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異世界。
美月の決意。
しおりを挟む「ルーベリア・・。医術の国か・・。」
アレクシスは、上空で魔法石をぎゅうっと握りしめる。
イムディーナは、アレクシスを見て優しく笑った。
「昔は、医術も遅れていたんだ・・。美月の母が、王都で暮らす病の子供や
民を王城に建てたテントで診察して治療したんだ。
そこから、始まったんだよ・・・。今のこの医術に秀でた国の歴史は。」
金色の瞳を懐かしそうに、イムディーナは遠くに沈む夕焼けを見ていた。
「歴史に名を残そうでも、有名になりたい訳でもなく。ただ、人を助けたいと
思う彼女の気持ちに賛同した者たちが沢山現れた。
アレクシス・・。そなたもこうして命を懸けて戦おうとしている。
それすらも未来では、語り継がれる英雄になるかもしれないな・・。」
「いいえ・・。私は、みなを謀り・・。
こうして危険に晒してしまう要因の1人と
してそのケジメをつけに来ただけです。
私など魔法石の力を借りなければ力もない・・。」
ルードリフは、その言葉に悲しそうに眉を顰めた。
「アレクシス様の剣術や策は、素晴らしいです。
貴方の努力は、団でよく見ていましたよ。
あの団長の鬼のシゴキにも笑顔で耐えていらした・・。珍しいタフさをお持ちだと思います。」
「あははは・・。
アルベルトは鍛錬と言うよりも、シゴキという言葉がピンと来るな。
ここまで有難う、ルードリフ。
・・・お前まで、巻き込んでしまってすまなかった。」
アメジストの瞳は優しく、ルードリフを見つめた。
「アレクシス、もう「孤独」の呪いは解けたようだな。
そろそろお前達の力も解き放たれる
やもしれぬぞ??魔法の力・・・。
その力の封印が説かれるかもしれない・・。」
「呪い・・。魔力の封印?」
「願え、アレクシス。心の強さが試されるが・・。
お前はきっともう呪いが解けたはずだ。
使えるはずだ・・。お前の本当の魔術が・・。」
「そうだな・・。3王子にかけられた呪いは解かれたはずだ。
漆黒の月の夜明けと共に、お前たちの本当の力を目覚めさせるんだ・・。」
エミリアンは、優しくアレクシスに微笑んだ。
魔術・・。
魔力ゼロの私に・・力が??
驚きに震える体に、エミリアンは強い瞳で頷いた。
自分も・・。使えるのだろうか??
魔術の国で育ち、魔力を全く持たない自分が魔法石なしの魔術を・・。
イムディーナは、長い杖を構えて大きな障壁を築き上げる。
それを見た、アレクシスは右手に握った魔法石をぎゅうっと握りしめた。
いつか夢見た魔術が使える自分の姿を思い描いて目を閉じる。
エミリアンとルードリフ、アレクシスもそれを強固にすべく持てる力を注いだ。
ザァァァァ・・・。
水の間の滝に、3つの国の王城が映し出される・・・。
それぞれが、各々の術式で防御を固めている光景が映る。
私は、もう数分後に迫った発射の時間に震える肩を揺らした。
「・・発射、1分前・・・。」
母の子守歌は、優しく歌われた。
愛しい者たちへと、この想いを届けるように・・・。
タロスの鏡と、オルカの鏡が輝き天井の窓から3方向に光が差し始めた。
< ここで祈り、美しい歌を歌いし者よ・・・。我の力を欲するか?>
天井から聞こえる厳かな声に、私はビクリと体を揺らした。
恐る恐る、見上げながら歌を止めた・・。
「欲します。この世界を救うために!!私は、・・その為の選択をします。」
青い瞳は、大きく見開かれ祈りを込めて想いを伝える。
ぎゅうっと胸の前で合わされた手は緊張で震えていた。
だけど、私は伝えなければいけない・・・。
あの3つの国を守り、この世界を平和に導く為の選択を。
水の音がポチャンと落ちる・・。
水の間は、キラリとオルカの鏡が輝き、反対面の神棚にはタロスの鏡が輝いていた。
滝の3面に映し出された映像を見ると、皆が各々の戦い方で備えていた。
<お前は、あの銀色の月ではなく、漆黒の月のほうが美しいと・・・。言っていたな。>
「はい・・。今でもそう思います。
わたしはいつか見たいんです・・。
あの黒い月の後ろに隠れた、この世界の本当の月の輝きを。」
アルベルトと話した日の光景が頭に浮かんだ。
舞踏会の夜・・。
まるで皆既日食みたいな漆黒の月を見上げた。
あの日、アルベルトをこんなに好きになるなんて思わなかった。
我慢していたのに、涙が一筋頬を伝った。
アルベルトが・・。ノアが・・。イムディーナやクレイドル。
エリカ様・・。アレクシスやカイザル、エミリアン、ルードリフ・・・。
みんながそれぞれの場所で、このタワーから放たれる誘導弾で消え去る光景が目に浮かぶ・・。
そんな不吉な想像を、頭を振るって追い出す。
一瞬で、王城どころか王都のほとんどが吹き飛んでしまうだろう。
「神様・・。私はここで歌い、祈ることしかできないんでしょうか?
・・・私も闘いたいのです。」
もし・・。
このタワー内に発射を管理するシステムがあるのなら、それを壊せばいい。
それしか・・。彼らを救う方法はないことを薄々解っていた。
魔術や、神力だけじゃ・・。
一瞬で全てを壊滅してしまう、人の作った科学兵器には叶わない・・。
「神様・・。私に力を下さい。ミサイルの発射システムを破壊する力を!!」
<このコンビクションタワーの最下層に、セットされた制御装置がある。
それを破壊すれば、お前が危惧している世界の破滅は回避されるだろう・・・。
しかし・・・。しくじればこの世界は、お前が大切に想う者たちは消え去ってしまう。>
解っている・・・。
そんな事は、震える程の恐怖に眉を顰めた。
「神様、私には神力はありませんが剣技と少ないですが魔法が使えます。
どうか、その場所へ私を導いて下さい!!」
長いポニーテールが揺れた。
水がかかった騎士服は少し冷たく感じた。
ギュッと唇を噛みしめた私は、強い青の瞳で天井を仰いだ。
・・・返事はなかった。
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