二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

文字の大きさ
4 / 94
プロローグ

歌を失くしたカナリア。

しおりを挟む

真冬の灰色の雲が広がる昼下がりの頃。

白い白亜の大きな建物が左右に対象にそびえ立っていた。

その建物の正面入り口の近くには、患者さんが散歩が出来るのにちょうど良い
青い芝生の生い茂る公園を有していた。

木陰も出来る程のちょっとした、自然と触れ合える場所。

今にも雪が降りそうな凍える空気の中でその少女は瞳に涙を湛えていた。

広い芝生の隅にあるベンチの上に、その子は、黒いドレスを着て赤茶の髪をポニーテールに結びベンチに座って
白い花を手に持って、大きな声で泣いていた。

その小さな子供の側に、母親がそっと座る。

優しく頭を撫でて抱きしめる。

「歌が・・。私の歌・・・。奇跡の歌なんかじゃない。奇跡は起きなかった!!
もう歌わない。二度と、歌わない・・・。」

金色と空の青が混ざった大きな瞳に不思議な色を湛えた少女は、苦しそうに声を絞り出す。

艶やかな黒い長い髪を1つに束ねて、美しい黒目がちなパッチリした二重の瞳で優しく微笑む母が
しゃがみ込んで、彼女のその美しい瞳の涙を拭う。

「奇跡はね・・・。起きない時もあるのよ?特に人の命にはね、奇跡は平等には起きないわ。
運も、巡りあわせも、置かれた場所の医療技術の違いも・・・。
平等ではない場所で、奇跡は稀にしか起こらないものだからそれを「奇跡」と言うのよ。
だけど、貴方の歌は彼を励まし続けた。・・・幸せだったと思うわ。」

「お母さんみたいに、力が欲しい!!私がお医者さんだったら、治してあげられたのに!!」

「医者は神様じゃないのよ?治せる病気も、治せない病気もあるの。
だけど、貴方がその力を望むなら、将来は医者を目指しなさい。
それが貴方の、新たな生きる目標になるでしょう?」

「・・うん。だけど、私・・・。治せるお医者様になりたい!!どんな病気も直せる医者に・・。」

涙が止まらず、頬に幾重にも涙の筋がキラキラと光り輝いていた。
そんな彼女を優しく抱きしめる母は、彼女に言った。

「貴方は、ふつうの子供よりも早く、大切な人を失ってしまった。
だけどね、美月・・・。忘れないでね。
これは貴方に課せられた1つの運命だったのね・・・。傷ついて、心が痛むほどの
想いをその年で味わうなんて・・・。だけどね、運命の人は1人じゃないのよ?」

その少女は、母のその優しい黒い瞳が大好きだった。
母の指に輝くその母の瞳によく似た石の輝きのように、光り輝く母の強い瞳が。

「貴方にも、またいつか・・。自分の運命を変える人との出会いが訪れるかもしれないの。
その時は、絶対に後悔しないように、その手を離さなければ良いわ。
美月の歌は奇跡の歌・・・。
人を想う気持ちが歌に乗るのよ。
貴方の想いを込めれば奇跡を起こす1つの「要素」になるわ。
貴方に受け継がれた、たった1つの奇跡の魔法なのよ?どうか、否定しないであげて・・。」

その少女は再び、涙を大きな瞳に溜めてポロポロと零れ出る涙に声を上げて母に抱き着いて泣いた。

瞼が腫れ上がり、声が枯れるまで少女は泣き続けた。

あの日の母の言葉を覚えている。

優しく強い母の言葉は最(もっとも)もだった・・・。
尊敬する母、だけど私は母とは違う。

幼い頃から歌が大好きで、いつも歌を口づさんでいた。

イギリスにいた頃から、夢は歌手だった。
希望を届けられる歌を、沢山の人に聞かせるのが夢だった。

しかし私は、その1度の強い喪失感で夢を諦めるような弱い人間だった。

歌を歌うことも辞めて、フェンシングに逃げた。

ただ一つの目標を掲げ、全ての病に打ち勝つ医者を目指して勉強を始めた。

そんな、現実味のない理想を胸に抱いて・・。

そして私は、医大生になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...