二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

文字の大きさ
1 / 94
プロローグ

降ろされた神託。

しおりを挟む
シェンブルグ王国。
この国は、以前はシェンブルグ共和国と呼ばれていた。

 魔術の力を要とした、魔術師を重用し、ある人物の命を狙い続けた王が納めていた地。

 今は、「祝福の子」カイザル王の収める王国となった、王都「ミストラル」の端。

 大きな森の中に、荘厳な作りの建造物が静かに座していた。

ガリラディア神殿と呼ばれる、シェンブルグ共和国の時代の先の王と「祝福の子」の戦いの際に
勝敗を決したとされる聖地。

 神に使わされし「器」である姫がここで歌い、世界に光を齎もたらしたと謂われる場所。

そんな聖地の神殿の中には、長い黒髪を後手に1つに束ね、年齢不詳の美貌を誇り、美しい青い紗の長い衣装を身に纏った神官の姿があった。

 湧き出る水が上方から、四方に向けて激しい流れを見せていた。
ザアッ・・と激しい水音が響き渡る空間がそこにはあった。

 「水の間」と呼ばれる、聖地の中でも特別な神官しか、立ち寄れぬ部屋。

 通称、「先読みの間」。

その神官は水が湛えられたその場所にある丸い石の上に立ち、滝に囲まれたような場所でその前方に移る未来を視ていた。

 「・・・そんな、我のあの日に下した選択のせいで・・。
この世界の未来が、・・・大きく変わってしまったなんて・・。」

 金色の瞳は痛みと哀しみを湛えていた。

 左の水面には、背丈が高く、スマートで引き締まった肢体と、誰が見ても美しいと絶賛するような
容貌を持った人物の姿があった。

 金色の髪はサラリと流れ、人並みの長さで清潔に整えられる。黒い魔術騎士服を着ている人物。

その者は、バランスの取れた唇と、ラピス色の瞳を湛えた麗しい瞳を誇っていた。

 「・・アルベルト王子が、生まれた日に輝いた黒い月の予言が・・・。真実のものとなるのか?」

 頭を過ぎるのは、この国の王太子であるアルベルト王子が誕生した日に東の空に浮かんだ
暗闇のように宵闇の星の光さえも消してしまうような黒い月の姿だった。

カイザル王と、ルナ妃もその月を見ていた・・。

その大きく黒色に染まった丸い月を訝しく見上げていた。

 神官、イムディーナは全身に凍えるような寒気を感じた。

 水の中で刻を過ごしているからではない。

 恐ろしく、不穏な未来の動きを察知した神官イムディーナは、右に映し出された人物を見た。

 赤茶の艶やかなストレートの髪を背中まで伸ばし、白色の肌と、茶色に覆い隠された金の混ざった空色の
 ような青い瞳を持ち、赤い唇は花の蕾のように可愛らしい少女。

 凛々しく細長い剣を前方に構え、白いフェンシングのユニフォームを着た圧倒的な存在感を放つ
美少女がその水面に映されていた。

 「ミヅキ・・。運命は君の選択に委ねてもいいだろうか?
 君の過去と、未来を繋ぎ、更に過酷な未来への選択に続くであろう二者択一を・・・。」

ガリラディア神殿の遥か上の頭上には、宵闇と輝く星々・・。
そして、黒い月と、銀色の月が2つ存在感を放っていた。

22年前に現れた黒い月、そして、その日に生まれた王子。
イムディーナは神の祝福として、対の空に銀色の月を浮かべた。

 漆黒の色である黒い月を、照らす銀色の優しい輝きを放つ幻想的な月を・・・。

 2つの月が毎夜、昇る。
この世界の真上には、その2つが常に在る。

 太陽と月が表裏一体であるように、黒い月も、銀の月の光によって輝く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...