二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

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異世界。

それぞれの旅立ち。

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「・・・父上??」

父の言葉に、アルベルトの瞳は大きく瞬く。

「欲しい物は欲しいと言えばいい・・。
何も強請らず、王子と言う役割を淡々とこなして人には期待せずに、
諦めてきたお前が・・・。
もし、何かを欲したなら・・。
それは、絶対に手放してはいけない物だ。
私が昔、間違った選択をしたせいで大切な親友を傷つけたように。
逃げても、巡り巡って自分に返ってくる。
いつかその答えは、時が教えてくれる・・・。さあ、行って来いアルベルト。」

強く肩を叩き、眩しそうに微笑む父を初めて正面から凝視した。

「父上・・・。何故・・今、そんな事を言うのですか・???」

「さあな・・。しかし、私にもお前と似たような時があった・・。
・・・それだけだ。」

揺れる瞳を向けたアルベルトは、初めて父を身近に感じて瞳で頷いた。

その光景をルナは微笑ましく見守っていた。

少し離れた場所で、魔術騎士団の精鋭であるシェンブルグの王子が家族に見送られ
惜別の表情を浮かべていた。

アレクシスと、クレイドルの双子は、エミリアンと母クレアと別れの抱擁をしていた。

「父上・・。私は出会うことが出来ました。貴方の言っていた、私の運命を変える人に・・・。」

母とじゃれ合う、アレクシスの横で父のアメジストの瞳と目が合ったクレイドルは
落ち着いた口調で告げた。

「・・・まさか、・・運命って。・・彼女なのか?」

エミリアンの瞳は美月の姿を捉えていた。

「流石ですね・・。血は争えませんね。父上・・・。」

少し驚いたような父の瞳は、次の瞬間嬉しそうに細められた。
昔の懐かしく、切ない想いを噛みしめてほほ笑んだ。

「そうだな・・・。だが、私とお前は違う。
お前は、自分が後悔せぬ道を行けばいい・・。」

エミリアンは、息子を抱きしめそう告げた。

クレイドルは、何も言わなかった。
自分の直感が的を得た事に、不思議と嬉しさを感じた。


優しい父の抱擁は、大人になった今でも温かかった。


ノアが私の側に来て微笑んだ。

「美月・・・。昨日はごめん。君の気持も考えず先走ってしまって・・・。」

「いえ、私こそ・・。何とお返事していいのか、分からなくて・・。だけど、私は今は
自分の使命の事を優先に考えたいのです。
この世界に起きている異変があるのなら、父と母の愛したこの世界を何とかしたいのです!!
私は、男性不信だったけど・・。
この世界の人々と接している内に変わってきた部分があるのです。
閉ざしていた物と向き合いながら、旅をして行きたいと思います。
・・・その全てが終わったら、その先を考えたいの。」

銀糸の髪と、自分の世界では見たことのない赤い瞳・・。
美しく、私が触れることの出来た貴重な男性。

私の過去を形作り、いまの私のトラウマとも関係のある藤君の転生であるノア王子・・・。

ノアは、そっと私の頬に触れた。

私は目を見開いて、彼の瞳に捕らわれる。

「うん、分かっているよ。君はそういう子だった。
自分の課せられた使命を、理解してそれを全うする子・・・。
周りに気を使って、泣き言や、弱みを見せずに自分で抱え込む女の子だった。
だけど・・。辛いときは、言ってね?
私は君の弱音を聞きたい。
・・・君を慰めるのは、いつも私であったように。」

撫でさすような瞳で私を見つめるノアに、張り詰めた緊張と、
少しだけその甘いほほ笑みに高まる心拍が耳に届くように大きく響いた。

そこに居たのは、あの日屋上で私に優しく微笑んだ藤君そのものだった・・。

「有難う・・。だけどね、私あれから強くなったの・・。
誰かに支えられなければ生きてられない自分ではなく。
貴方を失くして、弱かった自分も、依存していた自分にも気付けた。
もしも・・。今度、誰かを好きになる事があるのなら・・。
相手に寄りかかるのではなく、共に歩きたいと思うの。」

・・・だけど、まだ怖い。

誰かを、特別な誰かが出来てしまう事も。
その存在をいつか失くしてしまう不安と向き合うことも・・。

ノアは、驚いた顔で私を見ていた。
想像もしてなかっただろう、私の返答に・・・。

「・・・君は、大人になる内に変わってしまった部分も多くあるようだね・・。
だけど、その君ごと、愛してあげたい。だから、いまの君を知りたい。」

そう言ったノアは嬉しそうに破顔した。
私の手を取って、そこにしっとりした唇で口づける。

「うわあぁぁあ・・。無理です!!!
そんなに見ないで・・。そんな事しないで下さい!!!死んでしまいます!!」

赤面した美月は、その場に倒れそうになった。
近くに控えていたエレクトラが、気付け薬をすぐに飲ませていた。

その様子に驚いたアルベルトと、クレイドルが駆けつけて大慌てで騒ぎ立てる。

余裕の表情を浮かべたノアが、悠然と2人の言葉に笑みを浮かべていた。

側に控えていたエストラは、そのノアの表情を見て不安気に揺れていた。

見たことのない主の様子に、ただ事ではない何かを感じていた。


大きな王城の門は開かれ、大きな馬車が3台出発した。

荷車を積んだ馬車が後ろから2台発進する。

ガラガラ・・。

大きな黒い馬車に揺られた、アレクシス、クレイドル、アルベルト、美月。
前方の青い馬車で進む、ノア、エストラ、エレクトラ(魔術師団)、
クリフト(魔術騎士団)、ルードリフ(副団長)の総勢9名を乗せた一行は
シェンブルグ王宮を出立したのだった。
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