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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード54-2
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国分尼寺魔導高等学校 校門付近――
成り行きで睦美の自宅に行く事となった静流。
下校している生徒がまだ結構いる中、二人は校門を出た。
「特に引っ掛かりもなく出られたな。 腕輪の効果か?」
睦美はあっさりと校門を出られた事に、物足りなさを感じていた。
「ホントに助かってます。 前と比べたら雲泥の差ですね」
「沖田の【結界】と相乗効果が得られているんだろう」
最近まで静流にとって自宅から学校までの通学路は、常に不特定多数の生温い視線に晒されている状態であった。
沖田や真琴が張った【結界】をもってしても、完全に静流を護る事には限界があった。
「腕輪の効果サマサマですよ♪ サチウス様! ありがとう!」
そう言って静流は手を組み、空を見上げた。
睦美は我が子を見る親のような目で静流を見ていた。
「礼ならオカ研のイタ子に言うがイイ。 ヤツが調達してくれたんだ」
「そうなんですか? じゃあ今度改めてお礼するか……」
大通りを出て歩道橋が見えたが、それとは逆の方に睦美は歩いて行った。
「あれ? 渡らないんですか? おかしいな……」
「ふむ? ウチはコッチだぞ?」
静流は記憶をさかのぼり、違和感を覚えた。
「春に先輩を助けたの、 あの歩道橋でしたよね?」
「うむ? 確かにそうだな……あの時何か用事でもあったのだろうか?」
「先輩が気分が悪そうにしてて、あそこから転落しそうになってたんですよね?」
「そこで静流キュンに助けられ、【ヒール】と【キュア】をかけてくれたんだったな……」
二人は当時の状況を思い出し、思わず吹き出した。
「フフッ、 今思い出すとかなり恥ずかしい出会いだったんだな?」
「あの時結構焦ったんですよ? メガネだってかけてなかったし……」
睦美はさらに続けた。
「まるでラブコメの序章にあるイベントみたいだったな?」
「ラブコメ、 ですか?」
「よくあるだろ? 少女が食パンをくわえて疾走していると曲がり角で少年とぶつかる、 みたいな?」
「ああ。 そのパターンですね? 確かに似てない事も無いか。 フフフ」
それから今まで、色々な事があったのを二人で振り返った。
思い返してみると、内容の濃い8カ月であった。
◆ ◆ ◆ ◆
柳生家――
「ほら、そこが私の家だ」
睦美が指差した方にあるのは、二階建ての一軒家だった。
学校から徒歩で15分と言った所だろうか。自転車で通うか迷う距離である。
「うわぁ。 純和風で年季が入ってますね? ちょっとした重要文化財レベルじゃないですか?」
「上手い事言うね。 築300年は経ってるだろうから、あながち間違いでは無いな」
「あ、 違いますからね? 古いと言ってもボロ屋って方じゃなくて……」
静流が急にバタバタし出したのを、面白そうに見ている睦美。
「フフ。 わかっているよ。 ココはな、 かつては武家屋敷だったみたいで色んな仕掛けがあるんだぞ?」
「えっ!? 仕掛けですか? ホントに忍者屋敷みたいですね?」
「私の先祖は、 将軍家の御庭番だったらしい」
「あ! 柳生って名字、 まさか……」
「そう。 その『まさか』だな」
睦美はあっさりと肯定した。
それを聞いた静流は、途端に目が輝き出した。
「さらっとスゴい事言いますね? でも楽しみだなぁ♪」
「ちょっと待ってくれ」
玄関の引き戸に手を掛け、睦美はガラガラと左に開けた。
「だだ今戻りました!」
睦美が先に玄関に入ると、奥からパタパタと足音が聞こえた。
「おかえりムーちゃん♡」
「その呼び方は止めろ! 気色悪い!」
「おや? そのモードになっているって事は、どなたかお客さんかい?」
「白々しい。 アンタが呼べと言ったんだろうがぁ!」
ちょっとしたやり取りの後、睦美は玄関から顔を出し、静流に『おいでおいで』をやった。
「ささ。 遠慮せずに入りたまえ」
「お、 お邪魔します」
玄関に入ると、睦美と同じ赤い髪の初老の男性が、メガネを光らせながら静流に言った。
「おお! キミが五十嵐静流クンだね? ムーちゃんのパパ、 柳生広海でーっす♡」
「ど、どうも……」
突然現れた睦美の父親を前に、引き気味の静流。
「いつもムーちゃんから聞いてるよ♪ 静流キュン♡」
「う、 うるさい! 余計な事をぬかすな!」ギロ
挨拶が済んだ所で、静流は居間に通された。
純和風の外観とは違い、中はフローリングに四人用のテーブルセットが置かれた部屋だった。
