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21話 いい意味ですよ?
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五段座布団の上、全身をわななかせて両手を見つめるミカの目は瞳孔が開いており、迫真に迫っていた。
その様はさながら高座に上がった落語家の如し。当時の彼女の手はそうとうに汚れていたのだと目に浮かんだ。彼女の持つ意味不明な演技力に固唾を飲み、壱とカラスの二人は次の口上を待った。
「さて、この後に私のとった行動とは一体なんでしょうか?」
「カーッ!なんで急に問題風ぅぅっっ!?」
「えっと…、持っていた水で手を洗ったじゃないか?」
「壱ぃっ!なんでキミは普通に答えてるんだい!?」
「おやおや、壱さん鋭い観察眼ですね?確かに私は先ほど壱さんたちに水を振舞いました。その時の伏線を回収したという訳ですね。偉い偉い」
パッと壱へと顔を向けると、わずかに口元をほころばせて優しげな笑顔で褒める。満更でもないといった様子で鼻の頭をかく壱にカラスは抜け落ちた己の羽を投げていた。ふわりふわりと空気の抵抗に阻害され、黒い羽は静かに土間に落ちた。
「不正解です!あと私の行動を細かく覚えていたのは少し気持ち悪いです。…あ、いい意味ですよ」
「えぇっ!?」
「おいおい、気持ち悪いってのはマイナスのポテンシャルしかないんだよ!ほら、見ろ!壱が傷付いて俯いちゃったんだよ!うちの子はすごく繊細なんだよ!」
「き…傷付いてねぇし…、問題間違えて悔しくて涙が流れてるだけだしっ!」
「壱さんドンマイです。惜しかったので5ポイント差し上げます」
「ポイントはもういいから答えを言うんだよ!」
「手水舎を作る事にしました」
「カーッ!お前やっぱおかしいんだよっ!?」
「…それはいい意味ですか?」
「悪い意味だよ!」
立っていられずに畳へ崩れ落ちた壱の頭を撫でながら叫んだカラスに「ショックです」と呟き、ミカは急須で湯飲みにお茶を注ぎ物悲しげにすするのであった。もちろんひとん家の急須である。
「…んで、手水舎作ってその後は何をしたんだよ?」
「いえいえ、作れていませんよ?そもそも材料も作り方も不明なので、持ってきていた水で手を清めました」
「え?じゃあ、俺正解じゃん…」
「確かにそうですね。おめでとうございます壱さん」
ニコっと笑いかけ壱の元へすり寄って頭を撫でる「え!え?」と戸惑いながらも頬が緩む壱の姿にカラスは少しだけ不機嫌になった。
「汚い手で壱に触るんじゃないんだよ…」
「はい?なにかおっしゃりましたか?小声でよく聞こえなかったのですが…」
「何もいってないよ!それより続きを話すんだよ」
「はぁ」と気の抜けた返事をしミカは話始める。
「手を清めた私は社の調査を始めました。カラスさんがおっしゃったようにあまり大きくはないので、一分も掛からずグルリと一周回る事が出来ました。えっと、ココ…壱さんのおたくと比べても損傷が激しくボロ…じゃねぇや、年季の入った社でしたね。」
「もう素直にボロ小屋って言っていいよ。そのほうがこっちも清々しいし…」
「はい、いい意味でボロ小屋ですね」
「お前ねぇ、いい意味って言葉は決して万能じゃないんだよ」
困った時の必殺スマイルを二人に渡し、ミカはコホンッと咳払いをして場を整えた。立ち居振る舞いこそ上品だが基本ベースがどうしようもない女である。
「周りを探っても異変はなくつまら…いえ、問題を感じなかったので私は社の正面に向かいました。賽銭箱の一つも無い簡素な社で、閉ざされた扉の前には黒いしめ縄が垂れており進入は許さないって様子でしたね」
「まさかお前…入ったのか?」
カラスは鋭い眼光で睨めつけるが「いえいえ…」とミカは手を振り否定する。
「私はこう見えて信心深い人間ですからね。神域に立ち入るなんて道徳に外れたことは致しませんよ」
「いや、もうとっくに神域に入ってんだよ…神域の山なんですけどぉ」
「てへっ!」
「てへじゃないんだよっ!?」
「か…かわいい…」
後頭部に手をあてペロッと下を出すミカの使い古されたあざとい仕草も壱には新鮮で心がガッツポーズをした。
「という訳で正面から入るのは諦めて、さきほど見つけた社の裏に空いてた穴から私は中に入りました」
「カーッ!?入ってんじゃん!お前の道徳はどこ言っただよ!穢れた人間だよっ!」
