死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜

まさかの

文字の大きさ
87 / 93

大いなる加護

しおりを挟む
 ~~☆☆~~
 クリストフ視点


 何も見えない。動けない。
 ソフィーが魔女だとバレてしまい、俺は彼女を守れず、無様に気絶した。
 起きたときには、俺は拘束具か何かで縛り上げられているのだ。
 自由なのは、口と鼻、耳のみだ。
 一日二食運んでくれるため、なんとく時間は分かる。その時にソフィーのことを聞いてみるが、命じられているのか誰も話をしようとしない。

 本当に情けない。

 彼女を守ると言ったのに、結局は何も守れず、未来を変えられずに彼女を失ってしまうかもしれない。

 それを考えた瞬間、力が入り拘束具を引きちぎろうとしたが、俺の力でもびくともしない。
 だがそれでも彼女を救うために歯を食いしばって力を込め続けた。

 しばらく続けると扉を開く音が聞こえた。
 食事を運ぶには早いと思ったが、気配が二つある。

「クリストフ司祭……! このようなお姿なんて……」

 涙する女性の声だが聞き覚えがあった。

「その声はクロエ君……か? どうして君が?」
「今日の食事を運ぶ当番は私ですので……すぐに解放します」

 そんなことをすれば君もタダでは済まない、と言いかけて口をつぐんだ。
 彼女だってそれは分かっている。
 しかしどうして彼女はこんなことをしてくれるのか。
「外れました!」

 拘束が外れようやく自由の身になった。
 薄暗い独房でも、久々に光を見たらまぶしく感じた。近くにいるクロエ君を視認し、もう一人いるであろう人物を見て目を疑った。

「リオネス……殿下?」

 なぜ元ソフィーの婚約者だった男が……散々邪魔してきたこの男がいるのだ……。

 ~~☆☆~~
 見世物のような時間は終わり、今はヒューゴ司祭によって空を運ばれる。
 鉄格子で囲われているのにどうしてか熱を感じない。まるで罪人のように質素な服に、声が発せられないようにマスクが付けられている。
 逃げるつもりはないが、魔女の力を持つ私が自由なのは相手側も不安であろう。
 私の前に布袋か投げられた。


「拾っておけ。戦場が近い」


 ヒューゴはこちらを振り返らず喋った。布袋を開けようとしたときにまた喋り出した。

「これは独り言だ。この戦いが終われば、結果に関わらずソフィア・ベアグルントを始末しろと指令が下された」


 やはりそうなったかと思ったのと同時に死にたくないという気持ちが芽生える。
 司祭であるヒューゴに命じられるのは、元老院クラス。
 もしかすると教王がそうお決めになったのかもしれない。


「人は勝手だ。自分の役に立つときは頼ってくるのに、いざ自分に火の粉が来れば石を投げる。魔女狩りをしていれば何度もその光景を見た」

 魔女を匿っていたと疑われたら、その者も厳しい罰を受ける。
 そうなればたとえ魔女が親しい間柄であっても見捨ててしまうだろう。


「勘違いしてもらいたくないが、私が君を殺すのは確定事項だ。ただし君にも選ぶ権利がある。人を助けるという善行をして死ぬか、もしくは同じ苦しむを他の者達にも与えるか」


 私の覚悟を問うものだ。こちらを見ずとも窺っているのがわかる。
 ただ自分の中で答えはすでに出していた。
 ヒューゴもそれを感じ取ってか次に進む。

「だがこれではあまりにも不憫だ。だから私は善行を行った君に一つだけ願いを聞こう。考えておくといい」


 願いごとはたくさんある。ずっと気が済むまで眠っていたいし、美味しいものをたくさん食べたい。
 一番はやはり彼と一緒に過ごすこと。
 だがこれは叶えられない願いだ。

 肌を襲う威圧がやってきた。
 戦場へ着いたのだ。


 眼前に広がる魔物の数、そしてそれを戦う騎士や神官。
 いくら正教会の戦力があろうとも、数の前には防戦一方のようだ。
 戦況を変えられる方法はただ一つ、強大な力のみ。
 布袋を開くと鍵と薬品が入っている。鍵でマスクを外した。

