日のコミマケで行った『ポケクリバトル』の個人戦において、蘭子の対戦相手だった女性である。
　彼女は有名ゲーム雑誌の『フェミコン通信』でライターをやっていて、蘭子とはその後、何回かメールのやり取りをしていたらしい。

「ソロ充さんから、まさかオファーが来るなんて……」
「アイツ、アタイたちの顔知ってんだろ？　動画見てピーンと来たって……」
「どんなソフトが売れてるか、常にサーチしてるんだもんね。　スゴいや」

　静流はソロ充の迅速かつ柔軟な対応に感心した。

「桃魔のシマにも興味があるらしいぜ？　どうするよ？」
「そうなの？　ウチ以外じゃキャラの作り込みは他とは段違いだもんね」

　素子が作ったキャラは、美千留が作ったキャラに近い水準の出来だったようだ。
　それを聞いた達也が、急にはしゃぎ出した。

「本当か！？　って事は、　俺もついに『Ｙチューバー』の仲間入りか！？」
「何でそうなる？　あんなヤツ只のモブだろう？」
「今はな。　その内有名Ｙチューバーをメロメロにして、　シマをかっさらう事も出来るだろ？」
「考えが浅いって言うかセコいって言うか……」
「素子先輩にもっと露出を増やしてもらって、フェロモンまき散らすか！」

　周りの冷ややかな視線を無視し、ひとりエスカレートしている達也。

「楽しそうだね、達也？」
「おう！　今後の展開がたのしみだ、　ぐべぇ！」

　朋子の渾身のエルボーで、それまではしゃいでいた達也が沈黙した。
　
「待て待て達也、　やるかどうかは睦美先輩たちに相談してからだろ？」
「そりゃそうだけどよぉ……」

　勝手に話を進める達也をいさめる静流。

「それに、　シズムの動画はオフィシャルな面があるから、詳細は事務所と相談しないとな……」



　　　　　　　　　　　　　　◆　◆　◆　◆



桃魔術研究会　第二部室　睦美のオフィス兼カナメのラボ　放課後――

　放課後、静流たちは睦美のオフィスに足を運んだ。

「お疲れ様です」
「おう来たか、　アレの相談やろ？」

　カナメは静流たちを見るなり、話題を振った。

「お察しの通りです。　何か事が大きくなって来たみたいで……」

　静流は睦美たちが掴んでいる情報とのすり合わせを行うべく、ここまでの経緯を説明した。

「『フェミ通』とのコラボか。　悪くないな」
「ああ。　名前を売って置けばソフト部門を売り出す際の有効な手段にもなるし、　ここは受けるが吉、　だろうな」
「そう言えば『桃魔』のチャンネルもあったろう？　シズルカ様関連の動画を扱ってたヤツ」
「アレは最近更新をサボってる。　今回はシズム嬢に乗っかった方がイイだろう」

　おおむね睦美たちは今回のオファーに前向きだった。

「我々としては蹴る理由は無いし、　むしろこちらからお願いしたい位だな」
「では、　この話、　進めても？」
「構わん。　可能な限り先方の要望に合わせると伝えてくれ」

　それを聞いた静流が、ほっと胸を撫で下ろした。

「そう言ってもらえると助かります」
「お礼を言うのはコッチだ。　ビッグチャンスをありがとう！」



　　　　　　　　　　　　　　◆　◆　◆　◆



桃魔術研究会　第二部室　睦美のオフィス兼カナメのラボ　数日後――

　数日後の放課後、静流たちは睦美のオフィスに足を運んだ。

「お疲れ様です。　ご報告に来ました……」

　少しトーンの低い静流に、睦美は眉をひそめた。

「どうした静流キュン、　元気無いな」　
「何や静流キュン、トラブルか？」

　興味を持ったのか、カナメが身を乗り出した。

「実は、　事がさらに大きくなりそうで……」

　静流はゆっくりと話し出した。　

「あのあと、シズムの事務所から出版社にオファーする事になりまして……」
「フムフム。　それで？」
「その際に出版社の人が『あつ森』の制作陣とコンタクトを取ったらしいんです……」
「例の『ソロ充』か？　余計な事を……」

　ローテンション気味の静流を見て、睦美は奥歯を噛んだ。

「そんで？　訴えるとか言って来たんか？」

　何やら楽しそうなカナメが、目を輝かせながら静流に聞いた。

「あ、　いえ、　ソッチの方向じゃないんです、　むしろ賞賛された、　と言いますか……」

　風向きが変わって来た静流の言い方に、睦美は不思議そうに聞いた。

「それが、　何か問題でも？」
「問題と言えばそうなんですけど、『あつ森』の制作陣のなかで、　新たなゲーム制作の構想が挙がっていまして……」

　静流はそこで言葉を切り、そして言った。

「先輩はご存じないですか？『オロチが如く』ってシリーズのゲーム……」

「ヤクザが魔法ぶっ放すやつか？　昔あったなぁ……」

　カナメが天井を見ながら、そのゲームタイトルを思い出していた。
　すると横から素子が、やけに興奮しながら話に割り込んで来た。

「核戦争後の地球を舞台に、　秀悦なシナリオのメインストーリー、　壮大なマッピングで起こる無数のサブストーリー！　やり込み要素満載です！」ハァハァ
「『イカコーラ』集めるの、　結構大変だったなぁ」
「自警団に入らなくてもパワードスーツを着れる裏技がありましたね♪」

　ゲームタイトルを聞いただけできゃいきゃい話し出す二人をよそに、睦美が話し始めた。

「結構ヒットしたゲームだからな。　私でも知っているよ」
「その制作に携わった人達が、　あの動画を観て何か思い付いたらしいんです」
「簡単に言うと、『あつ森』のオープンワールド化、　らしいです」

　それを聞いた素子が、急に静流たちの話に割り込んで来た。

「ふむ。　つまり『あつ森』のマップをマルチサーバー化して、ユーザーが任意の場所に『シマ』を形成し領土を拡張する、　とか？」
「はぁ。　恐らくそんな感じだと思います」

　通常の『あつ森』は、決して広くはない一つの都市の中で事務所を発展させ、ユーザーはフレンドのいる都市に飛行機で行き来する仕様だ。
　しかし、素子が言った方法だと、壮大なマップをサーバーで管理し、ユーザーが自由に拠点を作り、いつでもフレンドを呼ぶ事が可能となる。

「ほぉ。　そりゃあまた大きな風呂敷を広げたもんやなぁ」
「ずっと前から構想はあったみたいなんです。　それで……」

　静流はまた言葉を切り、一拍置いて睦美たちに言った。

「今回のコラボ動画で、　試してみようって事になった、　らしいです」
「成程な。　要は世間の反応を見てスポンサーを探す魂胆やな？」
「だろうね。　それだけの大プロジェクトだと、　経営陣を納得させる材料が要るだろうから」

　それほど驚いていない睦美たちに、静流が聞いた。

「それでも受けます？　このコラボ？」

　それに対し、睦美はニヤリと笑い、自信たっぷりに言った。

「上等だ！　やってやろうじゃないか！」