「いえいえ、カラスさん。さきほど手を清めたばかりの私は心だって清らかでしたよ」
ミカの真っ直ぐ向いた曇りなき眼にカラスはこめかみが痛くなるのを感じた。
その様はさながら高座に上がった落語家の如し。当時の彼女の手はそうとうに汚れていたのだと目に浮かんだ。彼女の持つ意味不明な演技力に固唾を飲み、壱とカラスの二人は次の口上を待った。
「さて、この後に私のとった行動とは一体なんでしょうか?」
「カーッ!なんで急に問題風ぅぅっっ!?」
「えっと…、持っていた水で手を洗ったじゃないか?」
「壱ぃっ!なんでキミは普通に答えてるんだい!?」
「おやおや、壱さん鋭い観察眼ですね?確かに私は先ほど壱さんたちに水を振舞いました。その時の伏線を回収したという訳ですね。偉い偉い」
パッと壱へと顔を向けると、わずかに口元をほころばせて優しげな笑顔で褒める。満更でもないといった様子で鼻の頭をかく壱にカラスは抜け落ちた己の羽を投げていた。ふわりふわりと空気の抵抗に阻害され、黒い羽は静かに土間に落ちた。
「不正解です!あと私の行動を細かく覚えていたのは少し気持ち悪いです。…あ、いい意味ですよ」
「えぇっ!?」
「おいおい、気持ち悪いってのはマイナスのポテンシャルしかないんだよ!ほら、見ろ!壱が傷付いて俯いちゃったんだよ!うちの子はすごく繊細なんだよ!」
「き…傷付いてねぇし…、問題間違えて悔しくて涙が流れてるだけだしっ!」
「壱さんドンマイです。惜しかったので5ポイント差し上げます」
「ポイントはもういいから答えを言うんだよ!」
「手水舎を作る事にしました」
「カーッ!お前やっぱおかしいんだよっ!?」
「…それはいい意味ですか?」
「悪い意味だよ!」
立っていられずに畳へ崩れ落ちた壱の頭を撫でながら叫んだカラスに「ショックです」と呟き、ミカは急須で湯飲みにお茶を注ぎ物悲しげにすするのであった。もちろんひとん家の急須である。
「…んで、手水舎作ってその後は何をしたんだよ?」
「いえいえ、作れていませんよ?そもそも材料も作り方も不明なので、持ってきていた水で手を清めました」
「え?じゃあ、俺正解じゃん…」
「確かにそうですね。おめでとうございます壱さん」
ニコっと笑いかけ壱の元へすり寄って頭を撫でる「え!え?」と戸惑いながらも頬が緩む壱の姿にカラスは少しだけ不機嫌になった。
「汚い手で壱に触るんじゃないんだよ…」
「はい?なにかおっしゃりましたか?小声でよく聞こえなかったのですが…」
「何もいってないよ!それより続きを話すんだよ」
「はぁ」と気の抜けた返事をしミカは話始める。
「手を清めた私は社の調査を始めました。カラスさんがおっしゃったようにあまり大きくはないので、一分も掛からずグルリと一周回る事が出来ました。えっと、ココ…壱さんのおたくと比べても損傷が激しくボロ…じゃねぇや、年季の入った社でしたね。」
「もう素直にボロ小屋って言っていいよ。そのほうがこっちも清々しいし…」
「はい、いい意味でボロ小屋ですね」
「お前ねぇ、いい意味って言葉は決して万能じゃないんだよ」
困った時の必殺スマイルを二人に渡し、ミカはコホンッと咳払いをして場を整えた。立ち居振る舞いこそ上品だが基本ベースがどうしようもない女である。
「周りを探っても異変はなくつまら…いえ、問題を感じなかったので私は社の正面に向かいました。賽銭箱の一つも無い簡素な社で、閉ざされた扉の前には黒いしめ縄が垂れており進入は許さないって様子でしたね」
「まさかお前…入ったのか?」
カラスは鋭い眼光で睨めつけるが「いえいえ…」とミカは手を振り否定する。
「私はこう見えて信心深い人間ですからね。神域に立ち入るなんて道徳に外れたことは致しませんよ」
「いや、もうとっくに神域に入ってんだよ…神域の山なんですけどぉ」
「てへっ!」
「てへじゃないんだよっ!?」
「か…かわいい…」
後頭部に手をあてペロッと下を出すミカの使い古されたあざとい仕草も壱には新鮮で心がガッツポーズをした。
「という訳で正面から入るのは諦めて、さきほど見つけた社の裏に空いてた穴から私は中に入りました」
「カーッ!?入ってんじゃん!お前の道徳はどこ言っただよ!穢れた人間だよっ!」
「いえいえ、カラスさん。さきほど手を清めたばかりの私は心だって清らかでしたよ」
ミカの真っ直ぐ向いた曇りなき眼にカラスはこめかみが痛くなるのを感じた。
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