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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-1

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国分尼寺魔導高等学校 校庭―― 14:50時

 終業式から二日後、クリストマス・イヴ前日となった。
 各地から訪れる忘年会参加者は、保養施設のあるククルス島に体内時計を合わせる為、睡眠カプセルによる調整を行う必要がある。
 大小さまざまな荷物を持った国尼チームが、校庭に集合していた。

「左京、 出席者の確認は終わったか?」
「はっ! 全員揃っております!」
「よし!」

 校庭に集合した面々は、

 ・五十嵐 静流
 ・柳生 睦美
 ・東雲 楓花
 ・立川 要
 ・黒瀬 ミサ
 ・白井 ミサ
 ・板倉 こずえ
 ・早乙女 素子
 ・仁科 真琴 
 ・井川 シズム
 ・土屋 達也
 ・伊藤 朋子
 ・篠崎 イチカ
 ・加賀谷 蘭子
 ・片山 左京

 ・日吉 ムム
 ・木ノ実 ネネ

 ・五十嵐 美千留
 ・上條 カナ子

 ・兵藤ヤス子

 以上の計20名であった。

 達也が静流に聞いた。

「うぅぅ……さぶぅ。 おい、 こんな時間に校庭で『おしくらまんじゅう』でもやるのか?」
「悪い達也。 今回はほとんどノータッチなんだ。 この先何があるのか、僕にもわかんないよ」

 静流は申し訳なさそうにそう言うと、真琴と美千留がドヤ顔で静流に言った。

「そういう事。 アンタたちは大人しく楽しんでいればイイのよ!」ビシッ!
「何だぁ? まるで今回の全貌を把握してるみたいな口調は?」

 達也の問いを完全に無視し、美千留が続けた。

「夏に行った時はゲスト扱いだったケド、 今回は軍人さんたちの思い通りにはさせないから!」ビシッ!

 すると、美千留の横にいたメロン色の髪の少女が、いきなり静流に突進して来た。

「静流……お兄様ぁぁぁぁ!!」ガバァ
「カ、カナ子ちゃん!?」
「ああっ! 感激ですっ! 美千留ちゃんにもらったこのチャンス、 120%活かしますね?」ハァハァ

 顔を真っ赤にして嬉しいのか悲しいのか分からない表情を浮かべるカナ子。
 
「出たな上条。 のっけからトップギアじゃ体がもたないぜ?」
「ツッチー先輩はすっこんでて下さい! これは私とお兄様の問題なんですからっ!」
「ち、ちょっとカナ子ちゃん!?」

 達也に横やりを入れられたカナ子は、静流の腕をぎゅっと抱き寄せ、頬を膨らませて怒った。
 そんなカナ子の肩をポンと叩く者がいた。

「まぁまぁカナ子はん、 ここはひとつ穏便に♪」
「篠崎、 先輩?」
「出たな! 隠れ幼馴染!」
「ミチルン! 相変わらずベリープリチーですこと♡」

 美千留に指さされ、ウインクで返すイチカ。

「シズルンは手ごわいぞぉ? 特攻ばっかしじゃ逆効果だよ♪」

 イチカに続いてもう一人、カナ子に忠告する者がいた。

「お静攻略ルートで妹キャラは希少だが、 それ以上に発展する事は至難の業だぞ?」
「何ですかその乙女ゲー視線は? ん? わかった風な事を言うアナタは……『ゲーセンあらし』のお蘭先輩!?」
「そ、 その二つ名で呼ぶんじゃねぇよ……」

 カナ子にそう呼ばれ、顔を赤くした蘭子。

「フフフ。 蘭ちゃんも丸くなったもんよね?」
「三中時代は思いっきりダークサイド側だったし」

「「人って変わるもんねぇ?」」
「お前らも黙ってろ!」

 真琴と朋子にイジられ、さらに顔が赤くなる蘭子。
 先輩と後輩が戯れているのを横目に、睦美は校舎の時計で時間を確認した。

「15:00時、 そろそろ頃合いか?」
「来るんやな? ホンマに『アノ機体』が?」
「ああ。 もう到着しているかもしれんぞ?」

 睦美がそう言った直後、校庭の上空が一部歪んだように見えた。

「お、おい……何だありゃ?」

 驚愕した達也がぼそっと呟いた。
 次の瞬間、真琴たちの目の前に、ドラゴン型MT『ラプロス』の壱号機が出現した。

「おわっ! びっくりした……何だ!? あのメカドラゴンは?」
「アレ、『国尼祭』の時に一度見たわね……」
「いつぞやの未確認飛行物体か?」

 達也の問いに、静流は少し自慢げに答えた。

「あれはね達也、 ドラゴン型モビルトルーパー、『ラプロス』の壱号機だよ」
「コレがMTなのか? MTって普通、 人型だろうが!?」
「ああ、この機体はね、ある遺跡で出土した残骸を復元したんだ」

 静流の説明を聞きながら、一同は呆気にとられていた。

「イイね……スゴくイイ! ナイスだ静流キュン!! ロスト・テクノロジー……これぞロマン!!」ビシッ

 そう言って飛び出したのはカナメだった。

「何か抱えている……あれは『APC』か?」

 ラプロス壱号機は、APCと呼ばれている、『装甲兵員輸送車』を後ろ脚で掴んでいた。
 空中で静止していた壱号機が地面すれすれにまで高度を下げ、APCを降ろし、その横に着陸した。

