上 下
419 / 516
第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード54-4

しおりを挟む
柳生家 居間――

 睦美の家にて、睦美の父である柳生広海が自ら立てた仮説を語り始めた。
 睦美は広海の発言に違和感を覚えた。

「ゲソリック総本山の狙いが、『女神シズルカ』の誕生だって?」
「左様。 ここでひとつ、ゲソリック教会の概要を説明しておこう」

 説明の内容は、『すべての主』を守護する88柱の女神たちについてであった。

「教典では88柱の女神が『主』を守護しているとあるが、他の神話体系も含め、確認出来ている女神の数は約50柱であり、他の女神は存在すら確認出来ていない」
「それと『シズルカ』が関係しているのか? 親父?」
「大いにある。 シズルカは誕生して間もない女神だ」

 広海の発言に、静流は今一つ納得していなかった。

「ちょっとすいません、 そもそも『シズルカ』は、 僕がモデルをやって、 花形先輩が造形して名前を付けた造形物です。 つまりフィクション、 でっち上げなんですよ?」

 広海が真面目な顔で言うので、静流は半笑いで言い返した。

「キミはその後、 シズルカに扮し何度か『奇跡』を起こしたと聞くが?」
「うっ、 確かにあの姿で魔法を使うと、不思議な現象が何度も起こりましたけど……」

 広海にそう言われ、返す言葉が見つからない静流。
 静流が姉妹校である聖アスモニア修道魔導学園に短期留学した際、シズルカ像の設置を行った。
 その余興で静流がシズルカに扮し、『癒し』を目的とした回復系の魔法を放った所、数々の問題を解決し、これを『施術』として学園で管理する事となった経緯がある。

「シズルカに扮している時に『奇跡』が起こる。 それは間接的に女神の力を使っている事を示唆しているのだ」
「つまり、 女神シズルカは実在する女神だという事か?」
「ああ。 間違いなく存在しているな」
「しかし、どう言うプロセスを踏めばそんな事になるんだ? 神様は全てお見通しって事か?」

 睦美が広海に聞くと、少し間をおいて広海が語り出した。

「そうだな、これは私個人の見解なのだが……」

 広海は自論を展開し始めた。

「女神の中に『名も無き女神』がいたとしよう。 それらは女神であるにも関わらず、『主』の守護を怠り、何もしない日々を送っていた」
「つまり、『まつろわぬ神』と言う事か……」
「偶然かどうかは置いておくが、 名も無き女神はキミの容姿に興味を持ち、 自らをその容姿に変えた」
「何とも気まぐれな女神様だな……」
「そして名前が決まった瞬間、 女神としての『自我』が目覚めたのだろう」
「ふむ。 その瞬間が女神シズルカの誕生と言う事か……」

 広海はさらに続けた。

「誕生したばかりのシズルカは、女神としての経験値や能力を身に付ける為、異次元で研鑽を積んだ」 
「つまり、女神としての『徳』を積んでたわけだ」
「左様。周りの者が誕生後直ぐにシズルカを崇め始めたのは、そのフィードバックがあったからだ」
「像の製作に携わった僕ら以外の人が、まるで昔からシズルカを知っている様な態度だったのは、それのせいか……」

 広海の話を聞き、概ね合点がいった静流。

「シズルカの誕生に少なからず僕が関わっているのはわかりました。 それで、モモ伯母さんたちの件とはどう繋がるんでしょう?」
「そうだ親父! それがお姉様たちを遠ざけた理由だと言うのか?」

 二人の問いに、広海は大きく頷いたあと、その問いに答えた。

「五十嵐一族とゲソリック教会との間には、遥か昔より因縁めいた繋がりがあったと推測される」
「それは、『黄昏の君』である五十嵐ワタルが関係しているんだな?」
「そうだ。 しかし詳細については異常なまでに残ってはいない。 そっくり抜け落ちたようにな」
「フム。 歴史から抹消されているのか? 隠ぺいかも知れないな……」

 睦美は顎に手をやり、低く唸った。

「恐らく長きに渡り、五十嵐一族はゲソリック教会の監理下に置かれていると思われる」
「常に監視されているって事ですか? なんか気持ち悪いな……」
「実害は無いから安心したまえ。 むしろ、 護っていると言っても過言ではないだろう」

 広海は話を続けた。

「ここからは全くの推測だ」
「イイから続けろ」

 睦美は父親に話の続きを促した。

「教会は未来予知のアーティファクトを所有している。 精度はあまり良くはないようだが」
「成程、 読めたぞ親父!」

 睦美は得意げに話し始めた。

「教会のアーティファクトで近い将来に新たな女神の誕生が予知された。 それが五十嵐家周辺で起こると教会は睨んだ」
「ご明察」

 睦美の推測が当たっていたようだ。

「当時五十嵐家は静クンの家族と庵クンの家族があった。 教会は双方が悪影響を及ぼし障害となる事を危惧し、家族同士の接触を避けるよう仕向けた」
「それで? どうやって引き離したんだ? 親父?」

 睦美と静流は、いつの間にか身を乗り出していた。

「恐らく、そこで『元老院』を利用し、 エルフの里を動かしたのだろうな」
「成程。 エルフは年功序列が色濃い種族だし、 元老院は『純血』を重んじる機関と言う事らしいからな」
「『里』の掟には逆らえない。 結局庵クンの家族は『島流し』にあったのだろう」

 今までの話を聞いていた静流は、広海を尊敬のまなざしで見ていた。

「スゴいです! すべてが繋がりましたよ睦美先輩!」パァァ
「うむ。 見直したぞ親父! 只の変態じゃなかった! 神学博士は伊達じゃなかったんだな?」
「変態だと!? ムーちゃん、 父は悲しいぞ……」

 広海を全力で褒めているつもりの二人に、広海は待ったをかけた。

「喜ぶのは早いぞ? これは全て私の推測に過ぎないのだからな?」
「なぁに。 これから裏付けすればイイ。 な? 静流キュン?」
「そうですよ! 全力で協力しますから!」

 今まで謎だった事柄に一筋の突破口を見出した静流たちは、大いに浮かれまくった。
 すると睦美が、ふとある事に気付いた。

「ん? そうか……その手があった!」
「え? 何を思いついたんです? 睦美先輩?」

 睦美は正座し、父親の方に向き直った。

「親父殿の思惑が読めたぞ?」
「ほぉ。 言ってみなさい」

 静流は柳生親子を目を輝かせながら交互に見ていた。

「静流キュンの絵をカードに、 お姉様たちの解放を総本山と交渉するつもりなのだろう? 親父殿?」
「うむ。 確かに交渉の材料には使えるだろうな。 半分正解だ」
「おいおい、 あの絵以上の要求を示してくるのか? 欲深い連中だな……」
「そりゃそうだ。 相手は総本山だからな」

 二人の話を聞いていた静流が、二人に質問した。

「それで僕は今後、 どうすればイイのですか?」
「大丈夫だ。 キミは堂々としていればイイ」

 そう言って広海は、静流の肩をポンと叩いて言った。

「年明け早々に行われる『国宝審査会』の会合に、総本山の使者が来る事になっている。 先ずは探りを入れて見よう」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,733pt お気に入り:1,162

薬の錬金術師。公爵令嬢は二度目の国外追放で最愛を見つける。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:489pt お気に入り:1,903

ホロボロイド

SF / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:0

ある工作員の些細な失敗

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:1,249pt お気に入り:0

宇宙は巨大な幽霊屋敷、修理屋ヒーロー家業も楽じゃない

SF / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:65

さよならイクサ

現代文学 / 完結 24h.ポイント:695pt お気に入り:0

処理中です...