二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

動き出した月。

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城のボールルームには、豪華絢爛なシャンデリアが数々の光の屈折を作り出し幻想的な明かりを床へと降り注いでいた。

美しい彫りと、金箔で仕上げられた白い壁。

金で縁取られた鏡張りの回廊、そして磨き抜かれた白色の大理石の床の上では、色とりどりのドレスを身にまとったご令嬢達と、燕尾服姿の男性達がクルクル回っていた。

楽隊の音楽と、大きなラッパの音が会場の隅々まで聞こえるように鳴り響いた。

赤い絨毯が敷き詰められ、左右対称の大きな階段が下で1つの大階段となり、ボールルームの中央の部分に備え付けられた舞台へと続く。

横幅の長い、ウッド調の階段には、王族達が正装に身を包んで登場した。

王女達もその美貌を引き立てる、豪奢なドレス姿で現れた。

光り輝く美貌の王族達の登場に、集いし貴賓達は興奮気味に羨望の眼差しを向け、息を潜めて見つめる。

そこに麗しの王子殿下たちの姿を確認した令嬢たちは、興奮の面持ちで黄色の声が上がる。

クレイドルにアレクシス、そしてアルベルト。

シェンブルグ王国の独身3皇子が集いし宴は、最高潮の盛り上がりを迎えていた。

「・・おい。美月は??何でまだ来ないんだ。」

割れんばかりの歓声に、王子スマイルで手を振りながら、アルベルトはアレクシスを睨む。

「クレイドルと呼びに行ったら・・・、後で来るって。
俺達と、目立った登場をすると他の令嬢に命を狙われそうだからご辞退致します!!だ、そうだ。
彼女、意外と賢いんじゃないの?」

クスクス笑うアレクシスの姿に、微笑んだままアルベルトは思った。

「あいつ、逃げそうだな・・。」

扉を閉めた途端、大声で後悔して叫んでいたからな・・。


「いつもは紳士的なアルベルトが珍しいな。今日の君は変だよ?
・・・美月のこと、気にかけすぎじゃないか?」

クレイドルは、手元にシャンパングラスを受け取って優しく微笑んだ。

「別に!!・・・あんな女、気になんかしてない。
ただ、急に降って来て、唇泥棒なんて言われて、倒れられて・・・。
はた迷惑な女だなって・・・。」

その言葉は、艶やかに着飾った令嬢たちの登場と共に消えた。

張り付けたような笑顔の仮面と他人行儀な言葉へと切り替わる。

「本日は、ようこそ御出でくださいました。レミリア嬢に、アリシア嬢。
久しいですね。それに今宵もとてもお美しいですね・・・。」

蒼い海のような瞳を細めて、令嬢へと微笑みを浮かべた。

「アルベルト様!!嬉しいですわ・・。今日はいらして下さったんですね?
わたくしと、一緒に踊ってくださいませ?」

「私とも是非に!!宜しくお願い致します!」

「アレクシス様も、是非わたくしと!!」「クレイドル様もこっらへいらして下さい!!!」

美しく着飾った令嬢たちが、シェンブルグの王子たちに群がる。

王子様スマイルを浮かべたアルベルトが、令嬢達に連れられホール中央へと進む。

後ろをチラりと気にしながら、少しづつ足を進めた。

いつもの舞踏会の光景だったが、次の瞬間その場がシンと静まった。

煌びやかなライトが、ボールルームの中央に座した中央階段に光が当たった。

珍しい光景にアルベルトは、時が止まったようにその光が当たる場所を見上げた。

演奏は一瞬止み、そこにはルーベリア王国の女王リリアの姿があった。

リリアと、ルナの間に挟まれた赤いドレス姿の女性が淑やかな礼を取る。

顔を上げてその場所に立っていたのは、赤い薔薇色のドレスに身を包んだ美月だった。

眩い光を放つシャンデリアよりも、美しく輝く美貌を誇る姫君が緊張の面持ちで微笑む。

赤茶色の髪を緩く編み込み、後ろ毛を少し垂らしたまま巻かれていた。

茶色の大きな瞳はまつ毛がくるりと上げられ、美しく目は伏せがちで唇には赤い紅が花の蕾のように
綻び、化粧をしっかりと施された美月はエメラルドのイヤリングと、ネックレスを首に巻いて現れた。

