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お昼が終わり席に戻り、午後の授業の準備をしようと机の引き出しを開けるとメモが入っていた。
急に鼓動が激しくなり、知らず笑みが出た。
まだブライアン様は帰ってきてない。急いで、広げて読むと、放課後いつもの場所に、と書いてあった。
マクロの字だ。
切なさが込み上げ、涙が出そうだったのを我慢し、メモを直ぐに鞄に入れた。
少ししてブライアン様が帰ってきた。
「弁当箱は?」
「後ろの収納箱に入れています」
そういうと、直ぐに私の収納箱を見に行き弁当箱を取った。
その当然の行動に寒くなった。
そこまで気にする事はないのだろうけど、何故クラスの違ったブライアン様が私の収納箱がすぐに分かったのだろう?
1つも迷いなく、私の場所に向かった。
この人本当に私の事全部調べてるんじゃないの、と本気で気持ち悪くなった。
午後の授業が上の空のままで受けて、終礼が終わると、運良くブライアン様も少し用事があるの言う事で、お互い用事が終わ次第正門で待ち合わせする事にした。
鞄を持ち、急いでいつもの場所、武道館の裏に向かった。
「マクロ・・・」
壁にもたれかかり、私を確認すると、いつもの優しい微笑みを向けてきた。
さらりと黒神が揺れ、影になったこの場所でもマクロの整った顔は綺麗に見え、胸が熱くなりときめいた。
だが、これまでのマクロを見るだけで衝動的な淡い感情は削げ落ち、
静かな自分が、今の自分の前に立ちはだかっているような薄い膜を感じる。
「フラン」
低い耳障りのいい声が心に浸透する。
側に行くと、マクロの爽やかな香水が鼻をくすぐり、恋慕でなく辛辣な感情が襲い涙が零れてきたが、必死に我慢した。
少し離れた場所に生徒達が行き交っている。ブライアン様の婚約者の席に座った今、一定の距離を置かなければいけない。
「どうして・・・」
「フランが悪い訳じゃない・・・。泣くなよ」
慰めの声で両肩を摩る手が、とても安心出来で、幾筋が溢れてきた。
「ブライアン様はどうして私を選んだの!?ねえ、マクロなら知ってるでしょ!?」
1番の疑問を知りたかった。
掴みかかることは出来ないが、私の衝動はそんな気持ちだった。男なら胸ぐらを掴み、答えを聞き出したかった。
ブライアン様に聞けないのなら1番側にいて、長くいるマクロなら何か聞いて筈だ。
マクロを見つめ、答えてくれるのを待っていたが、戸惑いながら、何度も呼吸を整え戸惑いの表情を見せた。
見たことも無い顔だった。
「・・・ブライアンは、何も言わなかったのか?」
信じられないと、一言一言噛み締めるように聞くが、首を振るしか無かった。
「何も!何も理由は言わないの。決めたから、しか言わないの!何を決めたの!?私が何をできるの!?なぜわたしなの!?」
「そう、か。いや、俺も知らないんだ。フランが知っていると思っていた。こんな事になるなんて、俺も驚いているんだ。俺たちが婚約間近なのを1番あいつが知っているはずなのに」
沈痛な面持ちで、幾度も優しく肩を摩り、途中で涙を拭いてくれた。
嘘だ。
直感では無い、先程の驚愕の表情と揺らいだ瞳が物語っていた。
知っていて敢えて口にしないのは、やはり言えない理由があるからなのだ。
それは、誰が得をするのだろう。ブライアン様?それとも、マクロ?
マクロはブライアン様が何故私を選んだのか知っていて、黙秘した。いや、嘘を堂々とついた。
そこに隠した真意が何かは知らないが、私に知られたくない、という事だけは事実。
すう、と悲痛な思いが霧が晴れるように薄くなり、冷静な自分が重なっていく。瞳から零れた涙は既に綺麗にマクロに拭き取られ、すっきりした。
そうして、違う痛みが胸を締め付けた。
私は、道具、なのだ。
「こんな事になるなら、あの時に無理やりでも一緒に入れば良かった。そうすれば、俺達は婚約できたんだ」
まっすぐに私を見つめ、私が親戚の訪問で断ったあの日の事を後悔を滲ませ呟いた。
私も、ブライアン様に抱かれたあの時まで、後悔した。
「ねえ、マクロ」
残念ながら、今のその一言は、言うべきではなかったわ。
「どうした?」
「ハーバルとウララに声をかけたのは本当?」
ずっと引っかかっていた疑問を封じめこめようと決めのに、綺麗なまま私の記憶としてマクロを残したかったのに、馬鹿な男。
「え!?」
あからさまな驚きと、慌た様子に満足した。
ありがとう。素直な反応で。
もっと上手に嘘をついてくれたら、私は2人の言葉よりもマクロの嘘の言葉を信じたのに、本当に、馬鹿な男!
マクロの誘いに乗らなくて良かったが、結果的にはブライアン様の道具になってしまった。
「いや、何言ってるだ!?フランの事を色々聞きたくてさ」
慌てていつもの微笑みに戻してくれたけど、遅いわ。
「そう、だね」
もうどうでもいい気分だった。
「フラン?」
顔を背けた時、声がした。
はっとして、振り向くと、ブライアン様が突き刺すような瞳で立っていた。
いつからそこにいたのだろう?
「私は話が終わった。正門で待ってる」
それだけ言う無表情で踵を返し去っていった。
恐らく、私がいつまでも来ないから探しに来たんだろう。ここにいつも私とマクロが待ち合わせていたのを知っていたから見に来たのだろうが、何故だかとても罪悪感に駆られた。
胸のざわめききだし、落ち着かなくなった。早く、ここを離れたい衝動に足が動いた。
「フラン。今度ゆっくり話をしたいんだ」
離れようとする私の腕を掴み、真っ直ぐに見つめながら、甘い声で囁いた。
笑いが出そうだった。私はこの声に騙されていた。でも、瞳はまるで獲物を狩るいやらしい濁った光をたたえていた。
「ええ、いいわよ」
微笑むと、マクロは安心したように腕を離した。
「ても、2人きりで話をしたいと言われたと、ブライアン様に報告するわ。あの人、陰湿なくらいに私の調べているのでしょう?」
「な、何で知ってるんだ!?」
みっともないくらいにまた慌てるマクロを見て、私は見る目がなかったな、と自身を揶揄した。
「じゃあね」
背を向け急いで正門へと向かった。
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