7 / 93
狩猟大会 中編
しおりを挟む
私は席に座り直すと、他の令嬢達からの興味津々な視線に気付いた。
その中の一人が真っ先に質問する。
「ソフィア様はいつ頃にクリストフ猊下と仲を深めていたのですか?」
あいにくと一切話したことすらありません。なんなら未来では殺し合いをしていましたよ。全戦全敗でしたけどね。
だけど未来について正直に言えば頭がおかしいと思われてしまう。私は少し恥ずかしそうに見えるようにドレスの袖で口元を隠した。
「そうですね。去年頃からお話をするようになりまして。だけどまさかあの方が私の婚約者になってくださるとは思いませんでしたの」
なるべく嘘と本当を混ぜつつそれっぽい話を作る。
すると私が王子との婚約破棄をしたことに触れるのは当然のことだろう。
「ソフィア様はクリストフ猊下と結婚するために、王太子殿下との婚約を取りやめにしたのではないのですか?」
「いいえ。私は王太子の婚約者として相応しくないと思いましたので、辞退しただけです。お父様にご相談はしましたが、まさか別の婚約者を探しているとは知りもしませんでした」
ごめんなさい、お父様。帰ったら謝るから、私の嘘を許してくださいませ。
お父様に相談を全くしていないため、それを伝えないといけないことが憂鬱だ。
お父様へ懺悔しつつ、私の嘘は加速していく。
私の話を聞いて、令嬢達は面白おかしく色々と話を広げていく。
「クリストフ猊下はあまり浮いた話がありませんでしたが、もしかするとずっとソフィア様をお慕いしていたのではありませんか」
そんなわけがないだろう。ほとんど接点がないのに、私のどこを好きになるというのだ。前の私はわがままで派手好きだったので、あんな堅物そうな司祭が好むものではない。
だけどそれを言っても仕方が無いので、私は少しだけ照れた顔をしてみた。
「そうだと嬉しいですわ」
令嬢達は、こういう恋愛話は大好物だから、もっと私とクリストフの話を聞きたがっていた。
しかし静かに傍観していたブリジットは、扇子を開いて口元を隠し、目を鋭くして私を見た。
他の令嬢達はその雰囲気に押されて、先ほどのはしゃぎようが嘘のように落ち着いた。
「ソフィア・ベアグルント、わたくしは納得していませんわ」
ブリジットとは同い年のライバルだった。それはもちろん王太子との婚約者争いでも彼女と競い合ったという意味だ。
「わたくしは貴女だからあの方に相応しいと思っていましたのに、貴女にとってその程度だったのですね」
彼女の目は私を非難していた。私も彼女の立場なら理解できる。婚約中に関わらず別の男を作って、王太子と別れた最低な女だと。
「ベアグルントも地に堕ちましたわね」
私は言い返せなかった。たとえ未来で彼と別れることが運命であっても、それを伝えることができないのだ。
私は押し黙って、彼女の目から逃げるように太ももの上に置いた手を見つめる。
その時、大きな悲鳴が聞こえてきた。
「逃げろ! 森の動物たちが暴れ出して、群れをなして来ている!」
その言葉を証明するように、ドタドタと森の方から音が聞こえ、草木をかき分けてくる音も近づいてきた。
そして森の中から光る目が見えた。
「グオォォーー!」
熊が木々をなぎ倒しながらやってくる。その他にも鹿やイノシシ等の動物がこちらへやってくる。
突然の事態にみんながパニックになっていた。
「お前達! 女達を守れ!」
残っていた近衛兵達が剣を持って立ち向かっていく。だが多勢に無勢で、暴れる動物たちによって食い散らかされていた。
「きゃあああ!」
一緒にお茶を飲んでいたブリジットの取り巻き達が我先にと逃げ出した。
近くでお茶をしていた他の令嬢達も脇目も振らずに走って行った。
このままでは私達も死んでしまうのは明白だ。
しかしブリジットは逃げずに、侍従が落としていった槍を手に取っていた。
