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序章 魔術師の誕生
4話 冒険者って儲かるらしい
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「ご……ごじゅうまんッ!?」
「どうしたんですか急に?」
冒険者ギルドに倒した熊を持っていったら、買取価格の高さに思わず声が出てしまった。
普段のバイト代が一日働いて七千円に対し、モンスターを一頭狩れば五十万円になった。冗談みたいな金額に思わず足が震える。
「この時期は熊型モンスターはあまり見かけないからねぇ。コイツの腕肉は柔らかくて高級食材になる。毛皮が無事ならもう少し高くしたんだがな」
そう語ったギルドの食品鑑定士はガハハと笑った。
毛皮は俺が魔法で焦がしちゃったからな……。
「冒険者って……儲かるんだな」
「命が賭かってる危険な仕事だからね。それよりこの金額で買い取ってもらう? 一応相場以上だと思うけど」
うーん。高級食材か……ならちょうど良いかもしれない。
俺は色黒でスキンヘッドの鑑定士にある相談をした。
* * *
「これならおじさん達に少しは恩返しできるかな」
梱包してもらった熊の腕を抱えて、俺とリオンは町を歩いていた。
腕を一本だけ貰ってあとは売却。この腕肉を住まわせてくれている二人にプレゼントしようと考えたのだ。
「う……ぐすっ……ひっく」
「……なんでリオンは泣いてるんだ?」
「だ、だって! 村を追放されて親からも勘当されて……それなのに立派に働いて……これが涙無しにいられますか!」
魔法のせいでそうなった、とは言い難いから色々と濁して話したのが裏目に出たようだ。
泣きじゃくる女の子と歩いていると、周囲の人から好奇の視線を集めてしまっている。
まるで俺が何かしたみたいじゃないか……。
「――あ! リオン!」
リオンを呼ぶ声に二人して辺りを見ると、前方から二人組の冒険者が俺たちに近付いてきていた。
「まったくどこをほっつき歩いてんだ、お前は」
「探しましたよリオン」
「あー! 二人ともどこ行ってたのー!!」
どうやらこの二人はリオンのお仲間さんらしい。
リオンは涙と鼻水を撒き散らしながら、水色の髪をした女性に抱きつこうとする。
ゴッ!
リオンの頭から鈍い音がした。水色髪の女性がゲンコツを食らわせたのだ。
リオンはその場にうずくまると、頭を抱えて震えていた。
「――いったぁあ……」
「『どこ行ってた』はこっちのセリフだ! あと鼻水垂らしながら近づかないで」
「……あなたはリオンを保護してくれた方ですか」
もう一人、黒髪で三角帽子を被った女の子。背は俺よりも低く、ジトっとした目をしている。幼顔だし年下か?
「いや、保護っていうか成り行きで付き合っているだけで……」
「なッ……」
目を丸くして驚いた少女は、なぜか頬を赤らめて言葉に詰まった。
「りりりりリオンは、そこいらの男性と成り行きでお付き合いするような、ふしだらな女だったのですか……!」
「……は?」
なんだ様子がおかしいぞ。
視線はキョロキョロと一定せず、もじもじと身をよじっている。それにだんだん息も荒くなってきているような……。
「そ、そうですよね……リオンも年頃の女ですから、そういう経験があってもおかしくないです。むしろ冒険者なのですから現地妻ならぬ現地夫を作れるぐらい、余裕があるということですか……いやいやでも女の子が簡単にふしだらな関係を持つことは道徳倫理に……」
ゴッ!
あ。また拳が落ちた。
頭を抑えてうずくまる女の子二人。
拳から煙が出てそうなポーズでにこやかに怒る水色髪のお姉さん。
この人達……ちょっとおかしい気がする。
「お前は勝手に発情すんな」
「……くぅぅ……痛いのですよユルナ……」
ユルナと呼ばれた水色髪のお姉さんは、うずくまる二人を無視して俺の前にやってきた。
つり目でいかにも気が強そうな顔だが、整った顔立ち。腰よりも長い髪は、小川に流れる透き通った水のように綺麗だった。
「ウチの泣き虫が迷惑かけたね」
「いや、迷惑ってことは何も……むぐっ!?」
ユルナはいきなり俺を抱きかかえると、俺の頭に頬擦りをしてきた。驚いて離れようとしても、持ち上げられた俺の足は宙を蹴るしかなかった。
悲しいかな、俺は背が低いのだ。
「はぁあ……ちっこい……可愛い……リオンは一体どこでこの可愛い子を捕まえてきたんだ……」
「ちょ……やめ、あの苦し……!」
豊満な二つのボールが俺の顔全体を覆っている。
女性の腕の中で窒息しそうになっていると――
ゴッ!!
