神隠し ノコノコ ~迷い込んだ好奇心の化け物編~

みくたま

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10話 少し泣いた

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「ボクはもう知らないんだよっ!先に帰らせてもらう」


 言い捨てるとカラスはスタスタ林の奥へと進んでいった。取り残された壱とミカは互いを一瞥した。数秒間の間を置いて先に口を開いたのはミカのほうだった。


「追わなくて平気なのでしょうか?」

「あ…いや、その…あいつのことは別に…」

「私の事でしたらお構いなく…、お聞きしたいこともいくつかありましたけど、この音の行方が気になってますので調べようかと」


 ミカは顔の横辺りに手を持っていき、空中を指差した。澄ませた耳に運ばれるのは祭囃子の笛太鼓。連日繰り返される、終わりない神の宴の音である。
 壱が一瞬、気を取られてる間に、ミカは手早くブルーシートを纏め出立の準備を整えた。


「では、隊長!私は調査を進めますのでよしなに」


 額に手を当て敬礼ポーズをし、ミカはザッザッと音のする方向へ行軍を始めた。


「待って待って待って!ダメだよ、人間が行くのは少し危ない…気がする」

「危ない?何がですか?この先に何があるか壱さんはご存知だと?」


 壱の呼び止めに反応し、ミカはグイッと顔を寄せる。距離感の近さと薄明かりでぼやけていた彼女の整った顔が、鮮明に映し出され壱の視界に飛び込む。
 思わず目を背ける壱をミカは逃さなかった。


「おやおや、目を逸らすとは何かを知っている証拠ですね?詳しくお聞きしたいですね」

「くっ…、詳しくも何も…神たちがいるだけだよ…」


 迫るミカの圧力を両手で制して、物理的な距離を図る壱。


「神たち…とは?カラスさんが大量発生してるということですか?…それはそれで興味深いですね。…私には代わりは居るもの…的な話ですよね?」

「いや、それは何を言ってるかよくわからいけど…」


 一人ごちで納得した様子のミカは懐からサッと取り出したメモ帳に記載している。そして書き終えたのはパタンとメモ帳を閉じると再び歩みを進めた。


「ど、どこ行くんだよ?」

「この目でカラス軍団を確認したいと思います。どうしても止めたいのなら私を倒して行ってください!」

「…多分、使い方逆だよ?進みたいなら倒せ的な…」

「勉強になります」

「それと悪いけど、カラス軍団は居ない…。居るのはもっと変な連中ばかりだ…人間を毛嫌いした話の通じない異形の衆さ…」


 言いながら壱の表情に影が宿り、声色からどこか憎しみや恨みを感じたミカは歩みを止めた。


「何か…あったのですか?」

「ああ、ごめん。別にそんな大した事じゃないから!それよりどうしても見たいなら俺も付いてくよ。道案内も出来るし、遠くから眺めるくらいなら問題ないだろうから…」

「良いのですか?私としては助かりますけど…、無理なさらずお帰りになられても…」


 壱のから元気にミカはいぶかしむのと同時に気遣いを向ける。その何気ない優しさに壱も答えようと――


「だっ…大丈夫です!隊長!!」


 暗くなった場の空気を少しでも暖めるため、無理をして声を張る壱。ミカを真似した敬礼ポーズをするが慣れない気恥ずかしさで、背中に汗が流れるのを感じた。


「…え?なんですか、その変なポーズは?急にワケがわかりません」


 壱は…少し泣いた。
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