「わ、私がどうにかしないと……」
ブリジットは槍の一族として、武芸も嗜んでいた。
有事の際は父親と一緒に国のために戦わないといけないからだ。
しかしやはり女ということもあり、実戦経験が豊富なわけでは無かった。
「ブリジットさん逃げましょう! あの数は無理です!」
説得を試みるが、それがかえって彼女の使命感に火を付けてしまった。
「む、無理かどうかではありません! 私は由緒正しきグロールングの末裔です!」
私を押しのけて、迫ってくる一匹の熊へと戦いを挑んだ。
「ブリジットさん、ダメです! 逃げてください!」
このままでは本当に逃げ遅れてしまう。
他の近衛兵達が抑え込んでいるが、もうまもなく決壊する。
ブリジットは震える腕で槍を何度も振っているが、腰が引けており戦う以前の話だった。
「やあああ!」
ブリジットは懸命に槍を突き刺そうとするが、熊は簡単にその槍を腕で弾き、ブリジットの手から槍が離れた。
「あ、あ……」
彼女は無防備な状態になってしまい、熊の威嚇する声を聞いて、とうとう膝から崩れ落ちた。
「グオー!」
目の前で叫ばれてブリジットは恐怖で泣いていた。
いくら私でも、知り合いが殺されるところなんて見たくない。
テーブルに置いてあった温かいお茶が入っているポットを手に取り、それを熊の顔目がけて投げた。
「ガァ!」
熱湯を顔に浴びた熊は痛みでもだえていた。しかし興奮状態にあるので、それで怯むことは無い。
「や、やったのは私ですよ!」
言葉が通じるのかどうかは分からない。
しかし、私は動物に嫌われる性質があるので、良くも悪くも動物から意識を向けられやすい。
「グルル!」
熊もまた、標的を私に変えたようで、低い姿勢で走り出した。
「ソフィアさん!」
ブリジットが私を呼んでいたが、それを気にしている暇は無い。
他の動物たちも、熊の叫ぶ声と私の存在に勘づいて、どんどん私の方へ走り出していた。
「はぁはぁ」
動きづらいドレスのせいで、全速力で走るのも大変だ。
さらに鍛えていないこの体では長くは保たない。
「どうして私ばかり狙ってくるのよ!」
後ろをチラッと見ると、ほとんどの動物が私を狙っているのでは無いかと思うほど集まっていた。
私の体力が無いこともそうだが、熊の足は想像以上に速かった。
「ガァ!」
もうすでにすぐ後ろにいた熊は、大きな前足で私へ攻撃してきた。
「きゃっ!」
私はドレスの裾を踏んでしまい、その場に倒れた。
爪が私のドレスの横腹部分に掠り、そこから肌が丸見えになった。
足がもつれたおかげで服の一部を掠っただけで済んだが、倒れてしまったため状況は最悪だ。
「こ、来ないで!」
落ちている小石を拾って投げたが、興奮している熊は怯まない。
熊の後ろからもたくさんの動物が迫っており、これはもう万事休すだ。
まさかせっかく未来から帰ってきたのに、こんな早くに死ぬことになるとは運がなさすぎる。
前の狩猟大会は面倒だからと、体調不良を言い訳にサボっていたが、今回もそうすればよかったかもしれない。
熊が腕を振り上げたのを最後に、目をつぶって一撃に備える。
だが待ってもその一撃は来ない。私はゆっくりと目を開けると、熊が鎖で首を絞められていた。
「えっ……え――!?」
熊は突然浮き上がったと思ったら、その巨体がハンマーの代わりのように他の動物たちへと衝突していく。
熊の体があまりにも悲惨になりすぎて、思わず同情してしまった。
私はようやく少しだけ落ち着いて、助けてくれた人物を見つけた。
「クリス……トフ様?」
先ほど熊が居た場所の少し後ろに凄い形相のクリストフが鉄球を操っていた。
先ほどの鎖は、クリストフの持っている鉄球の鎖だったようだ。
「急げ! 加勢するぞ! 僕に続け!」
森から馬に乗った男達が出てきた。先ほど狩りに出ていたリオネス達が帰ってきたのだ。
