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第二章 側仕えは慌てて駆け出し、嫌われ貴族は無様に転んでしまう
側仕えと神国の繋がり
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最近の私はどうにも貴族と関わり合う運命の中にいるようで、神国の女の子を保護するだけではなく、見知った顔であるラウルともまた再会する。
彼が息切れを起こすほど慌てるのは珍しく、その視線は私の近くで寝ているレティスへと向かっていた。
「ご無事ですか!」
ラウルは心から喜びながらレティスの元へ駆け寄ろうとしたが、流石に眠っている女の子に近づけるわけにはいかず行く手を遮った。
「落ち着いてください! 疲れて眠っているだけです」
「あ、ああ。そうか、助けてくれたんだね。本当に良かった……」
ラウルはまるで緊張の糸が切れたかのように顔にゆとりが戻っていた。
普段なら優雅な姿しか見ないのに、髪は乱れ、神官服も泥と返り血で汚れている。
よっぽど慌てたのだろうと、彼に座るように伝えようとした時に、レティスの動く音が聞こえた。
「うるさいのぉ。一体どうし──ラウルか?」
ラウルの姿を見たことで一気に頭が覚醒したようで、目を大きく開けていた。
それでまたラウルは安心したようで、身をかがめてレティスと目線を合わせた。
「大変申し訳ございません。私がいながら御身を危険に、晒して、しまぅ?──へぶしっ!?」
ラウルの謝罪の途中でレティスが近寄って行き、思いっきり足で顎を蹴った。
弱い力でも急所に攻撃されたらたまったもんじゃない。
ラウルは顎を押さえて、痛みを我慢していた。
「たわけ! それだと隠密の意味がないじゃろ!」
レティスから叱られ、ラウルはすぐに立ち上がる。
「し、失礼しました! しん──痛っ!?」
立ち直ったばかりなのに、次は脛を蹴った。
容赦のない連続攻撃にラウルが不憫になる。
「わたしのことはレティスと呼べ!」
「か、かしこまりました! レティス様、よくぞ──」
「だからお主がへりくだったらバレるじゃろうが! 目的を忘れるな!」
「はっ!」
レティスはまるで子供に叱るようだった。
聞いた話では、神国の英雄と呼ばれ、身分も高いラウルに対してここまで上から言えるということは彼女はそれよりも上の存在ということだ。
「済まぬの、エステル。どうかこの馬鹿者の迂闊な態度を黙っててくれんか? 一応お忍びでこの国に来ているのだ」
「お忍び……」
こういうことはすぐにレーシュへ報告する決まりになっていたので、これはどうするべきか頭を悩ませる。
「エステルさん、どうかレティス様は神国の巫女見習いということにしておいてください。あの男にも折りを見て話すつもりですので、エステルさんに迷惑はかけません」
ラウルは私の事情を察してくれたようだ。
貴族の面倒事には関わりたくないので了承した。
「なんじゃ、お主ら? 元々知っている仲なのか?」
「レティス様、このエステルさんこそがお話したレーシュ・モルドレッドの側仕えをしている方です」
「なんと!?」
どうやらレティスは私のことを知っていたようだ。
先程言っていた平民の側仕えとは私のことを指していたのかもしれない。
レティスがまるで輝かんばかりの笑顔を向ける。
「そうか、そうか。お主に会いたかったのだ!」
「えっと……」
いきなりのことで私の頭が追いつかない。
どうして私の話題が他国で出るのだろうか。
「そういえばエステルさんはどうしてこちらにいらっしゃるのですか? あの男の姿も無いようですが……」
「私だけ魔物を退治していました。魔力を奉納したから、魔物がたくさんやって来たので、大物だけ私が足止めをしたのです」
そこで彼らも、魔物が多く現れて襲われた理由に合点がいったらしい。
彼らの言い方からすると、隠密で来たせいで魔力を奉納した影響のことを知らなかったのだろう。
「なるほど、ですがこれほど強い魔物ばかり現れたのは一体……」
