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2話 カラス
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山の麓の歓楽街から向こうへ渡した大橋の上、二つの仮面に向かい立つ男が言う。
「神よ、そこをどけ。」
「ドカヌドカヌ。」
「行かせぬ生かせぬ。」
踏み出す足を阻止しようと、二つの仮面がゆらゆらと行く手を塞ぐ
苛立ちを隠せぬ様子で男は、己の髪をガシガシを乱暴にかく。
真夏の蚊のごとく目障りに飛び交う仮面と対峙し、言い争う喧騒にハサミを入れるようにカランコロンと下駄の小気味のよい音が響いた。
「カーッ!なんでキミたちは仲良く出来ないんだい?」
さやさやと揺れ動く木漏れ日の中から珠鈴に似た声が風に乗って駆け抜けた。二つの目玉と四つの穴がその声の主を見やる。
「カラスダカラスダ」
「嗚呼…縁起が悪い見栄えも悪い」
「カラスよ、誰もお前など呼んでないぞ。」
カラスと呼ばれた小柄な少女?にも見まがう美少年?は、背中に生えた黒く光った羽を一度広げた。身体の倍ほどもある翼は異形でありながらも神々しく、息を飲む美しさを孕んでいた。
服装は落ち着いた色合いで纏められ、装飾が上品に添えられた和装で包まれており、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。表情も柔和で愛嬌があり、好かれそうな容姿をしていた。
しかし、彼もまたヒトガタではあるが、人ではない何かなのだろう…。
「カーッ!冷たいねぇ、冬の行水のほうがまだ温かいよ。こんな場所で言い争っているんだ、声ぐらい掛けるさ」
「ふん、俺は降りかかった火の粉を払っただけだ」
大仰に肩をすくめるカラスと呼ばれた美少年に、男は素っ気なく無実を主張した。その後ろでは二つの仮面が集まり、ヒソヒソと言葉を交わしていた
「クワバラクワバラ」
「カラスは良くない関わるな関わるな」
意見が一致したのか、別れの挨拶もなしに二つ面は男とカラスとは反対方向へ消えていく。
無言でそれを見送るとカラスは口を開いた。
「で…、ノコノコはこんな所で何をしているんだい?」
「どこで何をしていようと俺の勝手であろう。それにノコノコと呼ぶなと何度も言っただろ?」
仏頂面の中に少々の怒りを滲ませる。
「カーッ、そうだったすまないね。壱。ボクはキミにとっては数少ない友人なのだからぞんざいにあしらわないでくれよ」
「ただの散歩だ…別に何かを探してた訳じゃあない」
「カーッ、なるほど探し物ねぇ~」
言い終わるや否や歩き出した壱を小走りで追いかけ、カラスは推理を始める。
「探し物なんかしてないと言っただろ?」
「探し物してたの?なんてボクは聞いていないよ」
「……ちっ」
「ボクはキミのそういうところが好きだよ」
壱はカラスを一瞥し、バツの悪そうな顔でその足を早める。
その後ろをカランコロンと小気味の良い音が続いた。
「神よ、そこをどけ。」
「ドカヌドカヌ。」
「行かせぬ生かせぬ。」
踏み出す足を阻止しようと、二つの仮面がゆらゆらと行く手を塞ぐ
苛立ちを隠せぬ様子で男は、己の髪をガシガシを乱暴にかく。
真夏の蚊のごとく目障りに飛び交う仮面と対峙し、言い争う喧騒にハサミを入れるようにカランコロンと下駄の小気味のよい音が響いた。
「カーッ!なんでキミたちは仲良く出来ないんだい?」
さやさやと揺れ動く木漏れ日の中から珠鈴に似た声が風に乗って駆け抜けた。二つの目玉と四つの穴がその声の主を見やる。
「カラスダカラスダ」
「嗚呼…縁起が悪い見栄えも悪い」
「カラスよ、誰もお前など呼んでないぞ。」
カラスと呼ばれた小柄な少女?にも見まがう美少年?は、背中に生えた黒く光った羽を一度広げた。身体の倍ほどもある翼は異形でありながらも神々しく、息を飲む美しさを孕んでいた。
服装は落ち着いた色合いで纏められ、装飾が上品に添えられた和装で包まれており、どこか高貴な雰囲気を漂わせている。表情も柔和で愛嬌があり、好かれそうな容姿をしていた。
しかし、彼もまたヒトガタではあるが、人ではない何かなのだろう…。
「カーッ!冷たいねぇ、冬の行水のほうがまだ温かいよ。こんな場所で言い争っているんだ、声ぐらい掛けるさ」
「ふん、俺は降りかかった火の粉を払っただけだ」
大仰に肩をすくめるカラスと呼ばれた美少年に、男は素っ気なく無実を主張した。その後ろでは二つの仮面が集まり、ヒソヒソと言葉を交わしていた
「クワバラクワバラ」
「カラスは良くない関わるな関わるな」
意見が一致したのか、別れの挨拶もなしに二つ面は男とカラスとは反対方向へ消えていく。
無言でそれを見送るとカラスは口を開いた。
「で…、ノコノコはこんな所で何をしているんだい?」
「どこで何をしていようと俺の勝手であろう。それにノコノコと呼ぶなと何度も言っただろ?」
仏頂面の中に少々の怒りを滲ませる。
「カーッ、そうだったすまないね。壱。ボクはキミにとっては数少ない友人なのだからぞんざいにあしらわないでくれよ」
「ただの散歩だ…別に何かを探してた訳じゃあない」
「カーッ、なるほど探し物ねぇ~」
言い終わるや否や歩き出した壱を小走りで追いかけ、カラスは推理を始める。
「探し物なんかしてないと言っただろ?」
「探し物してたの?なんてボクは聞いていないよ」
「……ちっ」
「ボクはキミのそういうところが好きだよ」
壱はカラスを一瞥し、バツの悪そうな顔でその足を早める。
その後ろをカランコロンと小気味の良い音が続いた。
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