だが半分くらいはクリストフがその鉄球で縛った熊だけで倒していた。
――熊って人が持ち上げられるんだ。
もう死ぬかと思っていたので、助かったら気が抜けて、どうでもいいことを考えてしまった。
しかし久々に彼の戦闘を見たが、黒獅子は伊達ではないと強く感じた。
よくぞ私は彼から生き延びてきたと感心してしまった。
「ソフィア嬢……」
クリストフから呼ばれた。私も助けてもらったお礼を言いたい。
「助かり……ましたわ?」
私の声が震えた。
クリストフの殺気が止まるどころか増している気がした。
その目は憎悪に満ちた目で、そのせいで体が縮こまった。さらに私の喉がきゅっと締まって息が出来なくなった。
――やばい、やばい、やばい。
私の直感が早く逃げろと言っている。だけど足が言うことを聞かず、息ができないためどんどん苦しくなった。
先ほどの熊の比では無いほどの死の恐怖がやってきた。
鉄球が熊を放し、そしてドスンっと地面に落ちた。
彼の足が鉄球を引きずりながらどんどん近づく。
未来で私を殺そうとした本物の黒獅子だ。
「あ……ぁ」
助けを呼びたいのに声が出ない。彼は間違いなく私を殺そうとしている。
涙が勝手に流れだし、必死に体をひきずりながら、後ろへ下がる。
ドレスが汚れようとも関係が無い。
私は生きたいのだ。
その時、クリストフの横をすり抜けてきた人がいた。
「ソフィアさん、大丈夫ですか!」
先ほど逃げ遅れたブリジットが駆け寄ってきた。
クリストフは何もせず見送り、ブリジットは私を抱きしめて支えてくれた。
「良かった……無茶をしすぎです……おかけで助かりましたわ」
彼女も無事だったことにホッとした。その時、クリストフから困惑した声が聞こえてきた。
「ブリジット様、一体何があったのですか?」
やっとクリストフの殺気が消え、ブリジットへ問いかけるのだった。
その中の一人が真っ先に質問する。
「ソフィア様はいつ頃にクリストフ猊下と仲を深めていたのですか?」
あいにくと一切話したことすらありません。なんなら未来では殺し合いをしていましたよ。全戦全敗でしたけどね。
だけど未来について正直に言えば頭がおかしいと思われてしまう。私は少し恥ずかしそうに見えるようにドレスの袖で口元を隠した。
「そうですね。去年頃からお話をするようになりまして。だけどまさかあの方が私の婚約者になってくださるとは思いませんでしたの」
なるべく嘘と本当を混ぜつつそれっぽい話を作る。
すると私が王子との婚約破棄をしたことに触れるのは当然のことだろう。
「ソフィア様はクリストフ猊下と結婚するために、王太子殿下との婚約を取りやめにしたのではないのですか?」
「いいえ。私は王太子の婚約者として相応しくないと思いましたので、辞退しただけです。お父様にご相談はしましたが、まさか別の婚約者を探しているとは知りもしませんでした」
ごめんなさい、お父様。帰ったら謝るから、私の嘘を許してくださいませ。
お父様に相談を全くしていないため、それを伝えないといけないことが憂鬱だ。
お父様へ懺悔しつつ、私の嘘は加速していく。
私の話を聞いて、令嬢達は面白おかしく色々と話を広げていく。
「クリストフ猊下はあまり浮いた話がありませんでしたが、もしかするとずっとソフィア様をお慕いしていたのではありませんか」
そんなわけがないだろう。ほとんど接点がないのに、私のどこを好きになるというのだ。前の私はわがままで派手好きだったので、あんな堅物そうな司祭が好むものではない。
だけどそれを言っても仕方が無いので、私は少しだけ照れた顔をしてみた。
「そうだと嬉しいですわ」
令嬢達は、こういう恋愛話は大好物だから、もっと私とクリストフの話を聞きたがっていた。
しかし静かに傍観していたブリジットは、扇子を開いて口元を隠し、目を鋭くして私を見た。