「ふぅむ……操作音が殆ど無い。 どんな構造しとるんや? まさか重力操作系か? むっほぉ~!」

 着陸した壱号機に抵抗なく近づき、色んな所を観察しているカナメ。
 壱号機の搭乗者がカナメに注意した。

『機首を下げる。 下がっていろ民間人!』
「おっと、これは失礼♪」

 クィィ……ン

 カナメが機体から離れるのを確認し、壱号機はわずかな操作音を出しながらコクピットがある頭部を下げ、搭乗時モードに変形した。
 変形が終わり、キャノピーが跳ね上がった。 パシュゥ
 コクピットから出てきたのは、予想通り竜崎ココナだった。
 ぴちっとしたパイロットスーツは、均整の取れたボディラインがくっきり出て実にセクシーだった。 

「待たせたな! 諸君!」

 ココナはコクピットから飛び降り、一同を見渡した。
 睦美がココナに近づいた。

「いえ。 約束の時間ジャストでしたよ?」
「うむ。 当然だ! 私は時間を守る事が出来る有能で物分かりのイイ社交性に富んだMTパイロット、 竜崎ココナだ!」バァン 
 
 ココナは早口でまくし立てたあと、ヲタ芸の『ロマンス』ようなポーズをとった。


「「「「お、おぉ…」」」」パチパチ


 数秒の沈黙の後、感嘆の声と拍手が起こった。

「何かよくわからねぇが、 熱意だけは伝わった。 それにコスプレイヤーっぽくて、 目の保養になるな……」
「半端に派手な登場だったな。 タハハ」 

 達也と静流が感想を述べた。
 静流の声に反応したココナは、瞬歩で静流の前に来た。

「これはこれは私の太陽! 久しいな静流殿!」
「ど、どうも。 前に会ってから、そんなに経ってないと思うんですけどね……」
「カタい事を言うでない! 私と静流殿の仲ではないか♡」

 そんなやりとりを眺めていたカナメに、話しかける者がいた。

〔おうカナメ、久しいな〕
「おお!? その声はメルクか?」
〔ワシはリア。 メルクとは同体じゃが、機体のOSは別じゃ〕
「と言う事は、機体は一台ではないのか?」
〔姉妹機の零号機がある。 今回は留守番じゃがな〕

 カナメとリアが談笑しているのを見て、静流はふと我に返った。

「睦美先輩! ラプロスが校庭に堂々と鎮座してますけど、 周囲に見られたら困るんじゃないですか?」

 心配そうな静流の問いにに対し、睦美は自信満々に答えた。

「万事問題ない。 そうだろ? 沖田!」

 睦美が何にもない空間に話しかけると、空間の一部がまるで壁紙が剥がれる様にめくれ、中から沖田エライザが現れた。

「結界を強化して人払いの効果を付加した。 周囲にはバレんよ」
「あ! 先生!」
「お、おぅ……元気そうで何よりだ。 静流殿」

 静流に呼ばれ、沖田は気まずそうに後頭部を搔いた。

「私も参加したいのは山々なのだが、この時期は家族と共に過ごすと一人暮らしの条件で決まっておってな……」
「そうだったんですね。 配慮が足りなかったな……」

 少し沈み気味の静流を見て、沖田は慌てふためいた。

「そ、そう落ち込むな! うん、そうだな、埋め合わせを期待しても良いか?」
「え? そりゃあもちろん。 可能な限りは――」

 静流の返答に被せる様に沖田がしゃべりだした。

「ではでは、私と行ってくれるか? 『ヨンリオ・ビュートランド』に!」
「それって、多魔川を越えた辺りにある『キチィちゃん』とかの?」

 『ヨンリオ・ビュートランド』は、東京都多魔市にある、キャラクター商品で有名な『ヨンリオ』が主催する室内テーマパークである。

「そうだ! ちなみに吾輩は『バイドククン』びいきなのだ!」ハァハァ

 そう言って目をキラキラと輝かせている沖田。

「そういえば確か、 美千留が年間パスポートをねだって、 母さんに却下されてたっけ……」

 そう言って静流が美千留をチラ見すると、視線に気付いた美千留はプイッとあさっての方向を向いた。
 静流は苦笑いで沖田に言った。

「わかりました。 じゃあ、 行きましょうか?」
「な、何ィ!?」

 それを聞いた美千留が、驚愕の顔で一瞬静流を見た。

「え? 本当か? 本当にイイのか!?」
「ええ。 ホントにホント。 先生にはいつもお世話になっていますから……」

「きゃわわーん♡」

 沖田は周囲の眼差しも気にせず、飛び上がって喜びを表現した。

「あっさり陥落!? しず兄の尻、軽過ぎ!」
「ほら。 お兄様は押しに弱いんです! うぅっ、 先を越されました……」
「イイなぁ総長。 それってデートじゃん……」
「奴の【結界術】には日頃世話になっている。 報酬としては申し分ないだろう」

 浮かれている沖田を指をくわえて見ているイチカたちに、睦美はそう言って自分も含めて半ば無理矢理納得させた。
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