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一章 クビになりました。

勇者選び

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しばらくベックと話していると、シュタインが目を覚ました。

「いやはや、参りましたな」
シュタインは髪をかきあげ、やれやれと首を振る。

「死んでますね。ここが外なら。来るとわかっている魔法をリジェクト出来ないとは、、、不服です。回復しなくても平気なように鍛えてきたはずなんですが」

「お前さん、ほんとに魔法耐性あるのか?気持ちよさそうに寝ておったぞ」

ベックが訝しげにシュタインをみる。
シュタインは首をふるふると振るばかりだ。

周りを見ていると、会場のテーブルはほとんど埋まっていた。
どのテーブルも、一席が空いており、他の椅子は埋まっている。

エルフ、獣人、巨人、ドワーフなど多種多様だ。
一番大きなテーブルには17名座っている。驚くことに、皆女性だ。


「お集まりの皆様」
壇上にはピリストが立っている。
本日の司会、と言った様相だ。

「勇者パーティのメンバー決め、お疲れ様です。皆様は探索隊、あるいは斥候の役割を果たすべくパーティを組んでいただいています。資本金はパーティ人数に応じて用意します」

なんだ、そしたら多いパーティは動かせるお金が大きいな。
先程の女性パーティは、やったと騒がしく喜んでいる。

ピリストは、手を叩き、静粛にと言い
「皆様のパーティに、残り一席ずつ空きを設けさせて頂いています。その一席には、我々が選抜した勇者に座ってもらいます」

参加した巨人が質問する。

「勇者の選抜基準が知りたい。俺より強いのか?」

ピリストは巨人を一瞥し、淡々と答える。

「選抜基準は、様々です。貴族の出自、潤沢な資本があるもの、戦闘に長けたもの、魔法に長けたもの。これからみなさんは、自分たちのパーティに入れる勇者を選んでもらいます」

ベックとシュタインと目を合わせる。

「場合によってはお守りをせにゃならんやつになるかもしれん、と」

「貴族や金持ちは冒険の足手纏いになりそうですね。名声目当てでしょうか。避けたいですね」

周囲もざわざわしている。
すると、扉が開き勇者が入ってきた。

剣士、魔法使い、戦士、僧侶、シーフなど様々なジョブのものが歩いている。
しかし、種族は人しか居ないようだった。

ピリストは手を叩き、注目を集める。

「それでは、勇者たちのアピールタイムです」

一列に並んだ勇者達は、端から自己紹介を始める。
6人目が前に出た時、僕は心底驚いた。

僕がBBを抜ける羽目になった元凶、僕のかつての仲間を弄び、そしてリーダーが死ぬ原因になった男、ブラストが立っていたのだ。

ブラストは自分の背丈ほどもある杖を持ち、高すぎる山高帽で異彩を放っていた。

目はギラギラとしており、血色もいい。

BBの仲間を酷い目に遭わせたアイツを成敗するために、パイルーの修行を受け始めたのだ。

僕はイラつきを抑えられず、席を立ってしまう。

が、こちらが声をかける前に、向こうが先に気づいた。

「おや、クソ雑魚魔術師のボルサリン?ボルサック?なんだっけ、まあいいや。クソ雑魚。なんでお前みたいな虫ケラがここにいるんだ?ここは魔王を倒す精鋭だけが居られる場所だぞ?」

ブラストはニヤつきながら僕を指差す。

「おい、勇者候補のみんな。こいつだけはやめておけよ、こいつはまともに魔法も使えない癖に魔術師を名乗るゴミだ」

ブラストは舞台俳優のように、わざとらしく声を張る。

「お前が首になったパーティ、BBはひどいところだったぞ。実力相応に潰れたがな」

「全部お前のせいだろ、ブラスト。ブローザから全て聞いたぞ。お前がパーティの輪を乱して、リーダーをハメて殺して、それで潰れたんだろ」

ブラストは手を広げて、やれやれと言う。

「ブローザね。あいつは惜しかった。顔も綺麗で良い身体してたのに、ちょっと可愛がってやったら逃げやがった。あいつが居なくなったから、俺の可愛い奴隷が回復できずに何人死んだと思う?大損害だよ。あいつはどこに行ったんだ?見つけたら今度こそしっかり躾けてやるよ」

ピリストが間に入ってくる。

「おや、あなた方は面識があるようですね。パーティ結成ということでよろしいですか?」

よろしいわけないだろう。
そう思うと、会場内の誰しもが、ブラストとだけは組みたくないと顔を俯かせている。
ピリストはこの場をいち早く収めるべく、厄介者を僕たちに押し付けるつもりのようだ。