「おそらく陸の魔王という魔物が来たせいだと思います」
陸の魔王の名前を出した瞬間、二人の顔が驚愕に染まる。
実際に戦った印象では、魔王と呼ばれるに相応しい強敵だった。
「あれが……動いたのか──!? レティス様、それでは事情が変わります。一度お戻りください」
ラウルの顔が引き締まり、レティスに戻るよう進言する。
だがレティスは悔しそうに顔を歪め、その言葉通りにするか悩んでいるようだった。
「ラウル様、おそらく大丈夫だと思います」
「大丈夫? もしやエステルさん、陸の魔王と戦ったのですか?」
「はい」
二人の顎が下に伸び、言葉を失っているようだった。
もしかすると倒したと誤解されたのかもしれないので、私は慌てて訂正する。
「誤解しないでくださいね! ただ追い払っただけです!」
「追い払った、だとッ──!? 陸の魔王を?」
さらにラウルに驚かれ、レティスは笑い出した。
「ふふふッ、これは本当に来た甲斐があった。ラウル、よくぞわたしに知らせた」
「はっ!」
一体なんのことだか分からないが、レティスを呼んだのはラウルのようだ。
そうなると本当に彼女の正体が謎だ。
「あのクソジジイたちめ、最近のやり方は目に余ると思っていたが、こうして希望まで潰えそうとするとは、本当に欲深な狸たちめ」
独り言で呟く彼女の顔は燃えるような怒りを顔に出す。
まだ幼く見える彼女なのに、まるで百戦錬磨の戦士のように侮れない雰囲気があった。
「エステルよ、もし神国の件でどうにもならない事態があったときは、神殿に尋ねてラウルの名前を出すといい。出来る限りの協力は惜しまんつもりじゃ」
「は、はい!」
とりあえず返事はしたが、私が彼女にお願いすることがあるのだろうか。
神国と私がどのように結びつくのか分からない。
それからラウルの仲間たちも合流して、共に近くの町まで向かった。
貴族用の宿に一緒に泊めてもらえることになった。
美味しい食事もいただき、満腹で幸せな気持ちになる。
部屋へ戻ろうとするときに、ラウルから呼び止められた。
「エステルさん、先程モルドレッドにも連絡しましたので、迎えが来ると思います」
「何から何までありがとうございます」
あそこでラウルと出会えたことは本当に幸運だった。
何かお礼をしたいが、残念なことに私の持っている物で喜んでもらえる物がなかった。
「もしよろしければ、何か雑用があればお手伝いしますよ?」
「いいえ、レティス様を助けてくださっただけでどんな礼でも足りないくらいです。ただレティス様のことだけはどうかお秘密にしてください」
神国には神国の事情があると思うので、私はうなずいて約束する。
それからラウルたちは朝早くに出立していった。
どうやらレーシュにレティスを見られる前に出ていきたかったようだ。
退屈ではあるが、私は部屋で待っていると馬蹄の音が聞こえてきた。
もしかするとレーシュかもと思い、部屋を出て受付の方へ向かうとやはりレーシュだった。
「レーシュ、さま──?」
無言のまま私の手を引かれ、先程の部屋へと連れ戻される。
何だか声を掛けるのも難しく、そのまま部屋のベッドの上に座らせられた。
しゃがんだレーシュが私の腕や顔を触ってくる。
「大丈夫か? 怪我はないな?」
どうやら私の身を心配してくれていたようで、私は慌てて無事を報告する。
「大丈夫ですよ! 陸の魔王も追い返したから、国王への借りもなく──」
突然抱きしめられて、私の心臓がどんどん暴れ出す。
「そんなことはどうでもいい! 本当に無事でよかった」
「は、はい……」
レーシュの体が離れ、お互いに向き合う形となった。
「続きがまだだったな」
「こ、ここでですか!?」
心の準備がまだ出来ていなかったので、思わず声が出た。
レーシュの右手が私の頬を優しく触った。
「いやか?」
手の温かさを感じながら、彼へ目を合わせることができなかった。
しかし返事をずっと待ってくれ、私もやっと気持ちが追いついてきた。
目が合わさり、彼の左手が私の右手を優しく握る。