「外の感じから、 てっきり畳の部屋だと思いました」
部屋の感想を静流が言うと、広海は興味深そうに聞いた。
「ほぉ? 静流クンは和風をご所望かな? ではご希望にお応えして。 失礼」シュバッ
広海はおもむろに天井に下がった紐を掴み、飛び付いた。
すると広海の自重で、天井と床が瞬時に入れ替わった。
その間、静流や睦美は宙に浮いている状態だった。
「うわっ!? どうなってるの? これ?」
「大丈夫だ。 直ぐに収まる」
あっという間に畳の床で長机と座椅子が置かれた、純和風の居間に変わった。
「キミはコッチの方が良かったか。 いやぁ失敬! 予想が外れたね♪」
「あ、いえ。 お構いなく……」
目の前の状況に驚き、固まっている静流。
見かねた睦美が広海を一喝する。
「くぉら親父! ガキじゃないんだから、全く……」
「たまに来た客なんだ。 少しくらい楽しませてくれよ」
座椅子に座った静流に、睦美が声をかけた。
「静流キュン、 今お茶を淹れて来るから、大人しく待ってるんだ」
「わ、 わかりました……」
「親父? 私が戻って来るまで、 静流キュンにちょっかい出すなよ?」ギロ
「おおコワ。 やけにトゲトゲしいなぁ 第三次反抗期かい?」
「放って置け!」
睦美はドスドスと大股で居間を出て行った。
睦美がいなくなったのを見計らって、広海が静流に話しかけた。
「よく来てくれたね。 五十嵐静流クン 会いたかったよ」
「僕に、 ですか?」
「そう。 キミだよキミ!」
そう言ってニコニコしている広海に、今度は静流が話しかけた。
「さっき睦美先輩から聞いたんですけど、柳生ってあの小説とか映画になった『柳生一族の野望』で有名な家系なんですか?」
「ああ、アレ? アレはエンタメ用に盛りに盛ったフィクションだよ」
広海は『オーマイガー』のポーズを取った。
「確かにウチの家系は将軍家の御庭番だったよ。 でも実際は地味な活動でね。 暗殺とかは一部の『武闘派』と呼ばれる連中だったと聞く」
「だとすると、やっぱりご先祖様は忍者だったりするんです?」
静流は目を輝かせて広海に聞いた。
「まぁね。 でも地味だよ? 『影の軍団』って言われたくらいだから」
「忍者ですから、地味じゃないとダメなんじゃないですか?」
「ま、 そうなんだけどね」
緊張したのは最初だけで、広海は案外話しやすかった。
「実はね、 何年か前にキミの御父上と一緒に仕事をした事があるんだ」
「え? 父さんと仕事? ですか?」
話の展開があまりにも急だった為、静流は目を見開いた。
成り行きで睦美の自宅に行く事となった静流。
下校している生徒がまだ結構いる中、二人は校門を出た。
「特に引っ掛かりもなく出られたな。 腕輪の効果か?」
睦美はあっさりと校門を出られた事に、物足りなさを感じていた。
「ホントに助かってます。 前と比べたら雲泥の差ですね」
「沖田の【結界】と相乗効果が得られているんだろう」
最近まで静流にとって自宅から学校までの通学路は、常に不特定多数の生温い視線に晒されている状態であった。
沖田や真琴が張った【結界】をもってしても、完全に静流を護る事には限界があった。
「腕輪の効果サマサマですよ♪ サチウス様! ありがとう!」
そう言って静流は手を組み、空を見上げた。
睦美は我が子を見る親のような目で静流を見ていた。
「礼ならオカ研のイタ子に言うがイイ。 ヤツが調達してくれたんだ」
「そうなんですか? じゃあ今度改めてお礼するか……」
大通りを出て歩道橋が見えたが、それとは逆の方に睦美は歩いて行った。
「あれ? 渡らないんですか? おかしいな……」
「ふむ? ウチはコッチだぞ?」
静流は記憶をさかのぼり、違和感を覚えた。
「春に先輩を助けたの、 あの歩道橋でしたよね?」
「うむ? 確かにそうだな……あの時何か用事でもあったのだろうか?」
「先輩が気分が悪そうにしてて、あそこから転落しそうになってたんですよね?」
「そこで静流キュンに助けられ、【ヒール】と【キュア】をかけてくれたんだったな……」
二人は当時の状況を思い出し、思わず吹き出した。
「フフッ、 今思い出すとかなり恥ずかしい出会いだったんだな?」
「あの時結構焦ったんですよ? メガネだってかけてなかったし……」
睦美はさらに続けた。
「まるでラブコメの序章にあるイベントみたいだったな?」
「ラブコメ、 ですか?」
「よくあるだろ? 少女が食パンをくわえて疾走していると曲がり角で少年とぶつかる、 みたいな?」
「ああ。 そのパターンですね? 確かに似てない事も無いか。 フフフ」
それから今まで、色々な事があったのを二人で振り返った。
思い返してみると、内容の濃い8カ月であった。
◆ ◆ ◆ ◆
柳生家――
「ほら、そこが私の家だ」