他の令嬢達はその雰囲気に押されて、先ほどのはしゃぎようが嘘のように落ち着いた。
「ソフィア・ベアグルント、わたくしは納得していませんわ」
ブリジットとは同い年のライバルだった。それはもちろん王太子との婚約者争いでも彼女と競い合ったという意味だ。
「わたくしは貴女だからあの方に相応しいと思っていましたのに、貴女にとってその程度だったのですね」
彼女の目は私を非難していた。私も彼女の立場なら理解できる。婚約中に関わらず別の男を作って、王太子と別れた最低な女だと。
「ベアグルントも地に堕ちましたわね」
私は言い返せなかった。たとえ未来で彼と別れることが運命であっても、それを伝えることができないのだ。
私は押し黙って、彼女の目から逃げるように太ももの上に置いた手を見つめる。
その時、大きな悲鳴が聞こえてきた。
「逃げろ! 森の動物たちが暴れ出して、群れをなして来ている!」
その言葉を証明するように、ドタドタと森の方から音が聞こえ、草木をかき分けてくる音も近づいてきた。
そして森の中から光る目が見えた。
「グオォォーー!」
熊が木々をなぎ倒しながらやってくる。その他にも鹿やイノシシ等の動物がこちらへやってくる。
突然の事態にみんながパニックになっていた。
「お前達! 女達を守れ!」
残っていた近衛兵達が剣を持って立ち向かっていく。だが多勢に無勢で、暴れる動物たちによって食い散らかされていた。
「きゃあああ!」
一緒にお茶を飲んでいたブリジットの取り巻き達が我先にと逃げ出した。
近くでお茶をしていた他の令嬢達も脇目も振らずに走って行った。
このままでは私達も死んでしまうのは明白だ。
しかしブリジットは逃げずに、侍従が落としていった槍を手に取っていた。
「わ、私がどうにかしないと……」
ブリジットは槍の一族として、武芸も嗜んでいた。
有事の際は父親と一緒に国のために戦わないといけないからだ。
しかしやはり女ということもあり、実戦経験が豊富なわけでは無かった。
「ブリジットさん逃げましょう! あの数は無理です!」
説得を試みるが、それがかえって彼女の使命感に火を付けてしまった。
「む、無理かどうかではありません! 私は由緒正しきグロールングの末裔です!」
私を押しのけて、迫ってくる一匹の熊へと戦いを挑んだ。
「ブリジットさん、ダメです! 逃げてください!」
このままでは本当に逃げ遅れてしまう。
他の近衛兵達が抑え込んでいるが、もうまもなく決壊する。
ブリジットは震える腕で槍を何度も振っているが、腰が引けており戦う以前の話だった。
「やあああ!」
ブリジットは懸命に槍を突き刺そうとするが、熊は簡単にその槍を腕で弾き、ブリジットの手から槍が離れた。
「あ、あ……」
彼女は無防備な状態になってしまい、熊の威嚇する声を聞いて、とうとう膝から崩れ落ちた。
「グオー!」
目の前で叫ばれてブリジットは恐怖で泣いていた。
いくら私でも、知り合いが殺されるところなんて見たくない。
テーブルに置いてあった温かいお茶が入っているポットを手に取り、それを熊の顔目がけて投げた。
「ガァ!」
熱湯を顔に浴びた熊は痛みでもだえていた。しかし興奮状態にあるので、それで怯むことは無い。
「や、やったのは私ですよ!」
言葉が通じるのかどうかは分からない。
しかし、私は動物に嫌われる性質があるので、良くも悪くも動物から意識を向けられやすい。
「グルル!」
熊もまた、標的を私に変えたようで、低い姿勢で走り出した。
「ソフィアさん!」
ブリジットが私を呼んでいたが、それを気にしている暇は無い。
他の動物たちも、熊の叫ぶ声と私の存在に勘づいて、どんどん私の方へ走り出していた。
「はぁはぁ」
動きづらいドレスのせいで、全速力で走るのも大変だ。
さらに鍛えていないこの体では長くは保たない。
