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ところが食事は全く喉を通らなかった。
昼食にしては豪華な料理が並び、その意味が意味だけに、昨夜の出来事をまた思い出し、吐き気を感じた。昼間でありながらお父様とお母様は上機嫌でワインを飲み、いつ知り合ったのかとか、いつそんなに仲になったのかと根掘り葉掘りと、色々聴いてきたのだ。
それも、周りに控えている召使い達も聞き耳立て、冷静な顔ながらも興味津々なのが見てわかった。
それに、いつ知り合ったか、と聞かれれば高等部に入ってからし、いつからそんな仲、と聞かれても昨日からだ、と言っても信じないだろう。
素直に、腹が立って暴れるとか、泣きじゃくって訴えたりすれば、
真実が伝わるだろうが、そうなればお父様やお母様に心配され後々面倒な事になるだろう。
相手は王家であり、王子。
その巨大で高潔な相手に刃向かえる訳もなく、またその血筋を欲していれば、素直に私の気持ちに従うには苦渋を強いる事となる。
いや、もしかしたら私の気持ちなど無いものにされるかもしれない。
マクロとの婚約が反故となった事を喜び、それを今、良かった、と幾度も口にするその気持ちに嘘偽りはなく輝かしい未来に酔っている両親の姿を見て、気が重たくなった。
まだ、無理やり抱いてきたブライアン様が、蹂躙するくらい私の事を蔑ろにするなら、喚いて暴れててもおかしくない。たとえ、婚約者、という立場は覆らなくても、家族や屋敷のもの達が私の本心知ってくれればまだ慰めになり、気持ちの逃げ道もあった。
それなのに、どうしてもあの瞳が気になった。
私が被害者の筈なのに、あの悲しそうな顔が浮かんできて、
もおおおおお、
と、どうしていいのかわからなくなる。
重たい手を動かしながらフォークに刺したスズキのソテーを口に入れたが、やはり美味しいと思えなかった。多分、何時もよりも手間暇かけたソースだろうが、両親の弾む話しが耳に入る度に、味も、料理も薄汚れた物にしか見えなかった。
「お父様、お母様、フランが疲れているみたいだからもういいでしょ?ウララも来て楽しい恋バナをするんだから部屋に戻ってもいい?」
ハーバルが私に気を使ってくれて、食事の途中にもかかわらず声をかけてくれた。
「そう?もう少し話をしたかったけれど、仕方ないわね。女同士の話しも大切だものね」
残念そうにお母様は言ったが、ほろ酔い気分のようで私よりもお父様と飲むワインの方が今は優先のようだった。そのおかげで止められることがなかった。
「じゃあ行くね。フラン、ウララ行こう。あ、簡単な軽食を私の部屋に持ってきてね」
部屋に戻る前にハーバルが、抜かりなく召使いに達に指示してくれた。

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