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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード54-1

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国分尼寺魔導高等学校 2-B教室 放課後――

 『あつ森』の件から数日が経った帰りのHR。

「はーい。 今日の授業はこれでお終い。 寄り道しないで気を付けて帰るんですよぉ♪」

「「「はぁーい」」」

 ムムちゃん先生がそう言い、帰りのHRが終わった。
 すると直後に、静流に念話が入った。 

〔こちらホワイトルーク、 静流キュン、 応答せよ〕
〔睦美先輩? 何です? 念話なんて〕
〔実はな、放課後に時間を作ってもらいたいのだが? 可能かい?〕
〔ああ、『あつ森』の件ですか? じゃあみんなに知らせますね〕
〔待て、待つんだ静流キュン!〕
〔え? どうしたんです?〕
〔実は『あつ森』の件ではない。 『お姉様案件』で動きがあった。 だから、 キミ一人で来てくれないか?〕
〔えっ!? わかりました〕
〔くれぐれも一人で頼むよ? では〕ブチ

(『お姉様案件』って事は、『元老院』絡みか?)

 念話が終わったが、睦美の意図している事が今一つ理解していない静流。

「……静流!? 何ボーッとしてるの?」
「あ、ああ。 帰りにちょっと図書室寄ってくから、先に帰っててくれよ」
「何? 調べもの? 手伝おっか?」
「大丈夫。 ちょっと気になる事があって、図書室で木ノ実先生に聞きたいことがあるだけ」
「何よ? 気になるじゃない!」
「極めてデリケートな問題なんだ。 詮索しないで欲しいな」

 静流の態度が気に入らない真琴は、数秒間口をつぐんだ後、観念したようだ。

「そう……わかったわよ」
「そうか! わかってくれたか! よしよし、 イイ子イイ子♪」

 静流はニコニコしながら、真琴の頭を撫でてやった。

「何よもぅ……子供扱いしないで!」

 真琴は照れたのか、膨らませた頬に赤みがさした。
 真琴の説得に成功した静流は、すかさずシズムに念話した。

〔ロディ、 理由は後で説明するから真琴を確実に家に送るんだ。 イイな?〕
〔御意〕

「じゃあシズムと先に帰っててくれ。 お先に!」シュタッ
「ちょ、ちょっと静流!? んもぅ……」

 そう言って静流は、そそくさと教室を後にした。
 それを見ていた達也は、不思議そうに真琴に聞いた。

「珍しいな? 単独行動なんてよ?」
「知らない! 行こ、 シズムちゃん」
「はぁーい♪ じゃあねツッチー♪」
「ほーい、 お疲れ」

 そう言って真琴は、不機嫌そうに教室を後にした。 



              ◆ ◆ ◆ ◆


バス停付近――

 シズムと校門を出た真琴。
 バス停まで歩いている時も、真琴は不機嫌だった。
 
「何さ! 静流の奴めぇ~!」ドゴッ

 真琴が足元に転がっていた石ころを思いっきり蹴り飛ばすと、石ころは激突した壁に小さな穴をうがった。
 あまりの真琴の剣幕に、たまりかねたシズムがフォローを始めた。

「だ、 大丈夫だよマコちゃん。 やましい事は無いと思うから」
「そんなのわかってる! 問題はそこじゃないの!」
「じゃあ、 何なの?」

 シズムは首を傾げながら真琴に聞いた。 

「私には隠し事、 しないで欲しいだけ!」
「静流クンを信じてあげようよ、 マコちゃん」
「ふぅ……もうイイよ」

 思いのたけを吐き出したからか、穏やかな顔に戻った。

「毒吐いて悪かったわね。 もう大丈夫だから……」

 そう言って真琴は、バス停に向かって歩き始めた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――

 静流はノックしたあと、睦美のオフィスに入った。

 コンコン「どうぞ」
「失礼します」

 部屋に入ると、いつものように睦美が『あのポーズ』で静流を迎えた。

「やぁ静流キュン。 約束通り一人で来てくれたんだね?」
「真琴をまくのに少し手こずりましたが、 何とか」

 睦美はいつものように接しているつもりらしいが、少し様子が変だった。

「コホン。 急に呼び出して済まなかったね?」
「いえ。 あれ? カナメ先輩や素子先輩は?」 

 いつもならいるはずの二人がいない。

「奴らは帰ったよ。 『あつ森』の攻略を自分の家でやるみたいだ」
「成程。『フェミ通』とのコラボに備えてレベル上げですか?」
「シズム嬢との動画も撮り溜めしておくみたいだ。 妹君は相変わらずかい?」
「ええ。 どっぷりハマってます……」

 先日UPした動画がウケた事に味を占めた美千留は、学校から帰って来るなりスイッチをやりに部屋に籠る習慣が付いていた。

「素ちゃんが言うに、あのゲームには中毒性があるらしいぞ?」
「僕にはよくわからないです。 アレのどこがイイんだか……」
「コッチからしたらタナボタの企画なんだから、 せいぜい利用させてもらうさ」

 『あつ森』の制作陣とのコラボであれば、それなりの見返りが期待出来ると踏んでいる睦美たちであった。

「さ、 さぁ~て、 我々も出ようか?」

 そう言っておもむろに立ち上がる睦美。
 静流は驚いて睦美に聞いた。

「え? 話があるんじゃないんですか?」
「話の内容がアレなのでココじゃマズい。 非常にセンシティブでサステナビリティが重要でプライオリティが高い案件なのだよ静流キュン!」

 睦美は手をパタパタさせながら言い訳を始めた。 
 グイグイくる睦美に、静流は首を傾げた。

「横文字が多くて、意味がさっぱりわかりません……」
「うぅむ……平たく言うとだな……場所を変えようって事だよ」

 引き気味な静流を見て少し冷静さを取り戻した睦美。

「会わせたい人もいるのでな。 お姉さまたちの件で、 きっと力になってくれるはずだ」
「僕に、 会わせたい人ですか?」
「ま、 まぁそう構えるな。 安心したまえ、 筋金入りの変態だが人畜無害だ!」

 いぶかし気な顔の静流に、睦美はテンパりながら説得を試みる。

「何だかわからないですけど、 薫子お姉様たちの件だったら、 断る理由は無いですね……」
「では、 来てくれるんだね? ありがとう! 助かるよ♪」

 今までテンパっていた睦美が、静流から良い返事をもらった瞬間、いつもの睦美に戻った。

(やったわ。 ついにやった! ルンルンルーン♪)

 上機嫌の睦美は、ロッカーからコートを出し、羽織った。
 そんな睦美を見ながら、静流は肝心な事を聞いた。

「それで、 ドコに行くんです? 睦美先輩?」

 静流がそう聞くと、睦美は若干頬を赤らめて言った。

「静流キュン、 今から来て欲しいんだ……ウチに」
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