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24話 それはそれはキレイな女神様
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不意な来客…即座に反応し、カラスは動き出した。
ビューっと突如吹きだす一陣の風を小柄な身体に纏い、カラスはその身を静かに浮かせる。そのまま飛行し、驚くミカをさらって部屋の脇にある縁側を抜けて奥へと逃げ込んだ。
突き当たりにはトイレがあり、隣の壁面にはお風呂と物置部屋が並んでおり身を隠すには悪くない。
カラスの素早い判断とあっという間の出来事にミカも声を出せず、されるがまま物置へと連れ込まれていった。
ヒトガタをしているとはいえカラスも神のひと柱であることを実感させる。神隠しと呼ばれてもおかしくない一瞬の犯行を見送った壱は、再び扉の向こうへ意識を移す。
「なんの話かわからない。もし俺のことを言っているなら、最初から俺はこの国に生れ落ちている!」
「そいつぁ知ってるぅ…だから一応なぁ確認の為に来たんだぁ。扉ぁ開けろぉ」
「なんの為にだ?」
「だからぁ確認だぁ…。どうせカラスもいるんだろぅ?そいつぁ前科もあるんでなぁ」
(前科?カラスのやつ一体何を?)
部屋の奥へと消えた二人の跡を一瞥するが、なぞが解けることはない。壱の沈黙を埋めるように再び扉がドンドンと叩かれ始めた。
「開けねぇんならぁ、力ずくで開けちまうぞぉ」
「わ…わかった、開ける!だからそんなに叩くな扉が壊れてしまう!」
しぶしぶ扉を開けるや否やヌッと大きな目玉が覗き込んで来た。
直径4,50センチほどの目玉が一つ。その下は着流しのスタイルだが、手も足も見えない。何度か確認してみても存在がないようだ。
「だぁれも居ねぇのかぁ?」
部屋の中をひと廻しし、ギョロリと大きな目玉を壱に向けてきた。どこから声を出しているのや不明である。壱がどう答えるべきか迷っていると背後から、聞き慣れた珠鈴のような声が届く。
「カーッ!なんだいなんだい?こんな夜に会いたくない気持ちの悪い来客だね。なんの用なんだい?」
「居るじゃぁねぇかぁ、ホラ吹きガラスゥ…俺だっておめぇみたいなはみ出しモンにゃぁ会いたかねぇがなぁ…」
「だったら帰ればいいじゃないカーッ」
「そうわぁいかねぇのよぉ。人間が出たって報告があったんだぁ…そいうつを聞いた以上ぉ本当かどうか【見】なきゃあなんねぇんだよぉ」
「なら、見て分かるだろ?ここはボクと壱しか居ないんだよ」
口調こそ冷静だがカラスの言葉の端々から苛立ちを感じる。
「確かにここには居ねぇなぁ…。でもよぉ、そいつはなんだぁ?」
着物の袖が部屋の中を差す。やはり手はないが着物の袖は膨らんでおり存在自体はあるらしい。
目玉の示した方向を見ると湯のみが並んでいた。
三つの湯飲みが…。
「お前らのほかに誰かが来てたぁ、それかその誰かが今ぁこの家の中に隠れてるんじゃねぇのかぁ?【見】ればわかるぞぉ」
「こ…これはその…」
ミカを隠すことに必死で証拠を消すまで頭が回らず、カラスは戸惑い口篭った。無駄に大きな目玉はなおも部屋の中を見漁っている。コミュ症・根暗・口下手な壱も状況を打破出来るような方便が浮かばず、息を飲んでその場に立ち尽くすほかなかった…。
「ホラ吹きガラスぅ、まぁたお前はやっちまったのかぁ?懲りねぇなぁ」
「ち…ちがっ!」
「掟ぇ破ったらどうなるのかぁ知らねぇワケじゃねぇよなぁ?」
忠告とも戒めとも取れる台詞を吐き、目玉の神はずずいっと室内へ歩みを進めた。
「なんだ?勝手にウチに入るな!…うわっ!?」
「壱っ!?」
目玉の進撃を阻害しようと両手を広げるが、まるで何の抵抗もないかの如く壱を吹き飛ばして目玉はカラスの前へと躍り出た。
外では屈んでいたのか、低く浮いていたのか、壱と目線の高さは同程度だったのに、畳の上に上がると天井近くまで届きそうな位置に目玉が浮いている。
小柄なカラスの頭は着流しの腰の帯の辺りにあり、その体格差は歴然で倒れる壱へ駆け寄ろうとしたカラスの前に立ちふさがって心配そうに壱を見つめる彼の行動を遮っている。
「どくんだよっ!」
「どいて欲しけりゃぁ、お前が隠してる人間を【見】せてからだぁ…」
「…お前、ボクに喧嘩を売ってるのかい?」
「待てっ、落ち着けカラス!俺なら大丈夫だ!」
ブワッと黒い羽が広がり、それに呼応してかガタガタと家中が揺れ始めた。線の細い美少年の顔は怒りに染まってまるで鬼の形相である。ひと目でたじろいでしまいそうなのだが、目玉はそれに臆する事無くカラスの前になお立ちふさがっている。
「待って下さい!みなの衆!」
一触即発の空気を引き裂いたのは凛とした澄んだ声だった。
声の主はもちろん―――
「…お前…なにしてるんだよ?」
「なんだぁこいつぅ?」
「み…ミカさん?なにしてんの?」
「残念、不正解です壱さん!私は可愛い可愛いミカさんじゃありません!トイレの女神様です!」
その場全員の視線が集まった先に現れたのは、まるでミイラのようにトイレットペーパーを顔にぐるぐる巻きに巻き、腰に手を当てたポーズでささやかな胸をこれでもかと張る。自称トイレの女神様が顕現されていた。
ビューっと突如吹きだす一陣の風を小柄な身体に纏い、カラスはその身を静かに浮かせる。そのまま飛行し、驚くミカをさらって部屋の脇にある縁側を抜けて奥へと逃げ込んだ。
突き当たりにはトイレがあり、隣の壁面にはお風呂と物置部屋が並んでおり身を隠すには悪くない。
カラスの素早い判断とあっという間の出来事にミカも声を出せず、されるがまま物置へと連れ込まれていった。
ヒトガタをしているとはいえカラスも神のひと柱であることを実感させる。神隠しと呼ばれてもおかしくない一瞬の犯行を見送った壱は、再び扉の向こうへ意識を移す。
「なんの話かわからない。もし俺のことを言っているなら、最初から俺はこの国に生れ落ちている!」
「そいつぁ知ってるぅ…だから一応なぁ確認の為に来たんだぁ。扉ぁ開けろぉ」
「なんの為にだ?」
「だからぁ確認だぁ…。どうせカラスもいるんだろぅ?そいつぁ前科もあるんでなぁ」
(前科?カラスのやつ一体何を?)
