二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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現代。

銀色の猫との出会い。

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明るいイエローに、青いストライプが入ったカーテンには明るい光が照り付けていた。

その眩しさに、驚いた私は重いまぶたを開けた。

私は過去の懐かしい夢から目を覚ますと、手元の時計を見て奇声を上げた。


「 もう7時じゃない!?・・・何で、目覚まし止まってるの!?
遅刻しちゃう・・・。今日は全国大会の初戦なのに、・・・急がなきゃ!!」

ベッドから、飛び起きて絡まってボサボサになった長い髪をかき上げると、洗面台へと走った。

「・・・酷い顔。もう、夢見が悪すぎだわ。よりによって何でこんな日にあんな夢・・。」

溜息交じりに、鏡に映る自分の顔を見上げた。

顔を洗って、青い瞳に、茶色のカラーコンタクトを装着する。

急いで朝食を取って、フェンシングのユニフォームとタオル、スポーツドリンクを鞄へと突っ込み
予備のカラーコンタクトと、化粧ポーチを詰め込んで準備完了!!

大学生になってから、1人暮らしを始めた私はこんな感じで毎朝慌ただしく家を出る。

兄も大学病院の側で一人暮らしをしている。

都内の高層マンションに住む父と母と弟の所へは、ここから電車と徒歩で30分程かかるが
毎週末、大好きな家族の元へは帰っていた。

背の高くて恰好良い自慢の父は、毎日研究も家でするし、学会以外は研究室よりもマンションの中に
研究室を作って、母の帰りを待つ一途で情熱的な父だった。

母も、そんな父の情熱に応えるように、いつも笑顔で美味しいご飯を作る。
二人だけで旅行に行くこともあるぐらいラブラブなのだ。

そんな家族の元で育った私が思い切って医大入学と同時に始めた一人暮らしは寂しいものだった。
学校と、競技用の武道場と家との往復しかない生活だけど、忙しく充実はしている。

医学論文の最新のものは父や母から貰えるので、食事をしながら読み漁り、眠りに落ちる間際まで論文を検索してばかりいた。

昨晩も大会の前日だと言うのに、最新の人工心臓置換術の手術法の論文を読んだら斬新な術式に夢中になった私は、読むのを止められず寝たのは日付が変わった時間だった・・・。

「あっ!!お父さんと、お母さんから応援メールが来てる・・・。
那由他兄なゆたにいと、かなでも会場まで応援に来てくれるんだ!?
よし!!・・優勝する気で頑張ろう。」


マンションのエントランスを物凄いスピードで駆け抜けて、駅へと急ぐ。

走りながら、携帯で乗り換え情報を検索しながら夏の茹だる暑さに湯気の出るような
熱気のコンクリートで出来た歩行者用の道路を走っていた。

「やばい・・・。流石に間に合わないかも!!タクシー捕まえた方が早いわ。大会に遅刻
なんて有り得ないよ。最悪!!」

タクシーを探そうと、信号よりもかなり手前の道で立ち止まる。

「・・・駄目だ。車の渋滞にハマった方が絶対間に合わなくなる。」

朝のラッシュで車も渋滞気味な道路の様子を確認した私は、その選択も諦めて駅への近道を
する為に歩道橋を駆け上がった。

長い髪をポニーテールに纏(まと)めて、ポロシャツにスカート姿で必死に走る私の前に
急に銀色の猫が反対方向からこちらに向かって走って来る。

・・・えっ?何この猫!?

立ち止まった私の様子を見た猫は、自分もその場で立ち止まりジッとこちらを見ていた。

色が・・・。

シルバーグレイの猫!?
ロシアンブルーでもないよね・・・。

もしや新種の猫なの!?

驚いて一旦立ち止まった私は、ハッと意識を取り戻し自分の目的が頭に割り込んでくる。

「立ち止まっている場合じゃないわ!!急がなきゃ・・。」

走り出した私の姿を確認した猫は、同じようにこちらに向けて地面を蹴った。

私の前まで来た猫は、私の顔目がけて飛びかかって来た!!

「えっ?!ちょ・・ちょっと、前が見えない!?何なの?」

目の前が真っ暗になった私は、顔に抱き着く猫をそっと抱き上げて自分の顔の前へと
引き剥がす。

「・・・なんなの!?急いでいるんだけど、何か私に用なの?」

銀色に光り輝く猫は、私の目の前で驚いたように目を大きく見開いた。
そして、私の手を振り払うと歩道橋の上の手すりに飛び乗った。

トッ・・。

と身軽に手すりに飛び乗ると、私をジーッと見つめる。

急いでるのに!!

何なのよ・・・。

「・・・美月。我は、君に頼みがあって来たんだ。」

向かい合った人と猫の間には凄まじい心の距離があった。
ポカンと間抜けな表情でその猫を見ていた私は、驚きすぎて現実感のない目の前の
光景にただただ、口を開けたままの姿勢で固まっていた。

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