「嫌じゃ……ないです」
顔の表面がどんどん熱くなるのを感じながらも彼の目が私を逃がそうとしなかった。
そしてゆっくりと唇が合わさりそうになったときに、イザベルの声が聞こえてきた。
「坊っちゃま! どちらにいらっしゃいますか!」
お互いに驚きで震えてしまった。
慌てて二人で立ち上がると、レーシュが申し訳なさそうにする。
「すまない」
「仕方ないですよ。それにそれだけ心配してくれただけでも嬉しいですから」
名残惜しさもあったが、タイミングが悪かったと諦める。
レーシュがイザベルを呼ぶと、すぐそこまでやってきていたようだ。
「エステルは無事だ。陸の魔王を追い払ったことは剣帝の名前で大々的に広めるから、その手配はイザベルに任せる」
「かしこまりました」
レーシュは良く剣帝の名前を利用する。
私も名誉などに興味がないので構わないが、もし本物が出てきてしまったらどうするつもりなのだろうか。
ただ彼の考えなんて私には分かるはずがないので、それに従うだけでいい。
「それとエステル、お前に朗報がある」
「朗報?」
「ああ、明日にはサリチルたちがやってくるそうだ」
サリチルたちは領主の住まう領地で残ったままだった。
海賊のこともあったので、安全だと分かるまではあちらで業務をしてもらっており、弟のフェニルもあちらに残ってもらっていた。
だがようやく私は弟に会えることで気持ちが揚がっていく。
「本当に嬉しそうな顔をするな、お前は」
「す、すいません」
一人舞い上がってしまい恥ずかしくなってしまった。
「気にしなくていい。そういえば前にお前の弟にもお菓子を食べさせたいと言っていたな。ベヒーモスのせいで食べに行き損なったが、サリチルも来れば少しは業務も落ち着く。そのときにまたみんなで行こう」
「よろしいのですか?」
「ああ、特にエステルのおかげで危機を何度も脱せている。これくらいなら何度やっても足りないくらいだ」
ネフライトとのお茶会で食べたお菓子の味を思い出して、弟にその美味しさを堪能してほしいとずっと思っていた。
まだ港町に慣れていない弟に海の景色も見せてあげたい等、明日からの楽しみがどんどん増えていくのだった。
彼が息切れを起こすほど慌てるのは珍しく、その視線は私の近くで寝ているレティスへと向かっていた。
「ご無事ですか!」
ラウルは心から喜びながらレティスの元へ駆け寄ろうとしたが、流石に眠っている女の子に近づけるわけにはいかず行く手を遮った。
「落ち着いてください! 疲れて眠っているだけです」
「あ、ああ。そうか、助けてくれたんだね。本当に良かった……」
ラウルはまるで緊張の糸が切れたかのように顔にゆとりが戻っていた。
普段なら優雅な姿しか見ないのに、髪は乱れ、神官服も泥と返り血で汚れている。
よっぽど慌てたのだろうと、彼に座るように伝えようとした時に、レティスの動く音が聞こえた。
「うるさいのぉ。一体どうし──ラウルか?」
ラウルの姿を見たことで一気に頭が覚醒したようで、目を大きく開けていた。
それでまたラウルは安心したようで、身をかがめてレティスと目線を合わせた。
「大変申し訳ございません。私がいながら御身を危険に、晒して、しまぅ?──へぶしっ!?」
ラウルの謝罪の途中でレティスが近寄って行き、思いっきり足で顎を蹴った。
弱い力でも急所に攻撃されたらたまったもんじゃない。
ラウルは顎を押さえて、痛みを我慢していた。
「たわけ! それだと隠密の意味がないじゃろ!」
レティスから叱られ、ラウルはすぐに立ち上がる。
「し、失礼しました! しん──痛っ!?」
立ち直ったばかりなのに、次は脛を蹴った。
容赦のない連続攻撃にラウルが不憫になる。
「わたしのことはレティスと呼べ!」
「か、かしこまりました! レティス様、よくぞ──」
「だからお主がへりくだったらバレるじゃろうが! 目的を忘れるな!」
「はっ!」
レティスはまるで子供に叱るようだった。
