ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八

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一章 憎しみの魔女

21話 一つの希望

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 陽は沈みモンスターが活発になる夜。
 俺はいつものレンタルハウスではなく、アークフィランの外、森の中にいた。

 魔力をほぼ使い切っていた俺は、歩くのがやっとの状態で街から逃げ出した。
 もつれそうになる足を何とか動かして一本の木にもたれ掛かると、両足から力が抜けてズルズルと座り込んだ。

「何で……敵視ヘイト魔法が……」

 ゴーレムに対して使用したはずの魔法は、その場にいた冒険者全員にかかっていた。
 いや、ゴーレムを倒すまでは普通だったのだ。でなければ、カナタは途中で俺を振り落とすだろうから。

 ゴーレムが崩れる間際、体の隙間から紫色の光が漏れ出していた事を思い出す。あの光は……敵視ヘイト魔法の光と同じに見えた。

 憎しみの魔女が作り出したゴーレム。もしその魔力の根源が俺の力と同じなのであれば――。

ゴーレムあいつの敵視が俺に移った……?」

 仮説の話だ。だが、それ以外に考えられない。
 街を、冒険者たちを救っても、得られたのは侮蔑と追放。
 こんなのはあんまりじゃないか……。

 魔女の婆さんが言っていた言葉が、再び頭を過ぎる。

『遥か昔、私も似たような夢を抱えていたもんだ。しかしまぁ……私にとっちゃ魔法なんて『恐れ、憎まれる物』でしかなかったが』

 仲間も家も信頼も失った。これから身一つでどうやって生きていけばいい?
 俺はまた、一人からなのか……。

 込み上げた怒りを抑えきれず、俺は腹の底から叫んだ。

「こんな力……こんなのでどうしろってんだよッ……憎しみの魔女クソババア!!」
「――そこに誰かいるのか?」

 突然、人の声がした。
 顔を上げると、暗闇でランプを持った人物がいる。夜にこんな町外れを歩いているのは冒険者ぐらいだ。

 まさか追っ手? 今はもう逃げる体力も残って無いのに――ッ

 身構えた俺にランプの光が当てられる。
 眩しさに腕で顔を覆うと、その人物は近づいてきた。

「貴様は……!!」

 ここで捕まれば、後に待ち受けるのは魔法を使えることでの尋問か……敵視されていることを考えると拷問もされかねない。

「くっ……!」

 俺は残る力を振り絞って体当たりをすると、ランプの人物が体勢を崩した。

 よし、今のうちに――ッ?!

 逃げようとした時、足に何かが巻き付いた。
 足はその場から動かせず、前のめりになった体はそのまま地面に倒れ込む。

「……会って早々にぶつかって来るとは、いい度胸だな

 ランプの明かりに照らされた俺の足には、深い緑色をした……まるで植物つるのような物が絡み付いていた。

「これって……」
「貴様、こんなところで何してんだ」

 怪訝な表情で俺を見下ろす人物には見覚えがあった。
 被っているフードから僅かに見えるのは白い肌と真っ赤な瞳。なにより特徴的なのは、手足のように自在に動く深緑の髪――。

「リ、リーフィリア……」

 『深緑の魔女』と呼ばれる冒険者、リーフィリアがそこにいた。

「“さん”を付けろ馬鹿者!! あれか? 勝負に勝てて調子に乗っているのか? 年上だしランクも上なんだからちょっとは敬意を払えよ!!」
 
* * *

「で、なんでそんなボロボロなんだ」

 焚き火の近くに座らされた俺を、リーフィリアはいぶかしんでジロジロと見る。

 先日の勝負で家を失ったリーフィリアは、野宿をしているらしい。
 歩くのもおぼつかない俺を見かねてか、寝床にしている場所まで連れて来られた。

「これは、その」

 リーフィリアの質問に俺は言葉が詰まった。

 『自分の魔法のせいで仲間から憎まれて、街を追い出された』なんて言っても、到底信じてもらえないだろう。

 俺が答えられずにいると、彼女は質問を続ける。

「いつもの三馬鹿はどうした。こんな時間に男一人で街の外にいるのは自殺志願者か、ただのアホだけだぞ」
「それは、そうなんですが……」
「――ッ、歯切れが悪いな」

 舌打ちが混じった事で、彼女の機嫌が悪くなっていくのが分かったが、俺は
 前に会った時と同じように接してくるリーフィリアに、違和感を覚えたのだ。

 この人はなぜ、

 あれだけの人数がいっぺんにかかった魔法を、彼女は影響を受けていないように思える。
 
「あの、リーフィリア……さんは、今まで何処にいたんですか?」
「こっちの質問には答えないくせに、私には聞いてくるんだな」
「うっ……」

 腕を組みジトっとした目を向けられる。
 また俺が言葉に詰まると、リーフィリアさんはため息混じりに話してくれた。

「……任務で隣町に行ってた。今しがた終わって帰ってきたところだ」

 ということは、距離が離れていれば敵視ヘイト魔法はかかっていない?
 今回の敵視ヘイトが発動したのがもしアークフィラン周辺だけならば、ひとまず隣町に身を置ける可能性がある。