遠方の国から来た、椿姫のようなオリエンタルな美しさに、会場の人々はざわっと息を飲む。
男性たちは気色ばみ、女性たちは眉をしかめた。

ルナ王妃が、リリア女王と美月を挟んでゆっくりと階段を下へと降りてくる。

その姿をカイザルやサフィール、エリカ、エミリアンは微笑ましく見上げていた。

「驚いたな・・。変な格好だったのに・・。こんな、化けるなんて・・。」

アレクシスは目を大きく見開いて、美月を見上げていた。

クレイドルもゴクリと喉を鳴らしていた。

「なんだよ・・。逆に悪目立ちしてるじゃないか・・。
恐ろしい令嬢たちの、嫉妬に塗れた心の声が聴こえる。愚かな女だ。」

美月の姿を見あがると、何故か頬を赤く染めたアルベルトは、令嬢達の恐ろしくドス黒い感情の数々を拾い上げてそっと揺れる青い瞳を反らした。

リリアとルナは、嬉しそうに美月を側において歓談していた。

私は、過去の切ない父と母の物語を、聞けば聞くほどに知らなかった2人の馴れ初めの物語に
驚いていたのだった。

アルベルトは、ご令嬢たちの相手をキラースマイルを浮かべ、思ってもいないお世辞を並べて
まるで回転寿司を手に取るように次々にお相手をしていた。

時折、美月の方を見上げると、彼女の楽しそうな横顔にフィっと視線を反らしてばかりいた。

その視線に気づいた美月はアルベルトの方を見ると、令嬢達が一点集中で群がり彼が一目で何処にいるのか分かる程の存在感を放っていた。

埋もれるように、優しい笑顔を向けて1人1人の言葉に丁寧に答えているアルベルトが見えた。

何だろう、この気持ち・・・。

一言で言うと・・・。

「詐欺師並みの演技力ね・・・。」

何なのあの笑顔!?

あの偽仮面笑顔王子の違和感たらないわ!!!

「アルベルト王子が気になるの・・?」

リリアの言葉に、私は驚いてリリアの方を振り向く。

「はい・・・。」

私の目には青筋立てながら笑っている王子の顔が見えるんですけど!!

「おい、ちょっと黙れよ!!煩わしい。」って、心の中で思った顔じゃない・・。
令嬢たちが可哀想・・!!!

これからあの人は、「似非王子えせおうじ」と、心の中で呼ぶことに決めた。

深い溜息をつくと、リリアが私の顔を覗き込んでサファイアの瞳を大きく見開いた。

「えええっ!?まさか、美月ちゃん・・。アルベルトに恋しちゃったとか?」

「リリア様・・。冗談にしても笑えません。まさかが過ぎます!!!」

「でも・・。さっきから、2人とも時々見つめ合ってない?」

ルナは嬉しそうに、美月を見て微笑む。

「えーと・・・。どちらかと言うと、見張られている感じがしますけど?」

困惑した表情で2人を見るも、違う世界へと旅立たれたお二人は鼻息も荒く盛り上がっていた。

リリアとルナが黄色味の帯びた声で、喜ぶ様子を見て冷たい汗が背中に流れる。

恋バナが大の苦手な私は、食事を取ってくると言って2人の盛り上がるアルベルトとの未来押しの
会話から身を引いた。

ダンスホールから少し離れた場所にあるビュッフェ形式の食事が並べられた場所で
お皿に次々と美味しそうな肉や、魚料理、甘い菓子などを盛って幸せそうに薄笑いを浮かべていた。

「なにこれ!?めちゃくちゃ美味しいわ!!!」

この世界のお料理最高じゃない!!
太ってもいいから、全種類食べたいっ。

「これも美味ですよ?どうぞ・・。」

差し出された皿を持つ長い指の美しさに目を見張る。

優しく低い落ち着いた声音が耳に心地良かった。
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