聞いた話では、神国の英雄と呼ばれ、身分も高いラウルに対してここまで上から言えるということは彼女はそれよりも上の存在ということだ。
「済まぬの、エステル。どうかこの馬鹿者の迂闊な態度を黙っててくれんか? 一応お忍びでこの国に来ているのだ」
「お忍び……」
こういうことはすぐにレーシュへ報告する決まりになっていたので、これはどうするべきか頭を悩ませる。
「エステルさん、どうかレティス様は神国の巫女見習いということにしておいてください。あの男にも折りを見て話すつもりですので、エステルさんに迷惑はかけません」
ラウルは私の事情を察してくれたようだ。
貴族の面倒事には関わりたくないので了承した。
「なんじゃ、お主ら? 元々知っている仲なのか?」
「レティス様、このエステルさんこそがお話したレーシュ・モルドレッドの側仕えをしている方です」
「なんと!?」
どうやらレティスは私のことを知っていたようだ。
先程言っていた平民の側仕えとは私のことを指していたのかもしれない。
レティスがまるで輝かんばかりの笑顔を向ける。
「そうか、そうか。お主に会いたかったのだ!」
「えっと……」
いきなりのことで私の頭が追いつかない。
どうして私の話題が他国で出るのだろうか。
「そういえばエステルさんはどうしてこちらにいらっしゃるのですか? あの男の姿も無いようですが……」
「私だけ魔物を退治していました。魔力を奉納したから、魔物がたくさんやって来たので、大物だけ私が足止めをしたのです」
そこで彼らも、魔物が多く現れて襲われた理由に合点がいったらしい。
彼らの言い方からすると、隠密で来たせいで魔力を奉納した影響のことを知らなかったのだろう。
「なるほど、ですがこれほど強い魔物ばかり現れたのは一体……」
「おそらく陸の魔王という魔物が来たせいだと思います」
陸の魔王の名前を出した瞬間、二人の顔が驚愕に染まる。
実際に戦った印象では、魔王と呼ばれるに相応しい強敵だった。
「あれが……動いたのか──!? レティス様、それでは事情が変わります。一度お戻りください」
ラウルの顔が引き締まり、レティスに戻るよう進言する。
だがレティスは悔しそうに顔を歪め、その言葉通りにするか悩んでいるようだった。
「ラウル様、おそらく大丈夫だと思います」
「大丈夫? もしやエステルさん、陸の魔王と戦ったのですか?」
「はい」
二人の顎が下に伸び、言葉を失っているようだった。
もしかすると倒したと誤解されたのかもしれないので、私は慌てて訂正する。
「誤解しないでくださいね! ただ追い払っただけです!」
「追い払った、だとッ──!? 陸の魔王を?」
さらにラウルに驚かれ、レティスは笑い出した。
「ふふふッ、これは本当に来た甲斐があった。ラウル、よくぞわたしに知らせた」
「はっ!」
一体なんのことだか分からないが、レティスを呼んだのはラウルのようだ。
そうなると本当に彼女の正体が謎だ。
「あのクソジジイたちめ、最近のやり方は目に余ると思っていたが、こうして希望まで潰えそうとするとは、本当に欲深な狸たちめ」
独り言で呟く彼女の顔は燃えるような怒りを顔に出す。
まだ幼く見える彼女なのに、まるで百戦錬磨の戦士のように侮れない雰囲気があった。
「エステルよ、もし神国の件でどうにもならない事態があったときは、神殿に尋ねてラウルの名前を出すといい。出来る限りの協力は惜しまんつもりじゃ」
「は、はい!」
とりあえず返事はしたが、私が彼女にお願いすることがあるのだろうか。
神国と私がどのように結びつくのか分からない。
それからラウルの仲間たちも合流して、共に近くの町まで向かった。
貴族用の宿に一緒に泊めてもらえることになった。
美味しい食事もいただき、満腹で幸せな気持ちになる。
部屋へ戻ろうとするときに、ラウルから呼び止められた。
「エステルさん、先程モルドレッドにも連絡しましたので、迎えが来ると思います」
「何から何までありがとうございます」
あそこでラウルと出会えたことは本当に幸運だった。
