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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード54-10

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柳生家 居間――

 静流の解毒及び回復魔法により正気に戻った睦美。
 霊体となった母親、良美と無事に再開を果たすが、睦美は不機嫌だった。

〔ムーちゃん? いい加減機嫌直してよぉ〕
「母様は黙ってて下さい!」

 睦美は自分がのけ者になっていた事が気に入らなかったようだ。

「親父殿、 何でもっと早く言ってくれなかった?」
「実はな、 この現象が実際に起こっている事がわかったのは、 ごく最近なのだよ……」

 睦美に詰め寄られ、頼りない返事を返す広海。

「どう言う事だ? 詳しく説明してくれ!」
「あの酒を飲むと、 酔いと共によっちゃんが出てくる。 私は夢の中でよっちゃんに会ってると思ってた」
「無理もないですよ。 こんなケースは極まれでしょうし……」

 静流が広海のフォローに入った。

「お酒を醸造するのに手間と時間がかかるって、良美さんが言ってましたから、そう頻繁には会えないんです」
「母様と話したのか? 静流キュン?」
「ええ。 お二人が寝てしまっている間に」

 静流は良美から聞いた事を、途中良美のフォローをはさみながら睦美に説明した。
 
「……そうか。 事情はわかった」

 静流の丁寧な説明で、睦美はようやく怒りの矛を収めた。
 落ち着いた睦美は、横にいる良美に聞いた。

「母様、【精霊化】した後は、どの様に過ごしていたのですか?」
〔何もしてないわよ。 漂ってただけ〕
「それは退屈だったでしょう? 見ているだけなのですから」
〔そうでもなかったよ。 ムーちゃんの成長をリアルタイムで観察出来たからね♪〕
「な、何ですって?」

 母親を不憫に思っていた睦美だったが、良美の一言に困惑した。

〔ムーちゃんが女の子の事ばっかり考えてる時は、 将来どーなっちゃうんだろ? とか思ってたケド、最近は静流キュンの事ばっかり考えてて、お母さん安心したのよぉ♪〕
「そうそう! 私もそこは気になってたんだ! やっとまともな『乙女脳』になってくれたってね」

 睦美の両親は、ニヤつきながらそう言った。
 睦美は深い溜息をつき、静流に真顔で言った。 

「はぁー、 心配して損した。 静流キュン、親たちの今の発言、無視してイイからな?」 
「あれぇ? ちょっと酔ったかなぁ? 何も聞こえなかったです……」

 そうこうしていると、ロディから念話が入った。

〔静流様、 今よろしいでしょうか?〕
〔どうした? ロディ〕  
〔美千留様がご立腹です。 そろそろ帰還されたし〕
〔わかったよ。 もう帰るから〕
〔お願いします。 では〕ブチ

 念話が終わると、静流は溜息をついた。

「念話かい? 静流キュン」
「ええ。 何か美千留が騒いでるみたいです。 しょうがない奴ですよね……」
「イイじゃないか。 それだけ愛されてるって事だよ」
 
 静流は睦美たちに向き直って言った。

「ウチの者がうるさいんで、 そろそろお暇します」
「えぇ? もう帰っちゃうのかい?」
「お風呂に夕飯までご馳走になって、 今日はありがとうございました」ペコリ

 そう言って頭を下げた静流に、睦美は恐る恐る聞いた。 

「どうだった? いきなり家に呼んでしまって、迷惑だったかな?」
「とんでもないです。 僕にとって有意義な時間でした。 とっても楽しかったです」パァァ
「そう言ってもらえると、 ここ数日の苦労が報われるよ」

 静流が満足してくれた事に、安堵の表情を浮かべた睦美。

「え? そんな前から準備していたんですか?」
「へ? あ、いやいや。 今のは気にしないでくれたまえ」

 うっかりこぼした言葉を、必死に誤魔化す睦美。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 帰り支度を済ませた静流に、名残惜しそうに広海が言った。