「すぅ――」

 息を吸うと、全身に冷たい酸素が行き渡るようだ。
 久しぶりにしっかりと息を吸い込んだ気がする。
 すると急に目の前に綺麗な衣が目の前に現れた。

「それを羽織れ。遠目からは聖女に見えなくもない。今回はセリーヌ様が同行していないが士気は上げる必要がある。それに少しは炎等に耐性もある特別な衣だ」


 始祖と戦うのだから良い装備はいくらあっても足りない。
 ありがたく白い衣も羽織った

「準備は良いか?」


 青の薬品の瓶を呷った。先日にガハリエと戦った時に飲んだ薬だ。
 体が熱くなり、体の内側から刺されるような痛みが襲ってくるが次第に収まる。

「ええ、いつでもいいわ」


 どんどん降下していくと、魔物と戦っている者達もこちらに気付く。


「あれはセリーヌ様か?」
「いいや、あれは罪人を運ぶものだ」
「罪人……そうなると、聞いていた魔女の娘だな」


 戦いは激しく、どうにか戦況を維持しているようだ。千の魔物の群れによく戦っている状況ともいえる。
 絶望的な状況で、恐れていた破壊の力が助けになったときに人はどう思うのだろうか。


「グルルル! ガウッ!」


 獣たちが私を見てよだれを垂らしていた。
 まるで魔女を食べたくてたまらないかのように。
 もしかすると魔物達は私の魔女の匂いを辿ってきているのだろうか。

「やはり来たな。ソフィア・ベアグルント」


 気持ち悪い声が降り注いでくる。
 姿は見えず、声だけこちらに飛ばしているようだ。


「この魔物達が何に引き寄せられているか分かるか? 其方の魔力が惹きつけているのだ。何をしたのかは知らないが、魔力を上げれば上げるほど魔物達は気が狂ったように求めるだろう。戦場の屍を作ったのは貴様だ! 貴様の存在がこのような惨状を生み出したのだ!」


 空からはよく見える。魔物や人の動きが。その中には魔物に食い殺された後だと思われる死体がいくつも転がっていた。
 ガハリエの言葉は、兵士や神官達へ向けた言葉であろう。
 私を孤立するために。


「ガハリエの言葉に惑わさ――」
「分かってる」



 ヒューゴの言葉を遮った。
 相手の魂胆なんてお見通しだ。そう自分に言い聞かせた。
 そうしなければ、心を保てない。
 虚勢を張らなければならない。

「無駄よ。私は今日ここで貴方を討って魔女の因縁に決着を付ける。そうすれば私も魔女では無くなる。全てが良い方向へ向かうのよ!」


 今日を逃してはならない。ガハリエは神官から追われて満足に回復ができていないはずなのだから。


「ガルルゥ!」


 サーベル風の魔物が私目がけて突進してくる。
 手を前に掲げて自分の力に集中した。
 理性を失っているかのようによだれを垂らしながら、牙をこちらへ向けてきた

「ごめんね……魔女の力よ、解き放て!」

 罪の無い魔物への謝罪後に、目の前へ直線上に力が放たれた。
 火柱が立ち、距離が離れる毎に弧を描きながら扇状に火柱が魔物達を包み込んだ。


「魔物が一瞬で……」
「これが魔女の力……なのか?」


 兵士や神官が人外の力に唖然としていた。
 これまで苦戦していた魔物達が一瞬で焼き尽くされたのだから、驚くのも無理が無いだろう。
 これで本物の化け物になったのだ。
 覚悟を決めていてもやはり気分が下がり、顔も自然と下を向く。

「神官達よ! 声を上げろ!」



 ヒューゴが大声を上げた。
 それに神官達も注目する。


「神に仇なす敵の戦力は削いだ! 最高神の導きを示せ! 我々には大いなる力の加護がある! 戦え!」

 おおおお!、と神官達は武器を上げて雄叫びを上げた。
 それに呼応するかのように兵士達の部隊も声を上げた。

「私の娘が開いた道だ! ベアグルント家の勇猛な戦士達よ! 娘の呪いを解くため、全力で戦え!」


 遠くからお父様の声が聞こえた。一瞬だけこちらへ目を向けた後は一目散に戦場を走る。


「この戦いに魔女であることは関係ない」

 ヒューゴが私へ語りかける。

「全員の共通の敵は魔女の始祖のみだ。そのためなら私は全てを利用しよう。たとえそれが魔女であろうともな」


 ひねくれた言い方だがおそらくは私を気遣ってのことだろう。
 だけど今は味方であるという証明だ。
 この調子でどんどん力を使おうとしたが、急に胸の痛みがやってきて、両膝を突いた。
 まるで体がバラバラになりそうなほどの苦痛が襲う。
 大いなる力の代償がやってきたのだ。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処理中です...