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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-23

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宴会場『プロメテウス』の間

 プロメテウスの間には、現在二体の『男体盛り』が運ばれていた。
 身体一面に刺身や海産物がこれでもかと盛り付けてあり、 顔にも刺身が綺麗に並べられ、顔の輪郭と髪の毛くらいしかわからなかった。
 
「ほぉ。 中々面白い趣向じゃな?」

 メルクは物珍しそうに男体盛りを見ている。

「ほ、本物なの?」
「そんなワケないでしょ? どうせ彼が作った『レプリカ』よ」

 ムムの呟きに、ネネはため息混じりに言った。 

 睦美が解説を始めた。

「今回の趣旨として、 ヤングチームには『ダッシュ7様バージョン』、 アダルトチームには『七本木ジン様バージョン』を取り揃えました!!」


「「「「きゃっふぅぅぅん♡♡♡」」」」

 
 睦美の説明では、男体盛りが二体ある理由として、百歳を超えるか否かで『ヤング』と『アダルト』に分け、それぞれの好みに合わせたとの事だった。

「ダ、ダッシュ7様ぁ、 素敵♡」
「この盛りつけ方……まさに芸術品レベルですね……」
「いやはや何とも……目のやり場に困りますね……ムフ」

 萌とみのりが奇声を上げ、ルリは顔を緩ませた。

「私は『ヤング』でも……」
「え? 何か言ったニニ?」
「いえ、 何も?」チャ

 ニニが小さく呟いたのを、ムムが聞き返してきたので慌てて誤魔化した。

「成程ね。 わかってるじゃないアンタ!」
「あぁジン様ぁ……代表にも見せてあげたかった。 愉悦♡」
「また、 朔也に会えた……ココに残してくれた事に感謝いたします。 おお神よ……」

 カチュアが絶賛し、鳴海とジルは感嘆の声を上げた。

「少佐殿は両方イケそうですね?」
「確かに。 三人でするのも悪くないわね……ムフフフ」

 リリィがそう言うと、アマンダは否定しなかった。

「私は……素の静流クンの方が良かったなぁ……」
「自分も同意であります!」
「私も、 ピュアな静流が良かったぁ!」

 澪がそう言うと、佳乃が賛同し、薫子が不満げに言った。

「無印の静流様ですか……ムフゥ。 うごめくタコの足に苦悶の表情を浮かべる静流様も……是非見たいです」

 レヴィは勝手に妄想し、ニヤついている。

「そう言う意見があるみたいだけど? 素の静流キュンがNGなのは何で?」

 代表で楓花が睦美に聞いた。 

「当然候補にはありましたが、 静流キュンが頑なに拒否するものですから、 泣く泣く却下になりまして……」
「そりゃそうよ。 変態でもなければこの恥辱に耐えられるワケないもの」

 睦美の弁明に、ネネが呆れ顔でそう言った。

「正に『レプリカ』ならではの贅沢な使い方よね?」
「そう! そこなんです! そこが重要なのです!」

 ネネの嫌味を含んだ言い回しに、睦美が食いついた。

「皆さん! このレプリカたちは……生きてます!」


「「「「は? はぁ~!?」」」」


 睦美の衝撃発言に、一同は困惑した。

「皆様にはこれから、順番に『男体盛り』に箸を入れて頂きます。 そして、 あらかじめ指定した場所に差し掛かった時つまり『当たり』を引くと……」

 そこで言葉を切った睦美。

「どうなるの? 『当たり』を引いたら?」
「それはそれは、 この上ない幸運で幸福で僥倖な聖夜を迎える事となるでしょう!」


「「「「きゃっふぅ~ん♡♡♡」」」」


 男体盛りで盛況の会場の隅っこは、しんと静まり返った別世界のようだった。
 二人の薫レプリカαとβが、リナと雪乃にそれぞれ相手をしていた。

「リナ、 口開けろ」
「ハズいなぁ……あーん」
「どうだ? うめぇだろう?」
「うん。 うめぇ」

 リナは薫αに刺身を食べさせてもらっていた。

「雪乃、 その焼き魚を貸せ。 骨を取ってやる」
「え? そんな事自分で……」
「イイから貸せ! 骨が喉にひっかっかたら大変だろ? ま、その時は俺が取ってやるケドな」