突然、解放されて地面に尻餅を着いた。見上げるとユルナが頭を抑えてうめいている。
「ユルナこそ、その性癖治しなさい!」
「ユルナは小さい物に目が無さ過ぎるのです」
先程ゲンコツされた二人がユルナにやり返していたようだ。俺は色んな意味で天国に昇るところだった。あぶないあぶない。
「ごめんねタクト。二人とも変な人じゃないから安心して!」
泣き虫鼻垂れ剣士と。
些細な事で発情する耳年増の魔術師と。
小さい物に母性本能くすぐられまくり槍術士。
うーん。どうみても変人の集まりだ。
「紹介するね! 槍使いのユルナと魔術師のカナタだよ」
紹介をされた二人は一度咳払いをして、ぺこりと会釈した。俺もつられて頭を下げる。
俺も名乗り、リオンとは山で会った事を話す。熊はリオンが倒した事にして、ギルドまで運ぶのを手伝っていたと誤魔化した。
「そうか……しかし子供一人で山に入るのは感心しないな」
「そうですね。冬でモンスターが少ないとはいえ男の子一人では危険です。何か目的があったのですか?」
「ええ、まあ色々と……」
俺が言葉に困っているとまさかのリオンが助け舟を出してくれた。
「タクトは下宿先のおじさん達に贈り物をしようとしてたんだよね! 冬の岩山に実るフリーズンアップルを探してたみたい!」
「――そ、そうそう! 見つからないなーって話をしてたんだーははは」
リオンは山で交わした『魔法が使える事を口外しない』という約束を守ってくれた。
なんとか二人を納得させることが出来てホッとしていると、リオンが何か思いついたのか喋り出す。
「そうだ! タクト、明日って用事あったりするのかな?」
「え? んーっと、明日も仕事は休みだったはず……」
「じゃあさ良かったら明日、私たちの応援に来てくれないかな?」
おうえん? なんのことかさっぱり分かっていない俺に気づいたのか、ユルナが説明してくれた。
「明日、冒険者ギルドの演習場で競技があるんだ。そこで他の冒険者達と戦い、優秀な成績を収めれば冒険者ランクが上がるんだ」
冒険者ランク? と、またしても聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべていると、今度はカナタが説明してくれた。
「冒険者ランクが上がれば受ける依頼ランクも上がって報酬が良くなるんですよ」
「へー、冒険者にランクなんてあったんだ」
俺は冒険がしたいだけで、冒険者達がどう生活しているのかあまり考えたことはなかった。
俺の夢の一つである『世界中を飛び回る』には金がいる。もちろん日々の生活にも関わる事だ。
ゆくゆくは冒険者として登録をする必要はあるだろう。
先輩冒険者を見るには良い機会かもしれない。先人から学ぶ事はきっと多いはずだ。
「……ちなみにどの冒険者が優秀か賭ける事もできます」
「こらカナタ。悪いこと教えるんじゃない」
「何も悪い事ではないのです。月に一度のお祭りみたいな物ですから、そういう楽しみ方も人生経験です」
あれ? この物言い……カナタって俺より背が低いから年下だと思ってたけど、もしかして上なのか?
「タクト。いまとても失礼なことを考えていませんですか?」
なにっ? この人は俺の心が読めるのか!?
ううむ……どこからどう見ても少女にしか見えない。全体的に育ち具合が……あ、しまった。これも読まれ――。
「……これでも私は十七歳なのです。そして私は大器晩成型なのです」
「私は大人でピチピチの二十歳だ」
「なんで急に年齢の話? 私は十八歳だよ!」
今日日『ピチピチ』なんて言葉聞く事は無いが、ユルナの名誉のために黙っておこう。
本題からだいぶズレた事にリオンが咳払いをした。
「で、どうかな? 応援してくれる人がいると私たちも気合が入って、頑張れそうなんだけど……」
既に気持ちは固まっている。間近で冒険者達の戦いが見れる機会はそうないだろうから。
「うん分かった。明日、応援しに行くよ」
「よーし! お姉さん張り切っちゃうぞ!」
「お、いつになくやる気じゃないかリオン」
「現地夫に恥ずかしい姿は見せられないですからね。恥ずかしい姿……もしかしてそういうプレイだったりするのでしょうか……」
またカナタの妄想が始まった。リオンが頬を赤く染めて怒り、ユルナが(物理的手段で)正気に戻す。
そんな三人のやり取りがとても楽しそうで、なんだか少し羨ましかった。
仲間と笑って旅をする。喧嘩して泣いて、また笑って。同じ景色を見て心身ともに強くなっていく。
