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2章 魔法使いとストッカー

51 古の魔法陣

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「では、お嬢様、こちらの机でお願いします。私はあちらで雑務をしますので」

 婚約式が終わり二日過ぎた城は、すっかりいつものロンテーヌ時間が流れている。のほほ~んな感じだ。
 約束通り、今日はロダンが私の古代文字の解読に付き合ってくれる。応接室に大きな机を入れて作業開始だ。

「わかったわ。不明な点は飛ばしていいのよね? どうゆう風に解読書って書けば良いのか… 丸写しで矢印とかで添え書きするのがいいのか、箇条書きに解った部分を書けばいいのか、迷うな」

 うんうんと私が唸っている横で、ロダンは自分の仕事の書類を次々とさばいている。
 部屋の窓際にはリットとランド。もちろん影にはアーク。今日はマーサもいる。

「お嬢様、まずは魔法陣を書き写しましょう。その際、魔法陣の一部、円の外側を少し削りましょう。そうすれば誤作動なども起きないでしょうから」

 マーサはすらすらと古代魔法陣を写しとってくれる。

「ありがとう。流石、マーサ先生!」

「もう、お嬢様ったら茶化してはいけません! 私こそありがとうですよ、こんな素晴らしい資料を見られるなんて」

 マーサは本当に嬉しいのだろう、目がキラキラ、いや、ギラギラだ。ランドも近くに来て魔法陣をのぞいている。

「あれ? リットは興味ない?」

「ないな。魔法陣には縁遠い人生だ」

「何それ、縁遠い人生って。ぷぷぷ」

 リット越しに窓の外を見るとすっかり夏も盛りを過ぎた。マーサが書き写している間にロダンに聞いてみる。

「ロダン? 私って学校に行ける?」

「そうですねー。恐らくとしか。まだ、決定ではありません」

「と、言うと?」

「魔法封じで魔法が使えないのであれば、マーサのあの石が使えないかどうか… 宰相様に申請中です。その返答次第ですね。なので学校が始まるギリギリまでお答えできないのが現状です」

「あ~、そうね。少しだけど石自体に魔力があるから活用できるのかしら」

「それは何とも… 魔法封じがその石にまで影響しては意味がありませんし。今や、あの石は国のものですから取り寄せて早く検証しないと。もしくは、賢者の日記に解呪の手がかりがあれば良いのですが… いずれにしても、遅れての出席になるでしょう」

「そうね… まぁ、行けないよりはマシか。対抗戦までに間に合うといいけど」

 そうこうしているうちにマーサがもう写し終えた。

「どうでしょう? そっくりですか?」

「大丈夫。問題ないわ。では、早速」

 と、私が矢印を書いて読み方と翻訳を書いていく。

「え? そんなに早く? は?」

 マーサが口をあんぐり開けて私を見ている。

「そんなに驚かなくても… これはね古代語と呼ばれているけど、前世の言葉と一緒なの。だから私には読めるのよ」

「と、言う事は! まさか!」

「そうよ。でもその先は言っちゃダメよ。今の私には『檻』がないのだから、ね?」

「… はい。側で見ていてもいいでしょうか? 声は出しませんので」

「クスクス、いいわよ。マーサったらよっぽど魔法陣が好きなのね」

「はい」

 いつの間にかランドも私の横でマーサと一緒にのぞき見ている。

 静かな部屋の中で、書き書きとペンの音だけが聞こえる。私も夢中になって無言で一心不乱に書いていく。

「マーサ、始まりはコレでしょ? そうなると終わりはこっちの文字だと思うんだけど?」

「ここが始まりですね。意味は解読されていませんが、古代魔法陣は必ずこの文で始まります。こうきて、こう読むんです。古代魔法陣の読む流れはそのように言い伝えられていますが、果たしてそれが合っているのか…」

 ふむふむ。そうなると、これで全部かな。

「は~、できた!」

「「もう???」」

 見事にシンクロしたのはロダンとマーサだった。

「うん。呪文? 文字だけなら解った。古代魔法陣の発動どうこうはまだ習ってないから、文字の解読だけだけど」

「す、すごい。研究者たちが何百年と…」

 マーサは口を両手で押さえ今や絶句している。

「ごめんね、何か。あっさり解いてしまって。でもね、これは… 何と言うか… ロマンもへったくれもないと言うか…」

「ロマンですか?」

「うん… 言いづらいんだけど… それより、これは『姿を消す呪文』ね。魔法陣になるのかな?」

「すごいじゃないですか! それの何がロマンがないですって? ロマンどころか世紀の大発見ですよ!」

「そうなのかなー。でもなー…」

「だって、姿を消すですよ! 消えるんですよ!」

「あーまー」

 私は何とも歯切れが悪い。マーサの言う通り『姿を消す』のはすごいと思う。そんな特化は今の所聞いた事ないし。それっぽいのはランドの『転移』とかアークの『影』とかは、一見そう見えるよね。でもなー、これはなー、創作した理由がなー。

 マーサは興奮して私の両肩を掴んでユッサユッサと揺さぶっている。

「お嬢様! すごいんですって! わかっていますか!」

「わかった、わかった。落ち着いて、マーサ」

 グワングワンするからちょっと気持ち悪くなってきたかも。マジでやめて欲しい。

「マーサ、その辺でお嬢様を離せ。それで? お嬢様、本当に解読が?」

「ロダン、出来たわ。私は魔法が使えないから唱えても姿は消えないだろうけど。誰かが呪文を覚えれば発動できるんじゃないかな?」

「わかりました。それは後ほど検証しましょう。それで、なぜお嬢様は腑に落ちない感じなのでしょう? 何か不備がありましたか?」

 ロダンは鋭いな。私が言い淀んでいるワケを逃そうとしない。

「言いづらいんだけど、ここにね、この魔法陣を書いた人がこの魔法を開発した理由を走り書きしているのよ」

「へ~、これは説明書きですか。おや? その翻訳が書かれていませんが? それで何と?」

 マーサはもう気を取り戻してまじまじとその箇所を見ている。
 私はチラチラとリットとランドを見てしまう。ちょっと言い辛いな。ロダンにちょいちょいと手招きをして、耳を貸してもらう。

「大きい声では言えないんだけど、この開発者は『女湯をのぞき見できるのは男のロマン。しかし、時間は有限。三分だ。有効に使え』って書いてあるの」

 それを聞いたロダンは目頭をギュッと押さえてから、作り笑いでニコッとしたのち

「その説明書きは決して後世に残さないように。宰相様には口頭で伝えましょう。いいですね?」

「は、はい」

 この開発者… バカだ。ただの変態の犯罪者だったよ。何が男のロマンだよ、いつの時代の男子だよ、昭和か。って、昭和?

「昭和 !!! 世代は一緒ぐらい!」

「お嬢様?」

「この開発者。誰だろう? アダム様は他に何か言っていた?」

「賢者の遺産だと…」

「え~! 聞いてない! 賢者! やっぱり、私と同じ時代に生きた記憶がある人よ!」

 ロダンは静かに人差し指を立て『シー』っと私を見た。
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