ドワーフのベックが怒りの声を上げる。

「黙れ!こんな鬼畜、絶対わしのパーティには入れんぞ。お前さん、勇者パーティをなんだと思っとる!こんなもん連れてくるな!うまく行くもんも上手くいかんぞ!」

ブラストが杖をこちらに向け、声を荒げる。
「おい、クソドワーフ。口が過ぎるぞ。生涯喋れぬ身にしてやろうか」

「やってみろクソガキ。返り討ちにしてくれるわ」

※サンダーボルト

ブラストが雷魔法を放ってきた。
シュタインが間に入り、片手で受け止める。

「冬の静電気以下ですね。」

シュタインは、本当に魔法耐性があるようで、全く聞いた様子はない。

「なん、だと?、、、」

ブラストはひどく混乱した。
あらゆる屈強な男も、自尊心が高い女も、この電流で奴隷にしてきた。

目の前の僧侶は、電流を受けてなお、全く効果が見られない。

「もう一度だ」
※サンダーボルト!

ブラストは先ほどより威力を上げて放つ。

「おお、マッサージ機くらいになりましたね」
シュタインはダメージを受けた様子もない。

「ブラストさんでしたか?殺す気で来なさい。次、私を仕留めきれなければ、貴方を殺しますよ」
シュタインは手にメリケンサックをはめ、一歩一歩近づく。

※サンダーボルト
※サンダーボルト
※ファイヤボール
※ウインドカッター
※ウォーターカッター
※サンダーボルト

「サンダ、、、」

シュタインは、魔法を乱れ打つブラストの頬を掴むと、床に叩きつける。

「貴方、そんな稚拙な腕で、うちのボルサリーノさんを侮辱したんですか?愚かすぎますね」

そういうと、メリケンサックをブラストの顔面に叩き込む。

ドスっ、ドスっ、ドスっ

………

二分は続いただろうか。
シュタインの周りは血溜まりになっていた。

「もういいですよ、シュタインさん。怒ってくれてありがとうございます。」

「いえいえ、ところでお願いなんですが、私を止めてくれませんか?ボルサリーノさん。私、一度スイッチが入ると止まらなくて」

ドスっ、ドスっ、話しながら殴り続けるシュタインの眼球が黒く染まっている。

※スリープ

シュタインは、スッと眠りに落ちた。

「やれやれ、とんだ暴れん坊を迎え入れてしまったのう」
ベックは髭を撫でながらシュタインを見る。

「まあ、僕ならいつでも眠らせられますから」

僕はシュタインの瞼を広げ、眼球を確認する。
白い。
さっきの黒い眼球は見間違いだったのだろうか。

肉塊とかしたブラストを見る。
まだ、息はあるのだろうか。

ピリストが飛んできて、ブラストの生死を確認する。

「回復術が使えるものは、直ちに回復を!彼は強力なスポンサーの息子です。ここで彼が死んだら、皆さんを殺しますよ!」

言っていることがめちゃくちゃだ。

周囲の何人かが立ち上がり、怠そうに回復魔法を唱える。

肉塊が少しずつ人の形に戻る。
ううっと息を吹き返すブラストは、ブルブルと震えて顔を床に押し付けている。

「ピリストさん、もし彼を僕らのパーティに押し付けようとするなら、彼はすぐに死にますよ」

僕はピリストに釘を刺す。

ピリストは、イラつきを隠さずにこちらをみる。

「そいつは俺たちがもらおう。俺も魔法が効きづらい。」

巨人が歩いてきて、ブラストを摘む。

ピリストは巨人を睨む。
「殺さないでしょうね」

巨人はふふっと笑う。
「俺たちは殺さない。こいつが自ら死なない限りはな」
巨人は大きな手で、ブラストの尻を撫でる。
「冒険に死は付きものだ。世間知らずなスポンサーによくよく言い聞かせるんだな」

ブラストは両手で顔を覆い、ブルブルと震えている。

僕は、ブローザが泣きながらブラストを殺したいと言っていた様を思い出し、今のブルブル震えている姿を見せてやれないことが悲しくなった。

ブラストは、きっと死ぬよ。
ブローザは喜ぶだろうか。
きっと、どっちでも良いのだろう。
ブラストが死のうが、死んだように生きようが。

僕はブラストへの怒りが溶けていく感覚に身を包まれた。
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