「本当に帰ってしまうんだね? キミとはもっと語り合いたいのだが……そうだ! 部屋も余っているし、いっその事ココに住むかい?」
「え? えぇ~!?」

 一方的にグイグイくる広海に、静流は引き気味だった。

「やめんか親父殿! 静流キュンが困っているだろう!」
「しかしなぁ、 男同士、 裸の付き合いが……ゴニョゴニョ」

 そんな親子の掛け合いを見て、微笑みながら静流は言った。

「また来ますよ。 あ、そうだ! 次回は見せて下さい。 睦美先輩のお部屋♪」
「あぅ? 私の……部屋だと?」

 静流の想定外の発言に、睦美は言葉に詰まった。

「きっと難しい本がズラーッと並んでて、部屋と言うより『書斎』って言ったほうがしっくりくる、 みたいな?」
「ん? ああ、 ま、 まぁな……」

 目をキラキラと輝かせながらそう言う静流に、睦美が発したのは曖昧な返答だった。

「折角だから、見せてあげればびゅぅ!?」

 広海が言い終わる前に、睦美の肘が広海のみぞおちに食い込んだ。

「散らかっているのでな、 次回にでも披露しよう」
「うわぁ、 楽しみです♪」

 玄関にて、改めて今日のお礼を言う静流。

「今日はご馳走様でした。 ではこれで失礼します」ペコリ
「何時でも来るがイイ。 キミなら歓迎だ! 睦美、途中まで送って差し上げて」
「わかっている! では行こうか?」
「はい!」

 玄関を出た二人は、大通りに向かって歩き始めた。

「いやぁ悪かったね。 特殊過ぎる両親で困惑したろう?」
「いえいえ。 ウチの連中も十分アブノーマルですから……」

 そう言った「静流は、何かを思い出し、軽く吹き出した。

「フフフ。 でも良美さんって結構お茶目ですよね? 僕に必死になってジェスチャーしてる所、 思い出しちゃいました」
「ドジキャラなのは父親から聞いていたが、まさかあれ程とはな……ハハハ」

 歩きながら睦美は、呟きに近い口調で自分の過去を語りだした。

「かつての私は『日和見主義者』だった……」
「形勢を読み、より有利な方に付く……」

 そこで睦美は言葉を切り、足を止めた。

「睦美先輩?」
「未来は予測不能であり、 幾重にも重なった偶然が未来を形成していくのだ! 私はな、 究極の『世渡り上手』を目指しているのだよ!」
「そ、それは壮大な目標ですね……」

 急に熱弁を振るい始めた睦美に圧倒される静流。 
 睦美は興奮気味に続けた。

「それには唯一、 欠かせない物がある。 それはキミだ! 静流キュン!」
「僕? ですか?」
「左様。 私の『世渡りライフ』に、キミは必須条件なのだ!」

 取り方によってはプロポーズとも取れる発言だったが、静流はその意味に気付かなかった。

「イイですね! その目標に近づく為に、 僕も及ばずながら尽力しますよ! フフフ」

 期待以上の返答に、睦美はポーズを決めて静流に言い放った。

「私を存分に利用するがイイ! 私もキミを存分に利用する!」

 少し歩いた先の大通りに着き、ここでお別れとなった。

「ではな。 遅くまでありがとう」
「それでは、 失礼します」

 右手を上げ、去っていく静流の背中を暫く見つめている睦美。
 上下ジャージにどてらを羽織った状態だった為、冷気に当たって身震いした。
 睦美は立ち尽くし、先ほどの自分の言動を思い出してふと我に返る。

(うわぁ、 とんでもなく恥ずかしい事言っちゃった……でも、静流キュンは引いてなかった)
(ん? 『尽力する』、 って事はつまり、全て『オッケー』って事!?)

 睦美は反射的に、右手を天に向かって高く上げた。

「うおっしゃぁぁぁ!! クシュン!」
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