部屋の奥へと消えた二人の跡を一瞥するが、なぞが解けることはない。壱の沈黙を埋めるように再び扉がドンドンと叩かれ始めた。
「開けねぇんならぁ、力ずくで開けちまうぞぉ」
「わ…わかった、開ける!だからそんなに叩くな扉が壊れてしまう!」
しぶしぶ扉を開けるや否やヌッと大きな目玉が覗き込んで来た。
直径4,50センチほどの目玉が一つ。その下は着流しのスタイルだが、手も足も見えない。何度か確認してみても存在がないようだ。
「だぁれも居ねぇのかぁ?」
部屋の中をひと廻しし、ギョロリと大きな目玉を壱に向けてきた。どこから声を出しているのや不明である。壱がどう答えるべきか迷っていると背後から、聞き慣れた珠鈴のような声が届く。
「カーッ!なんだいなんだい?こんな夜に会いたくない気持ちの悪い来客だね。なんの用なんだい?」
「居るじゃぁねぇかぁ、ホラ吹きガラスゥ…俺だっておめぇみたいなはみ出しモンにゃぁ会いたかねぇがなぁ…」
「だったら帰ればいいじゃないカーッ」
「そうわぁいかねぇのよぉ。人間が出たって報告があったんだぁ…そいうつを聞いた以上ぉ本当かどうか【見】なきゃあなんねぇんだよぉ」
「なら、見て分かるだろ?ここはボクと壱しか居ないんだよ」
口調こそ冷静だがカラスの言葉の端々から苛立ちを感じる。
「確かにここには居ねぇなぁ…。でもよぉ、そいつはなんだぁ?」
着物の袖が部屋の中を差す。やはり手はないが着物の袖は膨らんでおり存在自体はあるらしい。
目玉の示した方向を見ると湯のみが並んでいた。
三つの湯飲みが…。
「お前らのほかに誰かが来てたぁ、それかその誰かが今ぁこの家の中に隠れてるんじゃねぇのかぁ?【見】ればわかるぞぉ」
「こ…これはその…」
ミカを隠すことに必死で証拠を消すまで頭が回らず、カラスは戸惑い口篭った。無駄に大きな目玉はなおも部屋の中を見漁っている。コミュ症・根暗・口下手な壱も状況を打破出来るような方便が浮かばず、息を飲んでその場に立ち尽くすほかなかった…。
「ホラ吹きガラスぅ、まぁたお前はやっちまったのかぁ?懲りねぇなぁ」
「ち…ちがっ!」
「掟ぇ破ったらどうなるのかぁ知らねぇワケじゃねぇよなぁ?」
忠告とも戒めとも取れる台詞を吐き、目玉の神はずずいっと室内へ歩みを進めた。
「なんだ?勝手にウチに入るな!…うわっ!?」
「壱っ!?」
目玉の進撃を阻害しようと両手を広げるが、まるで何の抵抗もないかの如く壱を吹き飛ばして目玉はカラスの前へと躍り出た。
外では屈んでいたのか、低く浮いていたのか、壱と目線の高さは同程度だったのに、畳の上に上がると天井近くまで届きそうな位置に目玉が浮いている。
小柄なカラスの頭は着流しの腰の帯の辺りにあり、その体格差は歴然で倒れる壱へ駆け寄ろうとしたカラスの前に立ちふさがって心配そうに壱を見つめる彼の行動を遮っている。
「どくんだよっ!」
「どいて欲しけりゃぁ、お前が隠してる人間を【見】せてからだぁ…」
「…お前、ボクに喧嘩を売ってるのかい?」
「待てっ、落ち着けカラス!俺なら大丈夫だ!」
ブワッと黒い羽が広がり、それに呼応してかガタガタと家中が揺れ始めた。線の細い美少年の顔は怒りに染まってまるで鬼の形相である。ひと目でたじろいでしまいそうなのだが、目玉はそれに臆する事無くカラスの前になお立ちふさがっている。
「待って下さい!みなの衆!」
一触即発の空気を引き裂いたのは凛とした澄んだ声だった。
声の主はもちろん―――
「…お前…なにしてるんだよ?」
「なんだぁこいつぅ?」
「み…ミカさん?なにしてんの?」
「残念、不正解です壱さん!私は可愛い可愛いミカさんじゃありません!トイレの女神様です!」
その場全員の視線が集まった先に現れたのは、まるでミイラのようにトイレットペーパーを顔にぐるぐる巻きに巻き、腰に手を当てたポーズでささやかな胸をこれでもかと張る。自称トイレの女神様が顕現されていた。
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