「どうして私ばかり狙ってくるのよ!」
後ろをチラッと見ると、ほとんどの動物が私を狙っているのでは無いかと思うほど集まっていた。
私の体力が無いこともそうだが、熊の足は想像以上に速かった。
「ガァ!」
もうすでにすぐ後ろにいた熊は、大きな前足で私へ攻撃してきた。
「きゃっ!」
私はドレスの裾を踏んでしまい、その場に倒れた。
爪が私のドレスの横腹部分に掠り、そこから肌が丸見えになった。
足がもつれたおかげで服の一部を掠っただけで済んだが、倒れてしまったため状況は最悪だ。
「こ、来ないで!」
落ちている小石を拾って投げたが、興奮している熊は怯まない。
熊の後ろからもたくさんの動物が迫っており、これはもう万事休すだ。
まさかせっかく未来から帰ってきたのに、こんな早くに死ぬことになるとは運がなさすぎる。
前の狩猟大会は面倒だからと、体調不良を言い訳にサボっていたが、今回もそうすればよかったかもしれない。
熊が腕を振り上げたのを最後に、目をつぶって一撃に備える。
だが待ってもその一撃は来ない。私はゆっくりと目を開けると、熊が鎖で首を絞められていた。
「えっ……え――!?」
熊は突然浮き上がったと思ったら、その巨体がハンマーの代わりのように他の動物たちへと衝突していく。
熊の体があまりにも悲惨になりすぎて、思わず同情してしまった。
私はようやく少しだけ落ち着いて、助けてくれた人物を見つけた。
「クリス……トフ様?」
先ほど熊が居た場所の少し後ろに凄い形相のクリストフが鉄球を操っていた。
先ほどの鎖は、クリストフの持っている鉄球の鎖だったようだ。
「急げ! 加勢するぞ! 僕に続け!」
森から馬に乗った男達が出てきた。先ほど狩りに出ていたリオネス達が帰ってきたのだ。
だが半分くらいはクリストフがその鉄球で縛った熊だけで倒していた。
――熊って人が持ち上げられるんだ。
もう死ぬかと思っていたので、助かったら気が抜けて、どうでもいいことを考えてしまった。
しかし久々に彼の戦闘を見たが、黒獅子は伊達ではないと強く感じた。
よくぞ私は彼から生き延びてきたと感心してしまった。
「ソフィア嬢……」
クリストフから呼ばれた。私も助けてもらったお礼を言いたい。
「助かり……ましたわ?」
私の声が震えた。
クリストフの殺気が止まるどころか増している気がした。
その目は憎悪に満ちた目で、そのせいで体が縮こまった。さらに私の喉がきゅっと締まって息が出来なくなった。
――やばい、やばい、やばい。
私の直感が早く逃げろと言っている。だけど足が言うことを聞かず、息ができないためどんどん苦しくなった。
先ほどの熊の比では無いほどの死の恐怖がやってきた。
鉄球が熊を放し、そしてドスンっと地面に落ちた。
彼の足が鉄球を引きずりながらどんどん近づく。
未来で私を殺そうとした本物の黒獅子だ。
「あ……ぁ」
助けを呼びたいのに声が出ない。彼は間違いなく私を殺そうとしている。
涙が勝手に流れだし、必死に体をひきずりながら、後ろへ下がる。
ドレスが汚れようとも関係が無い。
私は生きたいのだ。
その時、クリストフの横をすり抜けてきた人がいた。
「ソフィアさん、大丈夫ですか!」
先ほど逃げ遅れたブリジットが駆け寄ってきた。
クリストフは何もせず見送り、ブリジットは私を抱きしめて支えてくれた。
「良かった……無茶をしすぎです……おかけで助かりましたわ」
彼女も無事だったことにホッとした。その時、クリストフから困惑した声が聞こえてきた。
「ブリジット様、一体何があったのですか?」
やっとクリストフの殺気が消え、ブリジットへ問いかけるのだった。
6
あなたにおすすめの小説
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる