NTRの乙女と傲慢な王子

さわみりん

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 午後も半ば。
 エリスティアは先ほど届いたばかりの便りを握りしめ、お城まで続く石畳を足早に歩いていた。

(来月にはガイと結婚するのに、なぜ私の名前が載っているのかしら? きっと何かの間違いだろうけど、早く訂正しなくちゃ)
 自分の名前があるべき場所に知らない女性の名前が載っていたのでは、本当に結婚する方に失礼ではないか。
 頭ではそう自分に言い聞かせるが、妙な焦りに心臓が痛い。

 暫くしてお城の門が見えてきた。門前には左右に一人づつ近衛が立っている。
「止まれ」
 手に持っていた柄の長い槍を互いにクロスさせ、エリスティアの行く手を阻む。
「すみません、先ほど、あの、これが届いたのですが……」
 緊張からか上手く言葉にできない。エリスティアは一人でお城へ来たことはなかったし、遠目からは馴染みのあるお城も、実際に目の前に立つと迫力が違う。
 かすかに震える手で持ってきた便りを近衛に見せた。
 握りしめながら暫く歩いてきたせいか、ヨレと若干の汗が滲んでいる。
「あの、ここにあるの、私の名前になってるんですけど、多分、間違いです。私、あの、来月結婚する、予定なので……」
 エリスティアのたどたどしい説明に、何を言っているのか理解していない顔の近衛。
 再度説明しようとエリスティアが口を開いたとき、門の奥から燕尾服に身を包んだおじさんが出てきた。
「エリスティア様! 申し訳ございません。先ほどお家の方へ使いの者を出したのですが入れ違いになってしまわれたようで、ご足労お掛けいたしました!」
「えっ」
「どうぞこちらへお越しください」
 燕尾服のおじさんが腰を曲げ、腕をお城の奥へと促し、言われるがままエリスティアはお城の中へと足を踏み入れた。

「では、こちらで少々お待ちくださいませ」
 エリスティアを一人残し執事のおじさんは出て行ってしまった。
 入ったのは絢爛豪華な一室だった。
 エリスティアのような庶民には馴染みのない、高そうなビロードのソファーやクッションにエリスティアはちょこんと腰かけていた。汚したり壊したりしたらどうしようと心配で深く沈みこめない。
(私はただ王子様の結婚相手が間違ってる事を言いに来ただけなんだけど……)

 扉がノックされ、戸惑うエリスティアの元にお茶が運ばれてくる。
「ミルクと砂糖はいかがされますか?」
 黒髪の美人なメイドさんだ。
「あっ、じゃあ、先にミルクで、砂糖2つ……」
 出された高価そうなティーカップには国花が描かれていた。
(さすがお城のお茶だわ、凄く美味しい)
「お城で栽培してるお花を入れたオリジナルのブレンドらしいですよ。ケーキも沢山ございますので、是非お召し上がりください。こちらはレモンケーキとシフォンケーキとチョコレートのケーキで、フルーツのタルトもありますよー」
 よく喋るメイドに、人見知りの気があるエリスティアは上手い返しが出来ず、とりあえず相づちを打つのに精いっぱいだった。止まらないメイドにエリスティアの首が痛くなってくる。

「でも本当羨ましいです、王子様と結婚だなんて。こうして汗水たらして働かなくてもいいんだもの、何て言うか宝クジに当たったようなもんですよねー。玉の輿羨ましいですよー。本当ー」
 ニコニコと喋り続けるメイドに、『王子様と結婚』という言葉ではっとしたエリスティアは、慌てて訂正しようと口をはさんだ。
「あの、それなんですけど、私……」
「あ、クジじゃなくて占いか! このたびはご結婚おめでとうございます。それでは失礼いたしますね」
 言うだけ言ってメイドは出て行ってしまった。
(どうしよう、早く訂正しなくちゃいけないのに……私が結婚するのは幼馴染のガイで、この国の王子様ではない。なぜ皆私が結婚相手だと勘違いしているのかしら……?) 
 
 お喋りなメイドが去ってから暫く待ってみたが、誰も入ってくる様子はない。緊張からかゴクゴク飲んでいた紅茶も、ポットの中まで飲みほしてしまっていた。

 ――そろそろ夕方になるだろうか。結婚相手が間違ってることを言って、さっさと帰ってくるつもりだったのに……。
 思い切ってエリスティアは入口の扉をそっと開けてみた。
「すみませーん……」
 か細く出したエリスティアの声では、たとえ近くに人がいたとしても聞こえなかっただろうが、あいにくと近くには人の気配はなくシンと静まり返っている。
 仕方なくまた部屋へ引き返したが、待つ事にも飽きてきてフカフカのソファーに身を横たえてみた。
 
 ――王子様か……。遠くから御姿を拝見したことはある。 
 生誕祭のときに見た王子は、太陽に照らされて燦々と輝く髪をしていた――


 ――――遠くから人の声がする。

 しまった、うたた寝をしてしまったらしい。
 はっと起きて居住まいを正すエリスティアと同時に、扉が激しい音を立てて開いた。
 颯爽と入ってきた男性の後ろには、先ほど案内してくれた執事のおじさんが慌てるようについてくる。
 男は苦虫を噛み潰したような顔をして室内を眺め回し、ソファーにちんまりと座っていたエリスティアと目があった。
 苦い表情をしてても丹精な顔のその男に、エリスティアは反射的に目を伏せてしまう。
「女、お前のような庶民なんぞと、この俺が結婚する訳ないだろうが。分かったらさっさとこの城から出て行け」
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