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異世界。

神の声。

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「救うよ、この世界も・・君も返してあげたい。
・・・命を懸けて最後のあの女の呪いと戦う。
だから、美月・・。僕たちに力を頂戴。兵器にも負けない、物凄い力を。」

「無茶苦茶言わないでよ・・。出来るか分からないよ?
でも、私たちの世界で作られた兵器のせいでこのままこの世界が
終わりを迎えるなんて許せない・・。
ルナ様や、リリア様・・。父と母が愛した世界と人々を守りたいと思うわ。
だから・・・。」

ぎゅうっと下唇を噛みしめて、息を吐いた。

「・・・行ってらっしゃい。」

少し体を離して、アルベルトを見上げるとありったけの笑顔で微笑んだ。

スッと涙が流れるように落ちる。

「美月。ありがとう・・。行ってくる!!」

アルベルトの優しい声を聞くと、決意が揺らぎそうになる。
私はぎゅうっとその背を握りしめた。

「皆の為に、力を与える歌を歌う・・。そして神に祈るわ・・。
だから、みんな気を付けて行ってきてください。どうか、無事に帰ってきて・・。」

私はアルベルトの体から離れると、涙を拭ってみんなに背を向けた。

息を大きく吸い込むと、水の間へと歩き出す。

止めたい・・。
だけど、止めてはいけない。

彼らの想いを知っているから・・。

大切な人が暮らすこの世界を守りたいと言う思いを理解しているから。

水の間に一歩踏み出す。

パシャン・・・。

青い瞳を大きく見開いて、決意を湛えた瞳にもう迷いはない。

響く水の音と共にその扉は静かに閉じられた。

「・・・カイザルとアルベルトはシェンブルグへ。
僕とルードリフとアレクシス、エミリアンはルーベリアへ・・。
エリカと、ノア王子、クレイドルはアルベルディアへ飛ばす。
皆、僕に捕まって飛ばすよ・・。」

各々が深く頷いて、自分の大切な故郷を想った。

大切な人たちが消え去る未来など、見たくなかった・・。

大きく輝く光の玉は、3つに分裂してそれぞれの国へと放たれた。


私は歌う・・。

この世界の人々を想い、この世界で出会った人々を思い出しながら。

色々な出会いと別れが、胸を過る。

誰も愛せない、誰も愛さないと決めていた私の心を動かした出会いが脳裏に呼び起こされる。

喧嘩ばかりしていた・・。

だけど、いつも私を見ていたあの青い澄んだスカイブルーの瞳。

歌は切なく高音を奏でる。

心を込めて、神様に私の願いを聞き届けてもらう為に・・・。

赤と白の巨大な王城の上空へと飛ぶ。

金で装飾された美しい白亜の神殿は夕闇に照らされた玉ねぎに似た屋根は美しい光を放っていた。

アラビアンな建築のような白亜の御殿。

「もう・・・。夕暮れの時間か。コンビクションタワーの中で・・長い一日を過ごしたな。」

ノアは、ため息交じりに8年間暮らした王城を愛おしそうに見つめた。

必死にアルベルディアを立て直そうとした数年間・・。

嵐のような年月の経過を感じる。

イムディーナから渡された魔法石を握りしめて、優しく目を細めた。

庭園は、美しく整備されて水の潺の音や、噴水の音・・・。

木々や花の揺れる音がした。

「静かですね・・。もうすぐここに、全てを消し去る兵器など飛んでくる気配などない・・。」

クレイドルが薄く笑う。

「もうすぐよ。ここは放たれたら一瞬で到達するわ・・。
魔力の強大なシールドを作るわ・・。みんな、力を貸して!!!」

その言葉に2人は強い瞳で大きく頷いた。

緑の瞳を強く向けた美しい姫君は、手を翳し宙に大きく広がる盾を築き出した。

クレイドルも、ノアも、その盾に魔力を注ぎ込んだ。
 


時同じくして、シェンブルグ王城の上空へと飛んだカイザルとアルベルトは真下に
見える王城を見下ろした。

「ルナがいる・・。お前と暮らした年月は22年にも及ぶのか・・・。
生まれた日が懐かしい・・。お前の声を聴いた時、涙が出たよ。」

父の言葉に、驚いてその青い瞳を見上げた。

「父上が・・??意外と涙脆いんですね・・・。」

クスリと笑ったアルベルトを小突くと、カイザルは懐かしそうに呟いた。

「人生で4度だけだ・・。私が泣いたのは。アルベルトが亡くなった日から、泣いてなかったよ。」

その言葉に、青い瞳が揺れた。

「そうなんだ・・・。誰もいない場所で初めて過去の話を聞けた気がします。
・・・僕は、劣等感の塊でした。
優秀で名が通る名君の息子として・・どんなに鍛錬しても貴方に届かなかった。
焦っていました・・。だけど、今は国を見たいと思います。民の暮らしを守りたいと・・。」

ラピス色の青い瞳を持つ父は、優しく微笑む。

「ゆっくりでいいんだ。国を守ると言うのは民を愛する気持ちや、自分以外の誰かを幸せにしたいと
思うところから出発するのだと・・私は思う。お前は、その相手を見つけたのだろう?」

「父上、僕は・・。異世界から来た彼女・・。美月が好きです。死んでもいいほど、だけど・・
世界が違う僕たちに未来などないのです。こんなに離れたくないのに・・・。」

その言葉に、薄く笑ったカイザルは嬉しそうにアルベルトを見上げた。

「そうか・・。それなら生きてまた彼女に会わなきゃな。そのまま伝えればいい。
いいか、簡単に諦めて、離しては駄目だ・・・。
自分の素直な気持ちと向き合って、後悔しないような・・。納得のいく選択をしなさい。」

その言葉に、アルベルトの青い瞳は揺れた。

「・・・なんてな。ルナの父に私も言われたんだ。
悩んでいた私に、義父は優しく抱きしめて励ましてくれた。アルベルト、何処にいても
私はお前の幸せを祈っている。母上も同じ気持ちだ・・。」

「父上・・。有難うございます。シェンブルグは、私の生まれ育った国・・。
この国を守れたら、きっと・・・。」

アルベルトは、噛みしめるように強い決意を胸に抱いた。

カイザルはマントを翻して、優しくアルベルトの髪に触れる。

夕焼けの光を受けたルナと同じ金色の髪は柔らかく、自分の青を受け継いだ瞳は揺れていた。

帯剣していた剣を取り出して、巨大な光の盾を作りだす。

アルベルトも自分の剣を抜いて、目を閉じた。

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