何かお礼をしたいが、残念なことに私の持っている物で喜んでもらえる物がなかった。
「もしよろしければ、何か雑用があればお手伝いしますよ?」
「いいえ、レティス様を助けてくださっただけでどんな礼でも足りないくらいです。ただレティス様のことだけはどうかお秘密にしてください」
神国には神国の事情があると思うので、私はうなずいて約束する。
それからラウルたちは朝早くに出立していった。
どうやらレーシュにレティスを見られる前に出ていきたかったようだ。
退屈ではあるが、私は部屋で待っていると馬蹄の音が聞こえてきた。
もしかするとレーシュかもと思い、部屋を出て受付の方へ向かうとやはりレーシュだった。
「レーシュ、さま──?」
無言のまま私の手を引かれ、先程の部屋へと連れ戻される。
何だか声を掛けるのも難しく、そのまま部屋のベッドの上に座らせられた。
しゃがんだレーシュが私の腕や顔を触ってくる。
「大丈夫か? 怪我はないな?」
どうやら私の身を心配してくれていたようで、私は慌てて無事を報告する。
「大丈夫ですよ! 陸の魔王も追い返したから、国王への借りもなく──」
突然抱きしめられて、私の心臓がどんどん暴れ出す。
「そんなことはどうでもいい! 本当に無事でよかった」
「は、はい……」
レーシュの体が離れ、お互いに向き合う形となった。
「続きがまだだったな」
「こ、ここでですか!?」
心の準備がまだ出来ていなかったので、思わず声が出た。
レーシュの右手が私の頬を優しく触った。
「いやか?」
手の温かさを感じながら、彼へ目を合わせることができなかった。
しかし返事をずっと待ってくれ、私もやっと気持ちが追いついてきた。
目が合わさり、彼の左手が私の右手を優しく握る。
「嫌じゃ……ないです」
顔の表面がどんどん熱くなるのを感じながらも彼の目が私を逃がそうとしなかった。
そしてゆっくりと唇が合わさりそうになったときに、イザベルの声が聞こえてきた。
「坊っちゃま! どちらにいらっしゃいますか!」
お互いに驚きで震えてしまった。
慌てて二人で立ち上がると、レーシュが申し訳なさそうにする。
「すまない」
「仕方ないですよ。それにそれだけ心配してくれただけでも嬉しいですから」
名残惜しさもあったが、タイミングが悪かったと諦める。
レーシュがイザベルを呼ぶと、すぐそこまでやってきていたようだ。
「エステルは無事だ。陸の魔王を追い払ったことは剣帝の名前で大々的に広めるから、その手配はイザベルに任せる」
「かしこまりました」
レーシュは良く剣帝の名前を利用する。
私も名誉などに興味がないので構わないが、もし本物が出てきてしまったらどうするつもりなのだろうか。
ただ彼の考えなんて私には分かるはずがないので、それに従うだけでいい。
「それとエステル、お前に朗報がある」
「朗報?」
「ああ、明日にはサリチルたちがやってくるそうだ」
サリチルたちは領主の住まう領地で残ったままだった。
海賊のこともあったので、安全だと分かるまではあちらで業務をしてもらっており、弟のフェニルもあちらに残ってもらっていた。
だがようやく私は弟に会えることで気持ちが揚がっていく。
「本当に嬉しそうな顔をするな、お前は」
「す、すいません」
一人舞い上がってしまい恥ずかしくなってしまった。
「気にしなくていい。そういえば前にお前の弟にもお菓子を食べさせたいと言っていたな。ベヒーモスのせいで食べに行き損なったが、サリチルも来れば少しは業務も落ち着く。そのときにまたみんなで行こう」
「よろしいのですか?」
「ああ、特にエステルのおかげで危機を何度も脱せている。これくらいなら何度やっても足りないくらいだ」
ネフライトとのお茶会で食べたお菓子の味を思い出して、弟にその美味しさを堪能してほしいとずっと思っていた。
まだ港町に慣れていない弟に海の景色も見せてあげたい等、明日からの楽しみがどんどん増えていくのだった。
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