睦美が指差した方にあるのは、二階建ての一軒家だった。
学校から徒歩で15分と言った所だろうか。自転車で通うか迷う距離である。
「うわぁ。 純和風で年季が入ってますね? ちょっとした重要文化財レベルじゃないですか?」
「上手い事言うね。 築300年は経ってるだろうから、あながち間違いでは無いな」
「あ、 違いますからね? 古いと言ってもボロ屋って方じゃなくて……」
静流が急にバタバタし出したのを、面白そうに見ている睦美。
「フフ。 わかっているよ。 ココはな、 かつては武家屋敷だったみたいで色んな仕掛けがあるんだぞ?」
「えっ!? 仕掛けですか? ホントに忍者屋敷みたいですね?」
「私の先祖は、 将軍家の御庭番だったらしい」
「あ! 柳生って名字、 まさか……」
「そう。 その『まさか』だな」
睦美はあっさりと肯定した。
それを聞いた静流は、途端に目が輝き出した。
「さらっとスゴい事言いますね? でも楽しみだなぁ♪」
「ちょっと待ってくれ」
玄関の引き戸に手を掛け、睦美はガラガラと左に開けた。
「だだ今戻りました!」
睦美が先に玄関に入ると、奥からパタパタと足音が聞こえた。
「おかえりムーちゃん♡」
「その呼び方は止めろ! 気色悪い!」
「おや? そのモードになっているって事は、どなたかお客さんかい?」
「白々しい。 アンタが呼べと言ったんだろうがぁ!」
ちょっとしたやり取りの後、睦美は玄関から顔を出し、静流に『おいでおいで』をやった。
「ささ。 遠慮せずに入りたまえ」
「お、 お邪魔します」
玄関に入ると、睦美と同じ赤い髪の初老の男性が、メガネを光らせながら静流に言った。
「おお! キミが五十嵐静流クンだね? ムーちゃんのパパ、 柳生広海でーっす♡」
「ど、どうも……」
突然現れた睦美の父親を前に、引き気味の静流。
「いつもムーちゃんから聞いてるよ♪ 静流キュン♡」
「う、 うるさい! 余計な事をぬかすな!」ギロ
挨拶が済んだ所で、静流は居間に通された。
純和風の外観とは違い、中はフローリングに四人用のテーブルセットが置かれた部屋だった。
「外の感じから、 てっきり畳の部屋だと思いました」
部屋の感想を静流が言うと、広海は興味深そうに聞いた。
「ほぉ? 静流クンは和風をご所望かな? ではご希望にお応えして。 失礼」シュバッ
広海はおもむろに天井に下がった紐を掴み、飛び付いた。
すると広海の自重で、天井と床が瞬時に入れ替わった。
その間、静流や睦美は宙に浮いている状態だった。
「うわっ!? どうなってるの? これ?」
「大丈夫だ。 直ぐに収まる」
あっという間に畳の床で長机と座椅子が置かれた、純和風の居間に変わった。
「キミはコッチの方が良かったか。 いやぁ失敬! 予想が外れたね♪」
「あ、いえ。 お構いなく……」
目の前の状況に驚き、固まっている静流。
見かねた睦美が広海を一喝する。
「くぉら親父! ガキじゃないんだから、全く……」
「たまに来た客なんだ。 少しくらい楽しませてくれよ」
座椅子に座った静流に、睦美が声をかけた。
「静流キュン、 今お茶を淹れて来るから、大人しく待ってるんだ」
「わ、 わかりました……」
「親父? 私が戻って来るまで、 静流キュンにちょっかい出すなよ?」ギロ
「おおコワ。 やけにトゲトゲしいなぁ 第三次反抗期かい?」
「放って置け!」
睦美はドスドスと大股で居間を出て行った。
睦美がいなくなったのを見計らって、広海が静流に話しかけた。
「よく来てくれたね。 五十嵐静流クン 会いたかったよ」
「僕に、 ですか?」
「そう。 キミだよキミ!」
そう言ってニコニコしている広海に、今度は静流が話しかけた。
「さっき睦美先輩から聞いたんですけど、柳生ってあの小説とか映画になった『柳生一族の野望』で有名な家系なんですか?」
「ああ、アレ? アレはエンタメ用に盛りに盛ったフィクションだよ」
広海は『オーマイガー』のポーズを取った。
「確かにウチの家系は将軍家の御庭番だったよ。 でも実際は地味な活動でね。 暗殺とかは一部の『武闘派』と呼ばれる連中だったと聞く」
「だとすると、やっぱりご先祖様は忍者だったりするんです?」
静流は目を輝かせて広海に聞いた。
「まぁね。 でも地味だよ? 『影の軍団』って言われたくらいだから」
「忍者ですから、地味じゃないとダメなんじゃないですか?」
「ま、 そうなんだけどね」
緊張したのは最初だけで、広海は案外話しやすかった。
「実はね、 何年か前にキミの御父上と一緒に仕事をした事があるんだ」
「え? 父さんと仕事? ですか?」
話の展開があまりにも急だった為、静流は目を見開いた。
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