二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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プロローグ

心を読む王子。

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アルベルト=ストラリウス=ルード=シェンブルグ。

22歳になるシェンブルグ王国の王子殿下は、高い身長と、手足の長く均整の取れた肢体を持っていた。

見た者はその美しさを忘れることが出来ぬと例えられた美貌を持つ母である王妃と、280年ぶりに生まれたとされる最強の力を持った「祝福の子」である王としてこの国を治める父を持つ。

金糸のような、プラチナブロンドの髪と、海のような大きな蒼い瞳を持つ生まれながらの王子。

シェンブルグ王国の王子であり、魔術騎士団の団長も務める聡明で、膨大な魔力を持った魔法騎士。

天は2物も3物も与えたと評され、近隣諸国にもその並外れた美貌と、王と並ぶ采配力と統括能力を褒めたたえられる豪傑でもあった。

彼の姉であった、王女エリカは8年前に隣国の元王子殿下であった公爵に娶られて2人の子を成し、国境の
要となるルーベリアの領地で幸せに暮らしている。

美しい王子には、舞踏会や、各国の視察の際には常に花に蝶の群れが集うように
色とりどりの蝶が、美しい花であるアルベルトに群がり、気を引く言葉に甘い囁き・・・。

豊満な体を使った、誘惑合戦が繰り広げられていた。

王子には22歳の年齢となり、適齢期である彼の元には、毎日のように結婚話が山のように
舞い込んでくるのだったが、頑なにそれを拒否していることが理由としてあったのだ。

美貌の王子、アルベルト。

彼は22歳の今まで・・、1人の婚約者も持ったことなどなかったのだった。

その熾烈な争いを冷めた瞳で、誘惑の全てを交わす。

誰かを特別に優遇することもなく、王子として完璧な出で立ちと、クリーンでやや潔癖な王子。

表面的には、王子の対面を保ち貴族令嬢たちを賞讃し、舞踏会でのダンスも卒なくこなす。

邪魔な相手には、相手の秘密や、隠したい過去を晒しては遠ざけた。

しつこい者には、そうした頭脳戦を繰り広げ、アルベルトは常に自分の身を守っていた。

男性愛者なのではないかと、元老院は頭を抱え王であり、父であるカイザルに抗議をしたが
カイザルは、本人が望まぬのであれば無理強いは必要ないと元老院のお節介を撥ね付けた。

母であるルナ王妃も、息子の頑なさには不安な表情で問いただしたこともあった。

「この世界では、自分の心を捉えるような女性に出会ったことも・・・。
また、そのような女性に出会うこともないでしょう。」

そう断言して微笑んだのだった。

その理由に、心当たりがあるエミリアンは哀しげに微笑んでいた。

「いつか、お前の前で・・・。偽りのない美しい心を真正面から晒してくるような女性と出会えるといいな。・・・強く、優しい光を持った姫と巡り合えば良い。」

後ろに控えていた宰相には、思い当たる節があったようだった。

切なそうに細められた瞳を、天に向けてそう呟いた。

「あり得ませんよ・・・。そんな女性など、現れません。
私が駄目でも姉がいます。
そして、貴方の子も居る・・。この国は大丈夫だ。」

カイザルと、ルナには黒い月の姿が昔から、頭に過る。

2人は、アルベルトが、元気に幸せに生きてくれているのであればそれでいい。
伴侶や子を望まぬのならば、宰相となったエミリアンの息子に国を継がせれば良いのだと思っていた。

この国は、力を持った王族の中から次の王子が指名される国であった。
今のところ、魔術の力の強さでいえば次の王はアルベルトが指名される予定であった。

その先の時代は、エミリアンやアルベルトら王族の中で最も魔力が強い者が王の位に就く。

更に、アルベルトは、父である「祝福の子」の圧倒的な生まれ持った魔法力には、どう頑張っても
その父に叶わぬ故に、強いコンプレックスも持ち合わせていた。

宰相であるエミリアンは、いつもアルベルトを気にかけていた。

エミリアンの息子である、1歳下のアレクシスと、クレイドルの双子は、
同じ魔法騎士として魔術騎士団に配属されていた。

彼らもまた、王家に生まれた王子の一人で、アルベルトの幼馴染でもあった。

カイザルは、アルベルトの「人の心を読む力」から来る、不信感で苦しむ王の息子を案じていた。

そしてまた、母であるルナも、息子に重い期待と、この国の未来がのしかかっている事に不安を感じていた。

「あの黒い月が大きくなっております・・。」

「イムディーナに先読みを頼んだ。明日、王宮に呼び寄せ、神託を下してもらう。
大丈夫だ、ルナ・・・。
アルベルトは、強い。きっといつか、心から信じれる者との出会いが来ることを祈ろう。
信じる方にも勇気が必要なのだ。
信じられる相手と出会って、その勇気を持てばきっと未来も変わるだろう・・。
私たちが昔、そうであったように。」

東の空には、黒い月の反対の空には銀色の月が輝いていた。

アルベルトは自室の窓から、美しい三日月を眺めていた。

「欠けた月・・・。
まるで、自分のようだ。身内の者以外は、誰も信用できぬ王子など・・・。
王の子であっても、人として未完成な私では、この国を治められまい。
ルーベリアの隣国、アンダルディアが騒がしくなりだした8年前より、この世界の均衡が揺らいでいる。
強くならねばならぬ。」

海のような蒼い瞳は、悲しそうに月の光に照らされ淡く揺れていた。

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