「……おい、聞いといて無視かこの野郎」
「あ! す、すみません!」
「……貴様、前に会った時より様子がおかしいぞ。何があったのか私の質問にも答えろよ」

 口は悪いが、言ってくれていることは俺を心配しているようにも受け取れる。
 この前の一件で彼女の中で俺は『他人』ではなく、『顔見知り』程度にはなっているのだろうか。

 すでに大勢の前で魔法を使った……いまさら隠す理由もないと考えた俺は、魔法が使える事を打ち明ける事にした。

「実は――」

* * *

「……それで一人こんなところに、ねぇ」
「あの、驚かないんですか? というか魔法が使える事を信じてくれるんですか?」
「ああ? 今の話が嘘だって言うんならただじゃおかないけど?」
「いや! 嘘じゃない……です」

 意外にもリーフィリアは真面目な顔で俺の話を聞いてくれていた。

「大方、予想はしていた。貴様がもしかしたらってな。一度、冒険者をけしかけた事もあるし」
「え!?」

 自分ではうまく隠していたつもりだったが、やはり勘繰る人はいたようだ。あの時の偽盗賊はもしかしてこの人が?
 そう考えていた時、リーフィリアはニヤリと笑った。

「お互い、のことは水に流そうじゃないか」

 今の言葉ではっきりした。偽盗賊アレは彼女の仕業だったらしい。
 てことは、火の鳥ファイアーバード事件の時から俺は怪しまれていたってことか。

「それよりも、これからどうするつもりだ?」

 どうする……一人で旅することを想像するが、以前までのワクワク感は無かった。むしろ、不安の気持ちのほうが大きい。
 リオン、ユルナ、カナタとこれからも冒険をするんだ、となんとなく思っていたから。

 けれど……諦めるしかなかった。
 敵視ヘイト魔法を受けた三人の元へはもう戻れないだろうから。

「俺は、一人で旅を……」
「本当にそれでいいんだな?」
「――ッ」
「槍術士の言っていた『信頼の強さ』ってのは、そんなに簡単に諦められるものなんだな?」
「そんなこと言っても……どうしようも無いじゃないかッ!!」

 リーフィリアの言葉についカッとなって言い返してしまった。
 敵視ヘイト魔法の解き方は分からないし、街に近づくことも出来ないこの状況で、いったい何が出来るというのだ。

 俺の反発を受けてもリーフィリアはただジッと俺を見つめている。

「この力が、皆を変えてしまう……俺から家族を、故郷を、仲間を奪っていくんだッ! 俺が上手く扱おうとしても、勝手に……」
「だから、諦めるしかないって?」
「そう、だ。俺が誰とも関わらなければ、こんな思いをすることも、もう――」

 パァン

 乾いた音が夜の森に響いた。
 遅れて左頬にはじんじんとした痛みが広がった。
 対面にいたリーフィリアが、俺の頬を叩いたのだ。

「貴様の仲間が私に言った言葉、そのまま返させてもらうぞ」

 リーフィリアは目尻を吊り上げ怒っていた。しかし、俺を見つめるその目はとても真剣だった。

「魔法のせいで変わった仲間を、助けたいと思わないのか? 信頼と信用でどんな困難でも乗り越えていくんじゃないのか?」
「――ぅ」
「貴様の本音はどうなんだッ!? 諦めることが、貴様らの言う『信頼の強さ』なのかッ!?」
「俺は……」

 仲間の顔を思い出していた。
 一人だった俺をパーティに誘ってくれた。
 俺を冒険者にしてくれた。
 馬鹿話をして笑いあった。

 気づけば俺の頬を熱い物が伝っていた。
 溢れ出した涙は、同時に色んな思いも湧き上がらせた。
 こんな別れ方は嫌だ……もっと、皆と一緒にいたい。もっと楽しく笑い合っていたい。

「仲間を取り返したいッ……」

 ポンと、俺の頭にリーフィリアの手が置かれた。
 顔を上げると、綺麗な赤い瞳が俺を優しく見つめている。

「『本音をちゃんと伝えた相手にぐらい、甘えてもいいんじゃねーの?』……だったか?」

 ニッと笑うリーフィリアの笑顔が、俺の押さえ付けた感情を解かして、涙は止まらなくなる。
 人前でこんなに泣いたのは、初めてだった。

* * *

 気付いた時には朝日が昇っていた。
 周囲を見ると小屋の中のようだ。布が掛けられている。いつの間にか眠っていたらしい。

「あれ、俺なにしてたんだっけ……」

 昨日の事を思い出して少し後悔した。街から逃げ出して、森でリーフィリアに会って……。

「ん……起きたのか」

 声のする方へ顔を動かして俺は目を疑った。
 隣には同じ布を掛けて横になったリーフィリアがいる。
 起き上がり、まだ眠たい目を擦る彼女は……ラフな肌着だった。

「なななななッ?! えっ! あれ?!」
「朝からうるさいな」
「なんで一緒に寝てるんだ?!」
「なんでって、貴様が泣き疲れてそのまま寝たから運んでやったんだぞ。感謝しろ」

 肌の露出が多く、目のやり場に困って小屋を飛び出す。後ろから引き留める声がしたが、遅かった。


 飛び出した先に地面は無かった。


 小屋は三本の木々に括り付けられた形でのツリーハウス。
 あると思っていた地面ははるか下の方であり、俺は無事落下したのだ。
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