三人の姿は、昔俺が思い描いていた冒険者像そのものだった。
そんな冒険者に憧れて、俺は魔術師を目指したんだっけな。
「どうしたんですか急に?」
冒険者ギルドに倒した熊を持っていったら、買取価格の高さに思わず声が出てしまった。
普段のバイト代が一日働いて七千円に対し、モンスターを一頭狩れば五十万円になった。冗談みたいな金額に思わず足が震える。
「この時期は熊型モンスターはあまり見かけないからねぇ。コイツの腕肉は柔らかくて高級食材になる。毛皮が無事ならもう少し高くしたんだがな」
そう語ったギルドの食品鑑定士はガハハと笑った。
毛皮は俺が魔法で焦がしちゃったからな……。
「冒険者って……儲かるんだな」
「命が賭かってる危険な仕事だからね。それよりこの金額で買い取ってもらう? 一応相場以上だと思うけど」
うーん。高級食材か……ならちょうど良いかもしれない。
俺は色黒でスキンヘッドの鑑定士にある相談をした。
* * *
「これならおじさん達に少しは恩返しできるかな」
梱包してもらった熊の腕を抱えて、俺とリオンは町を歩いていた。
腕を一本だけ貰ってあとは売却。この腕肉を住まわせてくれている二人にプレゼントしようと考えたのだ。
「う……ぐすっ……ひっく」
「……なんでリオンは泣いてるんだ?」
「だ、だって! 村を追放されて親からも勘当されて……それなのに立派に働いて……これが涙無しにいられますか!」
魔法のせいでそうなった、とは言い難いから色々と濁して話したのが裏目に出たようだ。
泣きじゃくる女の子と歩いていると、周囲の人から好奇の視線を集めてしまっている。
まるで俺が何かしたみたいじゃないか……。
「――あ! リオン!」
リオンを呼ぶ声に二人して辺りを見ると、前方から二人組の冒険者が俺たちに近付いてきていた。
「まったくどこをほっつき歩いてんだ、お前は」
「探しましたよリオン」
「あー! 二人ともどこ行ってたのー!!」
どうやらこの二人はリオンのお仲間さんらしい。
リオンは涙と鼻水を撒き散らしながら、水色の髪をした女性に抱きつこうとする。
ゴッ!
リオンの頭から鈍い音がした。水色髪の女性がゲンコツを食らわせたのだ。
リオンはその場にうずくまると、頭を抱えて震えていた。
「――いったぁあ……」
「『どこ行ってた』はこっちのセリフだ! あと鼻水垂らしながら近づかないで」
「……あなたはリオンを保護してくれた方ですか」
もう一人、黒髪で三角帽子を被った女の子。背は俺よりも低く、ジトっとした目をしている。幼顔だし年下か?
「いや、保護っていうか成り行きで付き合っているだけで……」
「なッ……」
目を丸くして驚いた少女は、なぜか頬を赤らめて言葉に詰まった。
「りりりりリオンは、そこいらの男性と成り行きでお付き合いするような、ふしだらな女だったのですか……!」
「……は?」
なんだ様子がおかしいぞ。
視線はキョロキョロと一定せず、もじもじと身をよじっている。それにだんだん息も荒くなってきているような……。
「そ、そうですよね……リオンも年頃の女ですから、そういう経験があってもおかしくないです。むしろ冒険者なのですから現地妻ならぬ現地夫を作れるぐらい、余裕があるということですか……いやいやでも女の子が簡単にふしだらな関係を持つことは道徳倫理に……」
ゴッ!
あ。また拳が落ちた。
頭を抑えてうずくまる女の子二人。
拳から煙が出てそうなポーズでにこやかに怒る水色髪のお姉さん。
この人達……ちょっとおかしい気がする。
「お前は勝手に発情すんな」
「……くぅぅ……痛いのですよユルナ……」
ユルナと呼ばれた水色髪のお姉さんは、うずくまる二人を無視して俺の前にやってきた。
つり目でいかにも気が強そうな顔だが、整った顔立ち。腰よりも長い髪は、小川に流れる透き通った水のように綺麗だった。
「ウチの泣き虫が迷惑かけたね」
「いや、迷惑ってことは何も……むぐっ!?」
ユルナはいきなり俺を抱きかかえると、俺の頭に頬擦りをしてきた。驚いて離れようとしても、持ち上げられた俺の足は宙を蹴るしかなかった。
悲しいかな、俺は背が低いのだ。
「はぁあ……ちっこい……可愛い……リオンは一体どこでこの可愛い子を捕まえてきたんだ……」
「ちょ……やめ、あの苦し……!」
豊満な二つのボールが俺の顔全体を覆っている。
女性の腕の中で窒息しそうになっていると――
ゴッ!!
