ウィッチ・ザ・ヘイト!〜俺だけ使える【敵視】魔法のせいで、両親に憎まれ村を追放されました。男で唯一の魔術師になったので最強を目指します〜

(有)八

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二章 魔法とは

40話 被ってんだよ

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「すみませーん!! タクトさんいますかー!!」
「おい、抜かすなよ! 俺が先に来てたんだ!」
「先かどうかなんて関係ないだろ? タクトさーん! お話を聞かせてくださーい!!」

 連日、うちのレンタルハウス前は人でひしめき合っていた。昼夜問わず人の声が外から聞こえてくる。そろそろ、ノイローゼになりそうなぐらいだ。

「はぁ……いい加減にどっか行ってくれよ……」

 街中に掛かっていたタクトの敵視ヘイト魔法が解けてからというもの、人々は『唯一魔法を使える男タクト』になんとか取り入って、魔法を教わろうとしている。

 正式に『魔術師』として冒険者登録されたことでタクトの噂は国境を越え、いまや世界中に注目されていた。不可抗力とはいえ、彼の今後の人生を思うとため息がでる。

「たくっ……ここにタクトはいねーってのに毎日毎日きやがって」

 こんな状態では、そのうち家に押し入ってくるまであると判断して、タクトを別の場所に避難させている。

「リオンさーん! カナタさん! 誰でもいいから一度お話を聞かせてくださーい!!」

 最近は、タクトと同じ冒険者パーティの私たちにまで、声が掛かるようになった。私たちに取り入ってそこからタクトに……という魂胆が見え見えで、この群衆はそれを隠す気もないらしい。

 そんな見え透いた誘いに、私は不満を募らせていた。もう我慢ならない、一言キツく言ってやる。

 玄関を勢いよく開け放つと、一斉に十数人の視線が私へと向けられる。その目は私を見ているようで、見ていない。見ているのはその先に繋がるタクトだ。

「あっ! タクトさんとですか!? 是非お話を――」
「……なんで」
「えっ?」
「――なんで、リオンやカナタは覚えられているのに、私は名前すら覚えてないんだお前らぁああ!!」

 そう、話題に上がるのは大体あの二人。
 これまで「ユルナさん」と呼ばれた試しがない。自分で言うのもなんだが、二人よりも綺麗でナイスバディなお姉さんの私が、なぜ覚えられない?!

 突然叫んだ私に群衆は一瞬怯んでいたが、その中の一人がぽつりとこぼした。

「……槍使いだとリーフィリアさんのほうが強いし、なんか寄り添ってる感あるよな」
「――ッ!!」

 このモブの言うことはあながち間違いでは無い、と自分でもなんとなく理解していた。

 ロングヘアー、槍術師、年上お姉さん、雑な言葉使い。そのほとんどが私と被っている。
 違うのは髪の色と胸の大きさぐらいか。

 あいつが、リーフィリアが……私とキャラ被りしているせいかッ!!

「リィィイフィリアァアアッ!!」

 群衆を押し退けて、私はリーフィリアの元へと走り出す。
 奴を消さねばならないッ! 私の知名度のためにッ!

「あ、あのッ!! タクトさんはどこにッ?!」
「うるさいうるさいッ!! 今に見てろよお前ら! 私の方が上手うわてだと、思い知らせてやるッ!!」

* * *

「――くしゅんっ」
「花粉症か?」
「いや、なんか急に寒気がして……」

 外は春の陽気が漂い、室内もそれほど寒いわけではない。風邪でも引いたのかと心配したら、リーフィリアは「平気だ」と言って、手元に視線を戻す。

 俺に魔法を教わろうとする人々から逃れる為、今はリーフィリアが新しく契約したレンタルハウスに身を置かせてもらっている。

 アークフィラン|《この街》から離れる事も考えてはいるが、いかんせん俺の体はまだ、絶対安静の状態で身動きが取れないでいた。

 宮殿で魔力暴走を起こした俺は、自分の許容できる魔力限界を超えて、無理に動いた反動が全身にきていた。
 包帯を巻かれ、ベッドから起き上がれない自分の体を見て、医師の言ったことを思い出す。

* * *

『君、一ヶ月は絶対安静ね。今、魔法使ったら死ぬよ』
『し、死ぬ?! そんなに酷いんですか?』

 白衣を着た治癒術師のお姉さんが、俺を見て呆れ顔で言った。「普通なら」と前置きした上で喋り出す。

『魔力限界を超えると痛みや疲労感で、脳が魔法を使う事を止めるんだけど……魔力暴走を起こすと、自分でセーブ出来なくなるんだわ。君の場合、魔力に無理やり体を動かされたもんだから損傷が酷い』
『ぐ、具体的に言うとどうなんですか?』
『筋繊維断裂、全身火傷、魔法を主に行使してた右腕に関しては、骨折しまくってる。私の【痛覚無効ペインキラー】をかけてなかったら、いまごろ痛みで死んでるかもね』

