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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-11

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保養施設内 リラクゼーションルーム

 マッサージ椅子が二列で50台ほど設置してある部屋には、今現在静流しかいなかった。
 静流はマッサージ椅子で昼寝の最中だった。
 静流が寝返りを打った際、手に何やら柔らかいものが触れた。

「あぁん……♡」

 何者かの気配を感じ、静流は目を覚ました。

「う、うう~ん……何だろ、 この感触……」むにゅう
「ああっ、 ジンジンきます……よろしければ下の方もお願いしますぅ……あふぅん♡」

 マッサージ椅子に静流の他に女性らしき者がいるようだ。
 女性はそう言って、静流の手を取り、自分の股間に導こうとしていた。

「えっ? あなたは……フジ子さん!?」
「お目覚めですか?……もう少しこうしていたかったのですが残念です。 むふぅ」

 完全に目が覚めた静流は、現在の状況を整理した。
 マッサージ椅子に並んで寝そべり、自分の胸に左手をあてがい、右手を掴んでいたのは、アスモニア航空基地で三船八郎のオフィスの受付嬢をやっている峰岸フジ子だった。

「しまった! うっかり寝ちゃったんだ!」ガバッ
「あはぁん♡」

 静流は慌ててフジ子の手を払いのけ、椅子から飛び起きた。

「す、 すいません。 この椅子があまりにも気持ち良すぎてつい……」
「願わくば、 ずっと愛でていたかったです……ムフ」

 そう言ってフジ子は頬を赤らめた。

「フジ子さん? 夏の時みたいにアルバイトですか?」
 
 フジ子は以前、この保養所で働いていた事があり、夏の慰安旅行時、何故かこの保養施設でアルバイトをしていた。
 
「いいえ。 今回は狙って来ました。 静流様にお会いするために♡」
「僕に? そう言えばアマンダさんに伝えたんだっけ、 今日の事」
「はい! 実は司令もこちらに来ているんです。 司令のご家族も♡」
「八郎さんのご家族って、 三船兄弟ですか?」
「ええ。 軍のトップ会談と忘年会をこちらでされるとの事です」

 静流が椅子から立ち上がるとフジ子も起き上がり、衣服の乱れを直した。

「静流様、 お仕事のお時間です」
「そうだった……フジ子さんが僕の担当?」
「はい。 私が責任を持ってサポート致します。 もうじきお客様が入室されますので、 こちらにご移動願います」

 椅子から立ち上がった静流は、フジ子と共にスタッフルームに行った。
 スタッフルームに入ると、フジ子は静流に伝えた。

「今回、 静流様にはマダムからのリクエストに応えて頂きます」
「リクエスト? 何だろ?」

 静流が小首を傾げていると、フジ子は両手を顎に持って行く『恋する乙女ポーズ』を取りながら、興奮気味に言った。

「今回の施術、事前のアンケートでダントツの一位でした『シズルー様』でお願いしますっ」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 暫くして別の女性スタッフが、利用者である高級将校の夫人たちをゾロゾロと率いてリラクゼーションルームの前に来た。

「こちらが会場となります。 順番にお入りくださぁい」


「「「きゃぁぁぁー!!」」」ドドドド


 部屋の扉が開くと同時に、夫人たちはなだれ込むように部屋に入った。

「どきなさい! 前列! 前列よぉ~!」
「ちょっとアナタ、 横入りしないで頂戴!」

 我先にと前列を奪い合う夫人たちに、女性スタッフは慌てて奥方たちをなだめた。 

「お、お客様!? どちらにお座りになられても効果は変わりませんので、 どうか落ち着いて下さい!」
「何言ってんの!? 前の方がイイに決まってるじゃない! ちょっと! アタシの方が先よ!」

 暫く席の奪い合いがあり、ようやく全てのマッサージ椅子が埋まった。

「へへへ。 潜入成功だね♪」
「しぃー! 大人しくしてて!」

 夫人に混じり、浴衣姿のジョアンヌとカミラがいた。
 目立つのを避けたかった二人は、早々に自ら後列の椅子に座った。

「いかにもなマダムたちよね? 不倫とかしてそう」ヒソ
「ちょっと! 口に出しちゃダメでしょ!」ヒソ

 時間となり、司会を務めるフジ子がスクリーンの前に立った。
 スクリーンは普段、プロジェクターでTVや映画等を映すものだ。

「皆様お待たせ致しました。 これより『マダム限定 珠玉のリラクゼーションサロン』開催です!」

 フジ子がそう言って頭を下げた。
 夫人たちがフジ子の顔を見て、怪訝そうな顔をしている。

「あの顔、 どっかで見た事あるわね……」ざわ…
「気のせいかしら……ウチの旦那の浮気相手に似てるのよね……」ざわ…
「あら? アナタのとこも? 興信所の写真に写ってた女に似てるのよ……」ざわ…
「ジョアンヌ、 あの人って噂の?」
「どうやらそのようね。 あのオーラ、 只者では無いわ……」

 夫人たちの疑いの目には全く動じず、フジ子は司会を続けた。

「さて奥様方、長旅お疲れ様でした。 この度は当保養施設をご利用頂き――」 

 早くもしびれを切らせた夫人たちが、フジ子の言葉を遮った。

「そう言う前振りはイイから、早く初めて頂戴!」
「こっちはお金払ってるのよ! 一秒だって無駄にしたくないの!」

 夫人たちからの野次に、フジ子はにこやかに対応した。

「失礼致しました。 では早速先生をお呼び致しましょう!」

 苛立っていた夫人たちが、急に『恋する乙女ポーズ』を取り、興奮し始めた。

「来るのね? もうすぐ来るのね?」
「待ってたわぁ♡ 早く来てぇん♡」
「ああん! じらさないでよ! もう!」

「只今引く手あまたのPMC、『ギャラクティカ・ミラージュ』のエース、シズルー・イガレシアス大尉ですっ!」

 スタッフルームのドアが開き、カツン、カツンと軍靴が鳴る音と、腰に吊ったサーベル軍刀が揺れる度にチャリンと高めの金属音を奏でる。
 程なく黒を基調にした、クラシカルな軍服姿の青年が部屋に入って来た。
 制帽からのぞかせる桃色のストレートヘアはサラサラであり、目は金と赤のオッドアイに、ざぁますメガネを着用している。

「「「きゃぁぁぁー!!」」」

 夫人たちがその青年を見るやいなや、椅子から立ち上がって絶叫した。
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