二者択一で転移した令嬢は2つの月の狭間で揺れる。

館花陽月

文字の大きさ
81 / 94
異世界。

大切な存在②

しおりを挟む
アルベルトは、ゆっくりとアレクシスに近づいていく。

宙に視線を向けたままのアレクシスに、優しい声でアルベルトは声をかけた。

「おい・・。アレクシス。凍らしていいか?
お前、お仕置きするぞ・・・。
心配かけた罰だ。
お前が何者でも、魔力が無くても・・・。
僕の幼いころからの大切な友人であり・・家族だ。
今まで何があっても、これからも・・。ずっとそれは変わらない。」

「お前を殺そうと思ったんだ・・。世界を憎んだ。
全てを、兄さんも父上も・・・。
関係なく巻き込まれた美月もだ!!!今まで沢山の裏切りを重ねてきたんだぞ・・。」

力なく、見上げた赤い瞳は涙で揺れる。

本当は尊敬している父と兄、何処かで羨んでいたアルベルトを見渡すと
胸が苦しくなる。

「・・・いいよ。僕も君と同じだ・・。
世界を憎んでいた。
誰も信じられぬ世界で、この力を憎み人と距離を置いて孤独を望んでいた。
だけど、お前の方が苦しんでいたんだな・・。
すまない・・。自分の痛みばかりに目を向けていた僕を許してくれ、アレクシス。」

青い瞳から、涙が溢れたアルベルトはそっとアレクシスを抱きしめる。

解けていく心が震えていた。



「パリーン・・・。」

中心が黒くなった緑色の魔法石の巨大な結晶が割れ落ちる。

剣の取ってに嵌められていた大きな結晶は無残にも砕け散った。

剣に埋め込まれていた大きな宝石が、同じように粉砕する、
パラパラとその場に砂のように砕けて飛び散っていた。

「・・・もう必要ない。私には、魔法など・・。罪を償うよ・・。アルベルト・・・。」

「そうか、取りあえずお前をこの場で凍らしていいか?
落ち着かないんだ、お前が凍っていないと。」

その言葉に、プッと噴出したアレクシスはアルベルトの腹にパンチを入れた。

「・・・もはや、趣味だな。俺を凍らせる行為が。」

「馬鹿野郎!!!・・・お前、心臓止まるとこだったぞ!!兄を撃つなよ。」

クレイドルが、アレクシスの頭をスパーンと叩いた。

「・・・避けるなよ、兄貴。日頃の恨みで一発はお見舞いしたかったな。」

「撃たれてたまるか!!この馬鹿弟がっ。」

珍しくむきになったクレイドルは本気で、アレクシスを何度も叩き出した。
私は、仲良しの幼馴染のじゃれ合いを微笑ましく見つめていた。

「魔力や血で優劣は決まりませんよ・・。自分を大切に想う人がいてくれれば、それだけで
いいのかもしれません。少なくとも、私の世界では魔力なんてないけど・・。
だけど、家族や友人や、人との出会いから・・。生きる希望をもらって生きています。」

その言葉に、驚いた表情でアレクシスは私を見上げた。

「アレクシスは、居てくれるだけで明るくなります。貴方だけが使える魔法のようですね。」

青い瞳を細めて笑うと、アレクシスは嬉しそうに赤い瞳を輝かせた。

「・・・美月!!ありがとう。大好きだよ!!」

立ち上がって、ガバッと抱きしめると私の頬に優しく唇を落とした。

私は、ポカンとした表情で瞳を彷徨わせた。

ハッと我に返ると、アルベルトとクレイドルは怒りの形相を浮かべていた。

「・・・あ、ああぁぁぁぁあぁ!!!今、どさくさにまみれて美月に何をした!?」

冷静さを失ったアルベルトは、帯剣した腰の剣の持ち手に手をかけた。

「お調子者だからといって、何をしても良い訳ではないんだぞ??」

クレイドルも、アレクシスを睨みながら今すぐにでも魔法を繰り出しそうな勢いだった。

エミリアンが、アレクシスの肩を叩いた。

「お前の気持ち・・。嬉しかった。私もよく分かるよ・・。
迷ってばかりだった、お前の頃は正しさなんて見失ってばかりいた。
誰も信じられず、両親からも疎まれて・・・。
そんな時に、あいつらと出会ったんだ。」

「エリカ・・ですか??異世界からの歌姫・・・。」

「ああ・・。彼女に会って、カイザルと話して・・。そうだな、あの時に
私の世界は変わった。人を信じようと思ったのだ・・・。
お前の事も信じていたよ、アレクシス。」

その言葉に、さっきまで涙が引いていた瞳は潤み両頬に涙の線が伝った。

「父上・・。ごめんなさい!!!私は・・。本当に申し訳ありません・・でしたっ!!」

優しくわが子を抱きしめたエミリアンは、アレクシスの黒髪を鳥の巣のように
ぐしゃぐしゃにかき回した。

「私の元に、再び帰ってきてくれて良かった・・。お帰り、アレクシス。」

その言葉に、アレクシスの涙腺は決壊して強く父の胸に抱き着いた。

その光景を、嬉しそうにカイザルは見守っていた。
アルベルトと、クレイドルも微笑みながらその姿に安堵していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...