* * *

 治癒魔法が効いている間はなんの痛みも感じないから、つい平気だと勘違いしてしまう。が、実際に腕を動かそうとしてもピクリとも動かないのは、そういうことなんだろう。

 レイラめ……俺の体で好き勝手暴れすぎだろ……。
 記憶の中で出会った憎しみの魔女レイラ、その力の強さを再認識する。

「さぁ出来たぞ」

 寝た状態で首から上だけを横に向けると、リーフィリアの手元には綺麗にカットされたリンゴがあった。
 俺を支え起こす彼女に、申し訳ない気持ちになる。

「なんか悪いな。家にかくまって貰った身なのに、介護みたいなことまでさせちゃって……」
「気にするな。なんてったって私とタクトはなんだからな」

 ふふん、と得意げに鼻を鳴らすリーフィリアは上機嫌だ。ああ、そういや故郷の村に行ったとき、そんなこと言ったなぁ。

 結局彼女は、どこの冒険者パーティにも属さず、今もこうして俺の為に色々してくれている。

「ありがとうな、リーフィリア」
「か、感謝などするな。当たり前のことをしているまてだ。さぁ、切りたてのリンゴが冷める前に食べろ!」

 リンゴは冷めねぇよ、とツッコミたかったが目の前にフォークで刺されたリンゴが運ばれてくる。
 条件反射で口を開けてリンゴを迎えようとすると、部屋の扉がゆっくりと開けられた。

「ん? って怖ッ!?」

 扉の隙間からリオンの顔半分だけが、こちらを見つめている。視線を少し下げるとまったく同じように、カナタも覗き込んでいた。

「……なーにしてるんですか」
「リオン。あの女からタクトに向けた好意が感じ取れます。下心アリですよあれは」
「――ゴフッ!? ゲホエホッ! なに、なにを言って……えふんえふん」

 急にむせ返ったリーフィリアを、なおもジトーっとした目で見つめ続ける二人。

 そういえば、俺はリーフィリアとよく話すようになったけど、リオンたちはあんまり話す機会が無かったんだよな。

 二人が部屋に入ってくると、椅子に座るリーフィリアを見下ろす形となったリオンが、不満げに口を開いた。

「タクトを助けてくれたり、家に匿ってくれるのはありがたいけど、看病はに任せてもらえるかな?」
「そーですそーです」

 やる気の感じられない棒読みでカナタも続く。
 立ち上がったリーフィリアは腕を組み、今度はリオンを見下ろす形となる。
 
「貴様らじゃタクトに何かあった時、守りきれんだろう? それにここは私の家だ。家主が客人にあれこれ振る舞うのは、私なりの礼儀だ」
「客人に振る舞うのに、せっせとリンゴ剥いて『あーん』までしますか? 普通」
「――ッ誰も『あーん』なんて言ってないぞ! だいたい貴様らも、なんでいつもタクトに付いてまわってるんだ!」
「怪我をした仲間を気遣うのは当然だと思うけど?」

 徐々にお互いヒートアップしていき、ついには顔を突き合わせての言い合いになっている。
 二人のやりとりに興味が無いのか、さっきからカナタは「そーだそーだ」しか言わない。
 見てないで二人を止めるとかしてくれよ……。

「……ィイィイ」

 ギャーギャーと騒ぐ二人とは別に、どこからか声が聞こえてくる。なんだ? だんだん大きくなってる?

「リィイイ……」

 二人も雄叫びのような声に気づいたのか、言い合いをやめていた。静かになると、よりはっきりと聞こえる。この声は……ユルナか?

 家の玄関が乱暴に開けられた音がして、ドタドタとこの部屋に向かってくる。
 バンッと勢いよく扉が開け放たれた直後、ユルナの怒号が部屋中に響き渡った。

「リーフィリアァアッ!! 私と勝負しろォ!」

 髪を乱し、息を荒げたユルナがリーフィリアを睨みつける。

 なんだかこの光景デジャブだ。前回、俺たちの家にリーフィリアが押し入って来た時みたいな……二人の立ち位置が逆になった感じ。

「どうしたんだよユルナ。そんなに血相変えて……」
「私の存在意義の為に! 私と戦えリーフィリア!」

 俺の言葉を無視して、ビシッとリーフィリアに向けて指を差す。
 唐突に宣戦布告を受けたにも関わらず、リーフィリアは鼻で笑って不敵な笑みを浮かべる。

「……ちょうどいい。この前のリベンジもまだだったからな。いいだろう! タクトのに相応しいのはどちらか、ハッキリさせようじゃないかッ!!」

 ……なんだか話がややこしくなってきたぞ。

 俺の気持ちとは裏腹に、三者見つめ合う中『本当の仲間選手権』なるものが幕を開けた。

 カナタはというと、リーフィリアが俺の為に剥いてくれたリンゴを頬張っている。
 おいずるいぞ、俺にも食わせてくれ。
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