突然、解放されて地面に尻餅を着いた。見上げるとユルナが頭を抑えてうめいている。
「ユルナこそ、その性癖治しなさい!」
「ユルナは小さい物に目が無さ過ぎるのです」
先程ゲンコツされた二人がユルナにやり返していたようだ。俺は色んな意味で天国に昇るところだった。あぶないあぶない。
「ごめんねタクト。二人とも変な人じゃないから安心して!」
泣き虫鼻垂れ剣士と。
些細な事で発情する耳年増の魔術師と。
小さい物に母性本能くすぐられまくり槍術士。
うーん。どうみても変人の集まりだ。
「紹介するね! 槍使いのユルナと魔術師のカナタだよ」
紹介をされた二人は一度咳払いをして、ぺこりと会釈した。俺もつられて頭を下げる。
俺も名乗り、リオンとは山で会った事を話す。熊はリオンが倒した事にして、ギルドまで運ぶのを手伝っていたと誤魔化した。
「そうか……しかし子供一人で山に入るのは感心しないな」
「そうですね。冬でモンスターが少ないとはいえ男の子一人では危険です。何か目的があったのですか?」
「ええ、まあ色々と……」
俺が言葉に困っているとまさかのリオンが助け舟を出してくれた。
「タクトは下宿先のおじさん達に贈り物をしようとしてたんだよね! 冬の岩山に実るフリーズンアップルを探してたみたい!」
「――そ、そうそう! 見つからないなーって話をしてたんだーははは」
リオンは山で交わした『魔法が使える事を口外しない』という約束を守ってくれた。
なんとか二人を納得させることが出来てホッとしていると、リオンが何か思いついたのか喋り出す。
「そうだ! タクト、明日って用事あったりするのかな?」
「え? んーっと、明日も仕事は休みだったはず……」
「じゃあさ良かったら明日、私たちの応援に来てくれないかな?」
おうえん? なんのことかさっぱり分かっていない俺に気づいたのか、ユルナが説明してくれた。
「明日、冒険者ギルドの演習場で競技があるんだ。そこで他の冒険者達と戦い、優秀な成績を収めれば冒険者ランクが上がるんだ」
冒険者ランク? と、またしても聞き慣れない言葉に疑問符を浮かべていると、今度はカナタが説明してくれた。
「冒険者ランクが上がれば受ける依頼ランクも上がって報酬が良くなるんですよ」
「へー、冒険者にランクなんてあったんだ」
俺は冒険がしたいだけで、冒険者達がどう生活しているのかあまり考えたことはなかった。
俺の夢の一つである『世界中を飛び回る』には金がいる。もちろん日々の生活にも関わる事だ。
ゆくゆくは冒険者として登録をする必要はあるだろう。
先輩冒険者を見るには良い機会かもしれない。先人から学ぶ事はきっと多いはずだ。
「……ちなみにどの冒険者が優秀か賭ける事もできます」
「こらカナタ。悪いこと教えるんじゃない」
「何も悪い事ではないのです。月に一度のお祭りみたいな物ですから、そういう楽しみ方も人生経験です」
あれ? この物言い……カナタって俺より背が低いから年下だと思ってたけど、もしかして上なのか?
「タクト。いまとても失礼なことを考えていませんですか?」
なにっ? この人は俺の心が読めるのか!?
ううむ……どこからどう見ても少女にしか見えない。全体的に育ち具合が……あ、しまった。これも読まれ――。
「……これでも私は十七歳なのです。そして私は大器晩成型なのです」
「私は大人でピチピチの二十歳だ」
「なんで急に年齢の話? 私は十八歳だよ!」
今日日『ピチピチ』なんて言葉聞く事は無いが、ユルナの名誉のために黙っておこう。
本題からだいぶズレた事にリオンが咳払いをした。
「で、どうかな? 応援してくれる人がいると私たちも気合が入って、頑張れそうなんだけど……」
既に気持ちは固まっている。間近で冒険者達の戦いが見れる機会はそうないだろうから。
「うん分かった。明日、応援しに行くよ」
「よーし! お姉さん張り切っちゃうぞ!」
「お、いつになくやる気じゃないかリオン」
「現地夫に恥ずかしい姿は見せられないですからね。恥ずかしい姿……もしかしてそういうプレイだったりするのでしょうか……」
またカナタの妄想が始まった。リオンが頬を赤く染めて怒り、ユルナが(物理的手段で)正気に戻す。
そんな三人のやり取りがとても楽しそうで、なんだか少し羨ましかった。
仲間と笑って旅をする。喧嘩して泣いて、また笑って。同じ景色を見て心身ともに強くなっていく。
三人の姿は、昔俺が思い描いていた冒険者像そのものだった。
そんな冒険者に憧れて、俺は魔術師を目指したんだっけな。
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