 薫βは雪乃から焼き魚をひったくり、箸で器用に骨を取り除いている。

「ほれ、 あーんしろ」
「あ、 あーん……」

 顔を真っ赤にして口を開ける雪乃に、薫βが焼き魚の身を箸で放り込む。

「……美味しい、 です」
「そうかそうか。 もっと食え!」

 薫βは次々に雪乃の口に放り込んでいく。

「これぞ至福の時……夢なら覚めないで……」

 雪乃はそう呟いて、料理に舌鼓を打っていた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



宴会場『ダイダロス』の間

 静流の隣の席にどかっと座り、八郎をパシリに使ったエスメラルダ。

「さぁ! ジャンジャン飲むわよぉ♡ 注いで頂戴♡」
「は、はぁ……」

 エスメラルダは静流にロックグラスを突き出した。
 静流が高級ウィスキーをエスメラルダのロックグラスに注ぐと、エスメラルダは一気にグイっとあおった。

「んぐっ、 ぷっはぁ~! うめぇ……おかわり!」
「ちょっと、 ペース早くないですか?」
「イイのイイの♡ 夜はこれからなんだから♡」

 静流がエスメラルダの相手でいっぱいいっぱいの横で、達也は不満げに薫に話しかけた。

「アニキ、 楽しんでます?」
「この雰囲気で楽しめる程、 歳食ってねぇよ……」

 仏頂面の薫はそう言ってグラスを傾け、ウィスキーの水割りを飲んだ。

「ですよねー。 確かにメシは超うめぇんだけど、なんか足んないって言うか……」

 達也は分厚いステーキを頬張りながら、隣の静流を流し目で見た。
 瑞々しさを取り戻したエスメラルダは、お世辞抜きに綺麗だった。

「おーい! チーフ!」 
「はい! 只今!」
 
 奥のテーブルにいる八郎が、スタッフを呼び付けた。

「そろそろ頃合いじゃろ? 例の奴らを呼べ!」
「は! かしこまりました!」

 八郎に指示されたスタッフは、気を付けのポーズを取り、出入口に小走りで向かって行った。

「お! アニキ、 何かやるみたいッスよ?」
「少しは楽しませてくれるんだろうな?」

 達也と薫がそう言って、出入口の方を見た。
 すると、出入り口の扉が勢いよく開いた。


「「「「「こんばんわぁ~♡♡♡」」」」」


 甘ったるい声で入って来たのは、青い婦人警官風の制服に身を包んだコンパニオン軍団だった。
 ビニールレザーの超ミニスカートに、胸元を強調したシャツが眩しかった。


「「「「「ご指名、 ありがとうございまぁ~っす♡♡♡」」」」」


 10人のコンパニオンは、手を膝に乗せて前かがみになり、胸の谷間を強調するポーズを取った。


「「「「おっふぅ……」」」」


 丸テーブルで歓談していた者たちから、どよめきが起こった。

「来た! 来た来た来たぁ~!!」 
「いよっ! 待ってましたよカワイコちゅわぁ~んっ!」

 厳格な高級将校には似つかわしくないミーハーな掛け声が響いた。 

「全員『F』以上……イイ。 実にイイ。 素晴らしい!」

 達也がコンパニオンたちを絶賛した。

「どれどれ。 ん? これは……」

 薫はコンパニオンたちを見た途端、顎に手をやった。

「どうしたんです? 薫さん?」
「静流、 アイツらを注意深くよく見るんだ」
「え? あっ……」

 薫に続いて静流まで押し黙ってしまった。
 それを見た達也が二人に聞いた。

「二人とも、 一体どうしちゃったんだ?」
「……」

 達也の問いに答えたのは、エスメラルダだった。

「あそこにいるメスども、魔法で作った【幻影】よ……」
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